モブ崎くんに転生したので、謙虚に生きようと思う   作:惣名阿万

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第4話

 

 

 

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 雫と駿の見送りこそあったものの、それ以外に目新しいイベントは特になく。

 魔法大学付属第一高校はこの日、短い冬休みを終えて三学期を迎えた。

 

 交換留学という名目である以上、雫と駿の代わりの学生がUSNAから来ることになっている。

 男女一人ずつの留学生はどちらともがA組に配属され、達也たちのE組でも休み時間の度に話題は大きくなっていった。

 

 曰く、『すっごい美少女』と『王子様のような男の子』なのだとか。

 噂を持ち込んだエリカは話題の留学生をそう評していて、興味程度は抱いていた達也も雑談に加わることに抵抗はなかった。

 

「どっちもキレーな金髪でさ。上級生まで見に来てるらしいよ」

 

「つったって、あんな人だかりじゃあ留学生も落ち着かねーだろ」

 

「転校生すら想定していない魔法科高校だからな。そこに留学生が来るとなれば好奇心も湧くだろう。ここ十年以上なかったことじゃないか?」

 

「でも、だったらどうしていきなり留学が許可されたんでしょうか」

 

「今回留学生が来たのは一高(うち)だけじゃないみたいだよ」

 

 とりとめのない雑談に追加のネタを提供したのは幹比古だった。

 

「二高や三高、四高にも留学生が来ているみたいだし、大学の方にも共同研究の名目で何人か来ているらしい。ウチの門人が話してた」

 

「あっ、大学の方はアタシも聞いた。この前の横浜の件で飛行魔法の軍事的有用性がとびきりのものだってわかったから、焦って探りを入れに来てるんじゃないかって」

 

 吉田家も千葉家も大勢の門弟を抱える大家だ。神道系古式魔法と現代魔法ベースの剣術という違いがあるとはいえ、門下生の多くは魔法に関わる仕事に就いている。耳に入る情報の量も質も一個人とは桁違いだ。

 

 鎮海軍港を消滅させた自身の魔法、《マテリアル・バースト》に対する調査のために『スターズ』が動員されていることは真夜からも警告を受けている。

 そこに加えて幹比古やエリカの話が真実だとすれば、USNAはよほど大がかりに人員を投入しているらしい。

 

 達也が内心で考えていると、レオから何気ない一言が投げかけられた。

 

「じゃあA組に来た留学生もスパイってことか?」

 

 本人としては思ったことをそのまま口にしたのだろう。

 しかしそのあまりにも身も蓋もない問いかけに、達也を除く三人が呆れを顔に浮かべた。

 

「あんたねぇ……」

 

「レオくん、そういうことは思っていても言わない方がいいと思う」

 

「僕たちも同級生として付き合っていかなきゃならないんだから」

 

 友人たちの集中砲火にタジタジとなりながら、彼は何とか反撃を試みる。

 

「けどよ、付き合うったってそいつらはA組だろ? 接点ないんじゃねえか?」

 

「バカね。深雪がいるじゃない。右も左もわからない留学生なんだから、しばらくは生徒会副会長の深雪が面倒見なきゃいけないでしょうし、深雪と関り合いができればアタシたちも無関係じゃ済まないわよ」

 

 一分の隙もない理屈にぐうの音も出ず、レオはがっくりと項垂れた。

 さすがに気の毒と感じた美月に励まされる友人を横目に見ながら、同じく積極的に関わりたくない達也もまた人知れずため息を吐いていた。

 

 

 

 

 

 

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 結局、件の留学生との関りは想定される内の最も早いタイミングで訪れた。

 昼食の時間、冬休み前と同じように学生食堂へ向かった達也たちへ深雪とほのかが合流すると、彼女たちの後に付いてやって来たのが例の留学生だった。

 

 白い肌に金髪と碧眼。

 噂に違わぬ容姿は深雪と並んでも遜色なく、二人が揃うことで食堂中の人目を引いていた。

 

「ご同席させてもらっていいかしら」

 

 少女の口から流暢な日本語が発せられる。

 ややアクセントに癖はあるものの、さすがに日本へ留学――或いは留学を装って潜入してくるだけあってコミュニケーションに苦労はないようだ。

 

「もちろん、どうぞ」

 

 少女の視線の先にいた達也が代表して答える。

 彼女に一番近いのはエリカだったが、友人たちも特に気にした様子はなかった。

 

 深雪が達也の隣に座り、達也の向かいにほのかが腰を下ろす。

 留学生はほのかの隣の席に着き、配膳トレーを置くなり姿勢を正した。

 

「ご紹介しますね。こちらアンジェリーナ=クドウ=シールズさん。もうお聞きのこととは思いますけど、今日からA組のクラスメイトになった留学生の方です」

 

 ほのかが隣の留学生を見てそう言うと、少女は座ったまま行儀よく一礼した。

 

「初めまして。リーナと呼んでくださいね」

 

 顔を上げた少女が華やかな笑みを浮かべる。

 

 深雪を夜空に佇む月とすれば、彼女は青空に輝く太陽だろうか。

 輝く金の髪を左右のリボンで束ね、シャープな美貌がもたらす気後れしてしまいそうな印象を和らげている。声音や表情も親しみやすさを演出していて、彼らを窺う周囲の視線も一段と多く強くなった。

 

「E組の司波達也です。深雪と区別がつかないでしょうから、達也でいいですよ」

 

 先陣を切って達也が会釈を返す。

 友人たちは留学生の美貌に圧倒されているのか、或いは名前に引っ掛かりを覚えているのか、後に続く声はすぐには出てこなかった。

 

「ありがとう。ワタシのこともリーナでお願いします。それから敬語はなしにしてくれると嬉しいのですけど」

 

「わかった。そうさせてもらうよ、リーナ」

 

「よろしくね、タツヤ」

 

 テーブル越しに伸ばされた手を握る。

 その際、笑みを浮かべていた少女がはてと首を傾げた。

 

「タツヤってもしかして、ミユキのお兄さん?」

 

 頷いて応じると、彼女は「へぇ」と呟き笑みを深めた。

 スカイブルーの瞳を僅かに細め、深雪と達也へ交互に視線を配る。

 対する達也は友好的な笑みを保ったまま、じっとその仕草を窺っていた。

 

「あたしは千葉エリカ。エリカでいいわ」

 

 達也との握手を終えたところで、タイミングを計っていたエリカが切り出す。

 それで我に返ったのか、残る友人たちも彼女の後に続いた。

 

「柴田美月です。美月と呼んでください」

 

「オレは西城レオンハルト。レオでいいぜ」

 

「吉田幹比古です。僕のことも幹比古でいいよ」

 

 一人一人と顔を合わせながら自己紹介を聞いたリーナは頷きつつ名前を反芻した。

 

「エリカ、ミヅキ、レオ、ミキヒコね。よろしく」

 

 聞き返すことなく一度で相手の名前を覚える。シンプルだが、好印象を与えるためには大事なことだ。

 彼女が本当にスパイ役を与えられているのだとすれば、まったくの素人ではないということだろう。

 

 こうして、噂の留学生との初対面は上々の雰囲気の中で幕を開いた。

 

 

 

 

 

 

 食堂のメニューの中からわざわざ蕎麦を選んだリーナは慣れた手つきで箸を操りつつ、時々掛けられる質問へ嫌な顔一つせず答えていった。

 食事を終える頃には随分と打ち解けたように見え、頃合いを見計らっていた達也はそろそろかと問いを投げかける。

 

「ところで、リーナはもしかして九島閣下のご血縁かい?」

 

 途端、全員の注意がリーナへ向いた。

 名前を聞いたときから気になってはいたのだろう。ここまで誰も訊ねなかったのは確信が持てなかったのもあるだろうが、何より文化の違い次第で繊細な話題になるからだ。

 

「たしか閣下の弟さんが渡米されて、そのまま家庭を築かれたと記憶しているんだが」

 

「あら、よく知ってるわね、タツヤ。随分昔のことなのに」

 

 頷くリーナの口調はあっけらかんとしていた。

 演技の可能性もゼロではない。だが少なくともネガティブな反応ではなかった。

 そしてどうやら、世界『最巧』の魔法師と呼ばれた九島烈の弟がアメリカから戻らなかったという事実は、日本の魔法師が思うよりもずっと過去の事と考えられているらしい。

 

「ワタシの母方の祖父が九島将軍の弟よ」

 

 この場に分別のない人間がいなかったことは幸いだろう。

 行き過ぎた国粋主義者がいれば老師の弟を『返さなかった』『アメリカ人』に『義憤』を表していたかもしれない。背景事情にかかわらず個人を相手に覆しようのない属性を持ち出して口撃するのは、この学校では決して珍しくない光景だ。

 

「そういう縁もあって、今回の交換留学でワタシは日本に来られたのよ」

 

 人好きのする笑顔を浮かべて、リーナは自身の胸に手を当てる。

 

「じゃあ、リーナは自分から希望して来たってこと?」

 

「もちろん。偉大なグランパの祖国だもの。一度来てみたいと思っていたわ」

 

 それが本音か演技か、今のところは判断がつかなかった。

 

(まあ、潜入の任務に就く軍人が簡単にボロを出すはずもないか)

 

 内心で納得した達也はこの場での追及を止め、当たり障りのない話題を続ける。

 

「もう一人も何か縁があって来てるのか?」

 

「どうかしら。聞いたことはないけれど」

 

 達也の問いかけを受けたリーナは大袈裟に首を捻ってみせた。

 こうした仕草は日本人にはなかなか見られないもので、新鮮な反応に口元を綻ばせながらエリカはA組の女性陣へ水を向ける。

 

「深雪やほのかは、もう一人の男の子についてどう感じた?」

 

 恐らくは『王子様のような男の子』という噂を念頭に置いた質問だろう。

 ただ、一般的な女性目線での見え方を問う相手としては、深雪もほのかもサンプルとして適格だとは言えなかった。

 

「レイモンドくんという名前の穏やかで博識な人よ」

 

「優しくていい人だよ。今は多分、教室にいると思う」

 

 教室に残っていると聞いてE組メンバーが首を傾げる。

 昼食の時間に食堂へ来ていないとなると、食事はどうしているのだろうか。

 

()()はしっかり者でね。初日からお弁当を用意してたのよ」

 

 答えはリーナからもたらされた。

 知人の人柄を誇る口ぶりからは友誼の深さが感じられ、ふとアメリカに渡った友人たちの関係が思い起こされた。

 

「それで食堂には来ていなかったのか」

 

 噂の留学生が姿を見せればすぐにわかっただろう。リーナが食堂へ入ってきた時にもどよめきが広がっていたし、依然として彼らを窺う視線はかなりの数に上っている。注目されることには慣れているのか、リーナはそれらの視線を一切気にしていないようだが。

 

「今度しっかりと紹介するわね」

 

 リーナが次の機会を請け負ったところで昼休憩も終盤に差し掛かり、ランチタイムはお開きとなった。

 初顔合わせは終始穏やかなまま幕を閉じ、スパイ目的と推定される留学生は最後まで尻尾を見せることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 ● ● ●

 

 

 

 

 

 

 すっかり日の暮れた午後6時。

 留学初日から慣れない日本語での授業を受け、放課後も校内の案内やクラブ活動への勧誘を受けたリーナは、程よい疲労感の中で下宿先へと帰り着いた。

 

 一高に学生寮に相当する施設はない。

 全国で九つしかない国立魔法大学の付属高校とあって生徒は全国各地から集まっているが、遠方から入学した生徒はほとんどが学校の近くに部屋を借りている。

 

 幸い魔法科高校の近傍には学生向けの賃貸物件も多く、ホームオートメーションが広く普及したこの時代、家事の負担は大幅に小さくなった。

 配送サービスの充実によって食料品や日用品の買い物にも手間は掛からず、学業の妨げになる状況はまず起こり得ない。

 

 留学生のリーナが仮住まいとしているのも賃貸向けのマンションだ。

 第一高校前駅からキャビネットで二つ隣の駅に所在する、単身者用ではなくファミリータイプの住宅である。

 

「お帰りなさい、リーナ」

 

「シルヴィ、先に帰っていたんですか」

 

 リーナを出迎えたのはこの家の家主に当たる女性だ。

 

 シルヴィア・マーキュリー・ファースト准尉。

 『シルヴィア』以外はコードネームで、スターズ惑星級魔法師『マーキュリー』の第一順位にあたる准士官だ。25歳という若手ながら同系統の魔法技能を持つ惑星級の中で最上位に評価された優秀な隊員である。

 現在は駐在武官補佐官として大使館に出入りしており、今回の任務においてはリーナの親戚役と連絡要員としての役割を与えられていた。

 

 二人が同居生活をするこの部屋もUSNA公認の駐在武官補佐官である彼女のために軍が借り上げた物件であり、リーナは一高への留学に当たって『親戚の部屋を間借りする』という名目でこのマンションに暮らしている。

 新たに拠点を用意する手間を省くというのも理由の一つだが、一番は留学生『アンジェリーナ=クドウ=シールズ』を監督しやすくするためだ。

 

 アンジェリーナ=クドウ=シールズ。

 またの名を国家公認戦略級魔法師『アンジー・シリウス』。

 USNA統合参謀本部直属魔法師部隊スターズの総隊長にして、地球上に13人だけしかいない国家公認戦略級魔法師――『十三使徒』の一人。

 

 幼少期に魔法の才能を見出されたリーナは軍の養成機関で魔法技能を磨き、12歳の時に戦略級魔法《ヘヴィ・メタル・バースト》を習得。国家公認戦略級魔法師に任命されると、その2年後にスターズの総隊長へ就任した破格の経歴の持ち主だった。

 

 スターズの総隊長はその性質上、軍歴や身上を問われることがない。

 求められるのは圧倒的な戦闘力。魔法を用いた戦闘であらゆる魔法師を下すことのできる実力だけがスターズ総隊長に求められる条件である。

 だからこそ並み居る年長の実力者を押し退けて、16歳になったばかりのリーナがその座に就いているのだ。

 

 USNAが誇る最強の魔法師にして、単独で都市や艦隊すらも消滅せしめる魔法戦力。

 『十三使徒』とスターズ総隊長という二つの肩書きを併せ持つ彼女はしかし、表向きの振る舞いはともかく中身は『少し大人びた16歳の少女』でしかない。

 

「慣れないことで疲れたでしょう。今お茶を淹れますね」

 

「ありがとうございます、シルヴィ」

 

 そんな16歳の高校生魔法師にとって、気安い態度で労ってくれるシルヴィア准尉は数少ない安らぎを得られる存在だった。

 

 日本潜入に際して用意した『従姉』という設定が本物のそれに感じられるほど。

 リーナにとってシルヴィアは、留学早々なくてはならない存在になりつつあった。

 

 ホームオートメーションの用意した夕食の席を共にしながら、情報共有を名目とした雑談に興じる。

 クラスメイトに囲まれ質問攻めに遭った様子を語るリーナと、相槌を打ちながら微笑ましく見つめるシルヴィアの二人は、似ていない姉妹だと思われるくらいに打ち解けていた。

 

 雰囲気が変わったのは午後7時を回った頃。

 食事を終え、食器をホームオートメーションの配膳台に載せたところで、備え付けの固定回線のものとは別の呼び出し音が鳴った。

 

 大使館との直通回線を示すそれを取ったシルヴィアが音声のみで一言二言のやり取りを行う。

 じっと彼女の反応を窺っていたリーナは、シルヴィアが振り返ったところでダイニングの席を立った。

 

「総隊長、バランス大佐から秘匿通信です」

 

「大佐殿から? わかりました」

 

 果たして、電話の相手は思い当たる中で最も気を張るべき人間だった。

 すぐさまヴィジホンのカメラの前に立ち、直立不動の姿勢で画面が変わるのを待つ。

 

『こんばんは、シールズ少佐。初日はどうだった?』

 

 ヴィジホンの画面に現れたのは三十代前半の見た目をした白人女性だった。

 

 ヴァージニア・バランス大佐。

 肩書きはUSNA統合参謀本部情報部内部監査局第一副局長。

 公式と非公式の隔てなく、参謀本部の下で運用される全部隊の監査を担う人物だ。

 

 後方での職歴が長い彼女はしかし、数少ない実戦においても多大な功績を挙げた智謀の持ち主である。

 今回の任務においてもその手腕を買われ、大使館付き駐在武官の監査という名目の下、困難な作戦の指揮を執っていた。

 

「順調であります、大佐殿。早速ながら、ターゲット候補の二名と接触しました」

 

 謹厳実直を旨とするバランス大佐らしい挨拶にリーナは慣れた様子で敬礼を返す。

 日本での任務に先立って対面した女性士官は噂に違わぬ厳格さと辣腕ぶりはもちろん、経験豊富な女性らしい人情を持ち併せているとリーナはよく知っていた。

 

『ほう。それで?』

 

「タツヤ・シバ、ミユキ・シバの両名とも、校内では様々な逸話を持っているようです。初日ということもあって詳しい情報は入手できていませんが、両名及び親しい友人との交流を得ることができました」

 

『なるほど。滑り出しは上々だというわけだな』

 

 リーナに与えられた任務の一つは第一高校に潜入しての情報収集だ。

 重要参考人である司波兄妹との直接交流はもちろん、交友関係や周辺生徒などからの聞き込みも大事な仕事。留学初日からそのきっかけを得られたことは、リーナや彼女の指揮官であるバランス大佐にとって大きな一歩と評価できる成果だった。

 

『貴官も知っての通り、本作戦は我が国の安全保障における最重要事項だ』

 

 それまでと一転した厳格な口調でバランス大佐が語る。

 ヴィジホンを通して対面するリーナの表情も一段と引き締まり、それを見たバランス大佐が視線だけで頷いた。

 

『小規模とはいえ、大亜細亜連合の侵攻を単独で退けた事実。そして超遠距離から港湾都市を丸ごと消滅させる規格外の魔法攻撃だ。作戦の成否によっては世界のパワーバランスが大きく傾くだろう』

 

 極東で起きた戦闘の結末を知る人間にとって、それは否定しようのない事実だった。

 戦略核ミサイルも大規模な軍団の動員もなく、一方的に多大な戦力と万単位の兵を消失させる力を見せつけられた以上、各国はその矛先が自らへ向けられぬよう立ち回らなくてはならない。

 

『我が国としては、そのような事態を座して見過ごすわけにはいかない』

 

 だからこそ、彼女たちはこの国へ来たのだ。

 日本の過度な強大化を抑えるため。前世紀の帝国のような暴走を阻止するために。

 

 USNAが国内最強の魔法師、『シリウス』を投入したのはそうした決意の表れだった。

 

『少佐の役割は現状、潜入調査と囮の兼ね役だ。だがもしも、例の《グレート・ボム》の使い手が判明した暁には……』

 

「承知しております。『シリウス』の名に懸けて、必ずや任務を果たしてみせましょう」

 

 自分に与えられた責務を、リーナはよく理解していた。

 自分に寄せられた期待を、リーナはよく実感していた。

 

『期待している。差し当たって少佐はターゲット候補との接触を続けたまえ。くれぐれも正体を悟られることのないようにな』

 

「イエス、マム」

 

 十代半ばの少女とは思えない堂に入った敬礼。

 表情や声から滲む責任感と意志の強さに頼もしさを感じながら、バランス大佐は答礼と共に口元へ笑みを浮かべた。

 

『羽を伸ばせとは言えないが、任務に支障のない範囲で学生生活を楽しみたまえ』

 

「ありがとうございます。お心遣いに感謝いたします」

 

 付け加えられたアドバイスにしっかりと頷いて、この日の報告は終わった。

 

 

 

 通信が途切れ、暗転した画面の前でリーナは目を閉じて一つ深呼吸をする。

 

 『シリウス』の名を継いだ者として、自らに課せられた使命を果たすのだと。

 

 この時の彼女の胸には、純粋な闘志の火だけが燃え盛っていた。

 

 

 




 
 
 
 
 
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