P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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優勝杯と復活の儀式と私

 全てはゴブレットから私の名前が吐き出された時から始まった。

 誰が何を思って私の名前をゴブレットに入れたのか。

 当初は、私のことを貶めようとする闇の魔法使いが私の名前を入れたのだと考えた。

 カルカロフは元死喰い人だ。

 カルカロフ自身が私に対して恨みを持っていなくとも、他の死喰い人から頼まれて入れた可能性は十分にある。

 それに、私が去年逃したピーター・ペティグリュー。

 奴が今どこで何をしているかはわからないが、ネズミに変身できる動物もどきであるペティグリューもホグワーツに侵入し、私の名前をゴブレットに入れることが出来るだろう。

 だが、リータ・スキーターが言った言葉。

 彼女の言葉が私に新しい疑念を抱かせた。

 ゴブレットを設置し、年齢線を引いたダンブルドア自身がゴブレットに細工をし、私の名前をゴブレットから吐き出させた可能性。

 もしそうだとしたら、ダンブルドアの目的はなんだ?

 それに関してもスキーターが結論を出している。

 ダンブルドアは私を第二の英雄に仕立て上げようとしているのかもしれない。

 闇の魔法使いが私の名前をゴブレットに入れたと考えるよりも、そちらの方がよっぽど自然だ。

 ゴブレットから私の名前が出てきた時、私は自らの保身のためにダンブルドアを巻き込んだ。

 だが、もしかしたら、巻き込まれたのは私自身なのかもしれない。

 私は、目の前にある優勝杯に手を伸ばす。

 この優勝杯を手に取るということは、ダンブルドアと契約を交わすことになるんじゃなかろうか。

 この迷路に入ってからここまで、無意識で呆然と歩いてきたにも関わらず、誰からも邪魔されることなくここまでたどり着けてしまった。

 何者かの介入があったことは明白だろう。

 本当にこの優勝杯を手に取っていいのか?

 いや、ここまで来てしまったら、手に取るしかない。ここで他の二人が来るまで何もしないというのは、あまりにも不自然だ。

 私は大きく唾を飲み込むと、意を決して優勝杯を掴んだ。

 その瞬間だった。

 

「……え?」

 

 私の両足は地面から浮き、踏ん張りが利かなくなる。

 慌てて優勝杯から手を離そうにも、まるで強力な磁石かのように私の手は優勝杯から離れることはなかった。

 

「──ッ、これ、移動(ポート)キーね」

 

 私自身使ったことはないが、知識としては知っている。

 魔法界には、姿現し、煙突飛行のほかにもう一つ移動魔法がある。

 それがこの移動キーだ。

 その物体に触れた魔法使いは、定められた位置まで移動キーと共に移動する。

 きっとこの優勝杯も移動キーの魔法がかけられているのだろう。

 周囲の景色が光の筋となり私の横を通り過ぎる。

 それらは次第にゆっくりになっていき、最終的に私の両足は土の地面へと着地した。

 私はローブから杖を引き抜くと、注意深く周囲を見回す。

 てっきり審査員席の前にでも飛ばされるものだと思っていたが、少なくともここはホグワーツの敷地内ではない。

 地面には草が生い茂り、その周囲に点々と墓石が立っている。

 遠くに教会と洋館らしき影が見えるが、周囲が暗いこともありはっきりとは見えなかった。

 

「ここ、どこかしら……」

 

 まあ、危ないと思ったらすぐにでもロンドンにある自宅でもグリフィンドールの女子寮でも好きなところに逃げればいいだろう。

 私にはそれが出来る。

 

「って、いつも慢心して酷い目にあってるじゃない」

 

 私は軽く頭を振り、気を引き締める。

 その瞬間、前方から一人の人影が私の方へと近づいてくるのが見えた。

 私はその人影に向かって杖を向ける。

 だが、人影は私が杖を構えたのを見て、慌てたようにこちらに近づいてきた。

 

「ま、待ってくれ! 何もしない! 何もしないよぅ!」

 

 人影は両腕で何かを大切そうに抱えながらこちらに駆け寄ってくる。

 

「き、君を待ってたんだ。はは、あいつ、上手くやったんだな」

 

 人影は小太りの男性だった。

 身長はそこまで高くはなく、ボサボサの髪を肩まで伸ばしている。

 少なくとも、私はこんな男知らない。

 私はさらに鋭く杖を男性に突きつける。

 

「面識あったかしら?」

 

「え、ええっと……ああ、そうか。俺、俺だよ。ピーターだ。ピーター・ペティグリュー。去年君に逃してもらったロンのペットのネズミさ」

 

「ピーター・ペティグリュー……こんなところにいたのね」

 

 私は杖を下ろすとローブに仕舞い込む。

 これで相手は私が武装を解いたと勘違いするだろう。

 だが、私の本質は杖を使った魔法ではない。

 

「それで、待っていた? 私を? どういうことかしら」

 

「そのまんまの意味だよ。俺たちの計画通り、君はこの場に誘い込まれた」

 

 『俺たちの計画通り』

 その言葉が本当なのだとしたら、私の名前をゴブレットに入れたのは……

 

『気を抜き過ぎだワームテール。時間がない。術の準備をしろ』

 

 ペティグリューの抱いていた布の塊から低くおどろおどろしい声が聞こえてくる。

 ペティグリューはそれを聞いて身を竦めると、震える声で謝り始めた。

 

「ももも申し訳ありません我が君……今すぐ、今すぐ準備を始めます」

 

 ペティグリューはそう言うと、私に目配せして大きな墓石の方へと歩いていく。

 少なくともペティグリューは私のことを敵だとは思っていないらしい。

 私はいつでも時間を止められるよう気を張りながらペティグリューの後をついていった。

 

「サクヤ、少しご主人様を頼む」

 

 ペティグリューは腕に抱えていた布の塊を私に渡すと、近くに置いてあった大鍋を運び始める。

 私はその様子を窺いながら渡された布の中身を見た。

 

「……なに、これ?」

 

 布の中身は醜い赤子のような何かだった。

 髪の毛は無く、肌は鱗のようにひび割れておりどす黒い。

 そして、ひび割れた隙間からは痛々しく血が滲んでいた。

 

『これとは失礼だな。サクヤ・ホワイトよ。だが、この姿ともあと少しでおさらばだ』

 

 赤子の口が開き、人のものとは思えない声が漏れる。

 私はそのあまりの異様さに静かに息を呑んだ。

 

「貴方は……もしかしなくても……」

 

『ほう、流石にこの数年で閉心術程度は身に付けたか。だが、心を読まずともお前の考えていることぐらいはわかるぞ。そう、その通りだサクヤ。私だ』

 

 閉心術? いや、私は閉心術の練習などしたことがない。

 だが、確かに今、心の中に何かが侵入してくる感覚はなかった。

 

『ここ数年、お前の動向は常に追っていたぞ。随分な大立ち回りをするものだ。バジリスクを殺し、ロックハートを殺し、ブラックを殺し……その様子じゃ、私の育った孤児院を襲ったのも貴様だろうな』

 

「ちが……私じゃない……」

 

『何、隠さなくとも良い。あの孤児院の後始末は私のやり残した仕事の一つだ。もっとも、消し損ねた孤児院から貴様のような逸材が生まれたことを考えれば、それで良かったのかもしれんがな』

 

「……貴方も、あの孤児院の出なの?」

 

『ああ、そうだとも。ホグワーツに入学してから、私はあの孤児院に全くの興味を無くした。それこそ後始末を忘れるほどに』

 

 もぞりと赤子姿のヴォルデモートが身じろぎする。

 私は今すぐ赤子を捻り潰して逃げ出したい葛藤に駆られたが、体は蝋で固められたかのように動かなかった。

 

『あの孤児院のことは調べたぞ。あのやり方は貴様にしかできない。時間の止められる貴様にしかな。アレをやったのは貴様だ。貴様があそこにいたマグルを皆殺しにしたのだ』

 

「いや、そんな……でも──」

 

 確かに、アレは私にしかできない。

 

「ご主人様! 準備が整いました!」

 

 ペティグリューの言葉に、私は意識を前方に向ける。

 大鍋の中身は既にグツグツと沸騰しており、液体自体が燃えているかのように火花を散らしていた。

 

『さて、サクヤよ。どうやら貴様はまだ決めかねているようだな。ダンブルドアにつくか、私につくかを』

 

 心臓が大きく脈打つのを感じる。

 

『確かに、ダンブルドア側につくのもいいだろう。間違った選択ではない。だが、間違いでないだけだ。お前はそれで本当にいいのか? ダンブルドアにつけば、貴様は一生自分を隠し、嘘を吐き続けなければならん。三年前のあの夜、私は貴様に言ったな。貴様の本質は悪だと』

 

 私の本質は悪。

 ヴォルデモートの言葉が胸に響く。

 

『貴様は問題の解決に殺人という手段を用いた。そして、それが既に常套化している。貴様はこの先も人を殺す。それは貴様の性だ。生まれ持った性質だ。初めて人を殺したあの瞬間から、お前は殺人に取り憑かれている』

 

 脳裏にクィレルの恐怖に歪んだ顔がフラッシュバックする。

 私の……本質は……。

 私の世界は……。

 

『私のもとに来い、サクヤ・ホワイト。私は貴様の全てを受け止めてやれる。私には自分を隠す必要などない。私は貴様がいくら殺そうが、悪事に手を染めようが、気にはしない。さあ、私の手を取るのだ』

 

 布の中の赤子が私に向かって手を伸ばす。

 その動きはあまりにも弱々しいが、赤子の薄く開かれた瞼の下の眼球には確かな意志を感じた。

 

「……ぁ、は、い。……はい。わかりました」

 

 震えてる唇から言葉が漏れる。

 私は右手を赤子へと伸ばした。

 

『そうだ。それでいい。貴様は正しい選択をした』

 

 赤子は私の右手の人差し指を握ると、首を回してペティグリューの方を見る。

 

『よし、始めろ』

 

「は、はい!」

 

 ペティグリューは赤子を抱き上げると、鍋の中にそっと沈める。

 そして杖を持ち上げ、静かに唱え始めた。

 

「父親の骨、知らぬ間に与えられん。父親は息子を蘇らせん!」

 

 その瞬間、近くの墓石がパックリと割れ、細かい塵や骨が鍋の中へと降り注ぐ。

 

「し、しもべの肉。喜んで差し出されん……しもべは──ご主人様を蘇らせん」

 

 ペティグリューは懐からナイフを取り出すと、左手で握り、そのまま自分の右手首へ振り下ろす。

 

「ひ、ひぎぃ! あ、が……」

 

 二度、三度同じようにナイフを振り下ろし、最終的に自らの手首を鍋の中に切り落とした。

 

「はぁ、はぁ……、ぅ、ぁう……」

 

 ペティグリューは目に涙を溜めながら切り落とした手首を紐で縛り上げる。

 そして何度か深呼吸をし、左手で杖を持ち直した。

 

「──、──……。──」

 

 ペティグリューは息を切らせながらも小声で何かを呟き、私に対しナイフを渡してくる。

 そして指先を少し切るようにジェスチャーした。

 どうやら、この儀式は私の血液を入れることで完了するらしい。

 私は右手の人差し指の腹を少し切り付けると、滴る血を鍋の中に入れた。

 その瞬間、鍋の中身は白く色を変え、より一層激しく沸き立ち始める。

 そして、次第に水面が大人しくなったかと思うと、ものすごい量の蒸気が鍋の中から立ち上った。

 いや、立ち上がったのは蒸気だけではない。

 蒸気が落ち着いてくると、その中に人が立っていることが確認出来る。

 そして、人影はゆっくり鍋の外に這い出し、その姿を現した。

 そこに立っていたのは蛇のような男だった。

 雪のように白い肌、スラリとした長身。

 頭に髪の毛は無く、顔は人間ではないように変形している。

 

「ワームテール。ローブを着せろ」

 

「は、はいご主人様。ただいま……」

 

 ペティグリューは慌てて地面に置いてあったローブを拾い上げると、片手で男に羽織らせる。

 私はその様子を呆然と見ながら、今起こったことを冷静に頭の中で整理した。

 そう、ヴォルデモートが肉体を取り戻したのだ。

 ヴォルデモートは体の感覚を確かめるようにあちこちの関節を曲げ伸ばすと、最後に大きく首を回す。

 そして満足気に息を吐いた。

 

「あぁ……いい感じだ。全身に魔力が満ちるのを感じる」

 

 ヴォルデモートはローブの中から杖を引き抜き、私に向かって軽く振るう。

 次の瞬間には私の指にできた傷は綺麗さっぱり消え去っていた。

 

「なるほど、杖と体の相性もいい。違和感も──想定の範囲内だ。ワームテール、腕を出せ」

 

「はい……ご主人様。ありがとうございます……」

 

 ペティグリューはまだ完全に血が止まりきっていない右腕を差し出す。

 だが、それを見てヴォルデモートは静かに首を振った。

 

「ワームテール、反対の腕だ」

 

「ご主人様、それだけはどうか──」

 

 だが、ヴォルデモートはペティグリューの言葉を待たずに左手を引っ張ると、ペティグリューのローブの袖を捲り上げる。

 そこには口から蛇を吐いている髑髏の刺青が見えた。

 ヴォルデモートの象徴である闇の印だ。

 

「ふむ、戻っているな。全員がこれに気がつくだろう。だが、その前に色々と話をしなければな」

 

 ヴォルデモートは赤い瞳を私に向ける。

 

「時間を止めろ。サクヤ・ホワイト。話をしよう」

 

 私はペティグリューの方をチラリと見る。

 その視線で察したのか、ヴォルデモートは小さく微笑んだ。

 

「問題ない。奴には破れぬ誓いを立てさせる。それでも不安だというのなら殺しても構わん」

 

「……わかりました」

 

 私はヴォルデモートの言葉に頷くと、私の世界にヴォルデモートとペティグリューを招待した。




設定や用語解説

移動キー
 触れたものを指定された場所へ移動させる物体。時限式の物や、触れただけで作動するものもある。また、一度触れたら移動が完了するまで移動キーから手を離すことは出来ない。

閉心術が効かないサクヤ
 サクヤは初めて殺人を犯してから無意識的に心を閉じている。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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