メイド共観察記録 作:ナレーショナー:[削除済み]
再び、時が止まった。
二ルソニア達も固まった。
だが、彼女たちの思考は、止まっていなかった。
「ローゼ。ねぇ――ローゼ」
ネットリと、問いかける。
同時に二ルソニアの笑顔も深まった。
ただし、緋色の目は笑っていない。
「な、なんでございましょうかお嬢さま」
ローゼには、二ルソニアが何故こんな態度を
雑談は途中で切り上げる。寝ている最中にいたずらしても、一切反応がない。
それぐらい、二ルソニアの心は閉じていた。
正確には、ある一定ラインより奥には踏み込ませなかった。
それが、―――100年もあったのだ。いくつも見ていただろう―――怖い夢を見た程度で、ローゼのベットに潜り込んだ。そして
――寝ぼけて、ローゼを『お母様』と思った。
これらは、心を開いていた証拠だった。
だというのに、ローゼは――
メイドの頬を冷や汗がダラダラと
目が泳ぎそうになるが、どうにか耐える。
その光景が見えているのか、いないのか、
主は、トーンを落として言う。
「年甲斐もなくはしゃいでしまったわ。情けない姿を見せたわね」
先程と同じ――まではいかなくとも、似ている
……失態を犯したローゼに、
ローゼは、ホッと一息吐いた後、主の質問に答える。
「いえ、全然。むしろ可愛かったです。特に――」
が、
「ホント? 嫌じゃなかった? 本音隠してない?」
二ルソニアが、ローゼの
口を開いたことにより、いっそう
鋭く冷たい視線が、ローゼを貫く。
どうやら、無かったことには、してくれないらしい。
それどころか、掘り起こし暴こうとしているようだ。
だが、メイド兼奴隷のローゼにとって、本気の主に逆らう事はしたくない事だった。
(この二人の奴隷契約は少々特殊で、あまり強制力が無い。奴隷首環も付けていない)
「ええ、隠してるわけないじゃないですか。とても至福のひと時でした。我々の業界ではご褒美です」
逆らいたくはない、逆らいたくはないのだが、
だが、
「我々? 他に誰かいるのかしら?」
「……私にはご褒美です」
「……まんざらじゃなかったのね、あの行為。私、血が出るぐらいには、あなたの乳房噛んだのだけど」
冷たい
これで、ローゼは、3歳程度の幼女に欲情する人間の1人となった。ローゼは、二ルソニア以外の3歳児には興味がないが。
ロリコン認定(二ルソニア限定)を受けたローゼ。
内心、焦っていた。
(どうしましょう。どうしましょう。二ルソニア様に嫌われてしまいます。……いや、それもご褒美なのでは?)
……案外余裕であった。
1時の気の迷いであってほしいが。
だが、1度外れた心のタガは、そう簡単には戻らない。
(もう、こうなったら、いっその事、襲ってしまいましょうか。ベッドの上ですし)
ジュルリ。
ローゼが、いつの間にか、
肝が据わった顔つきで舌舐めずりをしていた。
ゾワッ!
ローゼの心の
今のローゼは、猛獣が黙って逃げたすほど
(これはしたくなかったけど、仕方ないわよね。この子が悪いんだから)
今から行われるのは、主が、おいたをした、またおいたをしそうになった奴隷に対してする罰。そう
だが、ローゼと二ルソニアは10年間共に育った。
それ故に、二ルソニアは知っている。
通常の折檻では懲りるどころか、反撃すらしてくるだろう、と。
(どうしようかしら、何かいい案は……そういえば1度も試してない罰があったわね)
なにかいい案を思いついたようだ。
「そういえば、10年間一度もこれは使ったことなかったわね」
ニルソニアは、ベットから立ち上がりながらローゼに告げた。
「これ、とは?」
ローゼが
そして、引き出しの右側三段目から、取り出したのは、
「これよ、これ」
奴隷の首輪だった。
サーッと、ローゼが青ざめる。
ローゼにとって、
奴隷の首輪――奴隷環――とは、
10年間心の奥底に
「お嬢様、それをどうするおつもりなので?」
ローゼの顔は、もはや能面に近かった。
否、能面ではなくデスマスクに近かった。
その反応にニルソニアは気づけない。気づかない。
「もちろん、あなたの首につけるのよ」
ニルソニアは、ローゼに首輪を付けたいらしい。いろんな意味で。様々な理由で。
ただ、彼女のメイドが今、顔面蒼白になっていることを知ったら、すぐに取り止めにしただろう。
ニルソニアは心の底から、つまり、本気で怒っているわけではない。
少しばかりお灸をすえたかっただけなのだ。
だってそうだろう。
昨日、彼女の心を溶かしたのは、紛れもなくローゼだ。
そのローゼが心を凍えさすような真似をしたのだ。
文句の一つも言いたくなってくるだろう。
――私の心はあなたにとって、そんな軽々しいものなのか、と。
それでも、心を一回開いてしまった以上、もう戻れない。
戻りたくはない。
忘れていた他人のぬくもりを、思い出してしまったから。
溶けてしまった心に、孤独は他人の悪意よりも
だから首環をかける。
どこにも行かないように。
どこにも消えないように。
そんな己の奥底にある心の機微に気づくことなく、
(この首輪はどうやって使う物だったかしら。え~と、思いだせないわ)
ニルソニアは
ローゼを購入する時に、説明を受けたが、
聞き流していたせいで覚えていないニルソニア。
結局当の
「ねえ、ローゼ。これどうやって使う物だっ――――――――って、大丈夫?!」
ようやく、ローゼの惨状に気づいたが、時すでに遅し。
ローゼは、先ほどまで苦し気に胸を押さえていたのだが、今はベットの上で安らかに横になっていた。その顔に血の気はなく、真っ青だった。
「ローゼ?! ローゼッ!?」
体をゆする。胸が少しだけ揺れる。
「―――――あ、う………」
吐息が漏れた。
ローゼはどうやら気絶しているらしい。本当に眠っているだけだった。
胸を撫でおろすニルソニア。その手は引っかかることなくスムーズに動いた。
ローゼは夢を見ていた。
今では見なくなっていた古い夢だった。
遠〿〿て〿く〿屋、
〿暗〿窓〿〿い〿屋、
夜通し聞〿え〿〿て〿る少〿の〿えぎ声、
むせ〿〿るほ〿の〿〿臭〿、
森〿中、薄暗い〿道、主の〿ない屋敷、
黒〿棒〿間、
当たら〿い、
す〿抜けられる、
殴れない。
ローゼは途中から夢が切り替わっていることに気づかない。
(ちょこまかと、よけるな。うっとうしい)
夢の中の棒人間に苛立ち、思わず手が出てしまう。
バキッ!!
人を殴った感触が手に残る。
(え? 当たった? …………これがお嬢様を侮辱した――
「きゃあ!」
――罰で――――す? ? きゃあ?)
あの棒人間とは、似ても似つかない可愛らしい
耳に残る女性の悲鳴。
手に残る柔肌の感覚。
それが意味するところは……。
ローゼの脳裏にある一つの可能性が浮かんだ。
(もし、かして、ニルソニア様に当たってしまい、ましたか?)
ローゼは怖がっている、目を開ける事を。だが謝らないと後が怖い。
迷った末、そ~っと薄目を開けることにしたローゼ。
開けた目に映るは、
崩れ落ちて頬を押さえる金髪の女性と、ニヤニヤ笑っている棒人間だった。
心配していたことが杞憂に終わって、ローゼ、一言。
「よかった。本当によかった。殴った、拳が当たったのが見知らぬ女性で!」
「じゃあその見知らぬ赤の
拳が当たっていたのは、まさかのナレーショナーだった。
ココロが