ALfA 作:ドヒャァ
『ミッションを連絡します。
B-HLセル技術研究所に展開する守備部隊を排除し、拘束されている強化リリィを救出してください。
B-HLセル技術研究所は、ヒュージ研究において主導的な大規模企業体G.E.H.E.N.A.に協賛する研究施設のひとつであり、リリィに対し極めて非人道的な実験を行う強行派勢力です。
我々は、リリィのため、ひいては社会秩序のためにこれを看過することは出来ません。
なお、B-HLセル技術研究所が所有する強化リリィは、深刻なリリィ汚染で浄化処置中です。
失礼ながら、これはあなたの試金石でもあります。確実なミッション遂行を期待しています』
少女は、ブリーフィングが終わり虚空に映し出されたままの透過ディスプレイを暫し眺めた。
依頼主は企業連合体。作戦エリアおよび作戦目標、そして報酬を見て、一呼吸の後に受諾する。
まだ経験も浅く緊張しても不思議ではないのだが、少女は動じていなかった。
元より選択肢は少なく、そうしなければ生きていくことも出来なかったがために、本来培われるべき人間性は未熟なままだ。感情の振れ幅が少ない所以は育ちにあった。
身寄りどころか名前もなく、企業連の下部組織でリリィとしての訓練を積むことしかしていない。薄味な社会常識と戦闘技術だけを叩き込まれれば、当然の結果と言えた。
だが、足りないながらも少女は少し考える。G.E.H.E.N.A.と企業連を。
どちらもヒュージの打倒と人類の安全を旨としていて、しかし主立ってやっていることはリリィへの実験と酷使だ。それらによって成果を得られているのが救いであり、また影でもある。
ヒュージ研究より肥大化した多国籍企業G.E.H.E.N.A.。少なくない国が、国家としての体裁すら保てなくなる中で栄華を極めんとした複数のグループからなる企業連。つまるところ企業連は、ヒュージ研究において他の追随を許さないG.E.H.E.N.A.に後塵を拝しているのが我慢ならないのだ。
そしてヒュージの出現が確認されてから半世紀を経た今日では、企業連は企業社会における秩序と平和の維持という目的と理念を忘れ、ただの企業の意志を発現するだけの場と化している。
また、持ち前の技術力を活かしリリィが担うCHARM開発に力を入れたのだが、当初企業連が想像していた程の成果は上げられていない。
原因は企業連が製造するCHARMそのものにあった。戦闘時に置いて発揮される高出力は、それと引き換えに深刻な汚染を引き起こす。戦闘区域が呪われた地と化したのは有名な話だ。
戦果を優先した企業連産のCHARMの数々は、リリィは当然として土地までも終わらせる。ある程度出力を落とせば一応運用は可能だが、それでは他のCHARMメイカーのものの方が安定した性能を発揮する。
八方ふさがりの企業連が取った手段は、足の引っ張り合いに持ち込むというこの上なく無様なものだった。今回のミッションもG.E.H.E.N.A.への嫌がらせを主とするもので、研究成果の奪取などはついでだろう。強化リリィの救出も、言葉通りではなく別の意味合いを持つことを少女も理解している。
そんなゴミ捨て場と掃き溜めのいざこざの世界で、少女は企業連のリリィ共同管理機構のもと、独立傭兵としての道を歩むこととした。
救いようのない真実を知っていても、結局はCHARMを振るうことしか出来ない。
少女は無意味な思考だったと結論付けた。そしてチョーカーをひと撫でして、ミッションのため独房にも似た私室を後にする。
特に準備は必要ない。ミッションを受諾すれば、作戦エリアへと向かうガンシップに乗り込むだけだ。
CHARMはもちろん、契約の指輪やその他装備品は少女の管理下に無い。
少女は硬質な通路を抜けて行き、ミッションのために待機に移った。
●
『ミッション開始。B-HLセル技術研究所守備部隊をすべて排除し、強化リリィを救出する』
鋭い声だ。失敗を許さない、成功して当然だとでも言うように冷厳に澄んでいた。
少女はオペレーターと顔を合わせたことは何度かあるが覚えていない。また少女を見出したのはこのオペレーターだが、気安い関係など両者共に求めていなかった。
とある国。立入禁止区域ギリギリの区画にカモフラージュされる形で研究所は存在している。
強化リリィは救出対象であるのと同時に研究所の私兵だ。今この瞬間にも処置を終えて出てくるとも限らない。早々にミッションを終わらせる必要がある。
人へ振るうにはあまりにも過剰な戦力が今動き出す。
夜半にガンシップで作戦エリア周辺に送り込まれた少女の姿は、闇に溶け込む暗色のリリィバトルクロスを纏ったものであった。防御性能の向上と、企業連産CHARMの運用により生じる汚染を緩和するための全身装着型防具である。
頭部のフェイスシールドのデザインは先鋭的で、視界を一切阻害しない暖色のバイザーが印象深い。
リリィ。それはマギを用いる人間がヒュージ化した姿とされる力の権化。うら若き少女の時にだけ十全に力を振るえる人類の希望だ。
追い詰められた人類は力を結集した。科学と魔法の力からなる対ヒュージ兵器を開発し、対抗手段を持つことに成功する。
ならば、そんな謎の生命体を相手取るためのリリィが、人類を守るためでなく害することに力を使えばどうなるか。それがこの研究施設で証明される。
無論、これは表沙汰になることは許されない。人類の希望としてその強大な力の行使を容認されているリリィが、守るべき人類へ明確に牙を剝いたと広まれば、行く着く先は地獄だ。
また、行き過ぎたリリィの私兵運用が目に見える形で知られると、いかな企業連とて処理に手間取るだろう。もっとも今回は双方ともに後ろ暗い小競り合いのひとつだ。
強化リリィ推進強行勢力という、分かりやすい社会的な悪を相手に憂さ晴らしする、善人面した企業連の構図。
リリィ管理機構に所属する少女もまた、強化や遺伝子操作はされておらずとも、リリィの権利を無視した産物だった。
G.E.H.E.N.A.も一枚岩ではないが、多国籍企業体としては幾らかマシなまとまり方をしている。
だが企業連はそうではない。人類は存亡の危機に立たされていて、いがみ合う余裕など失い多くの紛争が絶えた中で、未だに企業連は水面下で潰し合いをして恥の上塗りに勤しんでいる。
ヒュージ出現時初期。通常兵器が頼みの綱であった時の栄光が忘れられない亡霊たち。
今では企業お抱えのリリィ同士を戦わせてランク付けをする始末。
人類とヒュージ。G.E.H.E.N.A.と企業連。それらを見る少女の未来は、戦いの果てにこそ存在する。きっと答えはあるだろう。知ることが出来るかどうかは別として。
しかしそんなものは些末と、少女は右手のCHARMを握り込む。
担うはレイレナード産の第二世代CHARM、名をAALIYAH。どこかの言葉で至高の存在という。
深刻な汚染を振り撒いた忌まわしき兵器。光を放つマギクリスタルコアも外装に秘されていて、闇より黒いシルエットはどこか鴉を彷彿とさせる。凶兆にふさわしい外観だ。
なおレイレナードは組織崩壊し、現在はオーメル・サイエンス・テクノロジーに吸収されている。
強化リリィが処置中で運用出来ないこともあって、守備部隊の影が見え隠れしている。増員されているのは明白だ。
マギ感知外から、早速シューティングモードで敵部隊の排除を開始する。もっともこれはすぐさま察知されるだろう。それでもこのように真向から作戦に当たるのは、それでどうにかなってしまうからに他ならない。
リリィにはマギを用いて使用する、スキルというものが存在する。生き様が反映されるというそれは、少女には【千里眼】というサブディヴィジョンスキルとして覚醒していた。【俯瞰視野】の習得までは至っていないが、習熟の度合いは高い。意識せずとも使用可能で、半ば常用している。
状況俯瞰は制圧に置いて凶悪に過ぎるアドバンテージだ。対ヒュージ戦で状況把握に用いられる指揮官向けレアスキル【鷹の目】への発現に繋がる。
レアスキルは原則リリィに一つのみ発現し、サブスキルの場合は複数個保有出来る。
故に、少女は見下ろせる地点の敵はすでに把握済みで、大まかな人数をオペレーターへと報告していた。
次に行うのはいよいよ排除、殺害だ。
少女に葛藤などない。人間としての心根は幼くも乾き切っていて、リリィとしての矜持など持ち合わせていないのだから。
果たして、本来ヒュージに向けて行使される力は、通常武装の人間など容易く破砕する。
マシンガン形式のAALIYAHは全く狙撃に向いておらず、また最低限の出力であったのに、放たれた一撃は正確で決定的だった。
敵は頭部を中心に弾けさせ、上半身の半ばまで飛散し、残った下半身や武装の地に伏す音が敵部隊へ襲撃を知らせる。
「マギセンサーに微弱だが反応有り。まさか、リリィだと」
敵の声など聞き取れる位置に少女はいないが、蜂の巣をつついたような様を見れば想像もつく。
少女は再度敵の数をオペレーターに知らせ、それらを作業的に血煙と肉塊に変えて行く。
『目標、残り約半数』
起伏のないオペレーターの戦況報告が少女の耳に入った。作戦は順調だ。
マシンガンのレンジで淀みなく射撃が出来るのには理由がある。【魔眼】という、彼我の距離感を正確に把握することが可能となるこのサブスキルも保有している少女は、この上なく射撃制圧に向いていた。
狙撃に全く向いておらず、出力を絞り性能の低下しているAALIYAHでも運用可能だ。スキルの使用を示すマギで構成された青色の【魔眼】照準は、規格外の精度で射線を導く。
それでも制限している状態ならば、やはり企業連産ではないCHARMの方がより正確な射撃が行えるはずだ。
独立傭兵扱いだが、管理機構下のリリィである限り使用CHARMも企業連産のものから選ばなければならない。そんな現状に少女は少しだけ不満を感じた。
敵もさすがに半数も削られれば、状況の悪さから相応の対応を始める。【千里眼】の俯瞰視点から隠れられる位置取りに移り始めたが、それは全くの無意味であった。
【千里眼】で逐一行動を把握しているのだから、大まかな潜伏場所が割れていて、ならばその場所ごと吹き飛ばせばいい。
AALIYAHの出力を上げ、潜伏場所を射撃。もはや砲撃であった。家屋は文字通り爆撃を受けたように四散して、粉塵が晴れると半身を失ったような何かが辛うじて確認出来た。
『目標、残り僅かだ』
派手な物音を立てている。汚染も出た。だがこれらはすべてG.E.H.E.N.A.の責任となるだろう。後ろ暗い研究施設であることに違いはない。
少女は位置取りを変え、【千里眼】を併用し残存部隊を掃討した。武装した守備部隊を瞬く間に鏖殺してミッションは次の段階に移行。その筈だった。
研究所より強いマギの反応を感知。それは救出目標の強化リリィが出てきたという証左だった。だが処置半ばでの無理な強制運用であることをすぐさま把握。
強化リリィの手にあるのはダインスレイフ。シューティングモードで少女の位置へ照準を合わせて来たが動きが悪い。
『やはり壊れているか』
オペレーターはフェイスシールドに取り付けられているカメラ映像から、その強化リリィの状態を読み取って述べた。
交戦は避けられそうにない。少女は対強化リリィの訓練を積んでいるが、実戦で相手をするのは初めてであった。
少女は強化リリィの射撃を危なげなく避けAALIYAHの出力をさらに上げる。加減して無力化を狙うのは無謀だ。救出対象だがリリィはマギを纏っていて、ある程度の怪我までは問題ない。それに疲弊していようと強化リリィは強いのだから。
射撃が命中することはないだろう。少女はマギクリスタルコアの呼応を感じながらブレイドモードへ変形させた。その姿かたちは、刀身のない不可思議なものだ。
通常、CHARMには複雑精緻な術式加工を施した物理刀身が取り付けられている。AALIYAHにはそれがない。スタンダードなマシンガンと、刀身を出力機構から瞬間構築する異色のCHARM。
企業連CHARMでは左程珍しくもなく、攻撃性に傾き過ぎたコンセプトながら、物理刀身がない分嵩張らず一定の評価をされている。
「あああぁ……!」
射撃では効果がないとようやく気付いた強化リリィが、少女に向けて吶喊する。
距離はすぐさま詰まり、強化リリィのダインスレイフによる直線的な斬撃が、恐るべき速度で振り下ろされる。
少女はスキル各種を警戒しながらこれを回避。そしてAALIYAHを素早く取りまわしてカウンター。
刹那に輝く紫紺の放出刀身を、紫電を迸らせながら振るう。AALIYAHの刀身の出力は一瞬。すでに残光となっている。
この取り回しの難しさが、評価はされども好意的に見られない要素であった。物理刀身を持たないブレイドモードの扱いは容易ではない。
強化リリィはダインスレイフで防御をするが弾かれて、その身が宙に浮く。またAALIYAHの刀身のマギ放出と熱量を受けて、その刃は赤熱していた。
宙に浮いたまま姿勢制御に移ろうとする強化リリィへ追撃を行う。再度振るわれる、AALIYAHの鮮烈な一閃。
防御姿勢を取ることに間に合った強化リリィだが、右腕が軋み悲鳴を上げた。そして勢いを殺しきれず吹き飛ばされて、瓦礫へと叩きつけられる。
少女はAALIYAHをシューティングモードに変形させて足へ追撃を行うが、これはやはり回避された。
「企業連のリリィ……」
かろうじて正気を取り戻したのか、距離を取った強化リリィが意味のある言葉を発した。
だが少女は会話などには応じない。強化リリィが大人しく救出されるなど、端から考えにない。射撃。それを強化リリィは回避し、なおも言葉を紡ぐ。
「……どうして来たのが、首輪付きなのよ」
企業連のリリィ管理機構に所属するリリィは、侮蔑を込めてそう呼ばれている。
少女は黙らせるように射撃。
強化リリィの保護を行う組織やリリィ養成機関のガーデンは存在する。企業連もそういった活動を行ってはいた。
しかし保護というには疑問の生じる薄暗い真実を強化リリィは知っていたのだ。
企業連に保護された先にあるのは、G.E.H.E.N.A.とそう変わらない自由なき苦痛の日々である。リリィとしての力が衰える年齢まで生き永らえれば幾分か救いはあるが、大抵は持たない。
もしここに来たのが企業連のリリィでなければ、それはどれだけ希望に溢れていただろう。
「呪いさえ、なければ……」
理性を絞り切るかのように、強化リリィはそう零した。
リリィの自由を害する呪いを施術するのはG.E.H.E.N.A.の常套手段だ。強化リリィが絶大な力を持ちながらもこの研究所から脱走出来なかったのは、呪いによる縛鎖があるからに他ならない。
企業連のリリィも似たような処置をされている。
G.E.H.E.N.A.はそれを魔法によって行い、企業連は機器で抑止をかけている。リリィをより確実に制御可能なのは前者だ。企業連はその吹けば飛ぶ誇りからか、同様の手段を用いることを避けていた。
故に、企業連のリリィは反旗を翻そうと思えば可能だ。もっとも、それを行ったとして一体なんの意味があるのかを考え結論を出すまでは少女も終えている。
仮に企業連が崩壊したとして、依頼内容がヒュージ撃破の一色になるだけだ。結局は戦いである。戦いからは、逃れることは出来ない。戦うことしか知らないがために。
少なくとも少女はそうだ。リリィである前に、人間らしいことを育まれ、感じ、求める環境にいなかった。企業連の末端リリィには、そのような者が多い。
それに崇高な思いや自由を求めて逃げようとしたリリィの末路は語るまでもない。
イレギュラー化を許さない管理はそういった形で成されていて、企業連とG.E.H.E.N.A.の違いはリリィに与える苦しみの性質だ。
もちろん企業連のリリィが団結出来れば新たな道筋も現れるだろうが、ヒュージとG.E.H.E.N.A.という共通の敵が二つもあって内部抗争をやめられない者たちの管理下では、事態に変化がなければ難しいと言えた。
少女はこれ以上ミッションの進行を遅らせないために、近接格闘戦へ戻る。AALIYAHをブレイドモードに変形。
まだ話し足りないのか、強化リリィは構えを取らない。無慈悲に斬り掛かる少女。対話の通じる相手ではないとこの期に及んで強化リリィは理解する。
「あなた達の方が、ずっとオカシイのね」
憐憫を湛えた声色だった。言葉が交わせても、思いが通じ理解し合える道理はない。
強化リリィはG.E.H.E.N.A.に拉致される前はまともな環境にいて、リリィですらなかった。だからこそ、強化はされど同じリリィに対してCHARMを向けることを厭わない少女を哀れに思う。
少女に対して自身もそうすることに躊躇してしまう。
そんな強化リリィの胸裏を知ることなく、少女は畳みかけるように攻撃を仕掛ける。
強化リリィは疲弊しきっていて、メジャーで周囲の環境にある程度配慮したCHARMとは別物のAALIYAHに対応出来ない。
少女の類稀なる戦闘技能も相まって、ダインスレイフを握る強化リリィの腕は限界を迎えようとしていた。
好機と見た少女がひと際鋭くブレードを振るおうとしたその時だった。ダインスレイフのマギクリスタルコアが煌めいてマギエナジーが収縮し、オーバーヒート必至の斬撃が少女に振るわれる。
追い詰められた強化リリィは懊悩を切り捨て、最後の力を振り絞り、CHARMオーバーヒート戦法を取ったのだ。
インパクタースタイルと称されるものがある。卓越した戦闘能力ととあるレアスキルが必要だが、CHARMの負担を踏み倒せるという。
強化リリィの攻撃にはやはり幾ばくかの戸惑いがあった。それでも通常の回避では厳しい。ダインスレイフに宿るマギエナジーは破壊的で、その斬撃は一帯を吹き飛ばすだろう。
少女はその活動期間から新米の範疇に入るリリィだ。しかし、才に溢れている。保有するスキルは2つだけではない。
消えるような速さで、それはさながら瞬間移動だ。【インビジブルワン】によって攻撃範囲から少女は無事に退避。このサブスキルは覚醒して間もないこともあって習熟を行えていない。少女にとっても賭けであった。
土煙が晴れる。肩で息をする強化リリィが、ダインスレイフを杖に何とか立っていた。
『冷却していく』
オペレーターの言葉を証明するように、オーバーヒートしたダインスレイフは自然法則ではありえない冷却を見せている。
『【Z】持ちか。珍しい』
【Z(Control・Z,orラストレター)】。自身の両手に納まる範囲で時間を巻き戻せるというレアスキルだ。致命的な負傷や、今のようにCHARMの瞬時回復に用いられる習得者の少ない変わり種。
とはいえ、何度も使える程強化リリィに余裕はない。少女は一気に距離を詰めAALIYAHを振るう。それを受けた強化リリィはダインスレイフを手放した。
そして遠く瓦礫の山に突き立って、マギクリスタルコアは輝きを失う。
「あぁ……」
数度の【Z】発動を警戒していた少女だったが、それは杞憂であった。
強化リリィが倒れ伏す。ブーステッドスキルを発動することもなく、戦いは無理が祟った強化リリィの衰弱で終わった。
強化リリィの目に光はない。薄い呼吸音だけがある。ミッション完了と見ていい。
完了の旨を知らせれば、この末端も末端の研究施設は企業連主導の下制圧され、強化リリィも回収される。
「……たは」
声が聞こえた。か細く、吹き消えてしまうような声量だった。
「……あなたは」
少女は無言で見下ろしている。
「何のために、戦って……」
強化リリィの言葉はそれで終わった。息はある。
ミッション完了の旨を企業連に知らせるようオペレーターに言い、ガンシップのある拠点へその身を向かわせる。
『ミッション完了だ。…………生きてさえいれば、拓ける道もあるだろう』
幾分か感情の乗ったオペレーターの声に、少女が感じ入るものはない。ただ首元を撫でて未明の空を一度見上げ、次の瞬間には走り出した。
これよりたった一年の間に、企業連は崩壊する。
見えていたことであった。リリィを管理することなど無理な話だったのだ。CHARMを手の届かないところにやり、契約の指輪も取り上げ、首を鎖で繋ごうとも、その身に宿す生き様には及ばなかった。
そして世界は愚かではなく、隙を見せた企業連は、彼らに組しない力のある有力なCHARMメイカーズなどによって追い込まれ解体されていく。
G.E.H.E.N.A.と企業連の共倒れを画策していた者たちだけは不満を零したが、人類の危機に対して足並みを揃えない勢力の片方が大人しくなるのは喜ばしいことであった。
その起点が、この戦いだと知るものはいない。