モブ崎くんに転生したので、謙虚に生きようと思う   作:惣名阿万

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第34話

 

 

 

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 救助ヘリを要請しての脱出が決まると、先の防衛戦に加わった面々は精力的に動き始めた。

 司令部に詰めていた鈴音や真紅郎らが敵の進行経路を推測し、地図に表示。防衛に当たる人間がそれぞれの地点へと割り振られていく。

 

 敵の進行経路として予想されたルートは2本。

 海岸通りに接続するターミナル方面と、桜木町駅を経由する二方面だ。

 また救助ヘリが到着した際に備え、会議場付近にも警戒要員を残すことが決まった。こちらは真由美を初め遠隔魔法に秀でた者を中心にメンバーが定められ、響子以下独立魔装大隊の分隊員と共に降下するヘリの安全確保に務める。

 

 一高からは摩利の他、花音や五十里、桐原、紗耶香らの二年生組と、深雪、エリカ、レオ、幹比古、駿らの一年生が参加する。

 ほのかや雫、美月なども名乗り出はしたものの、適性を鑑みた真由美と鈴音が後方で支援に徹して欲しいと説得したことで会議場に残ることとなった。

 

 将輝と同じく救援のヘリを呼んだ愛梨も周辺警戒への参加が決まり、栞と共に三高主体のグループに割り振られた。

 要の将輝が離脱した三高組ではあったものの、3年の風紀委員長を筆頭に闘志を漲らせる者も多く、一高に次ぐ戦力として期待されている。

 

 魔法協会が雇い入れた警備員や寿和、稲垣の警察官二人も引き続き防衛に加わる方針で、警戒警備に当たる人員の数は合計で38人に上った。

 

 

 

 一方の大亜連合軍は国防軍の来援に伴い、主力をそちらへ向けざるを得なくなった。

 

 この状況に際し、瑞穂埠頭側の7割を失った大亜連合軍機動部隊は、損耗の激しいこちらを母艦近くへ退避させることに決定。圧力を増す国防軍を埠頭近くへ誘引しつつ山下埠頭側からの増援を待って挟撃し、混乱に乗じて東京湾を脱出する戦術を採用した。

 

 この作戦を実行するため、沿岸警備隊の基地をほぼ壊滅させた山下埠頭側部隊は市街への攻撃を非正規(ゲリラ)部隊に一任。海岸沿いに西へ侵攻し、保土ヶ谷から出撃した国防軍の横腹を突くように桜木町駅付近へと展開した。

 

 歩兵戦闘車の速力と直立戦車による浸透力。この二点を要とする機動部隊にとって、最も重要なのは詳細な現況把握能力だ。

 計5機の無人偵察機がもたらす映像情報によってこれを満たした彼らは、だからこそ国際会議場に獲物が多数残っていることを掴んでいた。

 

 国防軍の救援により一時は撤退を余儀なくされたが、国際会議場を防衛する義勇軍戦力は明確に疲弊している。主力の機動部隊を回す余裕はないものの、平服戦闘員(ゲリラ)による断続的な攻撃で取り逃した戦果を拾う目は残っている。

 作戦士官の提言を受け容れた大亜連合軍司令官は、海岸通りに展開する非正規兵へ国際会議場への攻撃命令を下した。

 

 

 

 国際会議場に救助ヘリが到着するまで、およそ20分。

 間もなく午後5時を迎えようというこの時、すっかり西に傾いた日の下で防衛戦の第二幕が開こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 西の空が赤く染まり始めると、いくつものビルが建ち並ぶ通りは段々と見通しが悪くなってきた。

 

 防衛ラインの第一陣に割り当てられた僕は、先輩たちと共に桜木町駅方面から北上する敵の警戒に当たる。

 同行しているのは渡辺先輩を初めとする先輩たち。二年生が主体のメンバーで、対外的には最も安定して戦うことのできるグループだと目されている。

 

 深雪の圧倒的な制圧力を知っている身からすれば苦笑いが浮かぶものの、だからといって先輩方が心許ないというわけではない。

 渡辺先輩、千代田先輩の強さはよく知っているし、桐原先輩の白兵戦能力は校内でも有名だ。壬生先輩も剣士らしい観察力と多彩な投剣術で的確な支援ができ、五十里先輩は索敵から足止めまで様々な局面に対応する魔法を扱うことができる。

 

 原作でそうだったように、本来なら僕の援護など必要ないほどの戦力だ。こうして先輩方に付いて来たのは、千葉警部の稲垣警部補の二人が深雪側のグループに入ったから。援護役を仰せつかったからには、精々不測の事態に備えるとしよう。

 

 包囲されていた先刻とは違い、今回は近付いてくる敵の捜索から行わなくてはならない。

 敵の早期発見が求められることから、潜伏位置は国際会議場の駐車場よりも先、20m規模のビルが並ぶ通り沿いに決定した。民間人に紛れている可能性もあることから、なるべく遮蔽物の多い場所を選んだというのもある。

 

「……来たよ! 直立戦車だ」

 

 索敵担当の五十里先輩が呟く。

 地面を媒介とし、サイオンの糸を蜘蛛の巣状に広げた『陣』で直上を通過する物体を感知する魔法。刻印魔法の権威『五十里』の直系である先輩が揮うそれは、およそ半径100m以内に存在する重量物の進行を細かく捉えることができる。

 

 先輩の宣言通り、角を曲がって直立戦車が2輌姿を現した。

 あれだけ破壊したのにもかかわらず、まだストックは残っていたらしい。

 

「花音」

 

「はい!」

 

 渡辺先輩の合図で千代田先輩が魔法を放つ。

 五十里先輩の警告に合わせて組み上げられていた魔法は一瞬の遅れもなく、向かってくる直立戦車の足を液状化させた路面に捕らえた。

 

「桐原、やるぞ!」

 

「了解!」

 

 渡辺先輩と桐原先輩の二人が駆け出す。

 足を固められた直立戦車は必死に履帯を回そうとするものの、沈み込んだアスファルトはすでに固まっていてビクともしない。襲撃者の接近に気付いた時にはもう先輩たちは懐へ踏み込んだ後で、援護の魔法を撃つまでもなく二人は剣を振るっていた。

 

 渡辺先輩の《圧し斬り》と桐原先輩の《高周波ブレード》が直立戦車の装甲を斬り裂く。

 どちらも抵抗なく装甲の内側へと切り込んでいて、傍から見ただけでも防御の魔法は施されていないと判った。

 

「随分と呆気なかったな」

 

「障壁に邪魔された感じはしなかったですね。油断してたってだけかもしれませんが」

 

 実際に剣を打ち込んだ先輩たちも同じことを思ったようだ。

 不思議そうに手元へ視線を落とす渡辺先輩に、桐原先輩は同意を返していた。

 

 桐原先輩の言うように、ただ油断していただけという可能性はある。先の防衛戦で襲撃してきた直立戦車同様、『ソーサリー・ブースター』を利用した防御魔法を展開されれば撃破するのは一気に難しくなるだろう。

 一方で、もしもあの機体が非正規兵(ゲリラ)の物だとすれば、そもそも魔法への備えがない可能性もあるのだ。東欧製の払い下げ品と思われるそれには『ソーサリー・ブースター』はもちろん、魔法技能士が乗ってすらいない。

 

 ほとんど同じ見た目の機体に、これまでは在った機能がないかもしれない。

 前者の厄介ぶりを知っているだけに、相当に神経を使わされることが容易に予想できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 風間の先導で乗り込んだ大型装甲トレーラーでは、真田が達也の到着を待っていた。

 

 この日、独立魔装大隊は別の任務――魔法技術を利用した新型装備の運用試験――のために横浜を訪れていたのであって、最初から防衛に加わることが予想されていたわけではない。

 情勢のキナ臭さもあって当初の予定よりは多めに人員を伴ってはいたが、それでも隊長の風間を含めて70人に届かない程度の人数だ。これが一般の国防軍兵であれば戦局の大きな打開には至らなかっただろう。

 

 しかし、彼ら独立魔装大隊に限ってはそうではない。

 最先端の魔法技術兵器が導入された試験部隊でもある彼らは、構成人員においても他に類を見ない特殊な才能に秀でた者ばかりだ。特に魔法技能に関しては全員が特定の分野に秀でており、殊戦闘に限ってはA級ライセンス保持者をも上回る戦果を挙げ得る。

 

 達也の乗り込んだトレーラーには、そんな独立魔装大隊の隊員向けに新開発された装備が、出撃した隊員の人数分以上に用意されていた。

 

「防弾、耐熱、対BC兵器はもとより、簡単なパワーアシスト機能も設計通り付けておいたよ。飛行ユニットはベルトに仕込んである。緩衝機構と組み合わせて射撃時の反動相殺としても機能するよう作っておいたから、空中での射撃も可能だ」

 

「お見事としか言いようがありません。自分が設計した以上の性能ですね」

 

「いや、僕もいい仕事をさせてもらったよ」

 

 満足げに唸った真田が達也に手を差し出すと、達也の方も快く握手へ応じた。

 ガッチリと手を握り交わした真田はそのまま顔を達也へと寄せ、周りの士卒に聞かれないよう囁く。

 

「ところで、少し前に例の森崎くんに会ったんだ。興味深い魔法を使っていたから、伝えておこうと思ってね」

 

 突然の奇行で咄嗟に身を引きかけた達也は、駿の名前が出るに至って表情を変える。

 同じように声を潜め、口の動きすらも最小限に止めて続きを促した。

 

「興味深い魔法? 大尉がそう言うとなると、余程のものだったのでしょうね」

 

「実際に使われるのを初めて見た。というより、世界でも初めての例じゃないかな。実践レベルでの使用が確認されたのは」

 

 公私において魔法技術の利用研究に努める真田がここまで言うのだ。

 少なくとも公にされている範囲において、世界初の観測事例なのだろう。

 

「『固有時間の操作に関する研究とその利用について』。10年近く前に発表された理論だけど、もしかすれば君も聞いたことがあるかもしれないね」

 

 真田の口にした論文の名前に、達也は少なからず衝撃を受けた。

 

 その論文の名を、達也は確かに聞いたことがある。

 『時間』という限りなく不変に近い基軸へ挑もうとした意欲的な試みとして。

 そして、()()()()()()()()()という結論が出された、永続未完の理論として。

 

(森崎、お前は一体……)

 

 最新式の戦闘服――ムーバル・スーツを着込む間、達也の脳裏には友人の後ろ姿が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

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 警戒していた真由美たちの懸念をよそに、脱出への経過は順調そのものだった。

 

 警戒警備に当たっているメンバーからは続々と接敵の報告が上がっているものの、現状の戦力で問題なく対処することができている。

 交代で休息を取る余裕もあって、防衛線が崩壊する可能性は低い。もしもの場合に備えて用意していた救援要員も呼ばれることがないまま、ヘリの到着に備えて警戒する時間が続いていた。

 

 このまま全員無事に運んでくれたら。

 真由美が内心で願いを呟くと、それに呼応したかのように何処からかヘリのローター音が聞こえ始めた。

 当初は豆粒サイズにしか見えなかった機体が徐々に大きくなるにつれて周囲から歓声が上がる。

 

 人知れず安堵の息を漏らした直後、《マルチスコープ》の視界に大きな影が映った。

 

 驚き振り向いたのも束の間、赤黒い西日を浴びて一台のトレーラーがビルの間から飛び出す。

 会議場前の広場へと飛び込んできたトレーラーは防衛に当たる人間の間を割って抜け、まっすぐに正面入り口へと迫った。

 

 防衛側からも動きを止めるための魔法が多数放たれたものの、慌てたことで生じた魔法の相克に加え、運転席から発せられる防御の魔法により足を止めるには至らない。

 真由美の必死の攻撃によってタイヤを破裂させた時にはもう遅く、トレーラーは横転しながら時速80km近い速度で正面入り口へと突っ込んだ。

 

 激しい衝撃。続いて爆発音が轟く。

 

 荷台へ可燃性の物体を積んでいたのだろうか。

 火柱を上げたトレーラーはそのまま炎上を始め、周囲へ熱と煙を振り撒き始めた。

 

 

 

 

 

 

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 一方、国際会議場の内部ではゲリラによる攻撃が判明してからというもの、残った人員がヘリの到着に向けて慌ただしく動き回っていた。

 

 間もなく最初の一機が到着する。

 そんな報せを受けた館内では、誰が指示するまでもなくヘリポートのある屋上へ怪我人を運ぶ列ができた。

 

 決して慌てることなく、けれど迅速に。先の戦闘を経験した者ほど冷静さを保っていて、重傷者が集められた第一控え室から怪我人を連れ出していく。

 担架で運ばれる者、肩を借りて歩く者などが見られる中、地下からの脱出が果たせなかった残りの避難者もこの時点では大人しく待機を続けていた。

 

 しかし、正面入り口で爆発が轟いてからは状況が一変する。

 

 爆音と衝撃で恐慌状態に陥った人間が、我先にと逃げ惑い始めた。

 怪我人を乗せるためのエレベーターに殺到し、肩を借りて歩く負傷者を押し退けて、ヘリポートのある屋上へと走る。パニックになった集団を落ち着けるのは不可能に近く、必死に押し留める学生を突き飛ばして何人もが駆けていった。

 

 他方、爆発のあった正面入り口では消火作業が行われていた。

 粉末消火器や魔法による消火作業を行う者の中には警備隊員の他、避難の遅れていた一般生徒の姿もあり、協同での作業が功を奏して早期に鎮火させることができた。

 

 延焼が続けば更なる怪我人が出ていただろう。

 多数の学生の協力で被害は未然に防がれ、消火に携わった面々は誰からともなく奮闘を称え合った。

 

 そうして団結を深めたところへ、混乱に乗じ侵入したゲリラによる銃撃が行われた。

 

 避難する人間に紛れるためか、使われたのはハイパワーライフルではなく拳銃だった。

 それでも咄嗟の状況で《対物障壁》を間に合わせることが出来た者は少なく、消火作業に当たっていた学生の内何人かが被弾して倒れた。無傷で済んだ学生も一部はゲリラの手によって引き起こされ、反撃を妨げるための盾とされてしまった。

 

 人質を手にしたゲリラはそのまま指令室へと足を向ける。

 連絡手段を奪い、前線で戦う人員との連携を断つ目的なのだろう。悲鳴の飛び交う通路を母国語で恐喝しながら通り過ぎ、間もなく指令室へたどり着くところまでやってきた。角を曲がり、悲鳴を上げかけた女生徒を拳銃で黙らせ、指令室のある通路へと踏み込む。

 

 次の瞬間、物陰から飛び出した学生によって、ゲリラの一人が押し倒された。

 

 動揺した残りの二人へ、機を窺っていた学生から魔法が放たれる。

 咄嗟に人質を盾にしようとするも人質自体が魔法によって引き離され、盾を失ったゲリラは魔法の猛威に晒された。

 

 感電し、圧縮空気に打たれたゲリラ二人が倒れる。

 最後の一人は未だ押し倒した学生と揉み合いを続けており、迂闊に魔法を撃てない状態だった。このままでは危険だと、周囲の何人かが加勢のために駆け出した。しかし――。

 

 ゲリラの抜き放ったナイフが、揉み合いを続けていた少年の脇腹へと突き刺さった。

 

 呻きを漏らしながら、それでも男を放そうとしない少年。

 一拍遅れて駆け寄った学生がゲリラの腕を蹴り上げ、ナイフを手から奪う。

 立て続けに学生たちが覆い被さり、抵抗の術を失ったゲリラはついに捕縛された。

 

 侵入したゲリラがすべて拘束されると、すぐに怪我人の応急手当てが始まった。

 拳銃に撃たれた3人が運ばれ、ナイフに貫かれた少年もまた止血を受けながら屋上へ担架で運ばれていった。

 

 勇敢な少年を死なせてはならないと、その場の誰もが想いを同じくしていた。

 消火作業へ当たった末に撃たれた3人を助けようと、到着したばかりのヘリへ最優先で乗せられた。

 あれほど恐慌していた者たちも目の前に重傷の若者が運ばれてくるにつれ頭が冷えたようで、誰一人として彼らを押し退けて搭乗しようと企てる者は出なかった。

 

 およそ5分を掛けて重傷者の搬入が行われ、間もなく機体のハッチが閉じられる。

 

 午後5時16分。

 日が沈み、月明りへと変わりつつある空へ最初の輸送ヘリが飛び立った。

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 
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