モブ崎くんに転生したので、謙虚に生きようと思う   作:惣名阿万

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第40話

 

 

 

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 午後6時30分。

 駿の見張りを兼ねた留守を雫とほのか、名倉の三人に任せた真由美たちは、ヘリポートから階下へと続く非常階段に向かった。

 

 途上、真由美は一行を二つのグループに分ける判断を下す。

 入り口前での迎撃に当たるグループには自身と摩利を中心に実戦経験の多いメンバーを選出し、対する魔法協会支部の防衛を務めるグループの中核には深雪が指名された。

 

 その圧倒的な事象干渉力で広範囲を塗り潰す彼女の凍結魔法は強力な矛にも盾にもなる一方、強力過ぎて味方の魔法発動までも阻害してしまうという弊害がある。敵が非魔法的な銃火器を使用していることを考えれば乱戦の最中に投じるのはリスクが高い。

 他方、単身での制圧力は群を抜いて高く、拠点の防衛においては真由美や摩利をも凌ぐ能力を持っている。魔法協会支部を守るための砦役としてこれ以上ないほどの適任者であり、その適正と実力について疑問を抱く者は一人もいなかった。

 

 唯一弱点になり得る接近戦への対策として護衛役に桐原と紗耶香が、奇襲や隠形への対策として美月が同行することに決まり、四人は残りのメンバーと別れ魔法協会支部のあるフロアで真由美たちと別れたのだった。

 

 襲撃への対応で人のいなくなった廊下を進む深雪たち一行。

 静かな中に足音だけが響き、肌を刺す緊張感も否応なく高まる。

 荒事への耐性がない美月や実戦経験の少ない紗耶香が忙しなく周囲へ視線を配る一方で、桐原と深雪は警戒こそしながらも落ち着いた表情で歩を進めていた。

 

 真由美たちと別れてからおよそ5分。魔法協会支部まで間もなくといったところ。

 このまま襲撃を受けることなく辿り着ければと、女性陣が内心に抱いたその時、最前を歩いていた桐原がふいに立ち止まった。

 

「どうしたの?」

 

 警戒心を露わに訊ねる紗耶香。

 歩み寄ろうとする彼女を手で制した桐原は肩越しに振り返るなり、「見ない方がいい」と後ろの三人へ告げた。

 

 何を、と呟いたのは美月だけだった。

 即座に眉を寄せた深雪に続き、一拍遅れて紗耶香も真意に気付く。

 

 ハッと表情を固めた女性陣を残し、桐原は一人通路の先へ。

 ゆったりとした曲線を描く廊下の中央。非常時ということもあって薄暗いそこに横たわる人影へ、左手の刀へ手を掛けながら慎重に歩み寄る。

 

 倒れていたのは中年の男だった。

 夥しい量の血の内へ横たわる身体に生気はなく、出血量から見ても死亡していることは間違いないだろう。手首へ指先を当てた桐原も首を振り、すでに亡骸となっていることを知らせた。

 

「体温は下がってない。まだそれほど経ってはいないだろう」

 

 忠告したにもかかわらず歩み寄ってきた三人へ、桐原はやれやれといった口調で説く。

 実際唾を呑む紗耶香の後ろでは美月が目元を歪めていて、それでも二人は顔を逸らすことなく凄惨な光景に向き合っていた。

 

 一方の深雪は目の前の惨状に眉こそ寄せながらも、怯むことなく思考を巡らせる。

 

 目の前に倒れている男が何者なのかはわからない。

 容貌からはどちらの国の人間かはわからず、服装も街中の市民と変わらない。

 魔法協会の人間か。はたまた市民に扮したゲリラか。どちらにせよただの一般人ではないだろう。体格は大柄というほどではないが筋肉量が多く体つきに無駄がない。

 

 或いは先んじて侵入した敵軍の兵かもしれない。

 深雪がそこまでを推察したタイミングで、遺体を調べていた桐原が疑問の声を漏らした。

 

「妙だな。こいつに残っている傷、これは刀傷だ」

 

 刀傷と聞いて、紗耶香もまた桐原の対面に歩み寄る。

 桐原は男の背中と首に残っている傷を指差し、それが鋭利な刃物によるものだと説明していった。

 

「銃弾や魔法ではなく、刃物で付けられた傷ということですか?」

 

「ただの刃じゃない。短刀よりずっと長い、刀で付けられたものだろう」

 

 深雪の問いに声だけで応じた桐原が男の肩を引いて仰向けに転がす。

 赤く染まったシャツが表になり、おずおずと窺っていた美月が口元を抑えた。

 後輩の様子に若干の同情を浮かべながら、桐原は男の胸元を示して続ける。

 

「見てみな。この胸の傷、こいつは背中から胸にかけてをまっすぐに貫通している。ナイフなんかじゃこうはならない。最低でも刃渡りが40cm、背中の傷口が潰れてないのを考えるともっと長いはずだ。これだけ長くて細い傷が残るのは刀だけだろうよ」

 

 剣術家らしい推理に納得を示して、深雪は右手を(おとがい)へと当てる。

 

「刀……。加害者は日本人ということでしょうか」

 

「どうだかな。このご時世、刀を使う外国人もいないわけじゃない。刀傷ってだけで日本人の仕業と決めつけるには早いと思うぜ」

 

 立ち上がった桐原はそう言いつつ、「持っててくれないか」と自身の刀を紗耶香へ差し出した。意図を察した紗耶香はくすりと口元を綻ばせ、両手で彼の得物を受け取る。

 

 疑問を浮かべる深雪と美月の前で、無手になった桐原は制服の前ボタンを外し始めた。

 困惑する後輩の視線を気にする素振りもなく、至極真剣な面持ちで上着を脱いだ桐原はそれを仰向けの男の胸元に被せる。生々しい傷痕が制服の下に隠れ、恐怖に耐えていた美月は自分でも気付かぬほど小さな安堵を漏らした。

 

「魔法協会の人かしら。相当な実力者よね。急所を一突きだなんて」

 

「だな。ロクに抵抗した跡がない。多分、奇襲を受けてそのままってとこだろう」

 

 預かっていた刀を返す紗耶香の表情は同性の深雪から見ても魅力的なものだった。

 間近に見た桐原がネクタイを緩める仕草で恥じらいを誤魔化す。それすら紗耶香にとっては好意的に映り、一層深まった笑みから逃げるように桐原が顔を逸らした。

 

「味方、なのでしょうか?」

 

 故に、美月が漏らした不安は彼にとって気を紛らわすのに最適だった。

 

「そう願いたいね。なんせこれだけの腕だ。気付いた時にはあの世でしたー、なんてことにもなりかねない」

 

「もう、縁起でもないこと言わないでよ」

 

 紗耶香の苦言にも満たない言葉を最後に一行は再び魔法協会支部へ向けて歩き出す。

 弛緩した意識を切り換えて警戒に努める間、深雪の頭には桐原の口にした推察が棘のように残っていた。

 

 刀を使う、恐らくは日本人であろう襲撃者。

 大亜連合の軍人と思われる相手を抵抗の暇も与えずに殺傷する腕を持ちながら、味方かどうかも定かでない正体不明の剣士。

 

「美月、少しでも気になることがあったらすぐに知らせて」

 

 改めて注意を促す彼女の脳裏には、兄から伝え聞いた青年の名前が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 ● ● ●

 

 

 

 

 

 

 防衛組と別れた真由美たちが一階まで降りると、襲撃部隊はすでにベイヒルズタワーの入り口付近にまで迫っていた。

 今も魔法協会の防衛に残った義勇軍が必死に抗戦しているものの、呂剛虎を始めとした大亜連合軍部隊の進行を止めることはできていない。国防軍の援軍もまだ到着しておらず、数で劣る協会所属の魔法師たちは継続的な後退を強いられていた。

 

 協会側の劣勢を見て、真由美たちはすぐさま戦列へと加わった。

 

 最初に動いたのは《マルチスコープ》でいち早く状況を掴んでいた真由美。

 敵から見える位置まで敢えて進み出た彼女は、得意の遠隔射撃魔法を存分に揮う。

 

 ドライアイスの弾丸が敵部隊の両側面から殺到し、多くの兵が激しく身を打たれた。

 精鋭だけあって脱落者は少なかったものの、一塊で動いていた呂と他の兵とがはっきりと分断される。

 

 歩調の乱れた敵集団へ、五十里、花音、幹比古の魔法が立て続けに放たれた。

 振動でバランスを崩された兵士が続く移動魔法で吹き飛ばされ、降り注ぐ雷撃に撃たれた数人が倒れる。

 最前の呂を避けて放たれた魔法は魔法的素養の低い兵を着実に打ち倒し、一人また一人と敵勢力を削いでいく。

 

 学生の身でありながら世界屈指の遠隔射撃魔法を操る真由美。

 その脅威を肌で感じ取った呂は、彼女を最優先の排除対象と認めた。

 

 分断された味方の守りを諦め、眼前で右手を掲げる真由美に対し獲物を定めた呂が駆け出す。

 バリケードに隠れた他の魔法師には目もくれず一直線に前傾姿勢で走る身体へ《ドライ・ブリザード》の氷弾が集中するものの、『気』の鎧で身を固めた相手にはかすり傷一つ付けられない。

 

 そうして単騎で迫る呂に、横合いから二人の剣士が攻めかかった。

 

 不意の接近に気付いた呂が先に振り下ろされたエリカの大刀を両腕で受け止める。

 極大化された慣性質量による唐竹割にはさすがの呂も足が止まり、瞬間的に1tにも及ぶ重量が足元の路面を大きくめくれ上がらせた。

 

 それでも、中華伝来の古式魔法が込められた呪法具『白虎甲(パイフウジア)』を纏った呂の《鋼気功(ガンシゴン)》は破られない。

 鉄の装甲も易々と断ち切る圧壊の刃を受けきった呂は、間近で気迫を滲ませるエリカへ獰猛な笑みを浮かべる。

 

 慣性由来の重さが消えた刀身を押し返した呂はそのままエリカへ反撃を加える――ではなく、反対側から迫る黒塗りの刃を迎え撃った。

 鞭のようにしなるそれが掲げた呂の左腕の《鋼気功》と衝突し、互いの干渉力が激しくせめぎ合う。

 

 柄から伸びるワイヤーを斥力で覆った《圧し斬り》の刃。

 修次の下で学び、先祖の技を再現した摩利の剣術だ。

 自身の手で振り下ろした刃と並び、すでに抜け出した二枚の短冊がそれぞれ別方向から立て続けに呂へと襲い掛かる。

 

 ()()()()()()()()()()()。対策はおろか正体も仕組みも判らないそれを、呂は培った経験と直感に任せて迎撃する。

 左腕で止めていたワイヤーを力任せに弾いて除け、腕を振った勢いのまま小さく跳躍。左右から迫る刃を回避しつつ、逆袈裟に振り上げられたエリカの大刀を右足の踵で跳ね返した。

 

 格上の相手へ果敢に攻めかかる二人の千葉の剣士たち。

 そしてこの場にはもう一人、千葉流剣術の手解きを受けた者がいた。

 

 摩利の小剣を避け、エリカの大刀を跳ね除けた呂が悠々と路面に降りる。

 瞬間、着地の隙を狙って三人目のレオが踏み込んだ。手足のいずれかが地面に着くと読んで振り抜かれた水平斬りはしかし、路面を蹴って跳ね上がった男のつま先を掠めていった。

 

 一転、隙だらけの背中へ呂の踵が迫る。

 

甲冑(パンツァー)!」

 

 レオが《硬化魔法》の音声コマンドを叫んだ直後、強烈な一撃が叩きつけられた。

 不安定な空中からの攻撃で威力は控えめだったものの、それでも呻きを漏らしたレオは路面を転がされる。

 

「このっ!」

 

 今度こそ着地した呂に、エリカが三度(みたび)斬りかかった。

 袈裟斬りに振り下ろした大蛇丸の刃は身を翻した呂に回避されたものの、剣先が地面へぶつかる間際、それ以上の速度で跳ね上がった刀身が呂の身体を追いかけた。

 

 慣性制御魔法《山津波》の派生技、《山津波・燕返し》。

 極大化した慣性を振り下ろしの一撃に乗せた後、剣先が地面へ着く前に慣性を再消去。速度を落とすことなく切り返しの振り上げに繋げ、助走の不足による威力低下を補う技だ。通常の《山津波》に織り交ぜることでフェイントの役割も兼ねることができる。

 

 大蛇丸の刃が呂の喉元へと迫る。

 掌底を放とうと右腕を引き絞っていた呂は、狙いを刃へ変えて腕を突き出した。

 

 斜めに跳ね上がる刀身と突き落とす形の掌底が衝突。

 裂帛の気合いが乗せられた《鋼気功》はそれまで以上に硬く、重く、およそ1tに及ぶ慣性質量すらも押し返した。

 

 渾身の一刀を押し返されたエリカは堪らずたたらを踏んだ。

 不完全なまま途切れた慣性制御によって僅かにバランスが崩れ、次の一撃を構えた呂を前に致命的な隙が生じる。懸命に魔法を再発動させようと動くものの、牙を剥く虎の顎から逃れるには足りない。

 

 奥歯を噛んでエリカが痛恨打を覚悟する。

 だが呂の腕が突き出される直前、男の背後から雄叫びが上がった。

 

「おおぉ!」

 

 咆哮と共に振り上げられる極薄の刃。

 気配のみでそれを察した呂はエリカへの反撃を止め、身を屈めることで回避。振り返りつつ、形作っていた左手の掌底をそのままレオへと放とうとして――。

 

 首を回した瞬間、CADと一体になった籠手によって顎を強打された。

 

 急所をまともに殴られて、呂は俄かに焦りを抱いた。

 多対一の不利な状況とはいえ、近接戦闘という自らのテリトリーで学生相手に手間取らされている時点で信じがたい。しかも今の一撃を打ち込んできた少年は直前に自分の踵落としを受けていたはずだ。

 

 本能の鳴らす警報を、呂は意志によって押さえつけた。

 まともに受けた攻撃は今の殴打一つだけ。それすらも《鋼気功》によってダメージはほとんどなく、白虎甲を纏い万全となった自身の優位は揺るがない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 刹那の内に焦燥を呑み込んだ呂は殴られた勢いのまま回し蹴りをレオの脇腹に見舞う。

 蹴り飛ばされて転がるレオから早々に目を切った呂は続けてエリカの方へと踏み込み、未だ体勢を立て直す途上の彼女へ虎形の両手を突きだした。

 

 一瞬の内に別々の方向へ飛ばされた二人。

 《硬化魔法》で凌いだレオはしかしスロープを転がって止まることができず、バリケードに叩きつけられたエリカは衝撃こそ《慣性制御》で受け流したものの、呂の一撃によって軽い脳震盪を起こし立ち上がれなかった。

 

 ()()()()()()

 エリカとレオの二人を退けるのに呂が掛けた時間はたったそれだけ。

 けれどそれは魔法師にとって、真由美と摩利の二人にとって十分な長さだった。

 

 エリカとレオを撃破した呂は追撃を加えることなく首を振り、真由美と摩利の位置を確認。自身を挟むように立つ両者の内、より厄介な真由美へと狙いを定めた。背後で摩利が動く気配は感じていたものの、自分が真由美を打ち倒す方が早いと呂は踏んでいた。

 

 その選択が致命的な失策となった。

 

 七草真由美と渡辺摩利。

 高校生ながら一流の実戦魔法師にも劣らぬ二人の、その実力と手の内を知らぬからこそ陥った錯覚。

 一度でも相対していれば抱かなかったはずの油断はしかし、呂自身も万全であるが故に思考を単純化させてしまっていた。

 

 正面の真由美へ向け、背後の摩利を無視して一歩を踏み出す。

 同時に真由美の周囲で生成されたドライアイスの弾丸が呂へ向けて放たれた。

 

 《鋼気功》の鎧を貫くために練り上げられた、長く鋭い氷の弾丸。

 後輩の稼いだ時間で作り上げたそれが計3発、実弾に迫る速度で呂へと襲い掛かる。

 

 出会い頭に跳ね返したものを凌駕する速度と威力が込められたそれを見た呂は、やはり力押しだと獰猛な笑みを滲ませた。

 両腕に纏う『気』の密度を高め、飛来する脅威を的確に受け流していく。一度、二度と弾いたドライアイスが割れる音を背後に聞きながら、まっすぐに迫る3本目に対して両腕を交差。眼前で最後の一つが砕けると共にいよいよ呂の笑みが深まった。

 

 直後、鼻先に極僅かな匂いの変化を感じた。

 咄嗟に呼吸を止めても香りの侵入は止まらず、鼻腔の奥へと届いたそれは強烈な酩酊感をもたらした。

 

 堪らず呂の体勢が崩れる。対毒訓練を受けている呂の身体は瞬時に香料の効果を克服したものの、顔を上げた時には黒い粉末が顔の周りを漂っていた。

 気付いた傍から粉末が燃焼し、周囲の酸素を根こそぎ奪い去る。瞬間的な低酸素状態に陥った呂は膝を突きながら酸素を求めて口を開いた。

 

 人間が酸素を必要とする生物である以上、呼吸は不可欠な行為だ。

 本能に刻まれたそれは突発的な状況であればあるほど顕在化し、歴戦の魔法師であっても避けられない行動として発現する。

 『白虎甲』で強化された《鋼気功》を纏う呂であっても、この原則は変わらない。

 

 これこそが物理的な攻撃のほとんどを跳ね返す呂に対し、真由美と摩利が講じた対策。

 エリカとレオの稼いだ僅かな時間によって成し得た、初見殺しのコンビネーション。

 単独では敵わぬ強敵だと警告を受けた彼らが打ち立てた一発必中の戦術。

 

 全員の能力と気概、状況までもが噛み合った結果がそこに現れていた。

 

 酸素を求めて開いた口元に、拳大の氷塊が飛び込んだ。

 殺傷力の低い球状をしたそれは衝突の直前で昇華し、二酸化炭素の砲弾となって肺の中の空気を押し出す。

 酸素不足で揺れていた呂の意識が完全に途切れ、力の抜けた身体が硬質な音を立てて路面へと倒れた。

 

 大亜連合軍特殊工作部隊のエースにして、白兵戦闘において世界屈指と称される魔法師。

『人喰い虎』呂剛虎は、四人の巧みな連携によって討ち取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真由美たちが呂剛虎を撃破して間もなく、残りの敵に当たっていたメンバーが戻ってきた。

 

「みんな、怪我はない?」

 

「エリカ、レオ、大丈夫!?」

 

 真由美の呼び掛けに並んで幹比古がいち早く駆け寄ってくる。

 彼の後には五十里と花音も続いていて、摩利もまた三節刀を収めながら一年生2人へ視線を配った。

 

「オレは問題ありません」

 

「……あたしも何とか」

 

 疲労を滲ませつつもはっきりと答えたレオに続き、エリカも自走車の残骸を支えにゆっくりと立ち上がる。

 気丈なエリカにしては緩慢な動き。幼馴染の幹比古でなくても彼女がダメージを負っていることは判って、同級生の男子二人の心配を振り払う彼女へ真由美も声を掛ける。

 

「起きて平気なの?」

 

「大丈夫です。一応、意識はあったから」

 

 さすがのエリカも真由美の心配まで無下にはできず、殊勝な面持ちで浅く頷いた。

 

「あーあ、負けちゃったか」

 

 強敵を打ち倒したことよりも自分が敗れたことを悔やむエリカの姿に、レオと幹比古、そして摩利が呆れたような笑みを零した。

 

 ――直後のことだった。

 

 

 

「こらこら。まだ終わっとらんやろ」

 

 

 

 不意に聞こえてきた声に一同がすぐさま意識を切り換える。

 

 声の出所へ目を向けて。広場をぐるりと見渡して。

 どこにも声の主が居らず眉をひそめた、その瞬間。

 

 何もない空間から滲み出るように、横たわる呂の脇へその痩身は姿を現した。

 

「あなたは……!」

 

「久沙凪煉!? なぜここに」

 

 警戒を滲ませる高校生たちを余所に、煉は足元の呂をちらりと見下ろす。

 何のつもりかと身構える前で杖から刃を抜いた煉は刃先を一同へ向け、そして――。

 

 鎧の隙間に覗く首元へ、刃の先端を落とし込んだ。

 

「あかんえ。ちゃーんと止め刺しとかな」

 

 笑みを絶やさずに呟く煉の足元では、噴き出した血が呂の『白虎甲』を赤く濡らしていた。

 

 

 




 
 
 
 
 
 
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