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「しずくちゃんに、曲を作るの?」
「あぁ、あいつをやる気にさせるのはお前らに任せる。主役にまた復帰出来たら、この歌を歌ってもらう...」
「すごく... いい...」
「曲作りなんて久しくやってねぇから時間はかかるかもしんないけどな。だから機械に強い璃奈に編曲を手伝ってもらいたいんだ。」
「任せて!璃奈ちゃんボード"ムンッ!"」
「助かるよ。歌詞と曲が出来次第また連絡するわ。」
「わかった。私たちは今からしずくちゃんと気分転換に遊んでくるから、渡くんも頑張って。」
そう璃奈と話し合ったのが昨日の放課後。一昨日から曲作りを始め、夜もほとんど寝ずに作っていたためかなり順調に進んでいた。
そう、これが俺に出来ること。直接接触することなくあいつの力になれる。
思い出したんだ、お前との約束。
『 私が主役でミュージカルをやる時、渡くんが作った歌を歌いたい!』
『 俺がいい曲作れるようになったら、しずくにあげるよ。それを歌って欲しい... 』
『 ほんとに?約束だよ!』
『 うん!約束する!』
そう言って彼女と指切りを交わした。
あいつが初めて演劇で主役をやるって話をしていた小学生の頃だった。あいつは覚えてるかわからないけど、俺の中ではずっと心残りだった。
この約束さえ果たせば... もう...
あいつのことを思い、あいつのことを考えながら作曲を進めて行く。
今はそれが何故か嫌じゃなかったんだ...
あいつは俺の気持ちなんてわからない自分勝手なやつだし、取り返せない過去を連想させるんだ。
でも、今は... あいつの力になりたい。
昔から1番近くで見ていたからこそあいつの悲しむところなんて見たくない。
今の俺にあいつを助けることが出来るならば、俺のできることならなんだってする。
突き放そうとしたって突き放すことの出来ない。腐れ縁なのかもな、俺たちって。
「アメンボ赤いなあいうえお... あきもに小エビも泳いでる... 柿の木栗の木かきくけこ... キツツキコツコツ枯れ木焼き...」
主役を取り返すべく、今日も自主練と言って1人で教室にいるが、全くやる気が出ない。
机に顔を伏せて、早口言葉を口にしているが、次第に涙が溢れだしてくる...
こんな... こんな私...
ガラッ
そんな時私のいた教室の扉が開いた。
「見つけた!」
「か、かすみさん?」
かすみさんだった。やだ、こんな所見られたくない。私は急いで目に浮かぶ涙を拭う。
「ど、だうしたの?」
「どうって... そりゃ... 昨日、変な感じでわかれたじゃん、だからどうしてるかなーって...」
「...あ、ごめんね、心配かけて。でも私は大丈夫、オーディションだって...」
なんとかこの場を弁明しようとしたが、かすみさんは私に顔を近ずけてきて物凄い至近距離で目を見つめられる。
ち、近いよぉ...
「目、ちょっと腫れてるよ。」
やっぱり、かすみさんにはバレちゃった。ほんとこの子には勝てないよ...
「しず子が頑固キャラだってことはよーくわかったよ。でも...」
かすみさんが急に私の腕を掴んで自分の方へ引き上げる。
「そんな顔で必死に隠そうとしないでよ!私としず子の仲でしょ?」
逃げることなんて、もう出来ない。かすみさんになら...全部話してみようかな..,
「今度の役ね、自分をさらけ出さなきゃいけないんだって。でも、私には出来ない... 」
「私、小さい頃からずっと、昔の映画や小説が好きだったの。でも、そんな子は私しかいなかったから、不安だった。誰かに変なのって顔される度に、嫌われたらどうしようって... そのうち、他のことからも人と違うなって思うことがあったら、怖くなって... だから演技を始めたの。みんなに好かれるいい子の振りを... そしたら、楽になれた...」
「しず子...?」
「私、やっぱり自分をさらけ出せない... それが、役者にもスクールアイドルにも必要なら... 私は、どっちにもなれないよ!!」
私ってほんとに自分勝手...
「表現なんて出来ない... 嫌われるのが怖いよ... それに、彼だってそう。私のことを突き放そうとしてる彼のことを、私は本当の気持ちを伝えないまま、突然居なくなった事をあえて根に持つことで意地張って、お互いに嫌い同士の振りをしてきた。ほんとうは... ほんとの私は、そんなこと望んでない...」
私は、彼のことを好きなの...
「なぁに、甘っちょろいこと言ってんだー!!」
そうかすみさんが叫んでグーパンチをされそうになった。
ペチンッ
私は思わず目を閉じてしまったが、飛んできたのはデコピンだった。
「嫌われるかもしれないからなんだ!かすみんだって、こーんなに可愛いのに、褒めてくれない人が沢山いるんだよ?しず子だって、かすみんのこと可愛いって言ってくれた無いよね?しず子はどう思ってるの!?」
そう言って彼女は顔を近ずけてくる。
私の話... 聞いてた...?
「可愛い?可愛くない?」
「か、可愛いんじゃないかな...?」
「ほら、言ってくれたじゃん!」
そう言って彼女は満面の笑みを浮かべた。
「しず子も出してみなよ、意外と頑固な所も、意地っ張りな所も、本当は自身がない所も全部!」
「それ、褒めてない...」
やっぱり私ってダメなところしか無いのかな...
「もしかしたら!しず子こと、好きじゃないって言う人がいるかもしれないけど... 私は!"桜坂しずく"が大好きだから!!」
彼女の言葉に呆然とする。
「だから... 心配かけてしなくても... うぅ、帰る!」
「ちょ、ちょっと!」
「かすみんにここまで言わせたんだから、絶対再オーディション合格してよね!」
...なにそれ。ほんと、あの子ってすごいなぁ。
彼女のお陰で吹っ切れた。
かすみさんは私のこと好きでいてくれるんだ...
もう、嫌われることは恐れない。
本当の私を見てくれない人もいるかもしれない。
でも、今は見てくれる人だって絶対いる。彼もきっとそのはず。昔から本当の私を知っているのは、彼だけだったんだから...
「見ててね... 渡くん...!」
「後は... この音を入れれば... で、出来た!」
「かすみちゃんから今連絡あったよ。多分もうしず子は大丈夫だよ!だって。」
「そうか... やっぱり友情ってすげぇんだな。さんきゅーな璃奈!この曲、お前に送っとくから後であいつに... 」
「だめ。」
「え?」
「渡くんがしずくちゃんの為に必死に作ったんだから、渡くんの気持ちを伝えたあげて。」
「...俺の気持ち?」
「普通、ほんとに嫌いだったらここまでしないよね。今思ってること、なんでもいいからしずくちゃんに伝えてあげて。そしたら、あの子もきっと答えてくれるはず。」
「...わかったよ。」
そう言って自分のスマホへ作った曲を落とし、あいつの連絡先を開く。
そこには最後にやり取りしたあの会話がまだあった。
『 二度と連絡してくんな。』
そんなやり取りは削除し、一言だけ添え、曲を送信した。
題名は"Solitude Rain"。
『 お前の気持ち、届けてこい。』
これで俺の出来ることはもう果たした...
頑張れよ... しずく。
舞台は大成功を収めた。
私は再オーディションに合格し、そして... 渡くんの作ってくれた曲を歌い上げた。
同好会のメンバーや演劇部のみんなには好評だったが、私が1番感想を聞きたかったのはやっぱりあの人だった。
彼には絶対来て欲しいと言っておいたが、行けたら行くって1番信用出来ない返事だったけど... ちゃんと来てくれたかな...?
落ち着いた頃にスマホを確認すると1件のメッセージが届いていた。
宛名は福澤渡。
『 舞台、良かったよ。これからはもう自分の気持ち隠すんじゃねぇぞ。』
思わず涙が出てしまった...
もう彼は私なんか見向きもしてくれない、そう思ってた。
でもこうしてすっごいいい曲を作ってもらって、最高の舞台を見てもらった。
彼は覚えてるかわかんないけど、私はあの時の約束ずっと覚えてるからね。
「好きだよ... 渡くん...」
もう隠さない。彼にどう思われたって、私はもう仮面を被らない。
『 これからも、本当の私を見ていてね!』
そう一言だけ送っておいた。
ありがとうございました!
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