P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
「クリーチャー! いる?」
ヴォルデモートの屋敷から自分の家へと戻ってきてすぐ、私は大声でクリーチャーを呼ぶ。
ヴォルデモートとは時間を止めて話をしていたため、私が家を出てからそこまで時間は経っていない。
きっとクリーチャーはまだ買い出しに出かける前だろう。
「お呼びでしょうか。お嬢様」
私の予想通り、クリーチャーは十秒もしないうちに私の前に現れる。
私は自分の部屋の椅子に座ると、クリーチャーをまっすぐ見据えた。
「いくつか聞かないといけないことが出来たわ。でも、その前に」
私はクリーチャーの顔をじっと見る。
「貴方は私に忠誠を誓っている。それは確か?」
「何を今さら……そのような質問をお嬢様からされるとは……クリーチャーめは悲しゅうございます」
クリーチャーは礼儀正しく深々と頭を下げる。
「そう、そうよね。なら、貴方にいくつか質問をするわ。この屋敷は元々ブラック家が所有していた。間違いない?」
クリーチャーは私の口からブラック家という名前が出てくるとは思わなかったのか、少々目を丸くする。
「よくご存知でいらっしゃる。お嬢様の言う通り、ここはブラック家のお屋敷でございます」
「貴方は長いことブラック家に仕えていた。そうよね?」
「左様でございます」
クリーチャーは私の問いに肯定する。
どうやら、この家のことはヴォルデモートの記憶違いではないらしい。
「貴方の新しい主人になったパチュリー・ノーレッジは住むもののいなくなったこの屋敷を買い取り、私に屋敷ごと貴方の所有権を譲渡した。それは何故?」
「お嬢様、それにはお答えすることは出来ません。屋敷しもべ妖精は、たとえ今はお仕えしていないのだとしても、前の主人の秘密を漏らすことは出来ないのでございます」
「……そう、そうよね。でも、今貴方は私に仕えている。たとえ前の主人であるパチュリー・ノーレッジにも私の秘密を話すことは出来ない。そう考えていいのよね?」
私はダメ押しと言わんばかりにクリーチャーに聞く。
クリーチャーはその問いに対して深々としたお辞儀で答えた。
「左様でございますとも。私はどのようなことがあろうとも、お嬢様を裏切るような真似は致しません。第一、そのようなことをしてしまえば前のご主人から与えられた最後の命令にも背いてしまうのでございます」
「最後の命令?」
私の問いにクリーチャーが頷く。
「パチュリー様は私めに『サクヤ・ホワイトに仕えろ』と、そう命令なさいました。そしてそれはなによりも重く、大切な命令だと言うのです。故に、私めはお嬢様にお仕えするのです」
それに、とクリーチャーは言葉を付け足す。
「それにお嬢様は良きご主人様でございます。屋敷しもべ妖精を虐めず、かといって尊厳を傷つけることもない。こちらとしても仕え甲斐があるというもの。お嬢様、屋敷しもべ妖精は主人を裏切るような真似は致しません」
「……そう、わかった。急に呼んで悪かったわね。引き続き、買い出しをお願いするわ」
「かしこまりました。お嬢様」
クリーチャーはそう言うと、バチンと音を立ててその場からいなくなる。
私は先程までクリーチャーが立っていた場所を見つめながら考え込んだ。
パチュリーは何故この屋敷を手に入れ、それをそっくりそのまま私に譲渡するようなことをしたのだろう。
ダンブルドアから相談を受けたパチュリーが、シリウス・ブラックが死んだことによって空き家になったこの屋敷を私のために買い取り改装し、私に与えたと考えるのは流石に能天気が過ぎる。
いや、その考えは本当に能天気か?
あの時の私の立場は、家族同然の人たちを殺され、自分自身も殺されそうになったところを奇跡的に脱し、逆に凶悪犯を返り討ちにした悲劇のヒロインだ。
ペティグリューが生きており、今でこそシリウス・ブラックが無実であったということがわかったが、あの時は私自身ですらシリウス・ブラックの無実を疑っていた。
シリウス・ブラックは、殺人鬼として死んだのだ。
私の境遇を知ったパチュリーが、私を憐れみ、同情し、私に住む家を与えた。
その可能性は十分にあるだろう。
「パチュリー・ノーレッジ……彼女とはまだ敵対していない。いや、むしろ師弟の関係ですらある」
不死鳥の騎士団とパチュリー・ノーレッジ。
この二つはきっちりと分けて考えた方が良さそうだ。
だとすると、あの時医務室にいた者たちは四つに分けることができる。
まず一つ目が、ダンブルドアを中心とした勢力。
私は今表向きはここに所属していることになっている。
もう一つがファッジが大臣を務めている魔法省の勢力。
今のところファッジ自身がヴォルデモートの復活を信じておらず、あの様子ではダンブルドアの勢力とは協力関係を築かないだろう。
そして三つ目。
勢力と言っていいかわからないが、レミリア・スカーレットはダンブルドアの勢力とも魔法省とも別で動き出した。
レミリア・スカーレットは魔法界でも顔が利き、交友関係が広い。
彼女が独自で勢力を結成したらどのような面子が集まるか全く想像ができない。
ダンブルドア自身はレミリア・スカーレットを絶対にヴォルデモートの勢力に加入させたくない様子だ。
ダンブルドアの説得次第ではレミリア・スカーレットはダンブルドアの勢力に入るかもしれないが。
確かにレミリアを勢力に引き入れるメリットは大きい。
彼女は吸血鬼だ。
彼女が勢力にいるだけで、亜人や魔法生物などを説得しやすくなるだろう。
まあ、あのわがままお嬢様が素直にダンブルドアの言うことに従うとも思えないので、引き入れるにしてもリスクが伴うが。
最後に四つ目。
これも勢力とは言えないが、パチュリー・ノーレッジはどこにも所属していない。
医務室で言ったことが嘘ではなかったら、彼女はどこの勢力にも所属するつもりはないらしい。
彼女が今どこで、何をしているかはわからない。
だが、彼女を引き入れることができれば相当有利になるのは確かだ。
ダンブルドアもヴォルデモートも、彼女を仲間に引き入れようとするだろう。
「さて、私は私で部屋のレイアウトでも考えますか」
私は大きく伸びをし、椅子から立ち上がる。
このことについては考え続けて答えが出るようなことでもないだろう。
私は意識を切り替えると、ベッドの配置を考えるべく自分の部屋を後にした。
クリーチャーの精力的な働きにより、私の家は不死鳥の騎士団の拠点とするに十分な準備が整った。
私の部屋とクリーチャーの部屋、そして無限の空間が広がっている開けてはいけない部屋以外の全ての部屋に二段ベッドを入れ、人が寝れる環境を整える。
ダイニングには大きな机を入れ、詰めれば何人でも座れるよう長椅子を両側に配置した。
「二段ベッドが十二点、長机に長椅子が二つ、食器が沢山と煮炊き用の大鍋、その他消耗品があれこれ。全部合わせて二百八十ガリオンです」
私は移動キーで校長室に戻ってくると、椅子に座っているダンブルドアにそう報告する。
ダンブルドアは羊皮紙に書かれたリストに目を通すと、満足そうに頷いた。
「上々じゃ。ここまで準備が整えば、あとは必要に応じて調達するだけで良いじゃろう」
ダンブルドアは机の引き出しから革の袋を三つ取り出すと、私に手渡してくる。
きっと一つの袋に百ガリオンずつ入っているのだろう。
「明日にでも拠点の中に人が入る。人の受け入れに関してはモリーが担当してくださることになった」
「モリー……ロンのお母さんですか?」
「左様。アーサー・ウィーズリー、モリー・ウィーズリー共に騎士団のメンバーじゃ。ホグワーツが休暇中はウィーズリー家は全員拠点で生活することになるじゃろう」
「それはそれは、楽しい休暇になりそうです」
私は金貨の入った袋を鞄に詰めながらそんな返事を返す。
「何にしても、家のことはクリーチャーに任せてありますので、なんでも申し付けてください。クリーチャーにも説明はしてありますので」
私は住所と共に家の鍵をダンブルドアに渡す。
ダンブルドアはその鍵を机の上に置いた。
「ホグワーツが夏休み休暇に入ってすぐ、一度騎士団員全員を集め、現状の説明と共に今後の方針を話し合う予定じゃ。それまでは通常通りの学生生活を送ればよい」
「では、それまでは私に仕事はないと」
ダンブルドアは小さく首を横に振る。
「サクヤ、君にはハリーの護衛を頼みたい。ヴォルデモートが復活した今、ハリーの命がどのように狙われるかは分からん。アラスターの例もある。できる限りハリーに寄り添い、その身を守るのじゃ」
まあ、ダンブルドアが言う通り、確かにそれはいつも通りの学校生活をしていれば可能なことだ。
基本的に私たちは四人セットになって行動することが多い。
「わかりました。では、そのようにします」
私はダンブルドアに頭を下げると、校長室を後にした。
私が思っている以上に時間というものは早く過ぎ、あっという間に学期末がやってきた。
期末試験の結果はハーマイオニーが一位で私が二位。
やはり学科の点数はハーマイオニーがダントツによく、実技の点数は私の方が少し高い。
一昨年までの構図に戻ったというところだろうか。
私はベッドの周りのものを鞄に詰めると、その鞄を小さくしてポケットの中に入れる。
そして他の生徒と一緒に玄関ホールへと出ていった。
玄関ホールは既に多くの生徒で溢れており、皆ホグズミードに行くための馬車を待っているところだった。
遠くではハグリッドがマダム・マクシームと共にボーバトンの馬車馬に馬具をつけているのが見える。
どうやら一足先にボーバトンの生徒たちが帰るようだ。
「サクヤ!」
不意に声をかけられ、私はあたりを見回す。
するとボーバトンの代表選手であるフラーがこちらに向かって大きく手を振っているのが見えた。
「また会いまショウ! わたし、もっと英語うまくなれるよう、こっちで働けないかって思ってるの!」
私はそんなフラーに手を振り返しながら答える。
「もう十分上手だと思うわよ。でも、そうね。再会できることを楽しみにしているわ!」
フラーはそれを聞いてにっこり笑うと、馬車の中に姿を消す。
最後にマクシームが馬車に乗り込むと、御者を務める生徒が大きく手綱を靡かせた。
ボーバトンの巨大な馬が大きく嘶き、天高く馬車を牽いて飛んでいく。
「そういえばダームストラングはどうやって帰るんだろう? カルカロフは逃げちゃったんでしょ?」
ハリーはどんどん小さくなっていく馬車を見ながらそんなことを呟く。
「まあ、カルカロフ以外にもダームストラングの教員は来ているだろうし、何とでもなるわよ」
結局あの後カルカロフは帰ってこなかった。
カルカロフは自分の生徒をホグワーツに置き去りにして、一人でどこかに逃げてしまったのだ。
ハリーの心配を他所に、遠くの方で大きな水の音が響く。
きっとダームストラングの船が湖の中に沈んでいった音に違いない。
「ほらね」
「ああ、うん。そうみたいだ」
「それにほら、僕らの馬車も来たよ。まあ、馬無しだから馬車って呼べるかはわからないけど」
ロンが森の方からやってくるセストラルが牽いた馬車を指差して言う。
セストラルは一度死を見たことのある人間にしか見えない。
ハリーもロンもハーマイオニーも、セストラルは見えていないようだった。
私たちは四人で馬車に乗り込み、ホグズミードを目指す。
ハリーは外の景色を眺めながら、ぽつりと呟いた。
「これから、どうなるんだろう。ダンブルドアはダーズリーのところに帰れとしか言わなかった。でも、本当にそれでいいのかな?」
「……ダンブルドアには何か考えがあるのかもね。今ハリーをマグルの元に帰すことがどれほど危ないか、ダンブルドアが理解していないということはないはず」
「……そうだよね」
その後、特に会話もなく馬車はホグズミードに到着する。
私はみんなの荷物をコンパートメントに積むのを手伝うと、窓際の席に腰掛けた。
「何にしても、今年の夏こそ是非私の家に遊びに来て。最近人を呼べるようにベッドを増やしたの。あなたたちが寝泊まりする場所もしっかりあるわ」
私は鞄の中からお菓子の袋を取り出しながら三人に話しかける。
三人には私が不死鳥の騎士団に入ったことは話していないが、近いうちに知ることになるだろう。
「うん、行く。遊びに行くよ。連中は喜んで僕を追い出すさ」
「ああでも、それとは別に貴方の家にも遊びに行きたいわね」
私がそう言った瞬間、ハリーが椅子から滑り落ちそうになる。
「いや、僕としては大歓迎だけど……連中には間違いなく歓迎されないとは思う」
「冗談よ。遊ぶとしても家の外で、になるかしらね」
それもこれもダンブルドアの判断次第だ。
いや、私の場合、ヴォルデモートの考え次第なところもあるが。
「何にしても、長い夏休暇になりそう」
私は窓の外を見ながら、ふと考える。
ヴォルデモートからハリーを殺すように指示を受けた時、私は本当に実行できるだろうか。
確かに私はヴォルデモートの考えに賛同した。
私の目指す世界は、ヴォルデモートの理想の先にある。
それはわかっている。
わかってはいるが──。
私を乗せたホグワーツ特急はロンドンへ向けてまっすぐ野原を突き進んでいく。
私は、究極的には私が平穏に暮らせればそれでいい。
私が真に平穏を得た時、横に立っているのは果たして誰なのだろう。
設定や用語解説
優秀な屋敷しもべ妖精クリーチャー
相当な年寄りだが、まだまだ元気。
学年一位の成績はハーマイオニー
サクヤも学科の成績は満点に近いが、ハーマイオニーは満点以上の点数を取る。
Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。