「それじゃあ改めまして! 天然と頑固頭の愚痴を言い合おうの会、開催でーす」
わーぱちぱち、とカルアミルクを一気に飲む真菰に、こちらはサワーで応える胡蝶しのぶと栗花落カナヲ。
各々、自分の恋人からは楽しんでくると良い、みたいな返信が来ていたものの、急な展開すぎてなかなかテンションを切り替えられずにいた。
そんな二人に気付かず、真菰はお通しをさっさと食べてふふふと笑う。
「義勇とたんじろーはどおーやって二人を抱いてるのかなぁ、気になるなあー」
「ま、真菰さん? 酔うの早すぎません?」
「そうなの! 聞いてよ!」
「……聞く側じゃないんですね」
五秒で方針転換する真菰に苦笑いをするしかないしのぶ。
おっとり天然系の操縦は胡蝶カナエで慣れているはずだが、いまだに御せたことはない。
「錆兎なんてね。おとこおとこ普段はうるさいくせに肝心なところで奥手なんだよぉ! その上逃げ回りそうな気までしたから、わらしがストレートに誘ったんだからあ……」
「ど、どんな感じにですか」
ちょっと参考にしたいカナヲが身を乗り出すと、真菰は顔を赤くして、
「んふふー、バスタオル一枚でねぇ、錆兎の頬っぺた持って、大好きだから、抱いてくださいって」
「それは………」
「なんというか……男らしいですね真菰さん」
錆兎からしてみればとんでもない破壊力だったに違いない。
早くもアルコールが回りつつある真菰は今ですら妖しげな色香を放っている。これが裸で迫ってきたらそれは我慢も無理だろう。
と、しのぶの思っていたことを見抜いたのか、真菰はゆるゆると首を振った。
「あのねー、錆兎のひどい所はねぇ! わらしが酔ってると、前後不覚の女性を抱くなんて男ではない、とかいうところなんだよぉ! 実際それで一回逃げられたし! だからねぇ、アルコールも使えなかったの!」
「さっきのセリフ素面で言ったんですか⁉」
「……死ぬほど頑張ったぁ」
えへへ、ぶい、と。
ピースサインをかましてちろりと舌を出す真菰に、なにかがくらりと揺れる胡蝶しのぶと栗花落カナヲ。
最初こそ、酒量はセーブして早めに帰ろうと思っていた。
だけどこれはチャンスなのかもしれない。
普段からこちらを責め立ててくる恋人たちの愚痴を存分に吐き散らかし、あわよくば弱みの一つでも握れるかもしれない。
呼び鈴を押すと、メニューを見ずに店員に告げた。
「すいません、芋焼酎下さい」
「スクリュードライバーをお願いします」
そしてぱかぱか酔うための酒を空けて。
すっかり上気した栗花落カナヲは、元気よく手を上げて話し始める。
「炭治郎は! もうなんか最近隠すでもなく意地悪してきます!」
「へえ、意外! 夜もでろでろに優しいかと思ってた」
「この前はネクタイで目隠しされて予測できないようにあちこち触られて………」
「不死川先生といい、なんでこう我が家の女性はサディスト当てちゃうんでしょうね」
「その前なんてお風呂場で電気消されて、動いちゃダメって言われてずっと体洗われて………手付きがなんか、全然違くて……」
「わお、炭治郎くんやるぅ」
目を輝かせる真菰と、青筋を立てて怪しげなスイングを始めるしのぶ。
カナヲは手で顔を覆うと、絞り出すように言う。
「嫌いじゃないんです………、されるのが嫌いなわけじゃないんですぅ………。でも、これ以上されたら戻ってこれないんじゃないかって怖くて。というかもうすでに同級生との飲み会じゃ言えないことばっかりになってて………っ!」
「そんなカナヲも可愛いけれど本当に炭治郎くんどうしてくれましょうかねぇですよまったく」
「いやあ、愛されてて幸せだと思うけどなあ」
「幸せっ、ですけどっ!」
そういうことじゃないんですぅ、と左右に顔を振るカナヲに、ああそういえば、と真菰は思い出したように言う。
「結構前に、道場のバザーで鱗滝先生に隠れてエロ本並べてた人がいたんだけど」
「………何やってるんですか」
「なんだかんだみんな興味津々で人の壁ができて、それでバレなかったんだよね。そのとき炭治郎が見てたの、ドS特集とかだったような気がする」
「たんじろ………」
呆然とするカナヲに、真菰はんふふといたずら心たっぷりに教えてやる。
「なんだっけかなー、内容。目隠しとか緊縛とか、あとは放置プレイに、玩具入れて散歩みたいなのもあったなあ。ああ、後ろの方にはお尻の………」
「もももういいですやめてくださいやめてくださいっ!」
「ていうか真菰さん、男子に交じって完全に物色してましたよね。詳しすぎません?」
「敵を知り、己を知ればってやつだよぉ」
HPゲージをごりごり削られたカナヲはちょっと休ませようと、今度はしのぶの方を向った。
「ちなみに義勇はね、コスプレ特集とか見てたよ」
「嘘ですよね! というか義勇さんがいて取り締まられなかったんですか⁉」
「まだ大学生だったし」
懐かしいなーと悪童の顔で真菰は言う。
「義勇はなんというか、出るとこ出た人が一周まわって子供用のを着る、みたいなのが好きっぽかったなあ。まあがっつり見てはいなかったけど、興味を隠せてなかった」
「子供用………」
「スモックとか、魔女っ娘とか、あと巫女服とか見てたな」
「巫女服………」
心当たりのありすぎるしのぶは何も言えなくなって押し黙る。
そしてその沈黙を真菰に見抜かれる。
「おや? しのぶちゃんなんか含むところのある沈黙ですなあ」
「べっつにぃ! なんでもないれすし!」
「しのぶ姉さん、ドンキで巫女服買ってるって言ってた」
「カナヲ!」
思わぬ方向から裏切られて叫ぶが、時すでに遅し。
真菰は酔っ払い特有の急激な距離詰めでしのぶの肩に手を回した。
「んふふー。あの優等生のしのぶちゃんがねえ。やることやってて可愛いー」
「うう、………っ!」
「巫女服かあ。似合うだろうなー。それで義勇にいただかれちゃってるんだー。これはおねだりもしているとみたなあ。ほかにはほかには? 何かしてないの?」
「ああああああっ! わかりましたよ全部言いますよ! 義勇さん最近、二回に一回は私のこと縛ってめちゃくちゃ抱きつぶして来ますよ! あの道場が捕縛術なんて教えていなければこんなことにはならなかったのに!」
責任転嫁も甚だしい罵倒を吐きだし代わりに酒を体内に詰めるしのぶだったが、真菰はそこでにまーっと笑って首を傾げた。
「えー、でもさあー。義勇って気にしいだから。自分から進んでしのぶちゃんを縛るとは思えないんだよねぇ。一歩間違えば一発で嫌われそうだし」
「う…………」
「ストレートに誘ったとは言わなくても、暴走させるきっかけを作ったのはしのぶちゃんなんじゃないのぉ?」
「ううっ!」
はめられたとはいえその通りで。
図星を突かれて呻くしのぶに、もう目がすわってきたカナヲがさらに追撃する。
「しのぶ姉さんはなんだかんだ責められるのが好き」
「ちょっとカナヲ! あなたと一緒にしないでもらえますか!」
「口ではそういうけど、好きなシチュエーションはたぶん、目一杯抵抗したうえで封殺されて快楽漬けされる、とかそんなの。へんたい」
「カナヲっ‼」
「あー、女騎士とか向いてそうだねしのぶちゃん」
保有知識が完全におっさんレベルの真菰がしみじみと呟き、しのぶはどこまでも余裕走なその顔をきっと睨んだ。
「そういう真菰さんはどうなんですか! あのメンツで錆兎さんだけまともなんてありえませんし許しません! 絶対異常なことされてるでしょう!」
「許さないってどういうこと………。べつに、普通だよー」
「いま嘘ついてる動きしました」
目隠しされなきゃ人間レーダーのカナヲの探知に引っかかり、真菰はぎくりと体を震わせる。
「ほら見たことですか! 言いなさい! どんなことされているのかを」
「い、いや、本当に普通だよ。普通!」
「まこもさん?」
「…………まあ、普通が行き過ぎて異常になっているのかなー、とは、思わなくも、なかったり………?」
「普通が異常?」
はて、と首を傾げる二人に、真菰は声を潜めて秘密を明かした。
「錆兎、その………せいりょく、がすごいみたいで……」
「ほうほう」
「一夜で………、十回は、する」
「じゅっ………!」
自分たちの情事を思い返し、多くても三回ぐらいで終わるな―、それでもこっちは死にそうになってるなー、となって、しのぶとカナヲは顔を青くする。
―――あれを、十回?
「………よく、ご無事で」
「………すごいです、真菰さん」
甘露寺のような特異体質でもないのに責めを一身に受けきっているであろう真菰に、さっきとは打って変わって尊敬のまなざしを向ける胡蝶家二人。
伊黒とは別系統でやべぇ男、鱗滝錆兎に好き放題やられ続けて密かに鬱憤がたまっていた真菰は、話してタガが外れたのか、だんっ! とグラスをテーブルにたたきつける。
「錆兎は! いまでも誘わなきゃ滅多に手を出してくれないくせに! 一回スイッチが入るとこっちが気絶するまでどこまでもしてくるの! そりゃあ最初に言葉選びミスった私も悪かったよ? でもさあ! 限度があるじゃないげんどがあ! 今日の全体稽古だって、前日に錆兎にさんざんやられたせいで出られなかったんだからっ!」
そんな事情だったんだ………、となんだか同情心が芽生えるカナヲ。
そしてその手を、しのぶが取った。
「真菰さんの気持ちは痛いほどわかります。わたしも、そろそろ義勇さんから主導権を奪い取りたいと思っていたところです」
「しのぶちゃん」
「カナヲは、どうかしら?」
「わたしは……」
お日様のような炭治郎が好きで付き合えるようになって、同棲して知れた夜の炭治郎は、意地悪だけどそれも大好きになって。
「わたしも、炭治郎を虐めてみたい。もっといろんな顔、知りたい………」
「決まりですね」
しのぶはカナヲの手も取ると、テーブルの上に優しく置く。
「真菰さん、カナヲ。今度は私たちが、あの男どもにぎゃふんと言わせてやりましょう!」
かくして。
鱗滝門下、捕縛術心得ありの真菰。
元薬学部部長の胡蝶しのぶ。
人間レーダー栗花落カナヲ。
一芸を持つ三人による。
対鱗滝一門復讐戦が幕を開けた。