P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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銀の義手と闇の帝王と私

 世界の時間を停止させた私は、ヴォルデモートとペティグリューの時間停止だけを解除する。

 ヴォルデモートは時間停止が解除されると同時に周囲を見回すと、ペティグリューの失われた右手に向かって杖を向けた。

 杖先から銀色のモヤが噴射され、そのモヤはペティグリューの右手にまとわりつき次第に形を変えていく。

 そして最終的に銀色のモヤは人の手の形となり、ペティグリューの失われた右手の代わりとなった。

 ペティグリューは信じられないものを見る目で新しい右手を眺めると、感覚を確かめるように指を動かす。

 そして涙を流しながらヴォルデモートに頭を下げた。

 

「ありがとうございます……ありがとうございます……」

 

「長話になるだろうからな。失血死されても困る。さて、屋敷の方へと移動しよう」

 

 ヴォルデモートは地面に蹲っているペティグリューには目もくれず、遠くに見える屋敷に向けて歩き出す。

 私はその後を追って墓場を歩き出した。

 

 

 

 

 屋敷の中はひどく荒れており、とてもじゃないが人が住める環境ではなかった。

 床には異臭を放つ包帯が放置されており、あちこちにマグルの食べ物の包装容器が転がっている。

 私は小さくため息をつくと、ヴォルデモートとペティグリューの時間を一度止める。

 そして杖を一振りしてゴミをまとめて消失させると、部屋全体に清めの呪文を掛けた。

 それから鞄の中からストックしている紅茶の入ったティーカップを取り出し、綺麗にしたばかりの机の上に載せる。

 これで準備はいいだろう。

 私は先程いた位置に戻ると、ヴォルデモートとペティグリューの時間停止を解除した。

 

「──、ほう」

 

 ヴォルデモートは一瞬で綺麗になったように見える部屋を見回すと、ティーカップが置かれた机の椅子へと座る。

 私はその対面に腰掛けた。

 

「やはり便利なものだな、時間を止める能力というのは。そして、同時に恐ろしくもある」

 

 ヴォルデモートはティーカップを持ち上げると、躊躇うことなく口に運ぶ。

 

「……ふむ、ホグワーツでよく飲まれている銘柄だ。懐かしい」

 

 そして紅茶を味わったあと、私の目をじっと見た。

 

「やはりな。読めん。先程から何度か侵入しようとしているが、今の貴様の心はまるで無機物のようだ」

 

「おかしいですね……閉心術を習ったことはないのですが」

 

「いや、貴様のそれは閉心術ではないな。これはあくまで予想だが、無意識のうちに貴様は心を閉ざしている。いや、心の時間を止めているのだろう」

 

 ヴォルデモートは細く長い指でカップの縁をなぞる。

 

「今まで、今の私のようにじっと目を見つめられたことはあるか?」

 

 ヴォルデモートにそう言われ、私は記憶を探る。

 目をじっと見つめられた経験……ある、何度かある。

 

「あります」

 

「その時、頭の中に何者かが入ってくる感覚はあったか?」

 

「……いえ、侵入された感覚はありません。と言っても、開心術を掛けられた経験が少ないのでハッキリしたことは言えませんが」

 

 ヴォルデモートは唇に指を当てて少し考え事を始める。

 そして思案を巡らせた後、また私の目を見始めた。

 

「少し心を開いてみよ。一度私が心の中に侵入する。開心術の痕跡を探るためだ」

 

「ですが──」

 

「安心せよ。私は貴様の全てを受け入れよう」

 

 私は少し躊躇ったが、ヴォルデモートのその言葉を聞き一度目を瞑る。

 そして自分の全てを曝け出す気持ちで静かに目を開いた。

 その瞬間、ずるりと何かが滑り込んでくる感覚が胸のうちに走る。

 ヴォルデモートだ。

 ヴォルデモートが私の中を這い回り、私の記憶を探っている。

 いくつもの記憶がフラッシュバックし、そして消えていく。

 

「ぁ、ぁぁぁ……」

 

「よし、このぐらいで良いだろう」

 

 目の前で私の目を見つめているヴォルデモートの口から言葉が漏れる。

 次の瞬間には、私の中にいたヴォルデモートは跡形もなく消え去っていた。

 

「今のような感覚を過去感じたか?」

 

「……いえ、初めての感覚です」

 

「そうか。なら、ダンブルドアにはまだ貴様の能力のことは漏れていないだろうな。私の方でも探ってみたが、開心術で荒らされた形跡はなかった」

 

 ヴォルデモートは小さく微笑む。

 その笑みに優しさはまるで感じなかったが、不思議と嫌な気分ではなかった。

 

「どうやら貴様はかなり早い段階で心を閉ざす術を身につけたらしい。……ふむ、使えるな。これならば安心してダンブルドアのもとへ送り込める」

 

「ダンブルドアのもとへ?」

 

 私が聞き返すと、ヴォルデモートは不敵に笑った。

 

「そのことも含めて、貴様にはいくつか話をせねばならん」

 

 ヴォルデモートは味わうように紅茶をもう一口飲むと、静かに語り始めた。

 

「賢者の石を奪い損ねた後、私は隠れ家にしていたアルバニアの森へと帰っていた。その時の私は依代を無くし、この世でもっとも弱い存在へと成り果てたのだ。惨めなものだった。だが、その時の私には自らの存在をこの世に繋ぎ止めておくことだけで精一杯だったのだ。そのような生活が二年ほど続いた頃だろうか。私のもとを一人の男が訪ねた」

 

 ヴォルデモートは鋭い視線をペティグリューに向ける。

 

「それがこの男、ピーター・ペティグリューだ。こいつは死喰い人としては新参もいいところだ。だが、戻ってきたのだ。私のもとへな。そして、こいつは手土産と言わんばかりに一人の女を連れていた。魔法省のバーサ・ジョーキンズだ」

 

 私は空になったヴォルデモートのティーカップに紅茶を注ぐ。

 ついでにペティグリューのティーカップも覗き込んだが、ペティグリューのティーカップの中身は半分も減っていなかった。

 

「こいつが連れてきたバーサ・ジョーキンズは様々な情報を私にもたらしてくれた。今年ホグワーツで三大魔法学校対抗試合が行われること。それに、私が連絡を取れば喜んで私に手を貸すであろう忠実な死喰い人の情報もな。そう魔法省の人間だからいいというわけでない。バーサ・ジョーキンズだからこそよかったのだ。強力な忘却術で忘れさせられていたが、ジョーキンズは普通の役人では知り得ない情報を知っていた」

 

「知り得ない情報?」

 

「知っていた、ではないな。知ってしまったというのが正しいか。バーサはクラウチ邸を訪ねた時に知ってはいけないことを知ってしまった。魔法省の役人であるクラウチが、死喰い人である息子を秘密裏にアズカバンから脱獄させ、自宅で匿っていたということだ」

 

 話には聞いたことがある。

 バーテミウス・クラウチ・ジュニア。

 闇祓いの夫婦を磔の呪文で拷問し、アズカバンで終身刑を言い渡された死喰い人だ。

 

「ですが、確かクラウチ・ジュニアはアズカバンで獄中死したはずでは?」

 

「アズカバンで死んだのはクラウチ・ジュニアの母親だ。ポリジュース薬で入れ替わり、クラウチ・ジュニアは母親の姿でアズカバンを出た。アズカバンに残ったのは重たい病を抱えていた母親というわけだ。クラウチ・ジュニアの母親はそのままアズカバンの中で死んだ。まあ、その話は本人から直接聞くといい。ともかく、私はワームテールと共にクラウチ邸を襲撃し、クラウチに服従の呪文を掛け支配した。そしてジョーキンズの情報通り、クラウチ・ジュニアはそこにいたのだ。クラウチ・ジュニアもまた、ワームテールと同じように私の元へと戻ってきた。私の元に優秀な魔法使いが戻ってきたことによって、ある計画を実行に移すことができる。そう、私の肉体を復活させる儀式だ」

 

 ヴォルデモートは体の調子を確かめるように目の前で指を動かす。

 

「本来、肉体の復活には父親の骨と、下僕の肉、そして敵の血が必要なのだ。父親の骨は墓場から、下僕の肉はここにいるワームテールのものを、そして敵の血にはハリー・ポッターのものを使うつもりだった。だが、あの小僧は本人が気がつかないほど厳重に守られている」

 

「だから、代わりに私を──」

 

「まあ待て。結論を急ぐな。そう簡単に諦める私ではない。私はクラウチ・ジュニアを使ってハリー・ポッターをここへと攫ってくる計画を立てた。そう、クラウチ・ジュニアをホグワーツへと忍び込ませ、ハリー・ポッターが対抗試合の代表選手に選ばれるように細工をする。そして、ハリー・ポッターが優勝するよう仕向け、奴に一番最初に優勝杯を触らせる。優勝杯は、クラウチ・ジュニアを使って移動キーに変えておくのだ」

 

「それじゃあ、私の名前がゴブレットから出てきたのは……」

 

 ヴォルデモートは少し目を細め、静かに頷いた。

 

「我々が仕掛けたことではない。そもそも、クラウチ・ジュニアはゴブレットを混乱させ、ハリー・ポッターを第四の学校の代表として選出する様に術を掛けたはずだった。ホグワーツ代表として貴様の名前が出てきたとしても、第四の学校の代表選出としてハリー・ポッターの名前が出てくるはずなのだ。だが、結果として貴様の名前が出てきてすぐ、ゴブレットの炎は消えた」

 

「クラウチ・ジュニアがしくじった?」

 

「ああ、私も当初そう思った。だが、それにしては妙だった。私としては、ハリー・ポッターの名前が出てこなかったこと以上に、貴様の名前がゴブレットから出てきたことが気になった。貴様のことはここにいるワームテールから聞き及んでいる。ジョーキンズからも貴様の周りで起こったことは聞き出した。貴様が私と同じ孤児院出身だと言うことや、孤児院で起こった事件のこと。貴様がブラックを殺したことなどもな。私はすぐに気がついたぞ。貴様が孤児院のマグルを皆殺しにしたのだとな」

 

 それに関しては、本当に私がやったのか確証がない。

 だが、確かに私が行ったことだと考えれば動機以外の全てに納得がいくのも確かだ。

 

「何にしても、私は計画を変更せざるを得なかった。もはやハリー・ポッターには手出しができん。だとするなら、目標を変えるまでだ。ホグワーツの代表選手となった貴様をここへと誘き出し、貴様の血を用いて肉体を復活させる。本来ならあの小僧とは私が直接決着をつけたがったが、この際贅沢は言えんだろう」

 

「どういうことです?」

 

「ハリー・ポッターの血を用いて肉体を復活させることによって、私は奴に触れることができるようになる。今の私では、あの小僧に指一本触れることはできないだろう。あの小僧に掛けられている護りの魔法は強力だ。破る術は殆どない。だが、それは私が直接手を下す場合の話だ。他のものが殺す分には奴に掛けられた護りの魔法は役に立たない。クラウチ・ジュニアには、貴様をここへと辿り着かせるサポートと共に、ハリー・ポッターの暗殺も命じている」

 

 ヴォルデモートの言葉に、私の心拍が早くなる。

 

「──っ、ハリーの、暗殺……ですか……。今夜でしょうか」

 

「機会があればだ。そう簡単に殺せるのだったら、わざわざこんな大掛かりなことを計画したりなどせん」

 

 ほっと、私は小さく息をつく。

 ヴォルデモートはそんな私の様子を見て不気味な微笑みを浮かべた。

 

「貴様は奇妙だな。あれだけ殺しておきながら、人付き合いは大切にしている。だが、その関係が続けられているのは、奴が貴様のことを何も知らないからだ。奴は貴様の本質を少しでも知れば、軽蔑し突き離すだろう」

 

 ……確かに、ヴォルデモートの言う通りだ。

 私には、あまりにも秘密が多すぎる。

 

「っと、話が逸れたな。ともかく、計画を変更し、私は無事貴様を私の陣営へと迎えることができた。肉体の復活も上手くいった。ここまでが私の今までだ。そして、ここからは我々のこれからの話になる」

 

 ヴォルデモートは一層視線を鋭くする。

 

「左腕に刻まれた闇の印が活性化したことによって私が復活したことは我が配下に伝わったことだろう。闇の印を打ち上げればすぐにでも集まってくるはずだ。今後の方針についてはその場で説明する。だが、重要なのは貴様の扱いだ。貴様の能力を知る者は少なければ少ないほどいい。現に、ホグワーツに潜入させているクラウチ・ジュニアは貴様の能力に関しては教えてはおらん。貴様の能力を知っているのは私と、ここにいるワームテールだけだ。だが、能力を隠すとなれば何故私が貴様を重用するか疑問に思う者が出てくるだろう。そこで、ひと芝居打つことにする」

 

 ヴォルデモートのスラリとした指が私の髪を撫でる。

 

「サクヤ・ホワイトよ。貴様は私の娘であると他の者に説明することとする」

 

 そして、あまりにも衝撃的なことを澄まし顔で言い放った。




設定や用語解説

時間が止まった世界での他人
 サクヤが直接触れているか(もしくは触れられているか)、サクヤが時間停止を解除した者は時間が止まった中でもサクヤと同じように動き回ることができる。

サクヤの閉心術
 サクヤ自身閉心術のやり方自体は知らないが、無意識の内に自分の時間をほんの少しだけ周囲とズラすことによって閉心術と同じような効果が得られている。サクヤが意識して時間の流れを一致させることにより、サクヤへの開心術が可能になる。また、サクヤに直接触れれば時間の流れの影響を受けないので開心術をかけることが出来る。

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