P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
まずいことになった。
この人の存在を完全に忘れていた。
私はパチュリー・ノーレッジの顔を見ながら、内心冷や汗を掻いていた。
魔法の実力だけで見たら、彼女以上の使い手は魔法界には存在しない。
自ら作り上げた魔法を自由に使い、今の魔法界の魔法体系すら無視した反則級の魔法を使いこなす彼女は、今一番敵に回してはいけない存在だ。
この人相手には、閉心術がどこまで通用するかすらわからない。
「マクゴナガル先生、彼女、相当憔悴しているわ。一刻も早く医務室に連れて行く必要がある」
「ええ、ええそうでしょう。ほら、サクヤ、立てますか?」
私はマクゴナガルの肩を借りながらフラフラと立ち上がる。
「サクヤ・ホワイトをこのまま医務室へ連れていきます。表彰式は中止です! いいですね!」
そして、マクゴナガルは私の肩を抱いて医務室に向けて歩き出した。
パチュリー・ノーレッジは小さく口を開き掛けたが、特に何も言わず審査員席の方へ帰って行く。
私がもう一度振り返った時には、レミリア・スカーレットに対し何かを耳打ちしているところだった。
「貴方らしくもない、どうしたのです?」
マクゴナガルは優しく肩を抱きながら私に聞く。
私は唇を震わせながらなんとか言葉を紡いだ。
「あの人が……あの人が帰ってきた。今すぐダンブルドアに伝えないと……」
「あの人? 一体誰の話を──」
「その話、詳しく聞かせて貰おうかの」
医務室に向かう廊下の途中、横合いから声を掛けられる。
振り向くと、そこにはダンブルドアとスネイプが立っていた。
「優勝杯に触れた瞬間、私は飛ばされて……気がついた時には薄暗い墓場に立っていました。そこには仮面を被った不気味な男が立っていて……私はその男に捕まり、柱に磔にされたんです」
ホグワーツの医務室のベッドに腰掛けながら、私は作り話を紡ぎ始める。
「男は大鍋で何かの儀式をしているようでした。男は大鍋の中に醜い赤子のようなものを入れると、墓を暴きその中から骨を取り出して鍋の中に入れました。そして、自分の右手を切り落とし、それも鍋に入れたんです」
私は少し呼吸を早くする。
「そ、そのあと男は私にナイフを向けて、向けて……手を切り裂き、溢れ出た血を鍋に加えたんです。その瞬間でした。鍋から大きな湯気が上がったかと思うと、そこに人の姿が……人間とは思えないような姿でした。蛇のような顔に赤い瞳。でも、誰に説明されるでもなく、直感的にわかりました。あの人が復活した。例のあの人が復活したんだって」
「まさか──」
マクゴナガルが息を呑む。
対してダンブルドアとスネイプは少し表情を険しくしただけだった。
「嘘じゃありません! あの人はすぐに昔の仲間を呼び寄せ、自身の復活を宣言しました。集まった死喰い人たちは一人ずつあの人に平伏し、許しを乞いているようでした……このままでは殺されると思った私は無我夢中で逃げ出して優勝杯を掴んで……」
「そして君はホグワーツへと戻ってきた。そうじゃな?」
ダンブルドアは確認するように私に問いかける。
私は肩を震わせ、小さく頷いた。
「サクヤよ、安心していい。ヴォルデモートはこの城に立ち入ることは出来ん。ここは安全じゃ」
「いや……安全じゃない。安全じゃ……死喰い人がいる。死喰い人が紛れて……」
「大丈夫じゃサクヤ。セブルスは確かに一時期闇の魔法に傾倒した時期があった。じゃが最終的に自分の過ちを認め、悔い、こちら側へと戻ってきたのじゃ」
私はダンブルドアの言葉に静かに首を横に振る。
「違う、スネイプ先生じゃない……」
私は大きく深呼吸する。
そして呼吸を整えてダンブルドアに告げた。
「ムーディ先生……あの人はムーディ先生じゃない。本物は部屋のトランクの中に監禁されて──あいつの正体はバーテミウス・クラウチ・ジュニアなんです!」
「なんだと!?」
その言葉にスネイプが目を見開く。
「ミネルバ、サクヤを頼む」
ダンブルドアはそう言うと、スネイプと共に医務室を飛び出していった。
十分ほど経っただろうか。
担架に乗せられた男性が医務室に運び込まれ、私の横に寝かされる。
その姿はあまりにもやつれ、憔悴しきっていたが、その身体的特徴から本物のムーディだと言うことはすぐにわかった。
ダンブルドアはムーディをポンフリーに任せると、私のベッドへと戻ってくる。
「ダンブルドア先生、偽者の方は……」
「残念ながら既にホグワーツを去った後じゃった。ヴォルデモート卿が復活したことを認識し、主人の元へと帰ったのじゃろう」
「そう、ですか……」
私は力なく顔を伏せる。
どうやらクラウチ・ジュニアは無事にホグワーツから逃げおおせたらしい。
考えてみれば、彼は私の師匠のようなものだ。
無事逃げたようで取り敢えず一安心といったところである。
「ともかく、サクヤが無事で何よりじゃ。ヴォルデモートと対峙し、生きて帰ってこれただけで奇跡に近しい。君は今夜多大なる勇気を示した」
「あの人は、私の命を狙っているようでした。何故あの人が私の血液を用いて肉体を復活させたのかは分かりません。ですが、偶然そこにいたからではなく、明らかに私という存在そのものを狙っていた──」
「ヴォルデモートは、君に何を話した?」
私は顔を伏せ、首を横に振る。
ダンブルドアは静かに頷くと、マクゴナガルの方を見た。
「ミネルバ、皆を集めて欲しい。ヴォルデモートが復活した今、我々も団結せねばならん」
「わかりました」
マクゴナガルはダンブルドアの言葉に頷くと、早足で医務室を出て行く。
私はその後ろ姿を見送ると、ダンブルドアに尋ねた。
「この先、どうなってしまうのでしょうか……」
「それを決めるのは我々じゃ」
私はベッドに腰掛けながら強く拳を握り締める。
そして決意に満ちた目でダンブルドアに訴えた。
「……このままでは終われない。先生、私は……自分の未来は自分で切り開きたい」
「……じゃが、サクヤ。君はまだ学生じゃ。命を賭して戦うには若すぎる」
「先生が、それを言うのですか?」
私は縋るように、怒るようにダンブルドアを睨みつける。
「先生なんでしょ? 私の名前がゴブレットから出てくるように細工をしたのは。例のあの人は言っていました。本来なら、この場に飛ばされてくるのはハリー・ポッターのはずだったって。でも、結果として私が代表選手に選ばれた」
私は目に涙を溜めながら搾り出すように吐き捨てる。
「わ、私わかってるんですから……っ! 先生は私を第二の英雄に仕立て上げようとしているんでしょう? 生き残った女の子っ……第二のハリー・ポッターとして……だから、だから私に戦い方を教え、試練を与えたんですよね? そうだと、そうだと言ってください……」
ダンブルドアの前で演技をしながら、私はそのことについて考える。
ヴォルデモートはゴブレットから私の名前が出てきた件については関与していないと言った。
と言うことは、代表選手選出の件は本当にダンブルドアの仕業の可能性がある。
「先生、私には力がある。私には覚悟がある。私は、きっと戦力になります……だから先生、お願いです。私に、戦わせて下さい……お願いします……お願い、します……きっとお役に立ちます。期待に応えます。だから、私を──」
私は大粒の涙を流しながら、ダンブルドアに頭を下げた。
「私を、捨てないでっ……」
ダンブルドアは蹲るように頭を下げる私を優しく抱きしめる。
「すまなんだ。良かれと思ってやったことが、君に必要以上の使命感を芽生えさせてしまったらしい。何故君の名前がゴブレットから出てきたか、それに関してはわしにも分からん。じゃが、サクヤの言う通り、君に期待をしてしまったのも確かじゃ」
私は涙を拭いながら顔を上げる。
ダンブルドアの眼鏡の奥の瞳は、何かを決意する様にまっすぐで、光り輝いていた。
「君のその覚悟、しっかりと受け取った。わしには、君のその覚悟に応える責任がある。共にヴォルデモートに立ち向かおうではないか」
私は少し目を丸くしパチクリさせると、小さく鼻を啜ってニコリと微笑む。
そして鼻声になりながら言った。
「はい……はい! よろしくお願いします!」
さて、これでヴォルデモートの言葉通り、ダンブルドア陣営に潜り込むことができた。
私はダンブルドアから離れると、ハンカチで顔を拭く。
私は涙が引くのを待ちながら、今後のことを冷静に考え始めていた。
私がヴォルデモートに命じられたことはダンブルドア陣営の動きを報告すること。
つまり私はヴォルデモート側のスパイということだ。
ヴォルデモートが知りたい情報は何か。
今、このタイミングに限って言えば、ダンブルドア陣営に誰がつくかということだろうか。
私はハンカチを仕舞い直すと、ベッドから立ち上がる。
それと同時にマクゴナガルが多くの魔法使いを連れて医務室へと入ってきた。
マクゴナガルを先頭に、魔法大臣のファッジ、バグマン、スネイプ、スプラウト、フリットウィック、ハグリッド、そしてクラウチの代理で審査員として来ていたパーシー。
その後ろにはレミリア・スカーレットに従者の紅美鈴、そして最後にパチュリー・ノーレッジといつも後ろに従えている仮面の男が医務室へと入ってきた。
「皆のもの、まずは集まってくれたことに感謝申し上げる」
「本当よ。一体なんだって言うの? 優勝者が決まったのだからさっさと表彰式を行えばいいじゃない」
レミリアは不満げに羽をバタつかせる。
「まあまあお嬢様。そんな空気でも無さそうですよ?」
「まったくどうしたってのよ。ゲラートのガキが脱獄でもした? それとも私を差し置いて闇の帝王とか抜かした小僧が復活したとか?」
レミリアはそう茶化しながら肩を竦める。
それを聞いて、ダンブルドアがニコリと微笑んだ。
「ほっほっほ。まさにその通り。さすがスカーレット嬢じゃの。そのまさかじゃ」
ダンブルドアがそう言った瞬間、レミリアの顔から笑みがスッと抜ける。
そして今まで見たことがないほど真剣な表情に変わった。
ダンブルドアはそれを見て、静かに宣言する。
「ヴォルデモート卿が復活した」
「そんな馬鹿な! 何かの間違いだろう?」
突然ダンブルドアの話を遮る形でファッジが大声を上げる。
ダンブルドアは首を横に振ると、ファッジに言い聞かせる。
「コーネリウス、間違いではない。ヴォルデモートが復活したであろう可能性は非常に高いと言わざるを得ない」
「例のあの人が蘇った? 馬鹿馬鹿しい。そんなことが起こり得るはずがない。それに、それは一体どういった伝手で伝えられた情報なんだ?」
ダンブルドアは横にいる私をちらりと見る。
私は小さく頷くと、一歩前へ歩み出た。
「私です。私がこの目で確認しました」
ファッジは私をポカンとした表情で見つめると、狂ったようにケタケタと笑い始める。
「あはははははは、そんな話を、信じろと? サクヤくん、君は少々目立ちたがり屋な一面があるようだが、冗談にも限度がある。大人をからかうのもいい加減にしたまえ」
「口を閉じろコーネリウス・ファッジ。憶測で話を切り上げるな。笑うのは、本当に冗談であるとわかった時でも遅くはない」
レミリアは声を上げて笑うファッジを睨みつける。
ファッジは剃刀のような鋭さのレミリアの視線を受け、小さく悲鳴を上げて縮こまった。
「アルバス、貴方はこの娘の話が信ずるに値するものだと、そう判断したということね?」
「……ああ、そうじゃ」
レミリアは値踏みするように私の顔を観察すると、何度か頷く。
そして近くにあった椅子に腰掛けた。
「わかった。話を聞くわ」
ダンブルドアは、ようやく話ができる環境が整ったと判断したのか、私がダンブルドアに話して聞かせた内容をそのままこの場にいる全員へと伝える。
ダンブルドアが説明を終えると、医務室内は静寂に包まれた。
「そこでじゃ。ヴォルデモートが復活した以上、我々も団結せねばならん。そうでなければ、すぐにでも魔法界は闇に包まれてしまうじゃろう」
「う、うーん……」
ファッジはまだ納得がいっていないのか、小さく唸り声を上げる。
レミリアは何かを思案する様に考え込み、逆にパチュリーは興味なさそうに大きな欠伸を一つした。
他の全員はダンブルドアの指示を静かに待っている。
ダンブルドアはその様子を見て、再度口を開く。
「ヴォルデモートが復活したとなれば、様々な措置を講じねばならん。それにはここにいる者の協力が欠かせないことを理解してほしい。手始めに、アズカバンを吸魂鬼の支配から解き放つ。ヴォルデモートが復活した今、吸魂鬼は守り手として不十分じゃ」
「正気か? ダンブルドア……吸魂鬼を解き放つだと? そんなことしたら私はすぐにでも大臣職を蹴り落とされてしまう! 魔法使いの半分が安眠できるのは吸魂鬼がアズカバンの警備に当たっていると知っているからだ」
「連中はいつまでも魔法省に忠誠を尽くしたりはせんぞ? 吸魂鬼が魔法省に従っておるのは、利害が一致しておるからだ。ヴォルデモートについた方がいい思いができると考えれば、吸魂鬼は明日にでも魔法省を裏切り、ヴォルデモートの配下になるじゃろう」
ファッジは言葉が出ないといった様子で口をパクパクさせる。
「それと、巨人に使者を送らねばな。ヴォルデモートは過去、巨人を説得し仲間に引き入れている」
「巨人と交渉だと? ついにボケたか?」
ファッジは大きなため息をついて頭を抱える。
「巨人と交渉なぞ正気の沙汰ではない。それに、奴らが我々の話を聞くとは到底思えん」
「じゃが、必要な措置じゃ。コーネリウス、貴方は自分の役職に執着するあまり、物事が見えなくなっておる。コーネリウス、今こそ勇気を振り絞るのじゃ。今ここで傍観を決め込めば、貴方は未来の歴史学者に無能な魔法大臣だと笑われることとなろう」
「何度でも言うぞダンブルドア。正気の沙汰ではない。狂人的だと言ってもいい。そのような措置、とてもじゃないが……それに──」
「あほくさ」
医務室の中に、ため息交じりの声が響く。
全員が声の方向に振り向くと、そこには帰り支度を始めているレミリアの姿があった。
設定や用語解説
サクヤが代表選手に選ばれた謎
ダンブルドアが細工をしたのか、はたまた別の勢力か。ただヴォルデモート陣営でないことは確か。
騎士団に潜り込むサクヤ
ただ戦力として期待されているというよりかは、保護に近い形。
現実を受け止めきれないファッジ
ここは原作通り。
Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。