P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

93 / 233
今回から不死鳥の騎士団編に入ります。


ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団と私
避難と非難と私


 

「あっつ……今日は特にヤバいわね」

 

 窓の外を見ると、折角綺麗に手入れした芝が軒並み干からび、黄色くなっているのが目に入る。

 あまりの日照りのせいで庭へ散水することが禁止されているのだ。

 

「何というか、冷蔵庫の中に部屋でも作ろうかしら」

 

 私はそんな冗談を言いながら、リビングの窓を大きく開けた。

 その時、隣に住んでいるダーズリー家のペチュニアもちょうど窓を開けたらしく、ふと目が合う。

 

「あら、ペチュニアさん。いやぁ、今日は一段と凄い日差しですね」

 

 私は窓から身を乗り出し、カンカンに照りつける太陽を見上げる。

 

「お陰でうちの庭がこんがり日焼けしてしまって。お宅のお庭は大丈夫ですか?」

 

 ペチュニアは憎らしそうに太陽を見つめると、苦笑いで答えた。

 

「うちの庭も真っ黄色になってるわ。枯れてしまわないと良いのだけれど……」

 

「芝の生命力に賭けるしか無さそうですね」

 

 私とペチュニアは同時にため息を吐く。

 

「そういえばお聞きしましたわ。ダドリー君、この前のボクシングの大会で優勝したそうで」

 

「そうなのよ。ボクシングを始めてから一年も経ってないのに、メキメキと上達して。本当に自慢の息子だわ」

 

「あら、そうなのですか? いい体格をしているのでてっきり小さい頃からボクシングをされているのだと思っていたのですが……」

 

 私は頬に手を当てて驚いたような表情を作る。

 ペチュニアは息子のダドリーを褒められ上機嫌だった。

 

「昔から何をさせてもすぐに出来てしまう子ではあったけど、ボクシングがあの子にあそこまで合っているとは思っても見なかったわ。でも、虫一匹すら殺せない優しい子なのよ」

 

「ええ、それはもう。彼の目を見ればわかりますわ。真っ直ぐで男らしい目をされてますもの。っと、あらら、もうこんな時間。そろそろお夕飯の準備をしないと……」

 

 私はポケットから懐中時計を取り出すと、時間を確認する。

 

「あ、でも卵を切らしてるから買いに行かないと。それに牛乳と……あら? 小麦粉もないわ!」

 

「……ブラウンさん。もしよろしければ今日の夜、うちで食べない? バーノンもいつか貴方を夕食の席にお呼びしたいとおっしゃってましたわ」

 

 ペチュニアは私の顔を伺うように遠慮がちに言う。

 

「え、そんな。私なんかがお邪魔したらご迷惑では?」

 

「いいのいいの。気にしないで。それにうちは男ばかりだから、貴方のようなレディは大歓迎だわ」

 

「それなら!」

 

 私は窓から身を乗り出す。

 

「前々から是非ペチュニアさんに料理を習いたいと思っていたんです! もしご迷惑でなければ今晩の夕食をご一緒に作れたらな……と」

 

 ペチュニアはそれを聞いて少し困った顔をしたが、部屋の中を一度見てすぐに返事を返してきた。

 

「それじゃあ、お手伝いを頼もうかしら」

 

「はい! 準備ができたらそちらに伺いますね」

 

 私は身体を引っ込めると窓を閉め鍵を掛ける。

 そのまま家の戸締りをして回ると、他所行きの服に着替え始めた。

 

「向こうも部屋の片付けとかがあるでしょうし、三十分は空けた方がいいわね」

 

 私は姿見の前で身だしなみを確認する。

 黒に近い茶色の髪に灰色の瞳。

 そしてそれを隠すかのようなフレームの大きいメガネ。

 

「何というか、少し見た目と声色を変えただけで、ここまで気がつかないものかねぇ、まったく」

 

 私は随分と印象の変わった自分の顔をまじまじと観察すると、悪戯っぽくニコリと笑った。

 何故私がこのような変装をしてダーズリー家の横で暮らしているのか。

 その理由は休暇初日にまで遡ることになる。

 

 

 

 

 

 

 夏休み初日、キングズ・クロス駅でハリーとハーマイオニーを見送った私は、そのままウィーズリー家御一行と行動を共にしていた。

 

「そういえばママ、今日はどうやって隠れ穴まで帰るの?」

 

 ジニーが先頭を歩くモリーに対して聞く。

 モリーは私の顔をチラリと見た後、ジニーに対して言った。

 

「今日は隠れ穴には帰らないわ」

 

「え? それじゃあどこに帰ろうってんだ? もしかして、今日はマグルのホテルに泊まってくとか?」

 

 フレッドが少しワクワクした様子で聞く。

 

「そいつはいいな。一回ルームサービスっていうのを頼んでみたかったんだ」

 

 ジョージも興奮気味に言った。

 

「違います! 着けばわかるわ。それにそんなに遠くないから歩いて行くわよ」

 

 モリーはそう言うと駅を出てロンドンの街を歩き出す。

 ウィーズリー家の子供たちはカートを押しながらその後に続いた。

 

「ママったら、どこに行くつもりなんだろう。そういえば、サクヤの家はこっちでいいの?」

 

 ロンの問いに、私は曖昧に答える。

 

「ええ、大体こっちの方向よ」

 

 まあ、大体ではなく、私たちの向かっている方向は全く同じなのだが。

 モリーが目指している場所、それは不死鳥の騎士団の拠点だ。

 そして、そこは私の家でもあるので必然的に私もそこへ帰ることになる。

 二十分ほどロンドンを歩き、私たちはグリモールド・プレイスに出る。

 モリーはそこで立ち止まると、ポケットから羊皮紙を取り出して子供たちに見せた。

 

「『不死鳥の騎士団本部はグリモールド・プレイス十二番地に存在する』……ママ、これって一体」

 

 ジョージが羊皮紙を見ながらモリーに聞く。

 どうやら私の自宅は魔法で隠されているらしい。

 ここが不死鳥の騎士団の拠点になっていると理解していないと、そもそも建物自体が見えないようになっているのだろう。

 モリーは全員に羊皮紙を回すと、ポケットの中に用心深くねじ込む。

 そして小さく息を吐き、私の家に入っていった。

 

「お帰りなさいませ、モリー様。それにお子様方も、お待ちしておりました。ああ、それに何ということでしょう。お嬢様もいらっしゃるではありませんか」

 

 玄関ホールに入った瞬間、屋敷しもべ妖精のクリーチャーが深々とお辞儀をして私たちを出迎える。

 

「あらクリーチャー、お部屋の準備は出来ているかしら? 息子たちの荷物を運ぶのを手伝ってあげて頂戴」

 

 モリーはそう言ってクリーチャーに微笑む。

 

「いえいえ、お荷物は玄関ホールにそのままにしていただければ私が全て部屋へと運び入れます。それよりお腹を空かせていることでしょう。ご夕食の準備が整っております。皆様、ダイニングへとお進みください」

 

 クリーチャーはそう言って深々とお辞儀する。

 ロンはその様子を見て目を丸くしていたが、モリーに背中を押されてダイニングへと入っていった。

 

「クリーチャー、お仕事ご苦労様。その様子じゃ、モリーさんとは上手くやっているようね」

 

 私が声を掛けると、クリーチャーはシワだらけの顔をさらにシワくちゃにしながら微笑む。

 

「勿論でございます。ささ、お嬢様も長旅でお疲れでしょう。本日の夕食はお嬢様の好物であるローストビーフをご用意しております」

 

「そう、ありがとう」

 

 私は軽くクリーチャーに手をふり、ダイニングへと入っていく。

 ダイニングには既に数々の料理が準備されており、そのどれもが美味しそうな匂いを放っていた。

 

「流石クリーチャー。仕事の出来る妖精ね」

 

 私は適当な位置に腰掛けると、他のみんなが椅子に座るのを待つ。

 ロンは状況が飲み込めないといった顔のまま、恐る恐る私の横に座った。

 

「ねえ、これどうなってるの? 何か知ってる?」

 

 ロンは目の前の料理を見ながら私に囁く。

 

「多分モリーさんが説明してくださると思うわよ」

 

 私はナイフとフォークを手に取りながら答えた。

 

 食事が始まると、モリーは順を追って子供たちに現在の状況を話し始める。

 ヴォルデモートが復活したという話から始まり、ダンブルドアが昔の仲間を集めていることや、不死鳥の騎士団の拠点として私の家を使うことになったことなど。

 

「なので明日の朝には一度隠れ穴に戻り、貴方たちの荷物を纏めます。この夏は、ここで生活することになりますからね」

 

 モリーはそう言って話を締めくくる。

 ロンは小さく口笛を吹くと、私を見ながら言った。

 

「そうならそうと早く言ってくれればいいのに!」

 

「何でもかんでも喋るわけにはいかないわ。貴方だって私の家に遊びにきているんじゃないんだから。どちらかと言うと、避難に近いのよ?」

 

 私はそう咎めるが、ロンは肩を竦めた。

 

「それはまあわかってるけどさ。近いうちにハリーとハーマイオニーも呼ぶんだろう?」

 

「ハリーはわからないけど、ハーマイオニーは近いうちに呼ぼうと思ってるわ」

 

 私はローストビーフの塊を大きく切ると、たっぷりソースをつけて口の中に放り込む。

 確か、今晩一度不死鳥の騎士団メンバーがここに集まる筈だ。

 そこで大体の今後の方針が決まるだろう。

 

 

 

 

 夏休み初日の夜。

 モリーが子供たちを連れて隠れ穴に出発したと同時に、ダイニングに人が集まり始める。

 その中には私がよく知る人物もいたが、半数は名前も聞いたことがない魔法使いだった。

 うちのダイニングは割と広いので、ある程度は中に人が入れる。

 だが、会議が始まる頃にはダイニングはすし詰め状態になっていた。

 後から来た魔法使いの半数以上が椅子に座ることも出来ず、机の周辺に群がるように立っている。

 長机の上座、全員が見渡せる位置に座っていたダンブルドアは、今日来るべき人が全員集まったことを確認すると、椅子から立ち上がり言った。

 

「皆のもの、よくぞ集まってくれた。大体の者が、どうしてここに集められたのか理解していることと思う」

 

 ダンブルドアは真剣な顔で皆の顔を見回す。

 

「今年の六月二十四日、今まで力を失っていたヴォルデモート卿が復活した。奴は死喰い人を呼び戻し、自らの目的のために動き出しておる」

 

 ヴォルデモートの名前を聞いて、半数以上の魔法使いが身を竦める。

 

「我々はまた、力を合わせ、立ち向かわねばならん。過去、わしと共に戦った諸君。よくぞまた集まってくれた。そして、新たに不死鳥の騎士団に加わる諸君。君たちの決意と、勇気をわしは高く評価する。今日のこの集まりは顔合わせも兼ねておる。順番に自己紹介の方を頼む」

 

 ダンブルドアがそう呼び掛けると、ダンブルドアの横に座っていた黒人の男性が立ち上がる。

 

「では、まず私から。キングズリー・シャックルボルトと申します。魔法省で闇祓いとして勤務しています。よろしく」

 

 シャックルボルトはにこやかに会釈すると椅子に座り直す。

 そして皆、シャックルボルトの自己紹介を参考に簡単に自己紹介をし始めた。

 

 十五分ほど経っただろうか。

 自己紹介の順番は部屋をぐるりと周り、私のもとまで回ってくる。

 私は隣の魔女が座ったのを確認すると、椅子から立ち上がり机の上に身を乗り出した。

 

「サクヤ・ホワイトです。ここの家主であり、ヴォルデモートの復活をこの目で目撃した一人でもあります。この屋敷で何か不自由を感じましたら、屋敷しもべ妖精のクリーチャーにお申し付けください」

 

 私はそう言って頭を下げる。

 私の容姿を見てか、自己紹介を聞いてかはわからないが、部屋の中がざわめいた。

 まあ、当然だろう。

 私は間違いなく当事者ではあるが、まだ成人すらしていない子供だ。

 このような場に相応しくないと考える魔法使いも出てくるだろう。

 私は頭を上げて、部屋にいる魔法使いたちを見回す。

 私を見る目の殆どが、私がここにいることを疑問視しているようだった。

 

「あんたのこと、新聞で読んだぜ。確か三大魔法学校対抗試合を最年少で優勝した魔女だ。ダンブルドア、何で子供がここにいるんだ?」

 

 ドージと名乗った魔法使いが怪訝な目を向けながらダンブルドアに聞く。

 それを聞き、漏れ鍋の常連である初老の魔法使いが私に話しかけた。

 

「いや、私は漏れ鍋のウエイトレスだと記憶していたが……」

 

「そうよダンブルドア。彼女は若すぎるわ」

 

「まだ未成年ではないか。ダンブルドア、彼女はホグワーツの外で魔法が使えない。あまりにも危なすぎるだろう」

 

 ど正論だ。

 確かに未成年である私はホグワーツの外で魔法を使うと魔法省に感知される。

 そのような意見が出るのは至極当然だろう。

 

「まあまあ皆さん。確かに私は魔法を使うと魔法省に検知されてしまいます。ですが、女で子供である私にしか出来ないことも、数多くあるのが事実でしょう? 私は魔法使いである以前に人間です。魔法が自由に使えないにしても、お役に立てることは多いと思いますよ?」

 

 私はダイニングに集まっている魔法使いたちの顔を見回す。

 そして、私のそんな説得に付け足すようにダンブルドアが口を開いた。

 

「サクヤにはハリーの側で、彼の護衛を行なって貰おうと思っておる。同じグリフィンドール生で、同じ学年である彼女だからこそ出来る仕事じゃ」

 

「護衛? 護衛だとダンブルドア。こんな小娘に護衛が務まると本当に思っておるのか?」

 

 ダンブルドアの言葉に、部屋の隅の方に立っていたムーディが食ってかかった。

 

「ムーディ先生……私の実力は貴方が一番よく理解しているはずでは?」

 

 私はムーディに対して肩を竦める。

 だが、そこまで口にしてそれが的外れな指摘であることを思い出した。

 そういえば、ここにいるムーディは私に闇の魔術を教えたムーディとは別人なのだ。

 

「ふん、お前とは初対面に近いのだがな」

 

「ああ、そう言えばそうでしたね」

 

 私は机の下でこっそり杖を抜くと、ダンブルドアに目配せする。

 ダンブルドアは私が何かしようとしているのを理解すると、小さく頷いた。

 

「そういえば、部屋が随分と狭いですね。ご不便をおかけしました」

 

 私は杖を持った左手をスッと持ち上げると、虚空に向かって軽く振る。

 その瞬間、部屋の壁が音もなく広がり、部屋の大きさが倍ほどの大きさになった。

 

「それに、椅子の数も足りません」

 

 私はもう一度杖を振り、自分が座っている椅子を双子の呪文で倍々に増やしていく。

 そしてそれらを同時に浮遊させると、椅子に座れていない魔法使いの足元へ飛ばした。

 

「あら、私ったらお客様にお茶もお出ししないで……気が利かず申し訳ありません」

 

 私は戸棚に向けて杖を振るう。

 すると茶器はひとりでに動き出し、全員分の紅茶を用意し始めた。

 

「む、無言呪文……それに、これほどの規模で魔法を扱えるとは。対抗試合の優勝者の名は伊達じゃないようだぞアラスター」

 

 老年の魔法使いが苦笑いでムーディのほうを見る。

 ムーディは足元に置かれた椅子にドカッと座ると、鼻を鳴らしながら言った。

 

「ふん、そこにいるじゃじゃ馬よりかは役に立ちそうだな」

 

「ちょっとマッドアイ! じゃじゃ馬って私のことじゃないわよね!?」

 

 ムーディの言葉に若い女性の闇祓いのトンクスが食って掛かる。

 ダンブルドアはその様子を見て大きく咳払いをした。

 

「さて、自己紹介はこの辺で良いじゃろう」

 

 ダンブルドアは倍ほどに広くなった部屋を見回す。

 

「まずは現在のヴォルデモート卿に関する情報をまとめねばならん。各人、自分が知り得た情報をここで共有してほしい。そうじゃのう……では、ことの発端になったサクヤ、君の話から聞こう」

 

 私はダンブルドアに声を掛けられ、椅子から立ち上がる。

 そして、医務室でダンブルドアに話した内容と全く同じ作り話をダイニングにいる魔法使いたちに聞かせ始めた。




設定や用語解説

ムーディとは初対面のサクヤ
 サクヤにとってはムーディは魔法の先生だが、ムーディにとってサクヤは生意気なガキでしかない。

無言呪文
 ロックハートに習ったので、実は二年生の時から使える。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。