それではよろしくお願いしますという言葉とともに取材が始まる。同時にボイスレコーダーをオンにした。
「それではまず、この音楽祭が始まった経緯についてお聞きしたいのですが」
「そうですねえ、あれは3年前、私が商工会議所の広報担当をやっていたときです。
来年がこの市の市政執行100周年と言うことで何かイベントをということで会議になりました。」
「そこで汐裏町会長の柏尾さんという方が音楽祭をやってはどうかと提案なされました。
というのもですね、この市は平安から続く海運の町でございますが、一時期軍港としても利用されておりまして、地域住民との親睦を兼ね楽団の皆様方が定期的に演奏会を開いていました。」
「もうかれこれ25年も昔の話ですが、会議に参加された方々はみなさんそれをよくご存知です。忘れられなかったのでしょう、満場一致で音楽祭を開くことになりました。」
マジか。軍港であったという話は聞いたことがないし、下調べの時点ではそんな情報はなかった。つーか軍港は日本に5箇所しかなかったろ、確か。海上自衛隊が使っていたのだろうか。胸に浮かんだ疑問を他所にインタビューを続ける。
「なるほど、ここが軍港として使われていたのは初めて知りました。そして楽団の存在は随分と大きかったのですね。」
「そうです。私達の世代にとっては秋の風物詩でした。だから、この音楽祭もそれと同じように9月に行われるようになったのです。」
「確か写真があると思います。今は手元にないのですが、後でお見せしましょう。」
それは非常にありがたい。写真も何枚かほしいと言われているのだ。後で借り受けることも考えよう。
そこから質問が続く。開催決定からの流れや苦労、見どころをひとしきり語ってもらい、記事用の顔写真をとったあとは、個人的な質問の時間だ。社としての取材はおしまい。ボイスレコーダーもオフにした。
なので当然これは記事には乗らない。個人的な知的欲求を満たすだけのものだ。
一番気になっていたところ、いわゆるこの街の「軍港」についてをズバリ聞き質す。
「そうそう、先程この市の港はかつて軍港としても使われていたとお聞きしましたが、なぜここに新しく作る必要があったのでしょうね?」
「私が中学生の頃でしたかね、そのときできたと思いますが、噂だと隣の県の港のキャパが足りなくなってできただとか言ってました。何でも、国連軍が太平洋沖で演習作戦をするからだそうだとかと言われていましたねえ。」
なるほど、国連軍ということは世界最大の某国の原子力空母が来るわけだから納得がいく。ついでにこれも聞いておこう。過去そうだったと言われれば今どうなんだという疑問が当たり前のように湧いてくるんだから。
「ほお、そうだったのですか。ちなみに現在はどうなっているのですか?」
すると、相手が黙ってしまった。どうやら思い出すのに手間取っているようだ。ウンウン唸っている。自分が沈黙に飽きてきた頃にようやく口を開いた。
「確か…現在は完全に解体されています。施設こそ大学生の頃までありましたけども、社会人になって少ししたら重機が入って工事している様でしたから、おそらく20年も前には更地だったと思います。」
「現在、跡地にはなにかあるのですか?」
「いや、今でも更地のはずです。未だに私有地だったと思います。」
え?軍港は国のものではないのか?貸し地だとしても市に返すのがセオリーだろう。
「私有地?これまたどうして?」
「さあ?詳しいことはわかりませんなあ。取り敢えず私有地立ち入り禁止の札がずっと前からあるので私有地ですよ。」
「そうですか…わかりました。どうもありがとうございます。関係ないことまで答えてもらっちゃって。」
「いいんですよ。私も楽しかったですし。いろんなマスコミから取材を受けましたが、あなたほど積極的に話を聞いて質問してくれる人もあまりいないのでね。」
「もったいないお言葉です。では、記事の方は郵送で後ほどお送りさせていただきます。」
「はい、お待ちしております。楽しんでいってくださいね。」
そう言って二人とも席を外そうとしたとき、ふと昨日のあの漁火が気になった。質問してみる。
「そういえば、ここらへんは漁もするのですか?」
「??いいえ、ここいらでの漁はもう百年はやってないですよ。」
「わかりました。最後まですみません。」
「いいえ、大丈夫ですよ。瀧澤くんにも後で『永井がよろしくと言っていた』とお伝えくださいね。」
「あ、そうだ。先程写真を見せると言っていたのを忘れておりました。どうでしょう、今日の午後お時間があればもう一度お会いできるのですが。」
みすみす取材の機会を逃すはずもない。そもそも提案してくれたのを無下にすることもできない。了承しておいた。今日の19時、場所は駅前のファミレスということになった。晩飯が決まった。
…それにしても、あの光は何なんだろう。気にはなったが、そんなに気にすることかとも思った。
自分はホテルに帰り、パソコンを開いてインタビューの文字起こしをした。しかしその間、あの光が目の前でちらついていた。
いつまで続くかは分からぬ。