P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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あれ? もしかしてびっくりするほど進行遅い?


溶けた大鍋と新聞記事と私

 初めての魔法薬学の授業ではおできを治す簡単な薬を調合することになった。

 スネイプは生徒を二人ずつ組にしていく。

 基本的にはグリフィンドール生はグリフィンドール生と、スリザリン生はスリザリン生と組むのだが、グリフィンドールもスリザリンも奇数なため、一組はグリフィンドールとスリザリンが組む組が出来上がることになる。

 

「そうだな……マルフォイ、ホワイトと組みなさい」

 

 何を思ってか、スネイプはマルフォイと私を組にした。

 私は荷物をまとめると、マルフォイの机へと移動する。

 

「ハァイ、ドラコ。元気してる?」

 

 私は荷物をマルフォイの横に置く。

 マルフォイは私が座りやすいように席を詰めた。

 

「ああ、そこそこ。そういえばサクヤはグリフィンドールになったんだったね」

 

 マルフォイは大鍋を準備しながら言った。

 

「てっきり君はスリザリンになるものだと思ってたよ」

 

 私は組み分けの際の組分け帽子とのやり取りを思い出した。

 

「あのボロボロは随分悩んだみたいだけど、最終的にはグリフィンドールにしたみたい」

 

「血みどろ男爵が言っていたよ。久々の組み分け困難者だって。男爵の話ではあのマクゴナガルが組分け困難者らしい」

 

 確か組み分けに五分以上掛かった新入生をそう呼ぶんだったか。

 

「じゃあドラコは逆に組み分け容易者ね」

 

「それは褒めてるのか?」

 

「即スリザリンに選ばれるということは主義主張がはっきりしているということでしょう? 立派なことだと私は思うわよ?」

 

 私がそう言うと、マルフォイは顔を赤くした。

 本当にわかりやすい少年だ。

 

「じゃあ、調合していきましょうか。分量通りに材料を入れて鍋で煮るんですって」

 

 つまりお菓子作りと同じだろう。

 私は鍋の中に入れて持ち運んでいた真鍮の秤を取り出すと、干しイラクサを量り始めた。

 

「ドラコは蛇の牙を砕いて。大まかに砕いてふるいにかけるのを繰り返すと粒が均等になるわよ」

 

 マルフォイは私の言われたとおりにすり鉢で蛇の牙を大まかに砕き、ふるいにかけ始める。

 

「まあでもそうなると、ドラコとは寮が離れてしまったわね。まあ、寮の違いなんてクラスの違いのようなものでしょう?」

 

「マグルの社会がどういった教育体制をしているかは僕は知らないけど、ホグワーツの寮っていうのは一つの勢力と言っていい。ホグワーツを卒業した後も、どの寮だったかを気にする魔法使いは多いよ」

 

 なるほど、だからこそマルフォイはスリザリンに入りたかったのだろう。

 

「ハッフルパフに入った日には恥ずかしくて家に帰れないよ」

 

「随分な言われようねぇ」

 

 やはり寮に対するイメージというものははっきりとしたもののようだった。

 私とマルフォイはその後も協力しながらおできを治す薬を調合していく。

 

「ほう、これは見事な」

 

 マルフォイが角ナメクジを茹でていると、スネイプが私たちの方へと近づいてきた。

 

「諸君見たまえ。これが正しい角ナメクジの茹で加減だ」

 

 そう言ってスネイプは私たちの大鍋から角ナメクジを引き上げる。

 

「流石だなマルフォイ。この完璧な角ナメクジにスリザリンに五点やろう」

 

 私はスネイプの手際の良さに感心する。

 スネイプが鍋から引き上げたのだから、茹で加減が完璧なのは当然だ。

 スネイプはそれをうまくマルフォイの手柄にしたのだ。

 次の瞬間だった。

 

「うわぁあ!!!」

 

 大きな叫び声とともにボンッと大きな音が地下牢に響く。

 緑の煙が辺りに広がり、強烈な腐敗臭がした。

 私はハンカチで口元を覆いながら煙の根源を辿る。

 どうやらネビルが魔法薬の調合に失敗し、鍋をグシャグシャに溶かしてしまったようだった。

 

「バカ者!」

 

 スネイプはネビルの元へと駆けてくと、こぼれた薬を魔法で取り除く。

 ネビルは魔法薬を全身に浴びてしまったらしく、体中におできが噴出していた。

 

「鍋を火から降ろさないうちにヤマアラシの針を入れたな?」

 

 スネイプはネビルを問い詰めるが、ネビルはシクシクと泣くばかりだった。

 

「医務室へ連れて行きなさい」

 

 スネイプはネビルと組んでいた少年に言いつける。

 ネビルが運ばれていくのを横目で見ながら、スネイプはハリーに言った。

 

「ポッター、なぜ針を入れてはいけないと言わなかった? 大方やつが間違えば自分の方がよく見えると考えたな? グリフィンドールは一点減点だ」

 

 ハリーは文句を言おうと口を開きかけたが、ロンがそれを止める。

 まあ、これもスネイプからしたら予定調和なのだろう。

 先ほど私に与えた一点は、理不尽な理由でハリーから減点するための一点だったのだ。

 

「どうもスネイプ先生はハリーのことが嫌いみたいね」

 

 私はしょぼくれるハリーを横目に見ながらマルフォイに言う。

 マルフォイはハリーが減点を受けて満足そうだった。

 

「よくは知らないが、スネイプ先生とポッターの父は同級生らしい。父上が言うにはだけどね」

 

 ふむ、何か複雑な事情がありそうだ。

 私は完成した薬を小瓶に詰めると、教卓へ提出する。

 全員が薬を提出したところで魔法薬学の授業は終了した。

 

「じゃあねマルフォイ。次授業が一緒なのは飛行訓練の日かしら」

 

 私はマルフォイに手を振ると、グリフィンドール生に交ざって地下牢を出る。

 私はとぼとぼと歩くハリーの背中をバンと叩いた。

 

「お疲れハリー、災難だったわね」

 

 ハリーはいきなり私に背中を叩かれて前のめりに転びそうになるが、何とか踏ん張った。

 

「うわっとと……サクヤも災難だったね。マルフォイと組まされるなんて。なんでスネイプは僕たちに嫌がらせをするんだろう」

 

 どうやらハリーは私とマルフォイが組まされたのは私に対する嫌がらせのためだと思っているようだった。

 私はハリーの都合のいい勘違いを訂正することなく話を続ける。

 

「確かにおかしいわよね。スネイプがスリザリンを贔屓するならまだしも、ハリー一人を集中的に攻撃するなんて」

 

「そんなもんじゃないか? フレッドやジョージもよく理不尽に減点されるって言ってたし。気にするなハリー」

 

 ロンはそう言ってハリーを励ました。

 

「でも、グリフィンドールの点を減らしちゃったし……」

 

「大丈夫よハリー。私がこっそり一点稼いでおいたわ」

 

 私がそう励ますと、ハリーは一層がっくりと肩を落とした。

 

「サクヤ、トドメを刺すなよ! ハリー、しっかりしろ! ハグリッドに会いに行くんだろ?」

 

 トドメを刺したつもりはなかったが、ハリーの様子を見るに逆効果だったらしい。

 

「折角サクヤが一点稼いだのに……」

 

「いや、多分ハリーから一点減点するために私に一点加点したに違いないわ。きっとそうよ」

 

「ゴメン、ありがとうサクヤ」

 

 私たちは三人で廊下を歩き、一度談話室に荷物を置きに戻る。

 太った婦人に合言葉をいい、私たち三人は肖像画の穴によじ登った。

 

「ちょっとサクヤ! さっきのはどういうこと!?」

 

 談話室で私を出迎えたのは、顔を赤くして文句ありげに私の方を睨むハーマイオニーだった。

 

「ちょっと、どうしたのよ。穏やかじゃないわね」

 

「どうしたもこうしたもないわ! どうして『わからない』なんて答えたの?」

 

 私はなんとかハーマイオニーを落ち着けようと取り敢えずソファーに座るように促そうとする。

 だが、その前に私とハーマイオニーの間にロンが割って入った。

 

「おいなんだよ! 失礼なやつだな。わからないのをわからないというのがそんなに悪いのか? みんながみんな君みたいに頭でっかちだって思わないことだな」

 

「なによ! だってサクヤは──」

 

「まだ言うか!」

 

 ハーマイオニーはグッと押し黙るとフンと鼻を鳴らす。

 

「あーそーですか! どうせ私は頭でっかちよ」

 

 ハーマイオニーはドスドスと足を鳴らしながら女子寮へと続く扉へと消えていく。

 私はその様子を見て大きくため息をついた。

 

「まあ……なんというか、ありがとねロン」

 

 私は取り敢えず庇ってくれたロンにお礼を言う。

 

「そんな……お礼を言われるようなことじゃないよ。ハリーとサクヤの友達として当然のことをしただけだよ」

 

 そう言ってロンは恥ずかしそうに頭を掻いた。

 一方ハリーはというと、女子寮の方を心配そうに見ている。

 なんというかどこまでも優しい少年だ。

 

「とにかく、私は荷物を置いてくるわ。談話室集合でいいかしら」

 

 私は二人に聞く。

 ハリーは談話室に掛けてある時計を確認すると、コクリと頷いた。

 私は二人に手を振り、女子寮に続く螺旋階段を登っていく。

 一人になったことで、私はもう一度大きくため息をついた。

 ハーマイオニーとは同部屋どころかベッドが隣なのだ。

 気まずいどころの話ではない。

 だがまあ、今回の場合、ハーマイオニーもロンも悪くない。

 悪いのは、私だ。

 ハーマイオニーは純粋にスネイプの質問にジョークで返した私の態度を咎めようとしただけだし、ロンはハリーと私が馬鹿にされたと勘違いし怒っただけだ。

 私が要らぬ見栄を張ってあのような答えを返したのが全て悪い。

 私は自室の扉を音を立てないように小さく開ける。

 私が室内を覗き見ると、ハーマイオニーがベッドに座って頭を抱えているのが見えた。

 

「なんであんな言い方しかできないのよ……私の馬鹿っ……視野の狭いったらありゃしないわ。ハリー・ポッターのことをまったく気にしていなかった」

 

 どうやらハーマイオニーは、自分の先程のセリフがハリーを傷つけることになると気がつかなかったことに相当落ち込んでいるようだった。

 私は時間を止めると、扉を開けて魔法薬学の授業で使った荷物を片付ける。

 そしてそのまま部屋を出て、時間停止を解除した。

 流石に今このタイミングでハーマイオニーに話しかける勇気は私にはない。

 幸い今日はこの後授業がないため、夕食後、ほとぼりが冷めた頃にそれとなく謝ろう。

 私は談話室まで下ると、二人が来るのを待つ。

 数分もしないうちにハリーとロンは男子寮から出てきた。

 

「よし、行こう」

 

 私たち三人は三時五分前に城を出て校庭を横切る。

 ハグリッドは禁じられた森の端にある小屋に住んでいるらしい。

 

「ここで合ってるよね?」

 

 ハリーは目の前にある木製の小屋を見上げる。

 表札等はなかったが、扉の横に置いてある防寒靴の大きさからハグリッドがここに住んでいることは間違いなかった。

 

「ええ、多分。ホグワーツでそのサイズの靴を履けるのは彼ぐらいでしょうし」

 

 ハリーは防寒靴をちらりと確認すると、大きな扉を数回ノックする。

 その瞬間ガリガリと扉の向こう側を引っ掻くような音とともに、獣の唸り声のようなものが聞こえてきた。

 

「ファング、さがれ!」

 

 重たい足音とともにハグリッドの大声が聞こえてくる。

 扉が少し開き、ハグリッドの顔が隙間から覗いた。

 

「待て待て! さがれファング!」

 

 ハグリッドは巨大な黒いボアハウンド犬の首輪を抑えながら私たちを招き入れる。

 小屋の中は一部屋しかなかったが、生活に必要なものは全て揃っており、非常に住み心地は良さそうだった。

 

「素敵なおうちね……」

 

 自然に囲まれた小屋で生徒たちを見守りながら森の管理をする。

 ハグリッド自身がどう思っているかは知らないが、見る人が見れば羨む生活を送っていると言えるだろう。

 

「ん? サクヤも来たんだな。っとそっちの男の子は……」

 

 ハグリッドはロンを見て少し考える。

 

「ロンです」

 

 ハリーが紹介すると、ハグリッドはポンと手を打った。

 

「ウィーズリー家の子かい? おまえさんの双子の兄貴たちを森から追い出すのに俺は人生の半分を費やしてるようなもんだ。ほれ、そこに座れ。ゆっくりするといい」

 

 ハグリッドは楽しそうに話しながら火にかけていたヤカンを手に取る。

 そしてティーポットに中のお湯を注いだ。

 

「どうだ、ホグワーツは。友達は……出来たようだな」

 

 ハグリッドは私たち三人を見回す。

 ハリーは入学してからのホグワーツでの出来事をハグリッドに話し始めた。

 私はハリーの話に時折相槌を打ちながらハグリッドに振る舞われたロックケーキを齧る。

 その名の通りロックケーキは岩のように硬かったが、きちんと味は付いている。

 日持ちもしそうだ。

 私はロックケーキをハグリッドが淹れてくれたお茶で口の中でふやかしながら食べる。

 ハリーはハグリッドとスネイプについての話題で盛り上がっていたが、私はティーポットの下にある新聞が気になった。

 私は火傷しないようにティーポットを持ち上げると、新聞を手に取る。

 新聞の一面にはグリンゴッツの記事が載っていた。

 

「おっと、待てサクヤ」

 

 私が新聞の記事を読もうとするとハグリッドの手がこちらに伸びてくる。

 私は時間を止めると、グリンゴッツの記事を読んだ。

 

 

 グリンゴッツに強盗侵入

 

 今年の七月三十一日に起きたグリンゴッツ侵入事件については闇の魔法使いの仕業だとされているが、詳細はわかっておらず捜査は未だ継続している。

 グリンゴッツのゴブリンたちは今日になって何も盗られてはいないと発表した。どうやら荒らされた金庫は侵入された時点で既に空になっていたようだ。

「金庫に何が入っていたかについては申し上げられません。申し上げないほうが皆様のためでしょう」グリンゴッツの報道官はそう述べた。

 

 

 私は記事を読み終えると時間停止を解除する。

 その瞬間、ハグリッドが大きく長い手を伸ばして私が持っていた新聞を取り上げた。

 

「この新聞は気にせんでくれ。おまえさんには関係ない」

 

「七月三十一日っていったら私たちがグリンゴッツに行った日と同じですよね?」

 

 ハリーはハグリッドの持ってる新聞を横から覗き込む。

 

「空にしたって、もしかしてあの金庫のことかな?」

 

 ハリーは何か思い当たる節があったのか、新聞の記事を読んでそう呟いた。

 

「関係ない! おまえさんたちは知らんでいいことだ。っと、もうこんな時間だな」

 

 ハグリッドはわざとらしく時間を確認すると、私たちに大量のロックケーキを押し付けてもう帰るようにと促す。

 そこまでして話を逸らしたいのかと思ったが、確かにもう夕食の時間になりそうだった。

 

「また遊びに来てもいい?」

 

 小屋から出る際に、ハリーがハグリッドに聞く。

 ハグリッドは優しげな笑みを浮かべ答えた。

 

「ああ、授業のない日ならな」

 

 私たちはハグリッドと別れてホグワーツ城へと戻る。

 その道中にハリーがグリンゴッツの話題を出した。

 

「七月の終わりにハグリッドとサクヤとグリンゴッツに行った時、ハグリッドはダンブルドアからの頼みで小さな包みを金庫から回収してたんだ」

 

 私がマーリン基金の手続きをしている時の出来事ということだろう。

 

「金庫にはその小包以外には何も入ってなかった。つまりハグリッドは間一髪で盗まれそうだった小包を回収したってことじゃないかな?」

 

 なるほど、筋は通っている。

 ということは今その小包はハグリッド、もしくはダンブルドアが持っているということだろう。

 

「グリンゴッツに強盗に入ってまで手に入れたい小包……中身が気になるな」

 

 ロンは少し興奮気味にそう言う。

 確かに、余程の魔法具に違いない。

 ホグワーツ城に入り、大広間へと続く廊下を歩く。

 私たちは夕食を取りながら小包の中身が何なのかを想像しあった。




設定や用語解説

どんどん不仲になるハーマイオニーとハリーとロン
 ある意味予定調和

ロックケーキ
 ハグリッドお手製の岩のように硬いケーキ。ハリーとロンには不評だった模様

グリンゴッツの金庫の中身
 タイトルのまんまです

Twitter始めました。
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活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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