P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
「あいつが、ヴォルデモートが復活した」
私たち以外誰もいない空き教室の中で、ハリーが神妙な面持ちで言った。
「……例のあの人が復活? どういうこと?」
私はできるだけ動揺を表に出さないようにしながらハリーに聞き返す。
というか、何故その話をハリーが知っているんだ?
「第三の課題の真っ最中に、額の傷が痛んだんだ。尋常な痛みじゃない。頭が割れるかと思った。もしかしたら、半分気絶していたかもしれない。でもその時、確かに見たんだ。大鍋の中から一人の男が立ち上がるのを。人間とは思えない顔だったけど……でも、間違いない。あれはヴォルデモートだ。復活したヴォルデモートだ!」
ハリーは息を荒げながら私に訴えかける。
ロンとハーマイオニーの表情を見る限り、どうやら二人は既にハリーから同じ話を聞いているようだ。
「傷は、まだ痛むの?」
「……いや、もう大丈夫。その幻覚のようなものを見た時だけだよ。でも、今までここまで傷が痛んだことはなかった」
「詳しく……詳しく話を聞かせてもらえないかしら。周囲に人はいた? 何かを話していた?」
もしハリーが私とヴォルデモートの関係に感づいているのだとしたら、このような話を私にすることはないだろう。
ということは、本当に断片的な情報しか知りえないのかもしれない。
「……わからない。でも、他に二人ぐらい立っていたような気がする。でも、それが誰かまでは……」
「……なるほどね」
ハリーの話を聞く限りでは、私とヴォルデモートの関係性までには気が付いていないようだ。
私は小さく息を吐くと、教室の壁に寄り掛かる。
なんにしても、ハリーとヴォルデモートの繋がりを甘く見ていたかもしれない。
ここから先、ヴォルデモートと接触する際は何かしらの変装をすることにしよう。
下手をすると私とヴォルデモートが楽しく談笑しているところをハリーが見てしまう可能性がある。
そうなってしまえばスパイもクソもない。
「……ハリー、心して聞いて頂戴。それに、ロンとハーマイオニーも」
私は三人の顔を見回す。
本来ならばダンブルドアからハリーに伝えることになっているが、この際仕方がないだろう。
「ハリー、貴方の言う通りよ。例のあの人が復活した」
私はダンブルドアに聞かせた話を、ハリー、ロン、ハーマイオニーにも話す。
優勝杯を手にした瞬間、墓場のような場所に飛ばされたこと。
ヴォルデモートが肉体を取り戻したこと。
本来ならばその場にいるのはハリーのはずだったこと。
「例のあの人は仕方なく私の血を使ったみたい。本当だったら貴方の血を使いたかったって」
「その話は、もうダンブルドアには──」
「勿論伝えたわ。既にダンブルドアは動き出している。それにハリー、多分明日にでもダンブルドアに呼び出されると思うわ。きっと私が今した話とまったく同じ話をされると思う」
ハリーはその話を聞いて押し黙る。
きっとハリー自身、自分が見たのは悪い夢か何かだったと思いたかったに違いない。
「この先、どうなっちゃうんだろう……」
ロンが唇を青くしながら小さい声で呟く。
その問いに誰かが答えることはなく、ただただ時間だけが過ぎていった。
次の日。
私は私服姿でロンドンの街を歩いていた。
本来ならばまだ夏休みに入ってもいないのにホグワーツの外にいるのはおかしい。
だが、今日に関してはちゃんとした目的がありホグワーツの外に出ていた。
私がパチュリーから借り受けているロンドンの家をダンブルドア陣営の拠点にするための準備を行うのだ。
私は人気のない路地裏へと入り込み、小さな倉庫の陰に隠れる。
そして杖を取り出し、グリモールド・プレイスにある自宅の自分の部屋へ瞬間移動した。
「クリーチャー、いる?」
私は部屋の扉を開けて廊下に向かって声を掛ける。
すると十秒もしないうちに私の目の前に屋敷しもべ妖精のクリーチャーが姿現しで現れた。
「お嬢様、お早いお帰りで。学校の方はもうよいのですか?」
「今日一日だけよ。それに、ちゃんとダンブルドアの許可も得ているしね」
私はクリーチャーにこの家をダンブルドア陣営の拠点として使用することを伝える。
クリーチャーはその話を聞き終わると、感慨深そうに何度か頷いた。
「なるほど、なるほど。左様でございましたか。では、この家が不死鳥の騎士団の拠点になると」
「不死鳥の騎士団?」
私が聞き返すと、クリーチャーは懐かしそうに話し始める。
「例のあの人が猛威を振るっていた頃……十年以上前の話でございます。魔法界は大きく分けて二つの陣営がありました。闇の魔法使いが集まった例のあの人の陣営と、それに対抗する陣営でございます。その対抗する側の陣営の一つに、ダンブルドアが中心となり結成した秘密同盟があります。それが不死鳥の騎士団なのでございます。きっとダンブルドアが現在集めている昔の仲間というのは、その不死鳥の騎士団に所属していたメンバーでしょう」
「不死鳥の騎士団……ね」
ということは、私は昨日その不死鳥の騎士団に入ったということだろう。
「にしても、詳しいわね」
「無駄に長い時間を生きているだけにございます。しかし、この家を不死鳥の騎士団の拠点に、ですか」
「ええ、だから色々準備をしなくちゃいけなくて。空いている部屋にベッドを詰め込んだり、机や食器を用意したりね。ということで、はいこれ」
私は鞄の中から対抗試合の賞金である一千ガリオンを取り出し、クリーチャーに手渡す。
「これで色々と揃えて頂戴。細部は任せるわ」
「かしこまりました」
「あとそれと、いくら使ったかは記録しておいてね。あとで全額ダンブルドアに請求することになっているわ」
「そうでございますか。でしたら、遠慮なく揃えさせていただきます」
クリーチャーは金貨の入った袋を両手で大切そうに抱えると、バチンと音を立ててその場からいなくなる。
これで屋敷の準備に関しては勝手に進んでいくだろう。
私はひと息ついてから、時間を停止させる。
そして昨日移動キーで飛ばされた墓場へと瞬間移動した。
運がよければヴォルデモートはまだあの屋敷にいるだろう。
私は墓場を抜けてボロボロの屋敷へと入る。
「相変わらずボロいわね。まああのスキャバーズがまともに掃除できるわけないわね」
私は埃が積もった廊下を進み、昨日ヴォルデモートと話をした部屋へと入る。
そこには一人の死喰い人が立っており、部屋の一番奥にヴォルデモートは座っていた。
どうやら、ちょうど目の前の死喰い人から話を聞いている最中のようである。
私は鞄の中から真っ黒なローブと顔の全体が隠せる仮面を取り出し身に着ける。
そして手袋を嵌め、完全に皮膚を隠した。
「さて、これでよし」
私はそのまま部屋の中に移動し、死喰い人の後ろにある椅子に座る。
そして時間停止を解除した。
「──では貴様は、貴様ならば不死鳥の騎士団との二重スパイの務めを果たせると、そう言いたいわけだな?」
ヴォルデモートは一瞬だけ私に視線を向けたが、すぐに目の前にいる死喰い人へと視線を戻す。
ヴォルデモートと会話をしている死喰い人は、私が聞いたことのある声でヴォルデモートに返事をした。
「左様でございます。我が君。私はこの十三年でダンブルドアの信用を得ました。私ならば怪しまれることなく騎士団の情報をこちらへと流すことができます」
「そして、こちらの機密もダンブルドアに筒抜けというわけだな」
「そのようなことは決して……」
いくら仮面で顔を隠していても分かる。
ヴォルデモートと会話をしているのはホグワーツの教員の一人であるセブルス・スネイプだ。
昨日ダンブルドアが言っていた、スネイプに頼まねばならぬことというのはこのことなのだろう。
死喰い人としてヴォルデモートに近づき、その情報をダンブルドアに流す。
ただ一つわからないのは、スネイプが真に忠誠を誓っているのはどちらかということだろう。
ヴォルデモートもそれがわからず、スネイプを疑っているに違いない。
「ふ、まあよい」
だが、少し思案したあと、ヴォルデモートは不敵に笑う。
「貴様がどちらに忠誠を誓おうと関係のないことだ。貴様の存在は都合よく利用させてもらう。貴様は定期的に不死鳥の騎士団の情報を私の元へと届けるのだ」
「……仰せのままに。我が君」
スネイプはそう言うと、深く一礼し姿くらましする。
私はスネイプがいなくなったと同時に椅子から立ち上がった。
「いいのです?」
「奴にはこちらの情報は与えん。一方的に情報を運ばせるだけだ。それに、その情報が正しいものであるか、確かめるすべが私にはある」
ヴォルデモートはそう言って私に対し微笑む。
私は時間を停止させ、ヴォルデモートの時間だけを動かした。
「そして、この屋敷に戻ってきたということは、何か報告したいことがあるということだろう?」
「はい。不死鳥の騎士団内への潜入に成功しました」
私がそう報告すると、ヴォルデモートは満足そうに頷く。
「昨日の今日で大した仕事の早さだ。それで?」
私はヴォルデモートに昨日医務室であった出来事をそのまま報告する。
ヴォルデモートは黙って私の報告を聞くと、何かを考えるように口に指をあてた。
「つまり、パチュリー・ノーレッジが貴様に貸し与えた家が不死鳥の騎士団の拠点になると」
「はい、そのようです」
「グリモールド・プレイス、十二番地……本当に、そこで間違いないんだな?」
ヴォルデモートは古い記憶を思い起こすようにしばらく何かを考える。
「パチュリー・ノーレッジがあの土地を押さえ、お前に与えた……。いや、まさかな」
「……どういうことです?」
私が聞くと、ヴォルデモートは私をまっすぐ見据えながら言った。
「グリモールド・プレイス十二番地と言えば、元々ブラック家が暮らしていた屋敷だ」
「ブラック家……というと、最後の当主は──」
「ああ、そうだ。シリウス・ブラック。奴がブラック家の最後の当主のはず。もっとも、シリウス・ブラックは長い間アズカバンに収監されていた。屋敷は長い間無人になっていたことだろう」
私が去年から暮らしている家が、シリウス・ブラックの実家?
いや、それよりも気になることがある。
「ということはパチュリー・ノーレッジはブラックが死んですぐにあの屋敷の所有権を得た。そして、その家を私に貸し与えた、ということですね」
「そう考えるのが自然だろうな。しかし、そうなるとパチュリー・ノーレッジの目的がさっぱり読めない」
ヴォルデモートの言う通りだ。
パチュリーは、一体何を思ってあの屋敷を手に入れたんだ?
それに、折角手に入れた屋敷を半分譲渡するような形で私に貸し与えたのも謎だ。
「ふむ、警戒するに越したことはないだろうな。どのような罠が仕掛けられているかわからん。安易な気持ちで攻め入らないほうがいいだろう」
「わ、私のマイホームが急にビックリハウスに……」
「そんな可愛げのあるものならよいのだがな」
なんにしても、パチュリーの目的が分かるまであの屋敷で下手なことはしないほうがいいだろう。
いや、それに関しては今更か。
一番の救いは、パチュリーがどちらの陣営にもつく気がないということだろう。
彼女には全ての情報が筒抜けになっていると考えたほうがいいかもしれない。
「この際、パチュリー・ノーレッジをこちらに引き入れたほうが良いかもしれんな。貴様からの報告を聞く限りでは、パチュリー・ノーレッジはどちらにつく気もないように見える。だが、警戒はせねばならん」
「分かりました。私からの報告は以上です」
「ふむ、ご苦労であった。貴様は奴とは違い優秀なようだ。貴様にはスパイの任務と合わせてセブルス・スネイプの監視の任を与えよう。ああ、それと、これを持っていけ」
ヴォルデモートはローブから何かを取り出すと、私に投げる。
私はそれを左手で掴んだ。
「これは……手鏡ですか?」
ヴォルデモートが投げてよこしたのは小さな手鏡だった。
鏡の蓋には綺麗な装飾が施されており、かなり上等な物に見える。
「ただの鏡ではない。それは両面鏡だ」
ヴォルデモートはそう言うと、同じ手鏡をローブから取り出す。
「鏡を覗き込んでみろ」
言われた通り鏡を覗き込むと、そこにはヴォルデモートの顔が映っていた。
「この鏡は二つで一つ。この鏡を用いれば、どれだけ離れていようが互いにやり取りすることが可能だ。そして、私の予想が正しければだが……」
ヴォルデモートは手鏡の蓋を閉めると、手の中に握りこむ。
「この状態で一度私の時間を止め、手元の手鏡の時間のみを動かしてみろ」
私は言われた通りにヴォルデモートの時間を停止させると、手鏡を手に取り時間を動かす。
するとその瞬間、ヴォルデモートの時間も一緒に動き始めた。
「……よし、どうやら私の思った通りのようだな。手鏡の一つの時間を動かせば、対になっているもう一つの手鏡の時間も動き出す。そしてその手鏡に触れていれば、一緒に時間停止が解除されるというわけだ」
なるほど、確かにこれは便利だ。
これならばどこにいても安全に連絡を取り合うことができる。
「こちらから話がある時は鏡を少し熱する。手鏡が熱くなったら時間を止め、手鏡の時間停止を解除するんだ」
「わかりました。そのように」
私は手鏡をポケットに仕舞うと、改めてヴォルデモートの時間停止を解除した。
「そういえば、スネイプには私のことは話してあるのですか?」
「明言はしていないが、時間の問題だろうな。奴には娘の血を用いて復活したということは伝えてある」
「つまり、私がスパイであるという情報がダンブルドアに伝わった時は──」
「そう。セブルス・スネイプが私を裏切ったということだ。貴様の存在は当初スパイとして活用するが、それと同時に警報機でもある。貴様が不死鳥の騎士団に潜入できている限り、こちらの一番重要な秘密は外部に漏れていないと考える。逆に、少しでも感づかれた気配があったら、すぐに私の元へと戻ってくるのだ。不死鳥の騎士団に潜入し、その情報をこちらに流すというのも大切な仕事ではあるが、貴様という存在は本来手元に置いていた方が輝くというもの」
ヴォルデモートは私との繋がりを絶対に秘匿したいとは考えていないのだろう。
確かに、ヴォルデモートの言う通りだ。
私をそばに置いておくだけで、殆ど全ての危機からその身を守ることができる。
「セブルス・スネイプ、奴の動向には注意しろ。奴の存在はこちらの強力な牙にもなりうるが、同時に猛毒にもなりうる。私からは以上だ。何か有益な情報を手に入れたら、すぐにでも私に知らせよ」
「かしこまりました」
私はヴォルデモートに頭を下げると、ヴォルデモートの時間を停止させる。
そしてそのまま自分の部屋へと瞬間移動した。
設定や用語解説
生きて帰るカナリアのサクヤ
サクヤはスネイプが裏切っていないかどうかを確かめる警報装置的な役割。ヴォルデモートは、サクヤなら何があってもここまで逃げて来られると確信している。
グリモールド・プレイスの謎
実はサクヤの家ってブラック家の屋敷だったんですよ。衝撃の事実。
両面鏡
簡単に言えばビデオ電話みたいなもの。鏡を覗き込むと、対になったもう一つの鏡の向こうにいる人物と会話ができるというもの。ヴォルデモートはその魔法的繋がりに目をつけ、遠く離れたところにいても時間操作の効果を受けない魔法具として運用。これにより、離れたところにいても時間を止めたまま会話ができる。
Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。