モブ崎くんに転生したので、謙虚に生きようと思う   作:惣名阿万

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第36話

 

 

 

 ● ● ●

 

 

 

 深雪たちのグループを回収した戦闘ヘリが摩利たちの担当する防衛地点へ到着した時、彼らは魔法師混じりの歩兵部隊から猛攻撃を受けていた。

 絶え間なく撃ち込まれるライフル弾やロケット弾を五十里が逸らす間に摩利と花音、紗耶香の三人が反撃の魔法を放ち、瓦礫や建物の陰に潜む魔法師を一人ずつ駿と桐原が打ち倒す。攻め寄せる敵を前に懸命の抗戦を続ける彼らはしかし、誰もが疲労の色濃く見えた。

 

 状況を認識した真由美はすぐに援護の魔法を放った。

 様々な角度から撃ち込まれるドライアイスの弾丸が物陰や建物に潜む敵兵のことごとくを捉え、敵兵はどこから魔法を撃たれているのかも判らぬまま倒れていく。

 空中から地上への攻撃、それもほのかの展開した光学迷彩に隠れてとあって反撃の一つも受けることなく、真由美の魔法は僅かな時間で敵部隊を制圧した。

 

『お待たせ、摩利。ロープを下ろすから上がってきて』

 

 さらりと言ってのける真由美に釈然としないものを感じながら、摩利は彼女の言に応じて他のメンバーへ声を掛ける。

 五十里と花音、桐原と紗耶香の二組が疲れと安堵を滲ませて歩みよる一方、駿は独り敵の倒れ伏した瓦礫の陰を睨んでいた。手にした拳銃形態のCADはすぐにでも起動式を読み出せるよう起動状態が保たれている。

 

 何か気掛かりでもあるのかと、摩利は制圧されたはずのそこへ目を向けた。

 

 直後、計10人の歩兵が新たに角を曲がって現れた。

 銃口はまっすぐに自分たちを捉えていて、引き金を引くまさにその瞬間だった。反射的に動いた手がCADへ伸びるものの、対処が間に合わないのは明らかだった。

 

「全員伏せろ!」

 

 咄嗟に叫んだと同時、摩利は立ち塞がった影によって押し倒された。

 自然と受け身の姿勢を取った身体が路面に落ちる間際、庇った相手の横顔が目に映る。

 

 真剣な表情のまま、苦悶の一切を覗かせることなく襲撃者を見据える駿。

 不自然なほどに落ち着いた彼の左手は、肘から先が断たれて無くなっていた。

 夥しい量の血が流れ、路面に赤黒い点線を引きながら、駿はけれど足を止めることなくゲリラへ向けて駆けだした。

 

 残った右手に警棒を握り、砲弾のごとき速度で奇襲を掛けた相手の眼前へ飛び込む。

 

 瞬く間に迫る駿を大亜連合の兵は目で追うことすらできなかった。

 瞠目するばかりの敵を跳び越えた駿は着地と共に振り返り、路面へ落ちる途上の滴血ごと3人を薙ぎ倒す。諸共倒れた3人は瓦礫へ強かに打ち付けられ、何が起きたかわからぬまま意識を失った。

 

 悲鳴もないままに倒れた3人を置いて、駿は次の一団の背後へと迫る。

 狙われた兵は仲間が打ち倒されたことにすら気付かぬまま、後背に回り込んだ駿によって銃を握った腕を折られ、立て続けに与えられた激痛に意識を塗り潰された。

 同じ光景が最後の一か所でも繰り返され、襲撃者は一人の例外もなくアスファルトへ倒れ伏した。

 

 およそ5秒。

 奇襲した10人が倒れるのに掛かった時間は、たったそれだけだった。

 

 何が起きたか理解できたのは、その場では摩利だけだった。

 《自己加速》による高速戦闘に慣れていなければ目で追うことすらできなかっただろう。

 摩利自身、一部始終を把握できたのは偶然だと感じていた。たまたま襲撃者の方を見ていたから、駿が敵を圧倒する様子を捉えることができたのだと。

 

 今度こそ脅威が去り、力尽きたように駿が倒れ込んだ。

 先んじてヘリから飛び降りた深雪が駆け寄り、頭上からは駿の名を呼ぶ声が響く。

 我に返った摩利はすぐに駆け寄ろうとして、背後から聞こえた悲鳴に足を止めた。

 

 負傷したのは駿だけではなかった。

 

「啓! 啓‼」

 

「桐原くん! しっかりして‼」

 

 悲痛な声に振り向くと、花音と紗耶香の二人がそれぞれのパートナーへ縋りついていた。

 

 仰向けに寝かされた桐原は右足の太腿から先が千切れていて、激痛に呻く桐原へ紗耶香が必死に声を掛けている。

 一方の五十里は花音へ覆い被さるように倒れており、背中には弾丸の突き刺さった痕が残っていた。出血は止まる気配がなく、意識すらも覚束ない様子は致命傷を思わせるに十分な姿だ。

 

 そして、左手を失った駿もまた生存は絶望的な状態だった。

 ズタズタに引き裂かれた肉の内からは骨が覗き、赤黒い血が止めどなく流れ続けている。余程体温が高いのか全身からは薄っすらと湯気が立ち上っていて、噴き出した汗は制服のインナーを重く湿らせた。

 

 倒れたまま動かぬ駿にヘリから降りた雫が駆け寄り、震える手で上体を抱き起こす。

 

「だめ、だめだよ! こんなのって……!」

 

 傍らに立つ深雪は沈痛な面持ちで駿を見下ろしていた。

 顔を上げた彼女は桐原と五十里へも視線を巡らせると、握った手を胸に当てて俯く。

 

 短い逡巡の後、深雪は顔を上げ、愁いを帯びた容貌を空へと向けた。

 

「お兄様!」

 

 視線の先には着地姿勢を取る黒尽くめの兵士がいた。

 

 降り立った兵士がフルフェイスマスクの前面を開く。

 目から口元までが露わになり、ようやくその兵士が達也だとわかった。

 厳しい顔つきで頷いた達也はすぐに五十里のもとへ駆け寄った。

 

「お兄様、お願いします!」

 

 兄を追って五十里のもとへ来た深雪が達也の右手に縋りつく。

 呆然とする一同を前に達也は表情を変えず、左腰から抜いた拳銃型CADを五十里へ向けた。

 

「何するの!?」

 

 咄嗟に花音が叫ぶも達也が止まることはなく。

 銀色のCADの引き金が引かれる。

 

 事象を改変する『魔法』では起こり得ない『奇跡』がその真価を発揮した。

 

 《分解》と共に生まれ持った、達也のもう一つの異能――それが《再成》。

 

 対象とするエイドスの変更履歴を遡り、損傷を受ける前の状態を複製。現在のエイドスに上書きし、損傷を()()()()()()()()()魔法だ。

 生物、非生物の隔てなく回帰可能なこの魔法は、対象がすでに死亡している場合を除き即座に効果を発揮する。

 

 五十里の背中に埋まっていた弾丸が抜け、『当たらなかった』とされたそれが傍らの路面に落ちる。

 傷跡はおろか制服の裂け目すら残ることなく、無傷の五十里が困惑の声と共に起き上がった。

 

 何が起きたのか理解できず息を呑む一同を置いて、達也は再度引き金を引く。

 

 視覚効果はこちらの方が鮮やかだっただろう。

 数メートル先に飛ばされた脚が独りでに動き、逆再生しているかのように桐原の大腿部へと繋がった。飛び散った血の跡も消えていて、唐突に痛みが消え戸惑う桐原へ紗耶香は訳も判らぬまま縋りつく。

 

 誰一人意味のある言葉を発することができなかった。

 目の前で繰り広げられた『奇跡』にただ圧倒されることしかできなかった。

 

 異様な静けさが落ちた中にあって、けれど達也だけは止まらない。

 五十里と桐原が何事もなかったかのように起き上がるのを待つまでもなく、深雪に腕を抱かれたまま確かな足取りで駿の元へと向かった。

 

「止せ……司波……」

 

「達也さん!」

 

 駿自身の力ない制止で止まることはなく。

 泣きすがる雫の声に応えて、達也は三度(みたび)引き金を引いた。

 

 重傷を負わされた駿の構造情報を参照し、エイドスの変更履歴を辿る。

 

 それは謂わば被術者が経験した『痛み』の追体験。

 負傷から現在まで続いた苦痛を極短時間に圧縮して読み取る作業は、長年の鍛錬で痛みへの強い耐性を持つ達也であっても痛苦を免れられない手順だ。深雪が兄の腕を抱えて離さないのも、そうした事情を知るが故のこと。

 

 それでも、達也が表情を歪めるほどの事態はほとんどない。

 多くの痛覚を克服した達也にとって、苦悶を漏らすような痛みはまずありえない。

 たとえ胸を撃ち抜かれようと、超高温のプラズマで片腕を炭化させられようと、痛みを理由に足を止めてしまうことはない。

 

 だからこそ、達也が呻きと共にCADを取り落としたことには大きな意味があった。

 

「お兄様!?」

 

 誰より驚愕したのは深雪だろう。兄の事情を知り、兄の能力を誰より評価している深雪だからこそ、()()()()()()()()()()の異常さに気付いていた。

 

 震える左手を見下ろす達也を支えながら、起き上がった駿を視界の端に捉える。

 《再成》によって腕の繋がった駿は表情のないまま左手を握る動作を繰り返していて、痛みの残滓はおろか自身の身に起きた『奇跡』にすら興味がないようだった。

 

「やはり、お前は……」

 

 呟く声が聞こえて、深雪が兄へと注意を戻す。

 囁くよりも小さな声は自然と転がり出たもののようで、深雪が拾っていることにすら達也は気付いていないようだった。

 

「お兄様、今のは――」

 

「驚異的な魔法だな。ありがとう。助かったよ、司波」

 

 深雪の呟きは駿の声に押し流され、誰の耳にも届くことはなかった。

 

「間に合ったようで、何よりだ」

 

 顔を上げた達也は直前までの表情を嘘のように収めていた。

 妹を促して腕を放させた達也はCADを拾い上げると、深雪の頭を胸に抱き寄せた。

 

「よくやった」

 

 妹の疑問に気付かぬふりをしたまま、達也は深雪へ褒賞の言葉と抱擁を送る。

 兄の思わぬ行動に硬直する深雪。自然と頬が熱くなり、高揚が胸に溢れる一方、頭の奥には先程の驚愕が焼き付いていた。

 

 達也が苦悶を漏らしたのに対し、駿は痛みなどないかの如き振る舞いだった。

 《再成》の特性上、達也が受ける痛みの密度が負傷者以上になるのは仕方のないことだが、片腕を吹き飛ばされた直後にしては駿の反応は淡白が過ぎる。

 

 痛覚が鈍いのか、或いは痛みへの耐性が高いのか。

 後者だとして、兄に勝るとも劣らぬ耐性を如何にして持ち得たのか。

 

 深雪の抱いた疑問は、前線へ向けて飛び立つ兄を見送った後も消えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 達也が飛び去る頃合いになると、徐々に『感覚』が戻ってきた。

 負傷した腕にはすでに痛みもなく、『撃ち飛ばされた』という知識だけが残っている。何かしら後遺症があれば実感も湧くのだろうが、彼の《再成》が状態の復元である以上、それも起こり得ない。

 

 申し訳ないことをしたと、そんな考えが頭に浮かんだ。

 先行きのない者のために無用な負担を被る必要はない。そう思って止めようとしたのだが、結果的に《再成》を使わせてしまった。

 

 あの魔法を使われた以上、達也は僕の状態を()()()()()

 経過時間を大幅に超える変更履歴を抱えたエイドスと、そこに残された痛覚情報。今の達也が読み取れるのは肉体に付随するエイドスのみなので、僕の反応との間に大きなギャップを感じるかもしれない。

 

 魔法の正体については遠からず暴かれるだろう。固有時間の操作に関する論文はマイナーだが、過去のデータへアクセスするのは誰にでもできることだ。シルバーの一面を持つ達也であればすでに知っている可能性すらある。

 

 問題はその後。生体刻印術式にまで辿り着くかどうかだ。

 正直なところ、こちらに関してはわからないとしか言いようがない。常識的なやり方では実現不可能という結論はすぐに出るだろうが、プシオン情報体(パラサイト)のことを知らない今の達也がその発想に至るかどうかは未知数だ。

 逆に言えば、一度プシオン情報体(パラサイト)を観測しさえしてしまえば、あとは時間の問題だ。生体刻印術式のことはもちろん、『僕』の正体についても理解するに違いない。

 

 どの道そこがタイムリミットだろう。

 散々手を焼かされる以上、似たような存在を放置はすまい。

 『人ならざるモノ』を内に抱えている限り、達也はきっと『僕』を見逃さない。

 

 

 

 動作確認のために開閉していた左手を下ろす。

 脅威が去ったことを改めて確認し、溜まっていた息を深く吐き出した。

 

 直後、独りでに膝が折れ、支える間もなく上体が横倒しになった。

 咄嗟に突いた右腕にも力が入らず、代わりに鈍い痛みと多量の汗が全身から滲んでくる。起き上がろうにも身体は脱力したままで、仰向けに転がるのが精いっぱいだった。

 

 激しい頭痛と全身の引き攣り、そして身体に籠った熱。

 すべて《疑似・固有時間加速》を使った反動によるものだ。達也の《再成》でもこればかりは元通りにすることができないらしい。

 肉体のエイドスは復元できても、精神が固有時間と絶対時間の位相差を認識している限り、無意識がこれを埋めようと働く。

 

 結果、心臓を初めとする臓器には不規則な動作が発現し、全身の血管が過度な収縮を起こしていた。

 血流が安定しないせいで脳の活動も減退し、短時間の内に酷使されたと錯覚した筋肉も痙攣を引き起こしている。

 肺すらも機能不全に陥るので、必然的に呼吸は乱れた。

 

「しっかりして!」

 

 身体を引き起こされて初めて、雫が涙を浮かべていることに気付いた。

 彼女が傍にいることは知っていたのに、その表情までは見ていなかった。

 

 今も雫が泣いているとわかっていながら何の衝動も湧いてはこなかった。

 ただ『雫が泣いている』と理解できるだけだ。

 

 彼女の表情も声も見えていて、聞こえていて、背中に触れた手で支えられていることもちゃんとわかる。

 

 けれど、それらすべてに現実感がなかった。

 まるで立体映像を見ているような、そんな隔絶感。

 痛みへの苦しみも、傷つけた人への罪悪感も、大切な人への感謝でさえ湧き上がってはこなかった。

 

「大丈夫。少し立ちくらみがしただけだ」

 

 言いつつ身体を起こす。

 口を衝いて出た言葉も、それが最適な回答だと推測したから。『森崎駿』のパーソナリティであればこの場面における回答はこれだと、機械的に判断したに過ぎない。

 

「少し時間を置けば問題ない。心配してくれてありがとう」

 

 そう言っても、雫は納得しなかった。

 赤くなった目をジッと細めて、間近から覗き込んでくる。

 

「……本当に大丈夫なの? だって、あれだけ大怪我していたのに。今だってそんなに苦しそうなのに」

 

「これは怪我とは関係ない、一時的なものだ。だから大丈夫。――ほら、もう立てるようにもなった」

 

 答えながら息を整えて、震えの収まった足に力を込める。

 まだ筋肉は固まったままだが、立ち上がるのに支障はなかった。

 

「行こう。先輩たちが待っている」

 

 吊架されたロープの傍で待つ渡辺先輩を示して、そのまま手を差し出す。

 

 伸ばした手に視線を落とした雫は一度こちらの目を見ると、キュッと眉を寄せて顔を逸らした。

 結局伸ばした手が取られることはなく、彼女はすぐ傍をすり抜けていった。

 

 咄嗟に被った仮面があまりに酷い表情(もの)だったと。

 それに気付いたのは、ヘリに乗り込んで間もなくのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ● ● ●

 

 

 

 国際会議場からの警告の甲斐もあってか、魔法協会の組織した義勇軍は大亜連合軍機動部隊を相手に善戦を続けていた。

 火力と兵数で上回る侵攻軍に対し、高低差と地の利を活かし各個撃破することで敵の進攻を阻止する。魔法という隠密性と即応性に優れた武器を用いたからこその戦果で、通常兵器主体とはいえ数で圧倒的に勝る敵を相手によく持ち堪えていた。

 

 しかし攻撃が始まっておよそ1時間が経過すると、戦線は次第に押し込まれ始めた。

 

 機械式の機甲兵器を駆る敵に対し、義勇軍側はほぼ全員が生身の人間だ。

 魔法は使うほどに疲労が溜まり、兵数で劣る義勇軍はその影響が顕著に出てしまった。

 

 日没を過ぎる頃にはベイヒルズタワーのある丘陵に義勇軍のほとんどが押し込まれるに至っていた。

 瑞穂埠頭側の部隊が国際会議場の制圧に失敗し、焦りを抱いた大亜連合側がこちらの目標だけでもと出来る限りの戦力を投入したという事情もある。

 戦力差は歴然。士気の高さも侵攻軍に傾きつつあり、陥落は時間の問題かと思われた。

 

 克人と将輝が救援に駆け付けたのは、まさにその時のことだった。

 

 

 

 敵車両の包囲が進む状況下、魔法でグリップ力を強化されたオフロード車が強引に急坂を登頂し、ベイヒルズタワーの入り口に乗り付ける。

 敵の奇襲かと身構えた義勇軍魔法師たちはしかし、車を降りた相手が魔法科高校の制服を纏っていることに気が付いた。

 

「十文字家代表代理、十文字克人です」

 

「一条家嫡男、一条将輝です」

 

 先んじて名乗った二人の家名に、応対した魔法師が驚愕を浮かべる。

 国内最高峰の魔法師と名高い『十師族』の中でも特に武勇に秀でた二つの家だ。未だ学生とはいえ、その実力は義勇軍の中でも頂点に位置するだろう。

 

「我ら二名は義勇軍への参加を希望します。ついては代表者のもとへご案内頂きたい」

 

 恐縮する青年魔法師に連れられて魔法協会関東支部へと入った克人たちは、難色を示す協会職員の代表を説き伏せて義勇軍参加を承認させた。

 

 有事の際に備えて保管されていた魔法師用の戦闘服に着替え、簡易なプロテクターをも身に付けた二人はそのまま戦闘の続く前線へと歩み出る。

 

「一条、やれるな?」

 

「もちろん。いつでも行けます」

 

 眼下で繰り広げられる戦闘を前に声を掛け合い、どちらともなく駆け出す。

 最前でガトリング砲を放つ直立戦車へ向け、まずは克人の魔法が牙を剥いた。

 

 直立戦車の頭上に出現した《対物障壁》が展開された魔法防御ごと鉄の巨体を押し潰す。

 すぐ後ろに並んでいた直立戦車もまったく同じ運命を辿り、立て続けに撃破された2輌の後方では歩兵戦闘車が内部から爆発四散した。

 

 搭載されていた火砲の弾薬に引火し、激しい炎が上がる。

 恐慌する敵兵を前に困惑を覗かせた義勇軍魔法師たちは、直後に轟いた一喝に残らず振り向いた。

 

「奮い立て、魔法を手にする者たちよ。卑劣な侵略者から祖国を守るのだ!」

 

 突如として現れた青年が誰なのか、彼らのほとんどは知る由もない。

 だがその大柄な体格と滲み出るサイオンの輝きは、頼もしく思わせるに十分な威容を放っていた。

 『クリムゾン・プリンス』として知られる将輝の存在も、彼らの士気高揚に大きく貢献しただろう。

 

 二人の若き勇将を迎えた義勇軍は以降、破竹の勢いで大亜連合軍機動部隊を撃破し始める。

 

 忍び寄る猛虎の眼光に気が付かぬまま――。

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 
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