彼と私が少しミステリーっぽく話してます。

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第1話

見慣れた狭く薄暗い部屋に微かに聞こえる程度の、ズズッという鼻をすする音が広がる。

見なくてもわかる。どうせ彼だ。

私は苛立ちながらも、音の発信源へと目を向ける。

身長はお世辞にも高いとは言えず、顔も平均的で、髪色も黒。眼鏡も黒。子供の様に膝を抱えて泣く、女々しい彼の姿だ。

 

彼はどうやら私にはいまだに気付いていないのか、顔をこちらに向けもしない。

私はそれで余計に腹が立ち、思わず声をかける。

 

「何泣いてんの」

その声で、彼はぐちゃぐちゃになった顔を私に向ける。

 

 

「何があった」

彼のこの表情は子供の時以来だった。だからか自然とそんな風に聞いてしまった。

彼はしばらく空白の時間を作ると、か細くだがぽつぽつと話し始めた。

 

話の内容をまとめると次のようなものだった。

恋人が好きすぎるのだが、恋人は最近他に仲の良い男性ができた。

その恋人はその男と電話をするのに、自分とは電話もしてくれない。

それで、恋人は自分よりもその男のほうが好きなのではないかと考えて別れてしまった。

 

私はこの時、彼のくだらない独占欲とそれに拍車をかける女々しさに苛立ちがを覚えていた。

だから、私はこういってしまった。

 

「お前はどうしたいんだ」

私が思ったより強い口調だったからか、彼はビクッと肩をすぼめて萎縮してしまう。

また、流れる空白の時間。もう一度聞きなおそうかと思ったが、また委縮されると困るので私は口を閉じる。

 

―恋人とまたやり直したい

彼はそう呟く。ぼそぼそと小さいくせして私には届く声。

 

「元恋人にそういえばいいじゃん」

私はそう答える。

―無理だ。どうせ嫌われてるから

分かっていた。私は彼ととても長い付き合いだ。だから、彼がこの答えを出すのもわかっていた。それでも、何故だか聞いてしまった。

そんな分かりきっている問いをした私自身に、素敵なテンプレートな答えを出した彼に私はさらに苛立った。

 

「それじゃあ、元恋人に嫌われた君はどうすんの」

だからか、私は思わずそう聞いてしまった。

彼が答えに詰まるのを知っていたのに、私はまた彼を追い詰めるように問うてしまった。

 

やはり、彼は何も答えない。

ただただ空虚な、空白の時間が私と彼の隙間をぬっていく。

 

どのくらいの時間が経ったのだろうか。気が付くと私は眠ってしまっていたようだった。

時刻を確認すると長い針は10を過ぎたところだ。

視線を前に向けると、彼とちょうど目が合った。

私と彼はしばらく、視線を合わせ続けた。どのくらいかなんてわからない。10秒程度だったかもしれないし、30分とかだったかもしれない。とにかく、光が反射している彼の目から視線を逸らせなかった。

 

―死にたい

ふと、彼の口から漏れ出た言葉。

私は知っている。彼はどうせ実行できない。そのような度胸もない。

だから、私は嘲笑うかのようにこう言った。

 

「それができたら苦労しないよね」

私は軽口のつもりだ。死ぬわけがない。そう高を括っていた。

だが、私は彼の乾ききった眼を見てしまった。気づいてしまった。

その瞬間、彼は立ち上がった。

私も思わず立ち上がる。

 

私の心は先ほどからとは一転して恐怖で塗り固められた。ひたすら、怖い。何をする気だ、と。

私の知っている彼ではない。彼の見た目をした知らないだれかだ。

 

彼は私に目もくれずに、押入れを漁る。

私は何もできないまま、ただ見続けていた。

 

部屋の景色が変わるほど、かきまわし続けた彼の動きが突然止まった。

私はその瞬間理解してしまった。彼が何をしようとしているのか。

 

彼は何本ものロープを握るとおもむろにベランダへ足を運んだ。

一本一本のロープを三つ編みをするかのように編んでいく。

そして、それをベランダの柵に掛ける。

 

私は先ほどとは打って変わって彼に向って

「今すぐやめろ」

「後悔することになる」

「私を見ろ」

と、言い続けていた。そうしないと、本気で大変なことになると思ったからだ。

 

それでも、彼はひたすら作業を続ける。

それはただひたすらに淡々と。機械のように。

 

彼は先ほどまるでマフラーかのように編んでいたロープの束の先端。何かに使えそうな穴の部分に首を通した。

 

真っ暗な空間に私と彼は視線を向ける。

首にまとわりつくロープと、何とも言えぬ威圧的感覚が私にリアルであると教えている。

 

彼は未だにこちらを見ない。だから、私も彼の表情を見ることができない。

それが、余計に私の恐怖心を煽る。

 

彼の足が右脚、左脚と宙に浮く。その脚の先を見るだけでさらに私の心臓は一層うるさく鼓動する。

 

次の瞬間。彼は迷いなく体を暗闇に投げた。

ギシギシと軋む音と逃げ場のない呼吸が暗闇に静かに広がっていく。

ただ、ひたすら誰に気付かれるわけでもなく広がっていく。

 

 

 

 

「こうして彼「私」は死んだ」

 




初めまして 宮瀬碩哉です。

今回初めて私は小説を書きました。
拙い文章だったりして読みにくかったらすみません。

ですが、ここまで読んでいただきありがとうございます。
これからもまたネタが出てきたら書いていこうと思います。

それでは、おやすみなさい。


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