メイド共観察記録   作:ナレーショナー:[削除済み]

3 / 19
2 悪夢であるものとこれから悪夢になるもの

 ロ─ゼは夢を見ていた。

 

 この屋敷にやってきた頃、よく見ていた夢だ。

 詳細も朧気(おぼろげ)な夢だ。

 

 遠──て─く─屋、

 ─暗─窓──い部─、  

 夜通し聞─え──て─る少─の─えぎ声、

 むせ──るほ─の─臭─鼻をつ─

 恐─に響──吠─、

 ─かい──プの味、

 幸─そ─な─供達─笑─、

 肌─焼─炎──気、

 向け──た恨─の視─、

 憎悪─眼─映──人々、

 ─ざ嗤う人、ヒト、─

 

 

 

 

 ......死にかけの少女が、血にまみれた手をわたしのほおにあてた。

 

 

 

 

 生暖かい風が(ほお)を撫でる。

 

 むず痒い感覚によって目が覚めた。

 目蓋を開けると、見渡す限り草木が生い茂る深い森だった。

 ローゼは、その光が差さない森を一直線に切り開く道の上に立っていた。

 

 

 私はお嬢様の寝顔を堪能(たんのう)して、ベットに入ったはずでは無かったか。

 私は、確かにパジャマに着替えたはずだが、何故メイド服でいるのか。

 

 などとつらつら考えていたが、今のままでは埒が明かないと思い、歩き出した。

 

 不自然に森を貫く道は、後ろ側にも続いていた。だが、迷うこと無く足を前に出した。

 

 進むたび、背後で風景(テクスチャ)が崩れ落ち、足下や周りはだんだんと見えなくなっていったが、進む足取りはメイドらしく瀟洒で、確かなものだった。

 

 

 

 

 どれぐらい経っただろうか、

 時間の感覚が麻痺してきた頃。

 

 知らない見知った屋敷が、道の前に、いや虚空の上に浮いていた。

 知らない訳はあまりにも普段とかけ離れているからだった。

 

 

 何が? 何が違う?

 分からない。 何処がどう違うかは分からないが、

 ただ一つだけ、

 あの場所にはお嬢様はいない。

 そのことだけは分かったローゼ。

 吸血鬼がいられる場所は、生きていける場所はあの館しかない。

 自分を救ってくれた主が、いるべき所にいない。

 

 その事実だけで、ローゼは焦燥に駆られた。

 正常な判断ができない状態になった、といってもいい。

 

 あの屋敷の中には、主以外の何者かがいる。

 ローゼにとって、それは予想ではなく確信だった。

 

 主がどこにいるのか、などその他を問いただすために、覚悟を決め、

 優雅でおどろおどろしい門を抜け、荘厳で頼りない玄関の大扉を開けた。

 

 

†     †     †

 

 通常エントランスがあるはずだった場所は、空白で真っ白だった。

 

 エントランスだけではない。

 辺り一面真っ白で、入ってきた大扉さえ白く同化し分からなくなっていた。

 

 そんな白く、だだっ広い空間になんかいた。

 

 黒いモヤみたいなものが集まって、人型を形作っていた。

 だが禍々しさはなく、コミカルな印象すら与える造形だった。

 

 

 具体的には

  ●

 / lヽ

  l

 / \

 棒人間だった。

 

 

 生き物とは断言できない人間と目が合った、気がした。

 目が本来あるはずの場所、眼窩ごと目が存在していないが。

 

 目をそらしたら負けだ、という言わんばかりにずっと睨み合う2人(?)。

 

「なに? お前は初対面の人の鼻を睨みつけるのがマナーだと思っているのか?」

 

 残念! ローゼが睨みつけていた所は鼻だった! つまり棒人間の不戦勝!

 棒人間は口もないのにヌケヌケと抜かす。

 

「ああ、すまない。子供にはまず椅子をすすめるのがマナーだったかな?」

「いえ、進められた椅子に座らないのはマナー違反になるので、ちょうどよかったです」

「では、その丸太に腰かけるといい」

 

     

†     †     †

 

[この後、長い間こんなやり取りしてたのでカットです。それにこの時の棒人間さんは煽りスキル低いので……。いつの間にか勝手に丸太出現してるし]

 

     

†     †     †

 

 何を言っても皮肉にして返してくる棒人間。

 長いこと言いあっていたローゼには疲弊の表情が浮かんでいた。

 

「さて、もういいだろう。腰でも落ち着かせて実のある話し合いをしようぜ」

「ええ、あなた(?)には答えてもらうことが多々ありますからね。だから腰を落ち着けて話すことは賛成です。が、その肝心の椅子はどこにあるのでしょうか」

「そこにあるじゃん」

「丸太は椅子とは言いません」

「いやどこ見てんの?」

 

 漂白された空間にいきなり円卓と椅子が現れていた。

 

「どうした? 鳩が豆鉄砲食らった顔して。 いや、すまん。デフォでその顔だった」

 

 ロ─ゼにしゃべる隙を与えず、続ける。

 

 

 顔に各パ─ツは無いけれども、衝動的にぶちのめしたいと思わせるウザさだった。

 

 

 殴ることは後でもできる、今は情報の確保が最優先です。

 と、ローゼは自分に言い聞かせながら拳を握り、我慢する。

 

「それでは一から説明してもらいましょうか?」

 

「そうだな、どこから話そ━━━。……悪いな。答えられることは一つだけになった」

「全て話せなどには応じられない。具体的には、一から、説明して、もらいましょうか? とかな」

 

「ならば、あなたの正体を 「さっきの会話が1回分だ。だから先に言った───悪いな」

 

 ロ─ゼの発言を遮り、

 飄々(ひょうひょう)(うそぶ)く。

 

「願い事は吸血鬼が眠る部屋───その隣の仕事部屋にある両袖机。左側下から二段目の中から始まる」

 

 ロ─ゼは何か言おうとしたが、

 棒人間の黒い笑みを見てしまい、無意識に口をつぐんだ。

 

 それが後から思えば間違いだった。

 

「さて、情報は絞れるだけ絞られたし(笑)、お前、ほかにやること残ってないか? 何か我慢してないか? 例えば俺を殴るとか」

 

 ロ─ゼのまゆが一瞬ピクッと動く。

 

 円卓と椅子が、元から無かったかのように消える。

 

「殴りたかったらどうぞ、ただし殴れたらな(笑)」

 

 純白の部屋の中、棒人間は笑みを深め、

 

「ほら、どうしたんだ?」

 

 煽る

 

「フルボッコにするんじゃなかったか? んん?」

 

 煽る

 

「まぁ、でも? たとえ万が一、億が一、殴られてもそんな小枝のような腕じゃ痛くも痒くもないな。あ、いや、痒いか。蚊に刺された──吸血鬼に噛まれたぐらいには」

 

 煽る

 

 ロ─ゼは、もう一度拳を握りしめた。

 今度は殴るために。

 

 拳からは血は出ていないが、時間の問題だった。

 親愛なる主人を侮辱した罪は重い。

 

 それこそ、ローゼが言葉を忘れる程に

 

「──────────ッ!!」

 

 人ならざる言葉と拳を持って、黒々(いまいま)しい棒人間に飛びかかった。




[この時点で、実はもう大切なものが足りてなかったリ]
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。