悲しみの雨音   作:ルスワール

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少し前の投稿から時間が空いてしまいました。
今回は結構書くのが難しかったです><
それではどうぞ!


9話 真実

「やっべぇよまじでやべぇよ!」

 

 

そう自分の部屋で1人で窮地に追い込まれていた。

 

ついこの間まではあいつの曲作りに必死になり、自分でも想像以上な完成度の高さに驚きその余韻に浸っていたのだか、明日から期末テストだということをすっかり忘れていた。

 

最近は授業中だろうが構わず歌詞を書き続けてたから、どこがテストに出るかなんてわからないし、赤点を取ってしまったら夏休みの補習をしなければならないらしい。

 

 

「嫌だよー!夏休みまで学校行かなくちゃ行けねぇのなんてー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

案の定英語赤点取りました。

 

死○よ英語!日本に外国人が増えるから英語を学ばなければいけないとか言ってるけど、そっちが合わせろよ。ここは日本だぞ?

 

 

まあ、そんな屁理屈を並べても無駄ですよね...

 

 

ブー ブー

 

 

そんな時に1件のメッセージが届いた。

宛名は桜坂しずく。

 

 

『 今日の放課後空いてる?』

 

 

珍しいな、あいつから連絡が来るなんてあの時以来だな。

 

 

『 俺はいつでも暇だ。』

 

 

『 じゃあ今日一緒に帰らない?いろいろ話したいし...』

 

 

結局あいつとは演劇祭の前後は直接喋ってはいなかった。

曲を渡したときも、演劇祭の感想も全てメッセージで済ませていた。

 

 

この際、開き直って全てを受け入れてみるか。

 

 

『 わかった、終わったら連絡くれ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後となり"北門で待ってて"と連絡があった為、そこへ向かう。

俺としては遠回りしなくて済みそうだし好都合だった。

 

北門へついたがまだあいつは来てないみたいだな。

スマホを見ながら待つこと2分程度、こちらへ歩いてくる女の子が見えてきた。

 

 

「ごめんね私から言い出したのに。待ってた?」

 

 

「あぁもう2分も待たされてたよ。今にも死にそうだね。」

 

 

「またそんなこと言って、大丈夫だよって言えないわけ?」

 

 

「まあなんでもいいわ。なんだよ話って。」

 

 

「あぁ、演劇祭のお礼、ちゃんと言っておきたいなって思って... 改めて、ありがとうね。」

 

 

「お前の心を動かしたのはかすみだろ?俺は璃奈に言われてやったことだし別になにも...」

 

 

「璃奈さんに曲を作れって言われたの?」

 

 

「いや、それは...」

 

 

「あっはは、もう... 素直じゃないんだから...」

 

 

俺は自分の意思でこいつを助けたいと思い、自分の意思で曲を作った。

 

前までこいつを避けていたせいでなんか素直になれねぇんだよな。

まあこいつもそれはわかってるような顔してるけど。

 

 

「久しぶりだね、こうやって一緒に帰るの...」

 

 

「...」

 

 

またこいつは昔を連想させる。全く、ほんとにしつこいよな。

 

でも、今は前のように過去を思い出して切なくなるような気持ちは一切なかった。

 

 

 

今は... 昔のように、こいつが近くにいる。

取り戻せないことの方が多いかもしれない。

でも、取り戻せるものがあるなら可能な限り取り戻したい。

 

 

「話してくれないかな... 1年前、あなたには何があったの...?」

 

 

「...」

 

 

絶対聞かれるだろうなってずっと思ってたこと。

思ったより早く切り出してきたな。

 

今後のことも考えると、今言うのが1番いいんだってことはわかってる。

 

 

話す覚悟は出来ている。

こいつだってあの演劇祭で変われたんだ。俺だって...

 

 

「ご、ごめんね?やっぱり今のは...」

 

 

「俺の両親が... 死んだんだ...」

 

 

「...え?」

 

 

「それでどうしても今住んでいる所に引っ越さなきゃいけなくて、忙しかったのもあったけど、ショックでお前らと話す気力も無かった... だからそのまま転校したんだ。」

 

 

「そ... んな...」

 

 

「今思えば、お前は何も知らないんだから怒って当たり前だよな。それなのに俺はあんな酷いことを言っちゃったんだ... ごめんな...」

 

 

全てを話すと彼女は泣き出した。

まあ予想通りの反応だった。

やめてくれよほんとに、お前の悲しむ顔は見たくないんだって。

 

 

「ごめん... なさい...私、何も知らなくて... そんな...」

 

 

きっと悔やんでいるんだろうな。俺に強く当たってきたことを。

 

 

「はぁ... だから話したくなかったんだよ。」

 

 

彼女の正面へ入り立ち止まってしっかりと目を見て話した。

 

 

「いいか?よく聞けよ。この間までの俺はお前を見ると取り戻せない過去を連想させるから嫌いだった。辛いことから逃げようとしていた。でも、今は違う。お前の気持ちもわかってるしこれはお互いに悔やんでも悔やみきれないことだ。」

 

 

そうやって俺は彼女の手を掴んだ。

 

 

「取り戻せない過去の方が多いのはわかってる。でも、今はお前が近くにいて取り戻せるものがあるんだから、俺はまたお前と昔のようになりたいって思ってる。だから、もうそんな顔すんなよ。昔からお前の悲しむ顔は見たくねぇんだよ。お前はあの演劇祭で変われたんだ、俺だって変わってみせる。」

 

 

 

 

 

 

彼女は唖然とした顔をしている。

しばらくの沈黙の後、彼女が口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「...ありがとう。私、もうずっと昔のように戻れないって思ってた... 」

 

 

「あぁ、それは俺もだ。お前がああやって俺の歌を歌ってくれた。俺はお前から勇気をもらえたんだ... だから取り返しのつかない過去を引きずる俺はもう居ない。ありがとう。」

 

 

「私だって、あなたがいなかったら変わることは出来なかった... 私は初めて会った時はほんとうは嬉しかった。でも、昔のことを引きずって自分のほんとうの気持ちを隠してた。だからもう私は誰の前でも自分の気持ちを隠さない。」

 

 

真剣な表情が緩んで少し笑顔になる。

 

 

「会いたかったよ... 渡くん...!」

 

 

今まで俺の人生を邪魔する何かが一気に消えていく気がした。

 

 

 

ひとり迷い込んだ闇を正す一筋の光。

 

 

 

 

「...そうだよ、ずっとその顔しとけ。もう湿気た面見せんなよ?これが俺からのお願いだ。」

 

 

「うふふっ、じゃあ私からも1つお願いしていい?」

 

 

「...ものによる。」

 

 

「昔のようにさ、私のことちゃんと”しずく”って呼んで?」

 

 

「...え?」

 

 

確かに、再開してから1度もこいつの前で名前を呼んでなかった。

多分こいつの前だけじゃなくて心の中でもあいつだのこいつだの言ってたな。

 

 

「ま、まぁ... 次からな...」

 

 

「だめ、今言って。」

 

 

「いや別に今言う必要は...」

 

 

「あれー?もしかして恥ずかしいの?」

 

 

「わかったわかった... しずく!」

 

 

「...はいっ!」

 

 

しずくは満面の笑みで返事をしてきた。

ほんと懐かしいな... この感じ...

 

 

「なんだよこのやり取り。」

 

 

「いいじゃん、久しぶりなんだから!」

 

 

そう言ってしずくは俺の腕に抱きついてきた。

まじでやばいだろ、俺だって思春期の男の子だぞ?

当たってるし...

 

 

「なっ、やめろよ暑苦しいな!周りからヤバい目で見られるだろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、くっそあちぃのになんでこんなとこまで...」

 

 

ようやく夏休みに入った!って思ってたんだけどね... 赤点を取った者は夏休みの補習があるらしい。

 

 

だいたいおかしいだろ!入試はそこまで難しくなくてピアノさえ弾ければ入れたのに、入学したとたんこれだよ。

 

詐欺だね!訴えようかな!

 

 

 

 

 

こんな文句しか出ない頭で補習が頭に入るわけもなく、なんの意味もない日中を学校で過ごしてた。

 

せっかくの夏休みなのに... って思ってたけど、実は帰っても別にやりたいことも無いんだよな...

最近は暇な時はゲームをするか、しずくの曲を作った時にスクールアイドルの動画を見ていた為、その名残で見ていた。

 

あぁ... 早くこんな感じで涼しい部屋でのんびりしてぇよ... なんで赤点なんて取ったんだよ...

 

 

「あっ、そうだ。」

 

 

中間テストは辛うじて赤点を回避したのに、何故期末テストでは回避できなかったのか。

 

 

「やっぱり、あった...」

 

 

いつもプリント類を入れているクリアファイルから取り出したのが"Solitude Rain"と題された楽譜だった。

 

授業中でもお構い無しに作曲してたせいで全く勉強してなかったからな。そりゃ点数取れるわけねぇよな。

 

 

今は夏休みだし、赤点補習組も対して人数いないし音楽室で1曲弾いてから帰るか。

 

 

 

音楽室へ着きピアノの前に座る。

 

 

ポロロン

 

 

やっぱグランドピアノって家にあるしょぼいピアノと全然違ぇな。

すっげぇ。なんかよくわかんねぇけどテンション上がってきたわ。

 

 

チャラララランララ ♪

 

 

イントロから弾き始める。そう言えばあいつ曲の前にセリフ入れてたよな?

俺はそんな歌詞入れてないしきっと自分でアレンジしたんだろうな。

 

弾くだけのつもりだったが、無性に歌いたくなった。

誰もいないだろうし別に大丈夫か。

 

 

「天(そら)から舞い落ちる雨粒が~♪ ぽつり、ぽつり頬伝って~♪」

 

 

しずくのあの舞台を思い出す。我ながら完成度の高い曲をあいつに歌ってもらって俺は変われた。

 

あいつのお陰で、今の俺がいる。

 

 

「目覚めてく強く~♪ 裸足で駆け出していこう!」

 

 

自分の気持ちを隠しているというお互いの"偽り"を雨が洗い流してくれる。そんな歌詞にした。

 

 

「眩しい~ あの空へと飛び出すよ~♪」

 

 

実は本人には渡してない2番があった。

普通アイドルのライブとかはフルで歌いきるけど、今回はあくまで演劇祭の一環であった為1番までしか歌えなかった。

 

 

せっかくだから全部弾いて全部歌った。

思いのままに自由に。やばい、めっちゃ清々しい。

 

 

 

 

 

 

チャララン♪

 

 

 

 

 

曲の最後まで弾き終えた。ほんとうにかなりレベルの高い曲を作れた慢心と、あいつの演劇祭の舞台を思い出して余韻に浸っていた。

 

 

パチパチパチ

 

 

突然拍手が聞こえてきた。やば、誰かに聞かれてたとかまじで恥ずかしいんだけど。

そこには黒髪のツインテールだけど髪の毛の先が少し緑がかってる特殊な髪色している女の人だった。

リボンの色からして2年生だな。

 

 

「すっごーい!君、ピアノも歌もすっごい上手だね!!」

 

 

「聞いてたんですね... ありがとうございます。」

 

 

「それにしても、今のってしずくちゃんの曲だよね?この間の演劇祭凄かったよね~!しかも演劇祭では披露してなかったはずの2番以降まで完璧に歌っちゃって... 」

 

 

「あー、いやーそれは... 俺、影響されやすくてどっかで聞いたのと似たような曲作っちゃっただけですよ!そんな桜坂しずくとかスクールアイドルとか知らないですから!」

 

 

「あははっ、私桜坂とかスクールアイドルとか言ってないのに。やっぱり君って話聞いてた通り素直じゃないんだねー。」

 

 

「え?話って...?」

 

 

「あー、ごめんね。私スクールアイドル同好会のマネージャーみたいなのをやってる高咲侑っていうのだ。渡くんでしょ?しずくちゃんやかすみちゃんから聞いてるよ。今は同好会で合宿やってるから、暇だったしピアノでも弾きに来ようかなってここに来たの。」

 

 

「あー、そういう事ですか...」

 

 

歌を聞かれてたのも恥ずかしいし、突拍子もないことを言われて咄嗟に言い訳しちゃったし...

 

なんかもう色々やばいわ。

 

 

「しずくちゃん言ってたよ、この曲は"大切な人"に作ってもらったんですって。」

 

 

「大切な人... ですか...」

 

 

あいつはそんなこと言ってたのか。あの時の俺はあいつにとって"大切な人"でいられたのか。

 

 

「うん、きっとこれからもしずくちゃんにはあなたが必要だと思うの。だから、これからもしずくちゃんのことよろしくね!」

 

 

「...任せてください!」

 

 

じゃあ、と言ってその場を離れた。

 

 

あいつにとって俺はどういった存在でいて欲しいだろうか...

 

 

 

 

俺はあいつにはずっと笑顔でいて欲しい。昔っから、ずっとそう思って色々気遣ったりしてきたからな。

 

 

俺の... 理想のヒロインでいて欲しい...

 

 

 

 

 




ありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!

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