花のように美しき君に   作:りゅう

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風見さんの喋り方ってこんなのじゃない気がする。


花と蝶

 僕が妖に生まれてもう数え切れないほどの時を過ごした。妖怪というのは基本的に人を害するものであるが、僕はそういう種類の妖怪ではない…と思っている。むしろ妖払いに払われないか妖怪の友に心配されるくらいなのだ。筋力は人以下、妖力は中級妖怪より少し弱いくらい。

相性さえ悪ければ妖精にも負けてしまう。これが僕。

 

 僕は数千年前に妖と化した妖怪蝶。名前を『夢蝶(むじょう)』。

ちょっと長生きで過保護な友人持ちの弱小妖怪です。僕自身もう少し強くなれればって思ってるんだけどね…。幻想郷が出来る前、妖払いに殺られそうになる度に友人が人間たちを血祭りにあげていたのはいい思い出だ。うん、懐かしい。

 

 

「いつまで物思いにふけっているの? そろそろお昼よ、早く中に入ってきなさい」

「ん、ごめん。 昔の君のこと思い出しててさ…」

「あら、そう…。 そんな懐かしく思うほど私は変わってしまったかしら?」

「いや、そうじゃないんだ。 昔も今も僕は君にお世話になりっぱなしだ。 そろそろ、独り立ちしてもいい頃なんじゃないかなってね」

 

 

 朝から一仕事終えた僕は、咲き誇る黄色くて背の高い花を眺めながら、集まってきた蝶と戯れながら、すぐ後ろにいる彼女を見る。赤いロングスカートにチェック柄を刻んだ彼女は短めの綺麗な緑色の髪を風でなびかせながら、不満げに口を開く。

 

 

「あなたが居候してからもう数百年はたってるのよ? 今更独り立ちなんて必要ないじゃない」

「いやほら、もうここは昔みたいに僕の命を狩りに来る奴らも少ないだろう? いい加減に一人暮らしもいいかと思ったんだけど…」

 

 

 彼女『風見 幽香(かざみ ゆうか)』は腰を下ろしていた僕の前にしゃがみこむと、目線を合わせ、その赤い瞳で僕をじっと睨む。

この行為は多分彼女に慣れていない人物がやられると、ショックで死んじゃうんじゃないかな? まあ、彼女の言う通り数百年一緒に暮らしたんだ、幽香の睨みなど僕には効かない。…少しは効く。

 

 

「幻想郷が平和なのは確かよ。でも夢蝶にとってはそうじゃない。 そりゃあ、この向日葵畑の周りは平和よ、私がいるもの。 でもここから出ると、私みたいにあなたに安全な場所を提供できるものすらいるかわからないのよ?」

「い、いやでも、幽香も女性だしさ、そろそろプライベートな空間も欲しいだろ…?」

「そんなものが欲しかったら、この数百年の間をあなたはうちで過ごしていないわ。」

 

「…!!?? いひゃい!いひゃいって!ゆーか!!」

 

 

 呆れたような顔をしながら、彼女は僕の両頬を抓る。少しでも彼女が力を入れれば、僕のような貧弱な体の妖怪はズタボロになってしまうのだけれど、幽香は僕との数百年で弱い相手に対する力加減を心得ていたらしい。

 少し意外だけれど、それも彼女と僕が決して浅い関係ではないことを示しているようで嬉しい気分になる。

 

 

「あなたは私と暮らすのが嫌なのかしら。 それとも部屋を分けて欲しいの? …どっちにしろあなたをこのまま『頑張って』って私が送り出せると思う?」

「…別に一緒なのが嫌ってわけじゃない。 幽香と暮らすのは楽しいし、でも…なんか幽香にずっとおんぶ抱っこされるのは情けなくて」

 

 

 僕は料理もできないし、戦闘なんかからっきしだ。 力も強くて、家事もできる幽香とは比べ物にならないくらい情けない存在だ。 唯一僕の仕事といえば、向日葵たちの受粉の手伝い。ただ、これは彼女が花たちと話せるように、僕が蝶たちと話せるからに過ぎない。 ただ彼らを呼べば自然と道草を食うかのように花にとまるから、実質僕は何もしていない。

 

 

「私は別にあなたになにかして欲しいなんて思ってないわ。…でも、これからも一緒に暮らしていってもいいとすら思っているのよ」

「あはは、幽香がそんなこと言うなんてね。人間たちや妖怪たちが聞いたら腰抜かすよ」

「はぁ…ええ、そうでしょうね。…もうこの話はおしまい。 ご飯にするわよ」

 

 

 あらら、幽香がため息ついちゃった。またなにか間違えちゃったのだろうか? でも機嫌が悪いわけでもないから大丈夫だと信じよう。

 幽香に手を引かれながら僕は彼女の家へ入る。数百年の時をこの家で過ごしてきたので、実質我が家のようなものだ。 だいぶ前に同じようなことを言ったら、その日は一日中幽香は鼻歌を歌っていたっけ。

多分彼女は僕に出てって欲しくないんだと思う。 依存しているわけではないし、ただ、最強の妖怪として君臨してた風見 幽香が欲してたものが家族だったってだけ。恋仲や夫婦でもない。彼女にとって僕は手のかかる弟かなにかだろう。…もしくはペット。

 

…ん? もしかしたら本当にペットなんじゃないか? だってペットには仕事なんて望まないし、家事なんてもってのほかだろ?

…やめだ、やめ。虚しくなる。

 

 

 

 

「ごちそうさま! 初めて食べた時も美味しかったけど、幽香の料理って日々進化してるよね? 日に日に美味しくなってるように感じるよ!」

「あなたは料理出来ないくせして舌だけは肥えてるんだから…」

 

 

 またまた呆れたような反応をする幽香だが、この子、ちゃんと照れてます。僕にそれを悟られないように食器を持って台所へと引っ込んでしまう。この行動は照れてる時にしかしない! なぜなら僕が定期的に彼女の料理を褒めるからだ! 初めの方こそ食べ終わったら少し談笑していたんだが、真正面に座っていることから僕に照れた赤い顔が丸見えなのだ。彼女はそれを隠すために、僕が料理を褒めるとすぐに食器類を片しに向かうんだよ。

 でも、僕も一緒に洗い物をするため、殆ど意味が無いんだけどね。

 

 

「幽香ー。どうしたのー?」

 

 

 彼女をおちょくると怖い目を見てしまうからね。ここで茶化すことなんて僕には恐ろしくてできないよ。…そういえば、僕らのこと新聞に書いてた鴉天狗の女の子、無事かな? あの時の怒気を含ませながら妖怪の山に向かっていった時の幽香を僕は忘れない…。

 確か、新聞に幽香のことサディストって書いてあったっけ? 普段僕に結構甘い気がするから、もしかしたら幽香はあることないこと書かれるのが嫌いなのかな? それはそれで面白いかも。 あ、でも、妖怪の山まで乗り込んで、「私はサディストじゃない!」って言ってる幽香を想像できないな。 でも別にサディストってことはないと思うんだけど…。面倒見良いし、たまにここら辺を飛んでる氷精にも優しいし、彼女は十分に優しいと思うんだけれど。

 

 

「…何よ? ニヤニヤしながらこっち見ないでくれる?」

「ごめんって」

 

 

 台所についてもまだ僕の表情は緩んでたみたい。

 

 

「…幽香はこれから予定でもあるの?」

「ないわ。 あ、でも久々に人里にでも行こうかしら」

「あー人里かぁ。僕もここ最近行ってないかも…着いてっていい?」

「珍しいわね。何かいる物でも?」

 

 

 僕が一緒に行くと言ったら驚いたかのように顔をこちらに向ける幽香。洗い物しながらこっち向いてるのになんで落とさないんだろ。

 

 

「いや、久しぶりにデートしようよ」

 

 

 僕が彼女にそう微笑みかけると、また彼女は驚いた表情をしながら洗剤で泡だらけになった手を片方僕に近づける。

 

 

「…ばかね」

 

 

若干照れたようにそう言いながら幽香は僕の頬をつねる。少し痛いけど、本気でやらない限り、彼女は嫌がってないんだろうな。

 

あ、デートって言ったけど、

 

決して僕らは恋仲ではないよ。




なかなかに拙い文ではありますが、これからよろしくお願い致します。

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