P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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優勝パーティと空き教室と私

 

「あほくさ」

 

 ホグワーツの医務室にレミリア・スカーレットの声が響く。

 その場にいる全員がレミリアの方を注目した。

 対してレミリアは既に椅子から立ち上がっており、部屋の窓に手をかけている。

 

「私はここに老いぼれ二人の口喧嘩を聞きにきたわけじゃないわ。それに、ダンブルドアが提案した措置もナンセンスとしか言いようがない。生憎、時間がないの。今日はもう帰らせて貰うとするわね」

 

「待っておくれスカーレット嬢。是非貴方のお力をお借りしたい」

 

 ダンブルドアは咄嗟にレミリアを引き止める。

 だがレミリアはつまらなさそうにダンブルドアを見ると、その横にいる私に目を向けた。

 

「サクヤ、改めて優勝おめでとう。こんなことになってしまったけど、この大会を最年少で優勝することができたその実力は評価に値するわ」

 

 じゃあね、とレミリアは窓の外に飛び出す。

 皆が窓を覗き込んだが、レミリアは既に彗星のような赤い光の筋となって遥か遠くへと消えていた。

 

「うっわ! 置いてかれた! それじゃあ私もこの辺で!」

 

 取り残された美鈴は慌てた様子で窓から飛び降りると、既に姿が見えなくなったレミリアを追って校庭を走り出す。

 どうやら美鈴自身は走って帰るつもりのようだった。

 

「さて、それじゃあ私もこの辺で失礼させてもらうわ」

 

 部屋の中からまた声が響く。

 パチュリー・ノーレッジだ。

 パチュリーは手に持っていたローブを羽織ると、フードを深く被る。

 

「やはり、手を貸してはくれんか?」

 

 ダンブルドアは先程レミリアを引き止めようとした時とは打って変わって、パチュリーが協力的でないことはわかりきっている様子だった。

 

「え? いや、だって戦争するんでしょう? 嫌よ、怖いもの。怪我するかもしれないし。それに、なんで私がそんなことしなきゃいけないの?」

 

「ですが先生。ヴォルデモートが魔法界を支配してしまった後では、色々と遅いのでは?」

 

 パチュリーの隣にいる仮面の男がパチュリーに声を掛ける。

 

「別に私は困らないもの。誰が魔法界のトップに立っているかなんて興味ないわ」

 

 パチュリーはそう言うと真っ直ぐ私の元へと近づいてくる。

 そして耳元で囁いた。

 

「内緒にしといてあげる」

 

「──ッ!?」

 

 パチュリーはスッと身を引くと、仮面の男の近くへと戻る。

 そして男と共に音もなく消え去ってしまった。

 パチュリー・ノーレッジ、彼女は何をどこまで知っている?

 今この場で殺しておいた方がよかったかもしれないが、既に行方は掴めなくなってしまった。

 探して見つかるような相手ではない。

 それに彼女のことだ。

 時間を止めたところで殺せるかすら定かではないだろう。

 唯一の救いは、少なくともどちらの陣営にも参加する意思は無さそうだということだろうか。

 私は動揺を悟られないようにしながら、なんとか心を落ち着ける。

 これでこの場から四人がいなくなった。

 いや、影響力の大きさだけで言えば、四人どころの話ではないか。

 魔法省とも繋がりが深く、さまざまな種族との繋がりを持っているであろうレミリア・スカーレットと、ダンブルドアを凌ぐ知識と技術を有しているパチュリー・ノーレッジを味方につけることが出来なかったのだ。

 ヴォルデモート側についた私としては心底ほっとしているが、ダンブルドアからしたら堪ったもんじゃないだろう。

 

「さて、それじゃあ私も失礼させてもらおう。与太話に付き合えるほど、私は暇ではないのでね」

 

 ファッジはこれ幸いと言わんばかりに帰り支度を始める。

 そんなファッジの前にスネイプが歩み出て、左手の袖をグイッと捲った。

 

「見ろ」

 

 スネイプの左腕にはペティグリューと同じように、闇の印が刻まれていた。

 ファッジはその印を見てギョッとする。

 

「闇の印だ。一時間前まではもっとはっきりしていた。死喰い人は皆闇の帝王にこの印を焼き付けられる。我々を見分ける手段であり、我々を召集する手段でもあった。あの人が死喰い人の闇の印に触れれば、全員にそれが伝わる。そしてすぐにでもその場から姿をくらまし、あの人の元へと姿現しする手筈となっているのだ。何故カルカロフがこの場にいないかわかるか? 奴は自分の生徒の面倒を見ているのではない。印が焼けるのを感じてこの場から逃げ出したのだ。奴は、そして私も闇の帝王が帰ってきたことを知ったのだ」

 

 ファッジはスネイプの言ったことを殆ど理解できていないようだった。

 馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに頭を振ると、山高帽を深く被る。

 

「言いたいことは終わったか? 私はこれにて失礼するよ。学校の経営について話があるので、明日にでもまた連絡しよう。ルード、ウィーズリー君、行こう」

 

 ファッジはそう言うと、一足早く医務室を出て行く。

 

「ああ、おい! ちょっと待てコーネリウス!」

 

 バグマンはファッジの後ろ姿に向かってそう叫ぶと、急ぎ足で私に近づき、ガリオン金貨の詰まった大袋を渡してきた。

 

「君の賞金だ。この様子じゃ、表彰式は無さそうだからね。何、大臣は少し混乱しているようだ。冷静さを取り戻せば……あるいは……」

 

 バグマンはそれだけ言うと、ファッジの後を追って医務室を出て行く。

 パーシーはどうしようか少し迷ったようだったが、やがて二人の後を追っていった。

 ダンブルドアは三人を見送ると、改めて部屋の中を見回す。

 そこにはもうホグワーツの教師陣しか残っていなかったが、ある意味ではダンブルドアの最も信用している魔法使いが残ったと言っても過言ではない。

 

「やらねばならぬことがある」

 

 ダンブルドアは毅然とした態度で言った。

 

「ミネルバ、昔の仲間に声を掛けて回っておくれ。近いうちに召集せねばならん」

 

「わかりました」

 

 マクゴナガルはダンブルドアの言葉に頷くと、医務室を飛び出していく。

 

「ハグリッド、君には巨人族説得を頼みたい。後で校長室を訪ねてほしい。そして、できればマダム・マクシームと」

 

「了解ですダンブルドア先生。今呼んできます」

 

「そしてスプラウト先生は生徒の対応に当たってほしい。対抗試合があのような終わり方をしたこともあり、不安に駆られておるじゃろうからな。フリットウィック先生は闇祓いの知り合いを数人連れてクラウチ邸を訪ねるのじゃ。運が良ければ、バーテミウスがまだ生きておるかもしれん」

 

 ハグリッドとスプラウトとフリットウィックはそれぞれ頷き、バタバタと医務室を出て行く。

 そしてダンブルドアは最後にスネイプの方を見た。

 

「セブルス。君に何を頼まねばならぬのか、もうわかっておろう? もし、やってくれるなら……」

 

「大丈夫です」

 

 スネイプはいつもと変わらない顔色だったが、目には確かな決意をたぎらせていた。

 

「そうか、では幸運を祈る」

 

 スネイプはローブの裾を翻し医務室を出て行く。

 ダンブルドアはその後ろ姿を心配そうに見送った。

 そのまま数分経っただろうか。

 ダンブルドアは何かを思案している様子だったが、やがて私の方を向いた。

 

「サクヤ、君にも頼まねばならんことがある。昔の仲間を召集するにあたり、組織の拠点が必要じゃ」

 

「私の家を、ということですね。私は構いませんが……でもいいんですか? そもそもあの家はノーレッジ先生からお借りしている家ですが」

 

「彼女は自由に使っていいと言った。つまりは自由に使っていいのじゃろう。それに彼女のことじゃ。物に執着するとも思えん」

 

 まあ、確かにパチュリー・ノーレッジのことだ。

 そんなことでは文句は言わないだろう。

 

「そういうことでしたら……どうぞ。好きに使ってください」

 

「ありがとう。今年度が終わるまでまだ少し時間があるが……明日にでも一度家へと帰り、受け入れの準備を進めて欲しい」

 

 今日が土曜日のため、明日は一日授業はない筈だ。

 

「移動には移動キーを用いる。明日の朝八時にロンドンへ飛び、夜八時に校長室へ飛ぶよう魔法をかけよう」

 

「いいんです? 移動キーの不正作成は法律違反ですよ?」

 

 私が冗談交じりに言うと、ダンブルドアはいたずらっぽい笑みを浮かべた。

 

「なに、幸いと言っていいかはわからんが、偶然にも魔法省の人間がここにおらんのでのう」

 

 ダンブルドアはポケットから小さなダイスを一つ取り出すと、そのダイスに魔法を掛ける。

 そしてそのダイスを私へと手渡した。

 

「受け入れの準備に伴い、新たに色々と買わねばならん物もあるじゃろう。生憎今すぐは持ち合わせがないが、掛かった費用は全額わしが負担するので安心してよい」

 

「勿論、一クヌート単位まできっちり請求致しますわ」

 

「さて、本来なら君は今晩は医務室で寝ておらねばならんのだが、そうも言ってられんじゃろう。寮に帰ってよろしい。きっと今頃談話室では君の優勝記念パーティーが行われている頃じゃ」

 

 私は移動キーをポケットの中に入れると、医務室を出て行こうとする。

 

「おっとそうじゃ、もう一つ伝えねばならんことがあった」

 

 だが、その瞬間ダンブルドアが私を呼び止める。

 

「ヴォルデモート卿が復活したという事実はしばらく隠匿することとする。まだ何の被害も出ていない今、必要以上に不安を煽るようなことはせん方がいいじゃろう」

 

「それはハリーたちにも……ということでよろしいですか?」

 

「……ハリーには後日、わしの口から伝えよう。ロンはご家族から。そしてハーマイオニーには──」

 

 私は一度ダンブルドアの方を振り向く。

 

「ハーマイオニー・グレンジャー嬢には、お主の口から説明してほしい」

 

「……はい。分かりました」

 

 私は今度こそ医務室を後にした。

 

 

 

 

 医務室を出た私はホグワーツの廊下を歩き、グリフィンドールの談話室を目指す。

 あのような形で第三の課題自体は終わったが、何も知らない生徒からすれば体調の悪そうな私が医務室に運ばれた以上のことは知らないだろう。

 だとしたら、今頃談話室は大騒ぎの真っ最中のはずだ。

 私は階段を上り、八回廊下の奥にある太った婦人の肖像画の前に移動する。

 

「あら、主賓のご登場ね。体調はもういいの?」

 

「『ボターロ マロブロ』ええ、少し休んだらよくなりました」

 

 合言葉を伝えると、太った婦人の肖像画がパックリと開き、私を中に招き入れてくれる。

 私は肖像画裏の穴をよじ登り、談話室の中に入った。

 私の予想通り、談話室の中は大騒ぎだった。

 厨房から持ってきたのか沢山の料理が机の上に並べられている。

 

「クラムもデラクールも我らが女王に完敗だ!」

 

「ついでに俺らも我らが女王に乾杯!」

 

 フレッドとジョージが腕を組み、バタービールを瓶ごと煽っている。

 私は限界まで気配を殺すと、フレッドの後ろへと回り込みバタービールを奪って一気に飲み干した。

 

「サクヤ! 体調は大丈夫なのかよ!?」

 

 私の存在に気が付いたフレッドが後ろを振り向き口をあんぐりと開ける。

 私は飲み干したバタービールの瓶をフレッドに投げ返した。

 

「ええ、大丈夫よ。ゴメンね。私のせいで表彰式を台無しにしちゃって」

 

「そんなことあるもんか! 上級生二人を寄せ付けずに優勝するなんて最高にクールだぜ」

 

「ええほんと! おめでとう!」

 

 皆口々に私を褒めたたえ、握手を求めてくる。

 私は一人一人と握手しながら談話室内を見回した。

 

「そう言えば、ハリーの姿が見えないけど」

 

「言われてみればそうだな。そしてうちの愚弟の姿もない。もしかしたら、サクヤのお見舞いに医務室に向かったのかもな」

 

「ということはハーマイオニーも一緒ね。まあ、そのうち帰ってくるか」

 

 どうやら入れ違いになったようだった。

 私はジョージから新しいバタービールの瓶を受け取ると、瓶の栓を開けた。

 

 

 

 

 

 

 私が談話室に戻ってから十分ほどが経過しただろうか。

 肖像画裏の穴をよじ登り、ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人が帰ってきた。

 

「あ、帰ってきた。入れ違いになっちゃったかしら?」

 

 私は三人に向かって手を振る。

 ハーマイオニーは私が談話室にいることに目を見開くと、早足で近づいてきて私の腕をがっしりと掴んだ。

 

「ちょっとサクヤを借りるわよ」

 

「ちょちょちょどうしたってのよ」

 

 ハーマイオニーはそのまま力強く私を引っ張っていき、談話室の外に引きずり出す。

 ハリーとロンもその後ろをぴったりとついてきた。

 

「話したいことがあるんだ。それも今すぐに」

 

 私の横を歩きながらハリーが深刻な顔をする。

 私はハーマイオニーの腕を解きながら、ハリーに向き直った。

 

「……何かあったの?」

 

「ここじゃダメだ。人に聞かれない場所じゃないと」

 

 私たちはハリーを先頭にして近くの空き教室に入る。

 ハリーは廊下を見渡して、周囲に人がいないことを確認すると教室の扉を閉める。

 そしてハリーはいつになく神妙な面持ちで言った。

 

「あいつが、ヴォルデモートが復活した」




設定や用語解説

パチュリーよりもレミリアの方を積極的に引き止めるダンブルドア
 仲間として優秀というのもあるが、ヴォルデモート側につかれると一番困る人物だからというのが大きい。

賞金1000ガリオン
 これでサクヤは小金持ちになりました。

ヴォルデモートが復活したことを隠匿するダンブルドア
 原作では逆に復活したことを広く公表していた。

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