その日は雪が積もっていた。
俺は中庭で膝をつき、こうべを垂れている。
「ネズミよ、なぜ貴様は何もできん!」
刀を首元に突きつけられてそんなことを聞かれても、分かるわけがない。
ってか寒い。膝と爪先が霜焼けになりそうだ。
「前当主が連れてきたから何かあると思って育てたが、貴様には何もないようだ。もう我慢ならん! ここで叩き切ってやる!」
あ、霜焼けとか言ってる場合じゃなかったわ。死ぬわ俺。
ちなみに今俺を殺そうとしているのは、一応父親ということになっている。
俺の口ぶりから想像がついているかもしれないが、この男は本当の父親ではない。詳しい事情は俺が2歳の時に遡る。
とある山奥に蛇嶋(へびしま)家という代々殺し屋を営んでいる一族がいた。
ある日、当時蛇嶋家の当主だった男が深手を負い、蛇嶋の屋敷の前で息絶えていた。
その男の側で布にくるまって転がっていたのが、当時2歳の俺だった。
そして当主が死んだことで、当主の息子であった蛇嶋 剛造(へびしまごうぞう)が後を継いだ。
ここは暗殺一家だが、時代に合わせいろいろな血を取り入れてきた。
例えば俺より3つ年上の深夜子(みやこ)姉さんは陰陽師の血を引いていて、結界術というよく分からない技を使う。
刀吾(とうご)兄さんは蛇嶋本来の強さを持ちながら、詐欺師のごとく弁が立つ。それでいて正義感が強い。いろいろな血が混ざりすぎてよく分からないことになっている。
どうやって蛇嶋が優秀な血を一族にもたらしているかと言うと、優秀な子供を拐っているからだ。
だから蛇嶋の者が連れて来た子供は、何かの能力を持っている家系の末裔である。
だが俺は、いつまでたっても何の才能も発揮せず、俺を連れてきた元当主は息絶えているため素性も分からない。
そしてなにより弱い。妹の亜叶(あかね)にすら力負けするひ弱さのせいで、守られる存在として兄弟達から溺愛されてしまうレベルだった。
そんな訳で、俺の弱さに痺れを切らした蛇嶋のご当主様に殺されそうになっている。
いつかこんなことになるんじゃないかと思っていた。
俺はこの蛇嶋家が元々怖かった。ここにいる連中は皆小指一本で俺を殺せるだろう。だから目立たないように過ごしていた。
関わりを持ちたくなくなるように、いつも煤をかぶって薄汚れた格好をしていた。
そのせいで皆からはネズミと呼ばれ、それが定着したせいで名前は付けられなかった。
そうやってなんとかやり過ごしてきたが、流石に難しくなってきた。
そうだ、もう脱走しよう。蛇嶋家から逃げ出して、知らない場所へ行こう。
前に1度だけ山を降りて町に行ったことがある。そこでは強くない人達が、力を合わせて暮らしていたんだ。俺もそこで暮らそう。