【疾走詩人】ゴブリンスレイヤーRTA 精霊使いチャート   作:神楽風月

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2021/01/24 誤字報告より誤字修正を行いました。ありがとうございます。


ある冒険者たちの結末(ザ・エピローグ)【裏】

「せっかく来てやったのに、全部終わってるとかどういうことだよゴブリンスレイヤー!」

「すまん」

 ゴブリンスレイヤーの、短い謝罪。

 帰りの馬車に漂う、気まずい雰囲気。

「……何とかしなさいよ、白粉森人」

「君、そろそろ温厚な僕も訴えるよ?」

「どこによ?」

「君の姉上」

「ちょ、ねぇ様は関係ないでしょ、ねぇ様は……!」

 見るからに動揺する妖精弓手に、詩人ははぁ、とため息を一つ。

「……そういえばさ。昨日の広場で、面白いお菓子を見つけたんだ」

「話題変えるの下手か!」

「僕にだってできることとできないことがあるよ!」

「面白い菓子とはなんだ?」

「あんたも普通ここで喰いつく?」

「いやもう少し空気読もうよゴブスレ君?」

「む……」

 ぐだぐだではないか、とばかりに鉱人道士が酒瓶の栓を抜いた。

 

 

「――……って、わけでさ? ほんと、あのときは疲れちゃったぜ」

「それを俺たちに言われてもなぁ……」

 青年剣士が苦笑いを浮かべる。

「というか、詩人さん? 依頼(クエスト)を放り投げてでも戻らなきゃならない、って何があったんですか?」

 剣士の隣に座る女武闘家が、疑問を投げかけた。

「そうよね。あなた大概突拍子もないことやるけど、これまで依頼を放り投げたことなんてなかったし……」

 女魔法使いもそれに続いた。

「まぁ、最低限のことはやってあるから、そんなにギルドの印象が悪くなることはないと思うけど」

「まぁ、ゴブリンは全部倒したからね。あとは荷物を運ぶだけだったし」

「年寄りの多い村で、あの重い荷物の量は、けっこう厳しいんじゃないかしら……」

「まぁ、ちょっと時間がね、ぎりぎりだったんだ」

「ぎりぎり?」

「うん」

「なんだ、なにか約束とかしてたの? それなら言ってくれればよかったのに」

 青年剣士は人柄よく笑う。

「ごめん、約束じゃなくて。僕の勘」

「勘かよっ!」

「明日、何か大きなことが起こる……ような気がする」

「ような気がするって……」

 呆れたように女武闘家がため息をつく。

「……ま、でも。精霊使いの勘なら信じてもいいんじゃない? 精霊使いは、第六感が鋭くなる、って言われているし」

「だよなぁ。詩人さんの勘で、何回か俺たちも助かったし」

「何かある、って言うなら。何かあるんでしょうね」

 しかし青年剣士たちは、呆れながらも、詩人を心から信じていた。

 

 

「すまん、聞いてくれ。頼みがある」

 いつもと違う雰囲気をまとって、ゴブリンスレイヤーが口にする。

 いつもならずかずかと無遠慮に受付へと行くやつが、しかし今回は、待合スペースの中心に無造作に踏み入ったのだ。

 低く静かな声で発した言葉は、そこにいた冒険者たちをざわめかせるのに十分だった。

「本当に何かあったよ……」

 青年剣士が思わずつぶやいた。

「嫌な予感はあったけど」

 なにをやってるんだよ、ゴブスレ君……と。彼の奇行には慣れてきたはずだったが、今回ばかりは理解ができないでいる。しかしその言葉は、他の冒険者のざわめきにかき消えてしまった。

「ゴブリンの群れが来る。村はずれの牧場にだ。時間はおそらく今夜。数は分からん……だが斥候の足跡の多さから見てロードがいるはずだ。……つまり百は下らんだろう」

 冗談ではない! 彼らのざわめきはより一層大きくなる。

 彼らのほとんどは、最初の冒険でゴブリン退治を引き受ける。だからこそ、誰も彼もがゴブリンの恐ろしさ――否、面倒くささを知っている。ましてや百匹。それも、魔力でも膂力でもなく、統率力に優れた変異種であるロードに率いられた怪物ども……それはもはや、ゴブリンの軍と呼んで差し支えないだろう。

「時間がない。洞窟ならともかく、野戦では手が足りん。手伝ってほしい、頼む」

 彼は、頭を下げた。しかし誰も、彼に言葉を返そうとはしない。

 

 

「なぁ……っ!」

「やめておけよ」

「でも……!!」

「そうよ、やめなさい」

 青年剣士が声を上げようとした。だが、それは詩人と、女魔法使いによって止められる。

「私らじゃあ、ここで手を上げたところで流れが変わるわけじゃないわ」

「だけど……!」

「私らこないだようやく鋼鉄級になったのよ? まぁ詩人はいつのまにか青玉になってるけども……それでも、私らが口を出しても」

「あー……馬鹿にされるだけで続く人がいない、わよねぇ……」

 女武闘家も、ようやく得心がいったとばかりにため息をつく。

 そうだ、頭を下げたゴブリンスレイヤーに今向けられているのは、馬鹿にするような嘲笑でしかない。強くはない、ただ面倒くさいだけのゴブリンを相手に「手伝ってくれ」などと……いったい誰が引き受けよう?

「ゴブスレくんはなぁー、不器用だから……いや、でもまぁ……」

 彼なら何とかしてくれるだろう。と。

 予想通り立ちあがった男を見て、詩人はにんまりと笑った。

 

 

「おい……お前なんか、勘違いしてないか?」

 槍使いの冒険者が、ゴブリンスレイヤーに言葉を返す。

「お願いなんざ聞く義理はねぇ」

 鋭い目でゴブリンスレイヤーを睨み、続ける。

「依頼を出せよ、つまり報酬だ。ここは冒険者ギルドで、俺たちは冒険者だぜ?」

 そうだ、そうだと野次が飛ぶ。

 彼は立ち尽くしたまま周囲を見回した。別に助けを求めたわけではない。

 二階のほうで妖精弓手が顔を真っ赤にして飛び降りようとして、鉱人道士らに止められていた。目の前の男と一党を組んでいる魔女は、つかみどころのない笑みを浮かべている。馴染みの受付嬢は慌てて奥へと姿を消し、疾走詩人は肩をすくめて立ちあがった。

 そして彼は、自分が女神官を探そうとしていることに気付き――鉄兜の奥で目を閉じる。

「ああ、最もな意見だ」

「おう、じゃあ言ってみな。俺らにゴブリン百匹に相手をさせる、報酬をよ」

「すべてだ」

 そいつは迷うことなく、そうはっきりと言った。

 

 

「君はじつに馬鹿だな」

 こつん、と。

 いつのまにか後ろに立っていた疾走詩人の投石杖(スタッフスリング)に、ゴブリンスレイヤーは頭を小突かれていた。

「目の前の男は銀等級、それも辺境最強だぜ? 相場が違うだろうよ」

 だよなぁ? とばかりに槍使いを見れば、

「ど畜生め」

 このタイミングで口をはさむかこの白粉が、と。槍使いは詩人を睨み返した。

「お前の命なんぞいるか! ……後で一杯奢れ」

 相場だろうが、と。

「すまん。ありがとう」

「よせよせ! 退治してから言ってくれよそんな台詞は……!」

 槍使いが目を剥いて、ばつが悪そうに頬をかいた。

「……まったく、僕がいなけりゃどうなってたことか」

「どうにでもなってたんじゃない?」

「知ってるさ。ま、銀等級だしね」

 人がいいのは知っている。そうでなければ銀等級になれるわけがない。

 だから、あとはタイミングの問題だった。

 だからこそ、あなた(・・・)が押した彼女の背中は、もっとも最高のタイミングだっただろう。

「惚れ直すよ、愛しい人」

「まーた脳内彼氏の設定なんか出しちゃって」

「聞き捨てならないね?」

「はいはい、喧嘩しないの」

 女魔法使いが呆れかえって立ちあがる。

「ほら、どんどん名乗りを上げていくわよ?」

 早くしないと報酬、取りっぱぐれるわよ? と。

「おっと、危ないところだ」

 妖精弓手が冒険の約束を取り付け、鉱人道士が酒樽でよこせと言い、蜥蜴僧侶がチーズとアイスクリンのためにと立ちあがる。

「それじゃあ僕は、一緒に探してもらうからね。僕の“運命の人”をさ」

「わかった」

「とはいえ、目星はついているけどもね。あとは最後のピースが必要なだけで」

「なら、それを用意しよう。何が必要だ?」

「君が聞いたことがあるかどうか、わからないけれども……そいつは久遠の闇を駆け抜ける唯一の光、あるいは火花。そう、≪(スパーク)≫と呼ばれていて――」

「心当たりはある」

「――本当かい!?」

「だが、手に入るかは分からん」

「いや、情報だけでも十分さ! これで一歩前進できるからね」

 求めるものが、ようやく近づいてきたと。詩人はいままでにないくらい顔をにやけさせる。

「そうと決まれば、この綺麗なお姉さんにお任せだ」

「……助かる」

「助かる? そんなこと言うなよゴブスレ君。君が依頼を出した。それを僕らが引き受けた。これはそれ以上でもそれ以下でもない話だぜ?」

「そうとも、俺たちゃ仲間でも友達でもないけれど、冒険者だからな」

 そうだ、彼らは、冒険者だ。

 胸には夢があり、志があり、野心があり――人のために戦いたかった。

 踏み出す勇気がなかった。でも、誰か(・・)に背中を押された。

 だから、踏み出せた。小さくも、この偉大なる一歩を。

「ゴブリン退治? いいだろう、そいつは俺らの仕事だぜ」

 冒険者はみな剣を、杖を、斧を、弓を、拳を掲げた。きっとあなた(・・・)も、何かを掲げたにちがいない。

 ――だから、名乗りを上げよう。

冒険者(アドベンチャラー)に任せとけ!』

 

 

 その戦いは、まったくもって順調だった。ゴブリンスレイヤーから受けた見識が、みごと華麗にハマっていく。

 肉の盾? 眠らせて回収してやればいい。

 呪文使いと弓持ち? そんなもの、石と矢とで射殺せばいい。

 ゴブリンライダー? 槍衾で串刺しだ!

 元より小鬼と冒険者。真正面から戦えば、運が悪くなければ負けることなどない。

「まったく、小遣い稼ぎにちょうどいいね」

「ゴブリン一匹で金貨一枚が小遣いとか、俺ら明日からなんか大変な目に合いそう……」

「やめてよそういうフラグみたいなの言うのは!」

「そうよ、もっと楽しいことを言いなさい!」

「なんか理不尽じゃね!?」

 青年剣士一党とともに、詩人はゴブリンたちを討伐していく。彼らはもともと才能に溢れた若者たちだ、ただただ群れで襲ってくるゴブリンなど。頼れる仲間の支援さえあればものの数ではない――!

「くそっ! じゃあ俺! このゴブリンを倒した報酬で憧れの片手半剣(バスタードソード)を――!」

「やめなさい!」

「私フラグ立てるなって言ったわよね!?」

「ははは」

「詩人も! 笑いごとじゃないでしょ!?」

 危うくゴブリンごときに殺されてしまうフラグが立ってしまうところだったと、目を吊り上げて青年剣士を怒鳴りつける。

「まぁ、いいんじゃないかな? 夢は大きいほうが」

「そうさ! 夢はでっかく、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)だ!」

 青年剣士が目の前のゴブリンを切り払う。その大ぶりに剣を振った隙を狙って狡猾なゴブリンが後ろから飛びかかるのを、女武闘家が殴り飛ばすのだ。

「サンキュー!」

「ほんっっっっと! 私がいないとダメなんだから!!」

「お前がやってくれると信じてただけだよ」

「っっっ!! バカっ!!!」

「戦場でいちゃつくなぁ――!」

 女魔法使いが杖を構え、前衛二人をどやしつける。

「≪サジタ()……ケルタ(必中)……ラディウス(射出)≫――【力矢(マジックアロー)】!」

 そして、なにか独り身の疎外感を感じながら、その怒りやらを込めた三本の【力矢】をゴブリンの喉元めがけて射出した。

 

 

「出たぞ! 田舎者(ホブ)――いや、それだけじゃない!?」

小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)……しかも三体!」

 唸るような雄叫びが血風吹き荒れる戦場にこだまする。

 オーガと見まごうような巨体。血と脳漿に濡れた棍棒をもち、ゴブリンでありながら、戦場の行く末を左右しかねない強大な敵。

 だがしかし、冒険者たちの気迫が萎えることはない。ここにいるのは、大物食いを狙わずして何が冒険者かとばかりに闘志の高ぶる益荒男ばかり。

「っしゃあ! 大物か! いい加減、雑魚相手も嫌になってたところだ!」

 獰猛な笑みを浮かべて武器を担ぎ、率先して前に飛び出す重戦士。そのあとに、やれやれと面倒くさそうに盾を掲げた女騎士が続く。

「こっから先は熟練者(ベテラン)の戦場だ! 腕に自信のない奴ぁ引っ込んでな!」

 槍使いが新人冒険者を後ろに引かせるよう号令をかけると、槍を構えて突撃する。

「それじゃあ、残りの一匹は僕がいただこうかな」

「詩人さん!」

「ご武運を!」

「死んだら承知しないんだからね!」

「ははは。仲間思いの友達をもったなぁ、僕」

 なんと充実した人生か。そう思いながら、疾走詩人は分身と共に、のんびりとした足取りで前に出た。

「愛しい人のハグが待ってるからね。ここらで武勇伝のひとつも上げたなら、きっと僕はどうにかされてしまうだろうさ」

「あんた妄想もたいがいにしなさいよ」

「さすがにそろそろ俺らもフォローしきれないぜ?」

「そんなんだから淫乱白粉森人とか言われるのよ?」

「おまえら後でぜってー覚えてろよな!?」

 油断はしていないが、緊張もしていない。目の前には、地響きを立てて迫る恐ろしき巨大な怪物。それがまだ距離のあるうちに、よっつの紅紫色の瞳をきりりと引き締めて、艶のあるふたつの唇は朗々と呪文を紡いだ。

「≪宴の時間ぞ水精(ウンディーネ)、気ままに歌いて舞い踊れ≫」

 鞄の中から取り出した触媒を、ひょいと放り投げる。大気がそれに集まるかのように、ひゅぅ、と妙に湿った風が集まる。

 いや、湿っているのではない。そこらじゅうから、風と、水が寄り集まってくるのだ――!

「ちょ……!」

 目を見開いたのは知識のある女魔法使いだ。

「風と、水の――大精霊(グレータースピリット)……!?」

「おいおいおいおい、なんだよあれ……!」

「精霊よ……小さな神様みたいな力があるけど……」

「うっそだろ!?」

 詩人は、それを従えている。

 まさに、精霊の愛し子と呼ぶにふさわしい。

「さぁ、いくぜ?」

 詩人が、声を揃えて精霊にお願いする。水の大精霊は、詩人に寄り添うように、侍るように後ろへと立ち、力を貸し与えるように魔力を放つ。

「≪天の火石に死霊の骸骨、この世の外から来たもの二つ」

 詩人の持つ投石杖に、不可視の力場が現れた。

 それは精霊術の力の源、幽世より来る力、そのもの。

「ガツンと一発、これでも喰らえ(テイクザットユーフィーンド)!≫」

 思い切り、杖を振るう。普段は石弾を投げていたもので、これこそ本当の武器だとばかりに投げつけられた不可視の力場は、鎧も防御も関係なく、チャンピオンの体を、取り巻きのゴブリンごと抉り吹き飛ばした。

「すっご……!?」

「大精霊の力も借りてるのよ……当然じゃない……!」

 そこにあるのは、彼女への畏怖だ。伊達や酔狂みたいな言動しかない印象だったが、その力を見てしまえば、それも消え失せてしまった。

「どやぁ、これがお姉さんの実力だぜ?」

 わざわざそんな畏怖すら吹き飛ばすようなドヤ顔さえ見せなければ、だったが。

「はぁあああ……さっきまでかっこよかったんだけどなぁ」

「なんだとーぅ!?」

「いや、まぁ、詩人さんだしね」

「そうそう、詩人さんだからね」

「なんか納得いかないな……」

 この場で唇を尖らせるあたり、本当に自分たちよりも年上なのかと疑ってしまう。

「で、四百歳児」

「失礼だね?」

「あんたがチャンピオン倒したせいで、ゴブリン逃げていくけど」

 見れば、重戦士たちや槍使いが同じタイミングでチャンピオンの討伐を果たしていたころだった。確かにこれでは、ゴブリンどもが士気を維持するのも難しいだろう。

「おっと。じゃあ最後のひとかせぎだ」

「私もまだ三匹しか倒してないしね」

「競走するかい?」

「冗談。あんたみたいに範囲が馬鹿みたいに広い呪文は覚えてないの」

 だいいち、いまのあなたはふたりじゃない……と。呆れたように女魔法使いが肩をすくめた。

「それじゃ行くぜ?」

「ええ、失敗しないでよ? ≪カリブンクルス(火石)……」

「僕は頼れる綺麗なお姉さんだぜ? ≪ウェントス()……」

クレスクント(成長)……」

「……オリエンス(発生)≫!」

「――ヤクタ(投射)≫!」

 女魔法使いの唱えた三本の【火球(ファイアーボール)】と、詩人の荒れ狂う【突風(ブラストウィンド)】が、ゴブリンどもを一掃する。

 

 

「私たちの勝利と、牧場と、町と、冒険者と――……それから、いっつもいっつもゴブリンゴブリン言ってる、あのへんなのにかんぱーい!」

 妖精弓手の音頭にわっと冒険者たちが歓声を上げて次々に盃を掲げると、一気に干す。たしかこれで五度目の乾杯だったが、冒険者たちは気にしない。

「まったく、お姉さんは付き合いきれないぜ」

 鉱人道士が持ち込んだ秘蔵の火酒をうっかり口にしてしまった疾走詩人がひとりごちる。白い肌にほんのりと赤みが差している。とろんとした紅紫色の瞳で見上げるのは、雲一つない星空と、そこに浮かぶ二つの月。そして、あなた(・・・)

 火照る肌をなぜる、冷たい夜風が心地よい。

「なーにかっこつけちゃってるのよ」

 そこにやってきたのは、女魔法使いだ。

「素直に、かっこいいな、と憧れてくれてもいいんだぜ?」

「はいはい」

「ところで、剣士くんは?」

「彼? 鉱人の火酒飲んで、倒れちゃったわ。今はあいつに介抱されるところよ」

 くい、と親指で指し示す。

 強い酒精に喉を焼き、やや苦悶の表情を浮かべる青年剣士に肩を貸して、女武闘家が待合スペースの隅へと移動するところだ。二階への階段は、竜牙兵の踊り場となって通行止めである。

「残念だったねぇ、彼女」

 あそこが通れるなら部屋に連れ込めただろうに、と。

「あんた森人のくせに下世話よね?」

「愛しい人は只人だからね。森人の感覚でさ、二十年三十年してからじゃないと子供は……なーんて言ってたら、あっというまにおじいちゃんだもの」

「只人でもそんな淫乱じゃないわよ?」

「ところで、どいつだい? その、僕が淫乱だとかいう、噂を流した元凶は」

 彼に嫌われてしまったらどうするんだい? と。

「知るか」

 普段の言動から、誰からともなく口にされたことなのだから。

「ちくしょう。今こそそいつの恋文を読み上げるいいチャンスだっていうのに……」

「あんたえげつないこと考えるわね?」

「ははは。文字の読み書きくらい、できないやつが悪い」

 この冒険者ギルドに登録している、想い人のいる文字の描けない冒険者は、詩人に一度はお世話になっている。ゆえに彼女は、今酒場にいるほとんどの冒険者の弱みを握っているも同然だ。

「……ところで、さ」

「なんだい?」

「あの、変なの。ゴブリンスレイヤー……なんであいつ、すぐに依頼を出さなかったの? あなたが口を出さなきゃ……とんでもないことになってた、かもしれなかった」

「僕が知るかよ」

 あっさり、そっけなく。詩人はそう答える。

「それに、僕が口を出さなくても、彼は自分から一杯奢れって言いだしてだろうさ。ツンデレだしね」

 詩人の視線の先で、ちょうど新しい銘酒の栓を抜こうとしている男を見た。

「なんだかんだ、銀等級だぜ? ……詰めが甘いみたいだけど」

 その隣には、最初の一杯を舐めるように楽しむ魔女がいる。

「……教えてあげればいいのに」

「愛した男が楽しんでるんだぜ? あとでフォローしてやればいいんだよ。そのほうが、好感度が上がるしね!」

「…………」

「何か言いたそうだね?」

「いや、厚化粧だと大変そうだな、って」

「なんだとーぅ!?」

 はいはい、どうどう、おちついて。と。両手をなだめるように上下させる。

「――あーっ! オルクボルグが兜外してるー!」

 その時だ。

 妖精弓手の大きな声が、ギルド内に響き渡ったのは。

「えっ、嘘!?」

「おっと、これは一大事だ。僕ぁトトカルチョに参加していてね」

「私もよ!!」

 今、その結果が目の前で開かれようとしている。

「私、あえての女に賭けてたけど……あなたは?」

「そりゃあ、当然。イケメンに賭けてたさ」

 よっこいせ、と。投石杖を手に持ち立ちあがる。

「どんな物語だって、勇者はいつだって、カッコいいものだろ?」

 にんまりと笑って、詩人はそう締めくくった。




 くうつか。
 というか本当に再走するとは思いませんでした。でもタイム短縮できるチャートを思いついてしまったんだからしょうがないですよね。
 再々走はさすがに、ないと思います……。

 最後に、偉大な原作者様、先駆者ラスト・ダンサー兄貴、花咲爺兄貴、他兄貴姉貴様に敬意と感謝を込めて締めくくりたいと思います。

 THANK YOU FOR PLAYING !

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