P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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仮面とガマガエルと私

 私たちを乗せたホグワーツ特急は、ロンドンの街中を抜け、今は広々とした野原を走っている。

 私は晴れとも曇りとも言えない微妙な空模様を見ながら、ネビルとハリーの話に耳を傾けていた。

 

「誕生日に何を貰ったと思う?」

 

 ネビルはいつになく嬉しそうにハリーに聞く。

 そう言えば、ネビルの誕生日はハリーの一日前の七月三十日だ。

 その話を聞いて、私はネビルがもう一人の予言の子供だったということを思い出した。

 

「また思い出し玉とか?」

 

「うーん、前のは失くしちゃったからそれも必要かもだけど、違うよ。ほら、これ見て」

 

 ネビルは鞄に手を突っ込み、小さな灰色のサボテンのようなものの鉢植えを取り出す。

 

「あら、ミンビュラス・ミンブルトニアじゃない」

 

「み、びゅ? なにそれ?」

 

 ネビルは私の言葉に得意げに頷く。

 ハリーはその鉢植えを奇妙なものを見る目で見ていた。

 

「でもこれ、とっても貴重なものでしょ? よく手に入ったわね」

 

「うん。アルジー大おじさんが僕のためにアッシリアから持ってきてくれたんだ。多分ホグワーツの温室にもないと思う。僕、早くこれをスプラウト先生に見せたくて」

 

 ネビルは全体的に授業の成績が良くないが、薬草学だけは人並み以上の成績を取っている。

 流石に私やハーマイオニーには点数では敵わないが、趣味的な知識を合わせたらハーマイオニー以上かもしれない。

 

「えっと、これ、役に立つの?」

 

 ハリーは恐る恐るネビルに聞く。

 ネビルはとんでもないと言わんばかりに興奮して言った。

 

「勿論! 色んな魔法薬の材料になるんだ。それに、びっくりするような防衛機能も持ってる」

 

 ネビルはそう言うと鞄から羽ペンを取り出す。

 私はそれを見て慌てて羽ペンを取り上げた。

 

「それ突いたら臭液がそこら中に飛び散るわよ。私は新学期早々ドロドロになるのは嫌だからね」

 

「あ、ああごめん。そうだね。うっかりしてたよ」

 

 私は羽ペンをネビルの鞄へと戻す。

 ネビルは軽く後頭部を掻きながら鉢植えを鞄の中に戻した。

 

 

 

 

 結局ロンとハーマイオニーが私たちのコンパートメントにやってきたのはそれから一時間ほど経った頃だった。

 ロンは精魂尽き果てたといった様子でどっかりと椅子の背にもたれ掛かる。

 ハーマイオニーもこれ以上ないほどに不機嫌そうな表情だ。

 

「もう腹ペコだよ。ハリー、それ一つ貰っていい?」

 

「うん」

 

 ハリーが返事をすると、ロンは先程車内販売で買った蛙チョコの箱を開け始める。

 だが、箱を開けた途端蛙は大きくジャンプし、窓の外に消えていった。

 普段のロンならたとえ飛び出したとしても器用にキャッチしている。

 どうやら随分とお疲れのようだった。

 

「……はぁ。飛び出すなら僕の口の中に飛び込んでくれればいいのに」

 

「お腹が空いてるならサンドイッチならあるわよ。クリーチャーの力作」

 

 私は鞄の中から今朝クリーチャーから渡されたサンドイッチを取り出す。

 ロンは一言お礼を言うと大きな口で齧り付いた。

 

「スリザリンの監督生、誰だったと思う?」

 

 ロンはサンドイッチを飲み込むと、小さくため息を吐く。

 

「マルフォイ」

 

 ハリーがそれ以外考えられないといった表情で言った。

 

「うん、そう。あとパンジー・パーキンソン」

 

「ふーん。やっぱりスリザリンじゃ家柄で監督生を決めるのかしらね。その方が発言力ありそうだし」

 

 マルフォイ家もパーキンソン家も代々純血の家系だ。

 スリザリンの寮内では優秀さ以上に家柄が評価の対象となるのだろう。

 

「だとしたら、いつも以上にマルフォイの前では気を付けないとね。貴方たちあんまりマルフォイと仲良くないんだから特に理由もなく罰則とか貰いそうだし」

 

「そうなったらやり返すだけだ。クラッブとゴイルに難癖付けてやる。そうだな、ゴイルには書き取りをやらせよう。あいつは書くのが苦手だから……」

 

 ロンは顔を顰めて一生懸命何かを書いているような真似をする。

 

「僕が……罰則を……受けたのは……顔が……ヒヒの……尻に……似ているから」

 

 私を含めコンパートメントの中にいる全員が大笑いする。

 特にルーナはこちらがびっくりするほどツボに入ったらしく、悲鳴にも近い笑い声をあげて椅子の上でのた打ち回った。

 

「ヒヒの……尻!」

 

 ロンはルーナのあまりの大爆笑に途方に暮れたような表情をする。

 私はルーナの足元に落ちた雑誌を拾い上げた。

 雑誌の表紙には掲載記事の一覧が小さく載っている。

 

『ファッジのグリンゴッツ乗っ取り計画はどれぐらい乗っているのか』

 

『腐ったクィディッチ選手権』

 

『古代ルーン文字の秘密解明』

 

『例のあの人、復活の兆し』

 

「例のあの人、復活の兆し……ねぇ。ルーナ、これ読んでいい?」

 

 私は涙目のルーナに問いかける。

 ルーナはヒイヒイ言いながら頷いた。

 私はそれを見て雑誌の該当ページを開く。

 そこには例のあの人が死の秘宝の一つである蘇りの石で人知れず復活し、スコットランドでパン屋を営んでいるかもしれないという記事が載っていた。

 

「死の秘宝……蘇りの石……死の秘宝って、確かおとぎ話に出てくるやつよね?」

 

 私が誰に言うでもなく呟くと、ロンとネビルが頷く。

 

「うん、『三人兄弟の物語』に出てくる伝説の石だよ。死んだ人を生き返らせる効果があるっていう」

 

「でも蘇った人は結局この世に馴染むことができなかったんだよね」

 

 ネビルが懐かしむように呟く。

 やはり魔法界では有名なおとぎ話らしい。

 

「まあ、例のあの人がスコットランドでパン屋を営んでいたら、それはそれで愉快でいいかもね。あの人がパンを焼いて、私がそれをお客さんに売るの」

 

「なんで一緒に働くこと前提なのよ」

 

 ハーマイオニーは私の冗談に肩を震わせる。

 私はザ・クィブラーを閉じるとルーナに返した。

 その時、私は視線を感じコンパートメントの扉に付けられた小さい窓を見る。

 窓には見慣れた金髪の少年、ドラコ・マルフォイが顔を覗かせていた。

 マルフォイは私と目が合うと逃げるように廊下を去っていく。

 私は小さくコンパートメントの扉を開け、コンパートメントから首だけ出してマルフォイに声を掛けた。

 

「久しぶりドラコ。監督生になったんですって?」

 

 マルフォイはまさか声を掛けられるとは思っていなかったのか、ビクンと肩を震わせる。

 そして恐る恐るこちらに振り返ると、ぎこちない笑みを浮かべた。

 

「や、やあサクヤ。いい天気だね」

 

「そうかしら。まあ涼しそうな天気ではあるけど」

 

 私は通路の窓の外を見る。

 空模倣は先程と同じように、空の半分を厚い雲が覆っていた。

 

「えっと、それで……なんだっけ?」

 

「いや、特に用事があるわけじゃないんだけど……監督生、なったんでしょ?」

 

 私はマルフォイの胸に輝くバッジを指さす。

 マルフォイは自分の胸にあるバッジを一瞬見ると、自分が監督生であるということを今思い出したかのような顔をした。

 

「あ、うん。実はそうなんだ」

 

「そう。いいじゃない。監督生」

 

 私とマルフォイの間に沈黙が流れる。

 マルフォイはどうしていいかわからないといった顔をすると、思い出したかのように言った。

 

「あ、ああそうだ。見回りをしなくちゃ。それじゃあ、僕はこれで」

 

 マルフォイは私から逃げるように踵を返して列車の前方に向かって歩き出す。

 私は少し目を細めると、その背中に向かって言った。

 

「もしかして、父親から聞いた?」

 

 ビクンとマルフォイの背中が撥ねる。

 この反応を見るに、多分マルフォイは父親から私がヴォルデモートの娘であるということを聞いたのだろう。

 だとしたら、先程の態度にも納得がいくというものだ。

 

「内緒だからね」

 

 私はマルフォイの背中にそう告げるとコンパートメントの中に引っ込む。

 コンパートメントの中ではロンとネビル、ハリーが蛙チョコのおまけカードの交換会をしているところだった。

 

「マルフォイのやつ、なんて?」

 

 ロンがカードとにらめっこしながら私に聞いてくる。

 

「ハリー、貴方顔がメガネザルに似てるから書き取りの罰則ですって」

 

「そりゃいいや。多分世界で一番贅沢な羊皮紙とインクの使い方だろうね」

 

 私の冗談にハリーは肩を竦める。

 そして新しい蛙チョコの箱からカードを取り出した。

 

「あ、レミリア・スカーレット」

 

 カードの中のレミリアは水晶玉を片手に持ち不敵に微笑んでいる。

 

「へえ。彼女のカードなんてあるんだ」

 

「まあ、占いの分野では相当な有名人らしいからカードになってても不思議じゃないよ」

 

 私はハリーからレミリアのカードを借りると、彼女の顔を見つめる。

 カードの中のレミリアは私の顔を見て舌を出し、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 日が沈み辺りがすっかり暗くなった頃、ホグワーツ特急はホグズミードへと到着した。

 私たちは人の流れに乗って駅から馬車へと移動し、ホグワーツ城を目指す。

 そしてそのまま大広間へと入り、グリフィンドールのテーブルへと腰かけた。

 

「そう言えば、いつも新入生の案内をしているハグリッドがいなかったよね」

 

 ハリーが職員用のテーブルを見回しながら言う。

 私も職員用のテーブルを見るが、ハグリッドがいつも座っている席は空席になっていた。

 

「ああ、彼は不死鳥の騎士団の任務で出払ってるから。戻るのはもう少し先になると思うわよ」

 

「騎士団の任務? 何をしているの?」

 

 ハリーが興味深げに私に聞く。

 

「巨人の説得にね。ボーバトンのマクシーム校長と一緒に」

 

「ああ、なるほどね」

 

 ハリーは納得したように頷く。

 ハーマイオニーもハリーに釣られて職員用のテーブルを見ていたが、何かに気が付いたのか眉を顰めて呟いた。

 

「あの人誰?」

 

 ハーマイオニーの言葉に私たちは改めて職員用のテーブルを見る。

 そこには見たことのある人物が一人と、全く見たことのない魔女が一人座っていた。

 魔女の方はダンブルドアの横に腰かけており、銀色の星を散らした紫色のローブにピンクのカーディガンを羽織っている。

 歳はロンの母親のモリーと同じぐらいだろうか。

 どこにでもいそうなおばさんという印象が強い。

 まあ、このおばさんはどうでもいい。

 問題は見覚えのあるもう一人の人物だ。

 真っ黒のローブにフードを深くかぶり、顔全面を覆い隠す仮面をつけている。

 机の上に置いている手にも手袋を嵌め、まったく素肌が露出していなかった。

 

「あれって……確かノーレッジ先生の……」

 

 そう、そこに座っていたのは審査員としてパチュリーがホグワーツに来ていた際、常にそばに待機させていた仮面の男だった。

 

「従者……いや、弟子だったかしら」

 

「やっぱり。あれノーレッジ先生と一緒にいた人よね? サクヤは何か知ってる?」

 

 ハーマイオニーはパチュリーの関係者が職員用のテーブルに座っているとあって目を輝かせている。

 私は小さく肩を竦めるとハーマイオニーに対して言った。

 

「いや、話をしたこともないわ。でも、今年の闇の魔術に対する防衛術の先生が誰かはこれでわかったわね。あのパチュリー・ノーレッジの弟子なら、先生の新作を教科書に指定しても不思議じゃない」

 

「いや、違うわ。サクヤ、貴方まだ新しい教科書に目を通してないの?」

 

 ハーマイオニーが興奮交じりに言う。

 

「『明日への一歩を踏み出すための防衛術』、あれはホグワーツの教科書として執筆されたものよ。今までの小難しい学術書じゃない。内容も分かりやすくて、各学年ごとに項目が分けてある。だから私はてっきりノーレッジ先生が闇の魔術に対する防衛術を担当するものだと思ったんだけど……」

 

「でも、それに限りなく近い結果になったわね。彼は明らかにノーレッジ先生の関係者。きっと魔法界で誰よりもノーレッジ先生に近い位置にいるはずよ」

 

 私はもう一度職員用のテーブルを見る。

 仮面で顔を隠しているため何を考えているかわからないが、あのパチュリー・ノーレッジの関係者だ。

 ただ者ではないことは確かだろう。

 

「でも、だとしたらあのおばさんは何なんだろう?」

 

 ロンは私たちの話を聞いて首を傾げる。

 確かに闇の魔術に関する防衛術以外に空席の課目はないはずだ。

 ハグリッドの代理かとも思ったが、魔法生物飼育学の代理はプランク先生が務めるとダンブルドアが不死鳥の騎士団の会議で言っていたのを思い出した。

 

「さあ、それに関してはダンブルドアからの紹介を待つしかないわね」

 

 私はダンブルドアの横に座るおばさん魔女を見る。

 ずんぐりした体にくりくりの髪。

 なんというか、ダイアゴン横丁かホグズミードでお菓子の出店でも開いてそうな雰囲気だ。

 

「っと、新入生が入ってきたぜ」

 

 私が職員用のテーブルに気を取られていると、大広間の入り口が開きマクゴナガルが入ってくる。

 マクゴナガルの手にはいつものように組み分け帽子が抱えられており、その後ろには新入生を引き連れていた。




設定や用語解説

スコットランドでパン屋を営むヴォルデモート
 それはそれで見てみたい。

レミリア・スカーレットのカード
 占い師としての功績がいくつか書かれている。

騎士団のことをペラペラ喋るサクヤ
 割と不真面目。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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