はりねずみっ!   作:ヤンデレ大好き星人

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脱走中です

 蛇嶋(へびしま)の屋敷は山奥にあり、外は鬱蒼とした木で覆われていた。

 俺と亜叶(あかね)は暗い山道をただただ進む。この先に町があるのかすら分からない。この脱走には計画もなにもないからだ。

 

 そもそも夜中だから、暗くてどこを歩いてるかすら分からない。何か目印はないかと目をこらすと、2つの光が見えた。

 

 あれ目だわ。

 なんかでかい狼みたいなやつが見てるわ。

 2つの目がギラギラとこっち見てるし、なんかすごく涎たらしてるし。

 完全に目がイッちゃってるやつだ。あのー、狂犬病ですか?

 

「見て兄さん。ワンちゃんだわ。きっと私達に甘えたいのよ」

 

「違うよ。あれは俺達を殺せるか殺せないかを考えてるんだよ。そして殺せるって判断したんだよ」

 

「すごいわ兄さん。動物の心が分かるのね」

 

「違うよ。状況証拠だよ。人骨っぽいのが落ちてるし。なにより普通に敵意と牙むき出しだよ」

 

 そして何の溜めもなしに、黒い狼が襲いかかって来た。

 

 こちらに飛びかかった刹那、狼は縦にすっぱりと切断された。

 

 知ってた。

 

 この暗闇では全く見えないけど、亜叶の武器である糸で切断したのだろう。

 亜叶の武器は切れ味抜群で基本見えないから、今襲って来た狼より怖いんだよ。

 

 他にも狼の声らしき足音が聞こえる。どうやら囲まれているらしい。夜中に飛び出したせいで眠いけど、ここは早く下山した方がいい。

 亜叶の手を掴んで早足で山を降りようとする。しかし亜叶はそこを動こうとしなかった。

 

「兄さん眠そう。今日は休もう? そこの木陰なんていいんじゃないかな」

 

「うん。いいね。落ち葉とかあって寝やすそうだ。でも、狼さんいっぱい居るよね」

 

「兄さん心配しすぎ。私達に近づいたらみじん切りになっちゃうから」

 

「なら安心だね。ところで俺がその包囲網を突破しようとしたらどうなるの?」

 

「兄さん面白い。みじん切りになるに決まってるじゃない」

 

 亜叶からこっそり逃げ出そうという淡い考えは、みじんもなくなった。

 

 

ーーーーーー

 

 

 狼達も無事みじん切りになり、亜叶の近くに居れば安全だということが分かったから、ここで一夜を過ごすことにした。

 

 落ち葉の上は寝苦しいけど、蛇嶋家で寝るよりは安心できる気がした。

 

「兄さんと一緒に寝るの久しぶり……」

 

 隣で寝転がる亜叶の言葉で思い出す。

 そういえば前はいつも一緒に寝ていたっけ。

 俺達が大きくなると『子供ができてしまう』と言われて大人達から引き剥がされた。

 

「兄さん。兄さぁん」

 

 後ろからちょっかいをかけてくる亜叶に、俺は背を向けて寝たフリをする。

 

 脇腹をつついたり。首筋を舐めて来たり、とにかくいろいろちょっかいをかけて来るんだ。

 

 でも絶対に反応してはいけない。俺が反応するたびに、亜叶は盛り上がる。それを続けていると、多分赤ちゃんが出来ちゃう。

 つまりこの状況、超やばいってこと。

 

「兄さん。……んん。寝ちゃったぁ?」

 

 ああ、そこは駄目だよっ……!

 

 ちなみに、これ一晩中続くからね。蛇嶋の人達あんまり寝ないんだ。すごいよね。

 

 

ーーーーーー

 

 

 朝起きると凄まじい死体の山が出来上がっていた。

 

「んー……いい朝だね兄さん」

 

「う、うん」

 

 周り地獄絵図だよ。感性が違いすぎるせいで返答に困るけど、怖いから肯定だけしておこう。

 

 それよりもとっても気になることがあるんだ。

 

「亜叶、死体の中に人っぽいのが混ざってるんだけど……」

 

「ほら兄さん早く行こう。明日も野宿になっちゃうよ」

 

「いやでも人間の死体が……」

 

「もう、兄さん気にしすぎ。そんなのよくあることでしょ」

 

 そっかぁ……。

 人の命って軽いんだね。またひとつ勉強になったよ。

 狼の死体の山を見て、町に災をもたらす何かがあるのかと偵察にきた善良な市民じゃなければいな。

 

 

ーーーーーー

 

 

 俺と亜叶は山を降りた、降りたところにはちょうど町があった。

 どうやら亜叶が町までの道を知っていて、誘導してくれていたらしい。

 

「ところで兄さん。町にはどんな用事で来たの?」

 

「……」

 

 ここは正直に答えるべきだろうか。

 いや、亜叶に嘘を言ってもいつかバレてしまう。

 

「俺はここで暮らそうと思う。蛇嶋では弱すぎる俺でも、俺と同じくらい弱い人達と一緒に力を合わせれば、なんとかやっていける気がするんだ」

 

「へー、面白そう。私もちょっと見てみたいかも。兄さんが頑張るところ」

 

「いいよ。じゃあ一緒に行こうか」

 

 俺は妹の手を握った。

 

 いつか俺達は違う世界の人間なんだって、分かる日がくることを信じて。

 

 それを知った時に、亜叶自ら俺の元を離れて行くんだって、そう思うんだ。

 

 そう思うことにしたんだ。

 そうであって欲しいんだ……。

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