メイド共観察記録 作:ナレーショナー:[削除済み]
[もう、人間と同じでいいでしょうか?]
[それとも、寝て起きたら次の日、日が登ったら次の日の『夜』でいいでしょうか?]
~ニルソニア視点~
まったく。
ローゼが気絶するなんて誰も思わないじゃない。
そりゃあ、十年間一緒にいた私の配下なんだから、トラウマぐらい把握しているのが普通なんでしょうけど、初めて会った頃のローゼは何をしてもほとんど反応がなかったから、これほどとは知らなかったのよ!
「ハァー。落ち着きなさい、自分自身に腹を立てても仕方ないじゃない」
察してあげられたかもしれない、なんてすぎた可能性は考えるだけ無駄。
それより今は、私のベットで横になっているローゼに、看病といったらおかしいけれどそれに近いことをしましょうか。
といっても、どうすればいいのかしら?
私されたことはあっても、したことはないからよく分からないのよね。
う~ん、図書館に看病についての本、置いてあるかしら。
この屋敷の本って吸血鬼ぐらいしか読まない内容の本が多いから。
うまく全身の血を絞り出す方法とか、血料理のアレンジ集とか。
ま、行ってみれば分かるわね。
まさかこんなに早く見つかるとは、ね。図書館にあるテーブルの上に置いてあるとは驚きだわ。
……誰かが置いてくれた? まさかね。……私以外、誰もいないわよね、、、。
不安になってきたわ。ローゼのこともあるし、戻ろうかしら。
部屋でも本は読めるし。本当は図書館から本を持ち出してはいけない決まりなんだけどね。
うん、そうと決まれば、さっさと戻りましょ。
ドサッ!
あら、立ち上がった拍子に本を一冊、テーブルから落としてしまったわ。
あれ、この本タイトルが書いてないわね。
ちょっと見てみようかしら。
ペラ。
「~~~~~~~~~~~~~~~ッッッ///」
ナニコレ?! 本当にこれ何?!
裸の女の人がいっぱいで、お、お、男の人と~~~~///
た、
その時まで私が管理するわ! よくって?!
[キャラ崩れてますよ? 顔真っ赤にして、早歩きで図書館から出ていくところを見ると、よほど恥ずかしかったんですね]
[そしてそのBOOKはどこに持っていくんですかね? ]
[で、本二冊用意した
『SEX!!』
[やめないか!! ]
[あなたが喋ると太文字になるんです! 太文字のS○Xとか書きたくないんですけど! ]
さて、部屋に帰ってきたわ。
この本はサイドテーブルにおいて、こ、この本はベットの下にでも入れとけばいいかしら。
……ローゼ、うなされてるわね。汗もびっしょり。
これは、お風呂に入れた方がいいのかしら――……
「ハァ」
まったく、何のために図書館まで行ってきたのよ。分からないことを調べるためでしょうが。
え~と、本にはなんて書いてあるかしら。
なになに、
『首にネギを巻き、お、お、お尻の穴にネギを差し込む』
ですって?
本当にこれで楽になるのかしら、人間は。
あ、これ『風邪をひいたときの対処法』だったわ。
こっちが、『寝込んだ時の対処法』ね。
えーと、
『服を脱がし、タオル(ぬるま湯に浸けた後、硬く絞ったもの)で汗を拭き、清潔な服に着替えさす』
『着替えさしたなら、汗をかいて体内の水分が減少しているはずなので、飲み物を用意する』
『※注意:寝ているときに飲ませない。死にます』
……うーん。今、私小さくなっているのよね。具体的には九十cmぐらい。
体も感覚も違うから、体が思うように動かないのよね。そんな私にやれるかしら。
ま、なるようにしかならないわね。
えーと、まずは、ぬるま湯とタオルね。
ぬるま湯は魔法で作って、と。タオルは……脱衣所ね。
おっと、洗面器を忘れていたわ。
このままぬるま湯は、フヨフヨ宙に浮かせといて、タオルのついでに取ってきましょ。
扉を開けて廊下に――さぶっ。冷えるわね。
靴下はいてからの方がよかったかしら。
いえ、取りに行っても今のサイズが無いわね。ローゼに頼まないと。
その配下は気絶しているし。
――まったく、もう。世話のかかるメイドだこと。
「ハァー」
冷たい廊下をペタペタ歩いていきましょうか!
[翼で飛べばいいのに、吸血鬼らしく。飛ばないとは、内心動揺しているんですね。わかります]
うぅー寒っ。足の裏が痛いわよ、まったく。
で、洗面器とタオルを持ってきたから、次は服を脱がすわね。
おっと、その前にぬるま湯を洗面器に着水させなきゃ。よいしょ。
それじゃあ、まずはベットの上に乗って、のって、の、って。
……届かない! こういう時、空が飛べたらいいのに――翼あるじゃない!
「ハァ」
何で気づかなかったのかしら。
まあいいわ。思い出したなら、存分に使いましょ。さいわい、翼は小さくなっていないようだし。
よいしょっと。
――まだ、うなされてるわね、ローゼは。
今拭いてやるわね。
あれ、どうやってこの服脱がすのかしら。
この子、時々変なとこにこだわるから、この子以外には理解できないことがあったりするのよね。
私しかこの家いないけど。
ほんとにどうやって脱がすのかしら。
――この。――この!
無理ね。こうなったら力ずくで! ――やぁ!
これでも、彼女は吸血鬼。
その腕力で衣装を力一杯引っ張ったなら
ビリビリ! バツッ! ブチンッ!
当然、破ける。
――あ、やっちゃったわ。ま、まぁ? あとで作り直してもらいましょ。そろそろ衣替えの季節だしね。
――うーわ。私の噛んだ後、乳房にまだ残ってる。あれが気持ち良かったの?
何で私これとお母様を間違えたのかしら。全然似てないわ。
ま、うなされてるし、さっさと終わらせましょ。
まったく、なんで私が給仕の真似事までしなくちゃならないのかしら。
そういうのは、『ア〇チャーの仕事でしょ』
[赤い悪魔はさっさと聖〇戦争にお帰りください]
そういうのは、ローゼの仕事じゃない。
おかげで、まいごになったわよ。傑作ね。三歳児が自宅で迷子。
この屋敷、二人で住むには広すぎるわ。
掃除できていない部屋もあったし、メイド増やそうかしら。
いえ、文句も、愚痴も、相談も、ローゼが起きてからね。覚悟しときなさいよ!
――っと! おっとっと! 危ないこける!
「――ふう」
危なかったわ。何もないところでこけるなんて。
この体じゃ、激しい運動は出来ないわね。
両手で紅茶が載ってるトレーを持っていることも原因だと思うけどね。
さて、バランス感覚もつかめてきたし、進みま――
――ガアアァァァンンンッ!!!
突如、空間が揺れた。
歩き出すために、一歩を踏み出そうとしていたニルソニアは、顔面からこけた。それはもう、盛大に。
バラエティーなら、3カメ分の映像は流れていただろう。それほど見事なこけっぷりだった。
なお、ティーセットは頭の上に掲げ、死守していた。
いったぁーっ! 何よ今の! ローゼは大丈夫かしら?! 地震じゃないし、魔法攻撃? いえ、今のは
寝っ転がってないで、立ち上がりましょ! 寒い!
むぅ。三歳児の体の体からか、うまく立てないわ。
ティーセットを置いて、ゆっくりと立ち上がりましょ。
ほら、ゆっくり、ゆっくり、
「キャアアァァアァァアアァァアア――――――――ッ!!」
ゆっくりしてられないわ! 飛ぶわよ! 翼を広げて離陸!
私の部屋までは、たしかこのまま一直線!
見えた! 扉ジャマッ! ええい、
「館の主が命ず。≪開きなさい≫!」
よし! 開いた!
飛び込んで着地!
「ローゼ!! 大丈――――――――夫………?」
私疲れているのかしら。うん、疲れているのよ。
慣れないことを、慣れていない体でしたから、疲れているのよ。
ああ、だから、
ローゼは棒人間から『もうすぐ産まれそう』などとほざかれながら、目覚めた。
これで悪夢は終わったはずだった。
しかし、まだ悪夢は終わってなどいなかった。
ここからがローゼにとって
なぜなら、
白くきめ細かい柔肌、
深い海を思わせる蒼い虹彩、
所々はねている艶やかなくせ毛、
緩やかな曲線を描き、腰まで伸びた銀髪、
人並み より少しだけ小ぶりな胸のふくらみ、
カモシカを想起させるすらりと引き締まった
シャープな印象をあたえ、それでいて丸みを帯びた女らしい顔の
ect...ect...
ローゼと瓜二つな全裸の美少女が、否、
ただ、ニヒルにゆがんだ唇だけがその顔に似合わなかった。
そんな奴がベットで寝ていたローゼを覆いかぶさるようにして存在していた。
[混乱しないように、ローゼさんをローゼ壱、覆いかぶさっている方をローゼ弐とします]
ローゼ弐がゆがんでいる唇を開ける。そこから飛び出してきたのは、
「キャアアァァアァァアアァァアア――――――――ッ!!」
甲高い悲鳴だった。
尤も、悲鳴を上げたいことになっているのはローゼ壱だが。
よく分からないが、このままではされるがままだ、と思い、
取り敢えずローゼ弐の下から抜け出そうとするローゼ壱。
だが、ローゼ弐に力を絶妙にそらされ、ローゼ壱弐
ローゼ壱がローゼ弐を押し倒したような格好になった。
その時、部屋の扉が開いて、文字通りニルソニアが飛び込んできた。
「ローゼ!! 大丈――――――――夫………?」
と、言ったきり、自身の目頭をほぐすニルソニア。
[え? 『余計に分かりにくくなった』ですか? う~ん、どうしましょう。……じゃ、ローゼ壱、即ちローゼさんはローゼ、ローゼ弐、即ちどこぞの馬の骨は存在X、とでも呼びましょうか。ローゼがゲシュタルト崩壊寸前ですね]
未だ、現実を受け止められていないニルソニアに向かって、ローゼと存在Xは異口同音に
「「私が本物のローゼです! 信じてくださいお嬢さま!」」
と、叫んだ。
ローゼは内心焦りながら、存在Xは内心面白がりながら。。
どちらも思う事は同じ、即ち、ニルソニアは見分けることはできるのか。
ニルソニアはそれを受け、ようやく目の前の光景が現実だと分かり、分かり、
「今度は幻聴? 誕生日に慣れないことはするもんじゃないわね……誕生日、昨日だったぁ……」
[分かってなかった! 全然分かってなかった! これにはさすがの私も苦笑い! ]
『貴様のことはどうでもいい。話を進めろ』
[ハーイ。う~んと、少しばかり書き方変えますね]
「「本当のローゼはこの私です!」」
と、ここまでは意図せず……たぶん意図せず二人とも同じ台詞を発した。
だが、続く言葉が分かれた。
ローゼは「ニルソニア様!」と。
存在Xは「御主人様!」と。
ニルソニアの眉間をほぐしていた手が止まった。
顔を上げ、二人のローゼが重なり合っているベットに近づく。
その足が踏みしめるは地から
吸血鬼が翼をはためかせ、
二人の前までくると、上に乗っていたローゼを足で転がし。
「ニルソニア様?!」
下に挟まっていた存在Xを引きずり上げ。
「御主人様!」
にこやかに笑いかけた。
その笑みはローゼにとって見覚えのあるもので、つい先日自分に向けられたものだった。
ローゼは複雑に絡まった感情をため息として吐き出した。
ニルソニアは引きずり上げた存在Xをベットの上に立たせ、
自身はそのまま一歩、二歩と後ろに進み、ベットの外に立った。
「さて、何か言うことがあるんじゃないかしら」
ニルソニアは腕組みをして、
「信じてくれてありがとうございます! 御主人様!」
ニルソニアを見上げる存在Xの目はうるんでいた。
だが、
「違うでしょ」
「え?」
翼を大きく一打ち。急降下。
「初めましてでしょーが」
存在Xの土手っ腹にドロップキックが炸裂した。
プキュッ、と可愛らしい音を立て存在Xは吹き飛んだあと、壁にぶつかった。
前から後ろに髪を払い、ニルソニアが一言。
「発言を撤回するわ。全然お母様に似てないって言ったけれど、あのローゼ、いいえ、ローゼの形を借りたナニカに比べたら、まだ似てるわ」