ALfA   作:ドヒャァ

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ALfA 2

 戦いに身を置く日々の中、少女は今日も生きるために斡旋されたミッションの一覧を眺めている。

 G.E.H.E.N.A.の研究所を潰してから季節が一つ廻っただろうか。請け負うミッションは、高報酬の傾向があるG.E.H.E.N.A.関係の守備部隊排除や施設破壊を選んでいた。

 

 他にあるとすれば、リリィらしいヒュージ撃破ミッションだ。

 複数ある企業連管轄の守備範囲で広域エリアディフェンス装置では手に負えないヒュージが出現した場合、独立傭兵として登録されているリリィは優先的に受諾する必要がある。

 次のミッションは、それになりそうだった。

 

『依頼内容を説明する。雇い主はBFF、目標はCHARM工廠周辺に多数確認されているヒュージの排除だ』

 

 どこか気安い口調が特徴的な仲介人の声だった。

 

『迎撃装置によってスモール級、ミドル級ヒュージは粗方排除したが、ラージ級は無傷のまま工廠周辺に陣取っている。現在ラージ級ヒュージは沈黙状態。まあ何時覚醒してもおかしくないらしい』

 

 ラージ級ヒュージ。通常兵器では精々足止めにしかならない、撃破手段がリリィのCHARMに限定されている脅威だ。

 透過ディスプレイに表示されているブリーフィングに不備は確認出来ない。ただ動きを見せないヒュージには必ず理由があるだろう。

 

『これらをBFFのリリィで構成された小隊に加わり攻撃する。要求されているポジションは前衛。取り分け負担の多い要の役回りだ。ヒュージ排除後はそのまま哨戒し、残敵を発見した場合は殲滅しろ、とのことだ』

 

 もう一つの懸念事項は、やはり独立傭兵のリリィが穴埋めとしてどう扱われるかである。

 

『前衛の消耗は激しい。危険な作戦になりそうだが報酬は莫大だ。連絡を待っている』

 

 なるようにしかならないと、少女はミッションを受諾した。いつものようにチョーカーをひとつ撫でて私室を後にし、硬質な廊下を進んでいった。

 

 

 

 

 切り込み、囮、殿。戦闘において楽な役どころはないが、負担を直接的に背負う前衛は際立った実力者であることを強く望まれる。同時に、消耗品扱いと見られることも多い。

 

「小隊のリーダーを務めています、リリウム・ウォルコットと申します」

 

 澄んだ声だが起伏はなく、丁寧であれども感情の籠っていない静かな挨拶だった。

 白を基調とし、各所に薄く暗い青色のラインが入ったリリィバトルクロスを身に纏っている。独特な形状のフェイスシールドのバイザーは寒色に灯り、清廉だが無機的な印象だ。

 そしてリリウムの手には、新型と思しきCHARMが握られていた。他のメンバーが持つBFFの047ANよりも幾分か洗練されてる。

 

 ともあれ、少女が出来ることはそのリリウムの指示通りに、前衛としての役割を全うするのみ。

 無論、無茶な要求をされれば、少女は相応の手段を以て状況の打開に当たるだろう。傭兵を起用するということはそういうことだと、上の者は兎も角、企業連のリリィは皆理解している。

 

 前衛は二人。中衛五人と後衛二人で射撃性能に秀でたCHARMで先制狙撃を行う。

 リリウムのポジションは中衛。保有するレアスキルは【レジスタ】であることが開示されている。

 小隊での行動制御、云わば立ち回りも少女はガンシップでの移動中に頭へ叩き込んでいる。これまでとは少し違う、訓練ではなかった内容が見受けられた。

 

 各員、己がCHARMにマギを入れる。

 

「CHARM工廠周辺に残存するスモール級、ミドル級並びにラージ級ヒュージを排除します」

 

 数瞬の間を置いてリリウムは言った。

 

「作戦を開始します」

 

 BFF肝いりの精鋭リリィ小隊だ。少女はもう一人の前衛担当者と遜色のない動きで作戦エリアに踏み入る。

 疎らに見えるスモール級やミドル級を片手間に撃破しながら侵攻。

 程なくして、【天の秤目】を持つ後衛のリリィがラージ級ヒュージを確認する。対象は未だに沈黙したままだ。

 射撃で当たるだけで、一体目の処理は恙無く終わった。

 

『目標、残り8』

 

 まだ一体目だ。だがこれはあまりにも歯ごたえがない。

 作戦エリア深奥に位置するラージ級に動きはなく、誘われているようだと少女は思う。

 そしてラージ級を残り四体まで排除し、きな臭さに少女が一層警戒を強めた時、【鷹の目】を持つリリィが異常を察知し皆に伝えた。

 

「最奥に位置する赤色のラージ級が動きました。また白色のラージ級三体も覚醒」

 

 間違くなく誘われていた。知性など見受けられず、ただ破壊の限りを尽くすだけのヒュージが誘い込みなど行うはずがない。

 

『……G.E.H.E.N.A.め、奴等ならHUGEの簡単な制御くらい出来てもおかしくはないか』

 

 少女は動じていなかった。これまでこなしたG.E.H.E.N.A.関連の研究施設襲撃ミッションの中には、何らかの処置を施したと思われるヒュージと交戦するものがあった。

 今回はそれらの研究成果を試験的にBFFのCHARM工廠侵攻に使ったのだろう。あるいはBFFのリリィの漸減が目的とも思えた。

 少女の思考を遮るように、リリウムが冷静に指示を出す。

 

「わかりました、問題ありません。前方、白色のラージ級を狙撃してください」

『そう、うまくはいくだろうか……』

 

 オペレーターの懸念は正しかった。有効射程から放たれた連続狙撃は、ラージ級ヒュージへ確かに吸い込まれ、しかしその損傷は緩やかに再生していく。

 

『……碌なことをしないな、G.E.H.E.N.A.は』

 

 手ごたえのないラージ級をエサに、特殊なラージ級に捕捉される場所まで釣り上げられた。リリウムはその異常なラージ級を確認して何処かへ連絡を取っている。

 

「作戦を続行します」

 

 子細を伝えられることはない。そうとなれば、少女が行うことは単純であった。

 AALIYAHに入れるマギの量を増やす。出力に加減なし。その身にバトルクロスを纏わなければ、負のマギよりも悪影響を及ぼす汚染源の握り手を強める。

 

 前衛を務めるもう一人は希少なレアスキル【ファンタズム】持ちだ。

 遥か後方に陣取る赤いラージ級のマギ収束砲が射出されるビジョンを垣間見た彼女は、レギオン全員にテレパスを送る。

 それぞれ退避。直後に放出された照射は無駄撃ちに終わる。

 

『成る程、精鋭だ』

 

 各員、レアスキルを最大限に活用する本格的な戦闘を開始する。少女もまた、出し惜しみするつもりなどない。

 幾度かミッションをこなしていれば相応に評価もされ、であれば今回この工廠防衛に声がかかったのも、BFFには含むところなどなく純粋に戦力を当てにされたものかもしれなかった。

 しかし少女は未だレアスキルの覚醒に至っていない。生き様が反映されるのだからその時ではないがために覚醒しないのだと、少し前にオペレーターに言われたことを思い返した。

 

「前衛で攻撃した後、斉射します」

 

 リリウムの指示が下る。幸いなのは、各ヒュージの位置取りがばらけていることであった。各個撃破が可能だ。

 陣形を即座に整え、少女と【ファンタズム】持ちが果敢に切り込む。寸胴に四椀四足を生やした白いラージ級の再生能力は思うほど早くはない。

 まず足を刎ねて腕を断ち、もう一人と協力して胴を輪切りにする。二人で手を緩めることなく切り刻み、原型を失いながらも再生を行うラージ級を後方のメンバーが一斉掃射。

 中でもリリウムが放ったレーザー射撃が有効なようだった。

 

 青い体液とラージ級を構成していた小さな塊が飛散。さすがに再生は行われない。これが強化リリィの持つ【リジェネーター】相当の復元力であれば問題だった。

 またG.E.H.E.N.A.のことを考えれば、このラージ級は試験段階の可能性が考えられる。

 

「残る二体のラージ級も特殊な個体と思われます。同様の能力を有しているか判別は不可能なため、注意して排除にあたりましょう。また後方のラージ級のレーザー照射は欺瞞攻撃で逸らしてください」

 

 直後、赤いラージ級が照射の兆候を見せる。欺瞞攻撃。つまるところ攪乱は目に見える形で効果があった。

 レアスキル【ユーバーザイン】を保有するリリィが自身の気配を飛ばし、ラージ級の身体があらぬ方向を向いた。【ファンタズム】持ちも動きを見せない。

 レアスキルは有効に機能している。

 

 後方のラージ級の攻撃はまたも無駄撃ちとなる。残りの白いラージ級二体の排除に取り掛かる。

 幸いにも先のラージ級同様ただの再生持ちで手早く終わった。

 

『あとは後方のラージ級か』

 

 少女は気を緩めないよう集中する。再生持ちか、はたまたそれ以外か。

 十分に警戒しているリリウムは、まず軽く射撃で当たることを選択。果たして、赤いラージ級はそれを受けながら吶喊してきた。

 

 迎え撃つ少女ともう一人。白いラージ級と正反対の印象を持つ赤いラージ級は、その盾のような両椀を振りかぶった。

 後方への退避を試みる少女に、【ファンタズム】によるテレパスが届く。退避ではなく、その長い両足の股を潜りつつ攻撃を行うよう突き進め、と。

 二回目のテレパス。少女はこの感覚を嫌ったが、冷静に受け止める。自身の判断は最適ではないという未熟さを知るのは、生きることへの活路を拓くのと同義だ。本来は信頼し合ってこそ機能する【ファンタズム】のテレパスだが、この時ばかりはそれに値した。

 

 二人は転がり込む様に前へ。同時に足への斬撃。二人が先までいた場所には、両椀を振り下ろしたラージ級がいた。未来視がなければ危うかった。

 赤いラージ級は、どういうわけか二体に増えている。

 

『強化リリィが投薬や生体移植によってブーステッドスキルを得ているのだから、そうなるか』

「【エーテルボディ】……」

 

 云わばブーステッドスキルの逆輸入だ。ヒュージ由来の何かを使って強化リリィに施されるものを、ヒュージに転用し制御している。

 試験段階と思い至った少女の考えは正しかったようで、分身はすぐさま消えて赤いラージ級の動きは著しく低下。

 種が割れればあとは問題ない。一つ呟いたリリウムは適切な指示を出し、赤いラージ級は蜂の巣となった。

 

『全ラージ級ヒュージの排除を確認。哨戒に移行』

 

 企業連もG.E.H.E.N.A.を襲撃しているのだ。G.E.H.E.N.A.も同じようにやり返して来ても不思議ではない。その手段として用いるものが違うだけだ。

 少女がこなしたものは攻め入るものだけで、守るのは初めてのことだった。

 

 BFFの小隊と少女は哨戒の後ミッションを無事終えた。

 少女は帰りのガンシップに乗り込み、僅かでも休息を取るため目を瞑る。

 

 このミッションで少女は左程役に立たなかった。

 またBFFのリリィたちは、何かを確かめているようだったと思い返す。小隊行動は慣れているはずなのに、新たな戦術構築を探る行動制御が見受けられた。

 

 ガンシップの心地良い稼働音に少女の意識は朧気になる。小隊行動と【ファンタズム】によるテレパスで心身ともに疲労していた。

 そして眠りに落ちる寸前に、いつか戦えなくなった時、どうなるかを考えた気がした。

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