モブ崎くんに転生したので、謙虚に生きようと思う   作:惣名阿万

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第6話

 

 

 

 ● ● ●

 

 

 

 二人の留学生を迎えた第一高校は連日、驚きと興奮の声が各所で上がっていた。

 今年度の初頭に似た雰囲気のそれは、只者でない編入生たちへ向けられる注目の高さに由来するものだ。

 

 そのうちの片割れ、アンジェリーナ・クドウ・シールズは今、学校一と謳われる才媛と向かい合っていた。

 

「ミユキ、行くわよ」

 

「いつでもどうぞ。カウントはリーナに任せるわ」

 

 柱に置かれたサッカーボール大の金属球を挟んで対峙する二人。

 一方は眩しい太陽の如き輝きを放ち、一方は静謐な月の如き煌めきを宿している。

 向かい合うだけで絵になる二人はその美貌だけでなく、魔法力においても頂点を競い合うライバルと見做されていた。

 

「スリー、ツー、ワン、――GO!」

 

 最後の掛け声は双方の口から同時に発せられた。

 据え置き型CADのパネルに両者の手が置かれ、叩きつけられ、細い柱の上の金属球へ向けて互いの魔法式が放たれる。

 

 撃ち出されたのは基礎単一工程の加速魔法。

 コンマ1秒以下のタイムラグの間に二つの魔法式が構築され、一瞬にも満たないせめぎ合いを経た後、ゆっくりとリーナの側に向けて転がり落ちた。

 

「あーっ、また負けた!」

 

「フフ、これで二つ勝ち越しよ」

 

 盛大に悔しがるリーナと、どこかホッとしたような笑みを浮かべる深雪。

 

 二人の様子からも明らかな通り、今の勝負は深雪の勝利だ。

 ただ、決して余裕のある勝利というわけではなかった。

 

 寧ろ拮抗した実力の中、作戦を練って得た薄氷の勝利と言えるだろう。

 何の策もなく真っ向勝負を挑めば『速さ』で僅かに勝るリーナが優勢になるというのは、ここまでの6回の勝負で負った2度の敗北から学んでいたのだから。

 

「もう一回! もう一回よ、深雪! 今度こそ負けないんだから!」

 

「もちろん。受けて立つわ、リーナ」

 

 黒星が先行してもめげずに挑んでくる同い年の少女へ、深雪は静かな闘志を湛えて頷く。

 共に一年生ながら校内でも最高峰の対戦カードが続くことに、居合わせたA組とB組の生徒は期待と興奮を抑えきれなかった。

 

 

 

 その後の試合はリーナが盛り返したこともあり、最終スコアが5対5となったところで授業時間は終了した。

 決着が付かないまま、それでも二人は満足げに握手を交わし、並んで実習室を後にする。

 

 

 

 午前最後のコマに充てられていた実習が終わると、迎えるのはランチタイムだ。

 深雪とほのかはいつも通りに食堂へ向かい、達也たちE組メンバーと合流した。

 

 普段と違う点を挙げるとすれば、それは同行者がいたこと。

 それも一人ではなく、二人だ。

 

 一人は留学初日にも昼食の席を同じくしたリーナ。

 そしてもう一人はリーナと同じ留学生の少年――レイモンドだった。

 

 リーナよりも少し色素の薄いブロンドはウェーブがかっていて柔らかな印象を与え、本人の整った顔立ちと相まって噂に違わぬ王子様ルックスを作り上げている。

 線は細いながらも身長はそれなりに高く、並べば幹比古と同程度になるだろう。当然、同行する女性陣の中からは頭半分抜け出しているが、華奢な体格のせいかそれほど大きくは見えなかった。

 

「深雪、こっちこっち」

 

 食堂に入るなり、深雪たち一行を見つけたエリカが手を振って場所を知らせる。

 微笑んで頷いた深雪は三人を連れて配膳の列に並び、注文した料理を持って兄たちの待つ席へとやってきた。

 

「お待たせしてしまいましたか?」

 

「大丈夫だよ。午前最後のコマが一般科目だったから一足先に来ていたんだ」

 

 開口一番そう訊ねた深雪へ、達也は慣れた口調で返し確保していた席を勧める。

 達也の隣と向かいの定位置に深雪とほのかが着くと、残る二席は美月が示した。

 

「リーナさんたちも、こちらへどうぞ」

 

「ありがとう。ご一緒させてもらいますね」

 

 笑顔で礼を述べたリーナが美月の隣に腰を落とす。

 その向かい、幹比古の隣の席に着いた少年がプレートを置いたところで、斜向かいからレオが疑問を投げかけた。

 

「レイモンドは弁当派だって聞いてたんだが、今日は違うんだな」

 

「食堂の料理を食べてみたくてね。ちょうどいい機会だし、皆さんにご一緒しようかと」

 

 柔和な笑みと流暢な日本語で応える少年に、一同は納得と歓迎の声を返す。

 

 達也たちがレイモンドと初めて顔を合わせたのは留学から三日目のことだった。

 珍しく全員の予定がなかった放課後、様々なクラブの勧誘を躱して下校するリーナと鉢合わせになり、どうせならと彼女が連絡を取って合流したのがきっかけだ。

 駅までの短い時間ではあったものの温和で人当たりの良いレイモンドは瞬く間にE組メンバーとも打ち解け、以来すれ違うごとに二言三言会話をする仲になった。

 

「もちろん歓迎するよ。博識な君がいるといつにも増して話題が尽きないからね」

 

「光栄だよ。ボクも皆さんとたくさん話がしたいと思っていたんだ」

 

 中でも幹比古は波長が合うのか、レイモンドとの会話を楽しみにしている様子だった。

 

 というのもレイモンドは噂に違わぬ博識ぶりで、リーナ曰く、母校でも群を抜いた知識人なのだとか。

 幅広い分野にかけて豊富な知識を持ち、魔法理論において達也と互角の議論を交わしてみせた時には馴染みの面々も驚きを滲ませていた。

 当の達也本人は留学生二人をスパイと半ば断定していることもあり、知らないことを知るのが好きなのだと語って見せたレイモンドには感心する裏で警戒を深めていたのだが。

 

 ともあれ、いつものメンバーに留学生二人を加えた昼食会は賑やかなまま始まった。

 

 まっさきに話題に挙がったのは午前の実習での一幕で、実習機材を使った勝負で深雪とリーナが五分で引き分けたと聞いたE組メンバーはそれぞれに驚きと感心を浮かべた。

 

「リーナって予想以上に凄かったんだね。選ばれて来るくらいだから相当な実力者だとは思ってたけど、まさか深雪さんと互角に競うほどとは」

 

「驚いてるのはワタシの方よ」

 

 幹比古の称賛に肩を竦めて見せたリーナは困ったと言わんばかりに深雪へ顔を向ける。

 

「これでもステイツのハイスクールでは負け知らずだったんだけど。ミユキには勝ち越せないし、ホノカにも総合力ならともかく細かい制御じゃ敵わないし、さすが日本は魔法技術大国と称えられるわけよね」

 

 しみじみとした語り口に話題へ挙げられたほのかが恥じらいを滲ませた。

 一方の深雪は内心でこそ彼女の競争心を理解しつつも、育ちが故の貞淑さと何より達也の前だという状況が同調を躊躇わせた。

 

「実習は試合じゃないのだから、あまり勝ち負けに拘らない方がいいと思うけど」

 

「競い合うことは大切よ。せっかくゲーム性の高いカリキュラムなんだから、勝ち負けに拘った方が上達すると思うわ」

 

 控えめな口調のたしなめに、リーナは正面から反対意見を返す。

 討論を交わすよりも意見を擦り合わせることが多い日本人女性とは違うスタンスで、リーナのこうした性質は海外を知らない一同に新鮮な印象を与えていた。

 

「やっている最中は競争心を持つのも大事だろう。でも終わった後まで引きずる必要はないんじゃないか?」

 

「対抗心をモチベーションにするくらいならいいけど、勝負に拘り過ぎると実習本来の意図から外れてしまうかもしれないよ」

 

 達也の意見にレイモンドが付け加えるとリーナは頤に手を当てて考える素振りを見せ、すぐに彼らの言葉を認め苦笑いを浮かべた。

 

「そうね。タツヤとレイの言う通りかも。ワタシ、少し熱くなり過ぎてたみたい」

 

「熱くなるのは悪いことじゃないさ。俺自身、深雪と互角に競い合える高校生がいたと聞いて関心が尽きないしね」

 

 殊勝な台詞で引き下がったリーナをフォローしつつ、達也は視線を妹へ向ける。

 

 校内どころか世界的に見ても妹に及ぶ実力者はそういないと考えていただけに、達也の驚きようは口にした以上に大きいものだった。

 またそんな妹に匹敵する実力者がただの留学生であるはずもなく、リーナがスターズの関係者だという推論は達也の中で確定的なものとなっていた。

 

 一方、留学生組にとっても深雪の実力の高さはやはり衝撃的だったようだ。

 

「ボクとしても、リーナに対抗できる人がいたことは驚きだよ」

 

 深雪と達也を順番に見た後で顔を正面のリーナに戻し、レイモンドがそんなことを呟く。

 こちらはこちらで達也と張り合うような振る舞いを敢えてしているのが明らかで、堪らず一同の間に笑いが広がった。

 

「レイモンドはリーナと知り合って長いのか?」

 

 新しい友人のユーモアに微笑んで見せた後、達也は話の矛先をレイモンドへと変える。

 

 状況証拠から容易にスターズ隊員と断定できたリーナと違い、彼については未だ正体が掴めていない。

 魔法技能のレベルは一科生の下位に甘んじる程度で、特殊な魔法を持っているわけでも身体能力に秀でているわけでもない。知識の幅広さは高校生離れしているものの、それだけで留学生に選ばれるはずもないだろう。

 

 未だこれといった見当が付かず、ひとまず視点を変えてみることにした。

 達也が投げかけた問いもそうした探りのための一手だ。

 

「それなりに、かな。日本で言うところの中学校からだよ」

 

「あれほどの実力だ。さぞかし話題になっていただろう」

 

「まあね。お陰で随分と苦労したみたいだよ」

 

 そう言ってレイモンドが苦笑いを浮かべると、対面のリーナは肩を竦める仕草で応じた。

 

 一見すると同意を返したようにも思える動作。

 だがその実、リーナはレイモンドの言葉に肯定も否定も口にしなかった。

 本当に旧知の間柄なら愚痴の一つも返せそうなものなのに、だ。

 

「……そういえば、リーナに一つ訊きたいことがあったんだ」

 

 一転、再度リーナに目を向けた達也はさも今思い出したとばかりに切り出す。

 パック飲料のストローへ口を付けていたリーナは眉を持ち上げて反応を示した後、ゆっくりと飲み込んでから首を傾けた。

 

「なにかしら」

 

「大したことじゃないんだが、アンジェリーナの愛称は普通『アンジー』じゃなかったかと思ってね。俺の記憶違いだったかな?」

 

 動揺を期待しての問いではない。

 実際、彼女は表情はもちろん青い瞳にも一切の動揺を覗かせることはなかった。

 

 「よく知ってるわね」と感心したような表情を浮かべて、リーナが疑問に答える。

 

「タツヤの言う通りメジャーなのは『アンジー』だけれど、『リーナ』も珍しいってほどじゃないのよ。ワタシの場合はエレメンタリー、小学校にアンジェラって子がいて、その子が『アンジー』と呼ばれていたから」

 

「なるほど。それでリーナと呼ばれるようになったのか」

 

 納得した風に頷きながら、リーナを中央に据えた視界の端でもう一人を窺う。

 初めから狙っていたのは彼女自身の隙ではなくその相方――レイモンドの反応だった。

 

「ボクはリーナって愛称の方が似合っていると思うよ」

 

 果たして、レイモンドが口にしたのはそんな当たり障りのない一言だった。

 

 彼がスターズの関係者なら、『アンジー』の名前に何か反応を示すかもしれない。

 たとえ違ってもリーナの正体を知っているかどうか見極める材料になるかもしれない。

 

 どちらの場合であっても何らかの反応を覗かせる可能性があると踏んでいたのだが、残念ながらレイモンドの声にも表情にもそうした兆候は一切見られなかった。

 

(今のところはまだ絞り込むのは難しいか)

 

 スターズ関係者か、それとも別の組織の人間か。

 あるいはそのどちらでもなく、単なる物知りな高校生魔法師という線もゼロではない。魔法力の凡庸さからしてとても国の代表に選ばれるとは考え難いが。

 

 引き続き言動を注視するべきと結論付けて、達也はこの場での追及を取り止めた。

 

 折を見てUSNAに渡った二人へ情報提供を頼んでみるのもいいかもしれないと、この時点の達也はまだ積極的に動く心積もりは持っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 ● ● ●

 

 

 

 

 

 

 午後8時。

 

 大使館との定期連絡を終えたリーナは長いため息を吐き、倒れ込むようにダイニングのテーブルへ突っ伏した。

 消耗を取り繕う余裕もないのか、天板に頬を付けた彼女の前へもはや身内同然となったシルヴィアが紅茶のカップを置く。

 

「どうぞ。砂糖もたっぷり入れてありますよ」

 

「ありがとうございます、シルヴィ」

 

 力の抜けた返事と共に身体を起こしたリーナがカップを口元へ運ぶ。

 一息に半分ほどを飲み込み、ようやく彼女はほっとしたような息を吐いた。

 

「随分と疲れているようですね。学校で何かあったのですか?」

 

「あったというか、なかったというか……」

 

 歯切れの悪い応答にシルヴィアが首を傾げる。

 任務に関わることであれば先の定期連絡で話題にしていたはずだが、報告していた中にそれらしきものはなかった。

 私的な相談なら来日以来何度も受けていて、よほどセンシティブな話でもない限り今さら躊躇うこともないだろう。

 

 口を噤んだまま、リーナは残り僅かとなったカップをテーブルに置く。

 切り出し方に悩んでいるらしい妹分のそれにミルクティーのお代わりを注ぐと、リーナは引き結んでいた口を開いて感謝を告げ、そのままシルヴィアに着席を促した。

 

 勧められるまま対面の席に着いたシルヴィアへ、眉をひそめたリーナがおずおずと呟く。

 

「実は、タツヤに『アンジェリーナの愛称はアンジーじゃないか』と訊かれてしまって。想定内の質問ではあったので、上手く誤魔化せたとは思うのですが……」

 

 「報告を躊躇うわけだ」と、シルヴィアはいつになく弱気な彼女を見て考える。

 

 リーナが『アンジー・シリウス』だと知っている者からすれば確かに、それはクリティカルな質問だと思えなくもない。

 だがそれだけで正体を見抜かれたとは言い難く、寧ろ単純な興味による問いだと考える方がよほど自然だ。

 

「偶然じゃないんですか?」

 

「わかりません。サッパリです。やはり専門家のようにはいきませんね」

 

 シルヴィアが自分と同じ結論へ至ったことで安心したのか、リーナの表情が少しだけ和らいだ。

 

「シルヴィはどうです? タツヤについて、何かわかったことはありましたか?」

 

「公的なデータベースを洗い直したのですが、今のところ有力な情報は見つかっていません」

 

 半ば逃げるように話題を換えた彼女へ呆れ笑いを浮かべて、シルヴィアは用意していた資料をスタンドアロン端末に表示させる。

 

「ただ、父親が役員を務めている企業への出入りがあるようで、そちらの方を現在ミアが探っているところです」

 

 添付資料の一つへ触れるなり、画面一杯に動画が流れ始める。

 街路カメラの映像を解析したらしいそこには、確かに達也と深雪の姿が映されていた。

 

「この出入りしている企業というのはどこなんです?」

 

 一本の傘に入った二人がオフィスビルの中へ入っていくまでを見届けて、リーナはようやく画面から顔を上げる。心なしか眼差しは冷たく、声にも呆れが多分に含まれていた。

 

「『フォア・リーブス・テクノロジー』です。例のトーラス・シルバーが在籍していると噂の」

 

「ああ、あの飛行デバイスを開発した企業ですか」

 

 気怠げにため息を吐いてから、気を取り直したリーナが納得を浮かべる。

 昨年末からUSNA軍にも導入が進められている飛行デバイスは軍事的にも画期的な発明で、ループ・キャストの開発や特化型CADの性能向上など実戦魔法師にとっては存在感のあるメーカーとなっているのが今のFLTだ。

 

「フォア・リーブス……。『アンタッチャブル』と呼ばれるヨツバと同じ名前、ですか」

 

 かつて一国の魔法戦力を単独で壊滅させた『四葉』の名は30年以上の時を経ても依然として世界に轟いており、世代の違うリーナもその噂は幾度となく耳にしていた。

 

「日本には『四葉』を意味する単語を冠した企業や団体はたくさんありますから、『アンタッチャブル』と結びつけるのは早計だと思いますよ」

 

「わかっていますよ。そういう可能性もある、という話ですから」

 

 肩を竦めるポーズで応えたリーナは端末をシルヴィアへと返し、再度カップを手に取る。

 

「FLTとの関係についてはミアに任せるとして、今後は私もタツヤがあのヨツバと何かしら関係があるかもしれないと念頭に置くことにします」

 

「了解しました。ターゲットを見極めるより先にボロを出して正体を見破られないでくださいね」

 

 口を付けた瞬間に投じられた一言に、甘いミルクティーを飲んでいたリーナが苦い表情を浮かべた。

 

「それ、大佐殿やレイからも同じ忠告をされたんですけど」

 

「リーナはわかりやすいですから。――と、言っている間に、ほら」

 

 直後、着信を知らせるベルが鳴り、ディスプレイに発信者の名前が表示される。

 

 同じ留学生として共に一高へ編入した少年。

 現代では珍しいアングロサクソンの甘いルックスと教員顔負けの博識さで瞬く間にクラスへ溶け込んだ彼もまた、リーナと同じく潜入調査のため政府に選ばれた人物である。

 

「こんばんは、レイ」

 

『こんばんは、リーナ。もしかして、忙しかったかな』

 

「大丈夫よ。ちょうど落ち着いたところだったから」

 

 所属が違うとはいえ、同じ任務に臨む同僚だ。

 それも正規の軍人になる前からの知り合いとなれば自然と友好的な声が出ていた。

 

 話の内容それ自体に特別なことはない。

 こうして連絡を取るのも初めてではなく、年末にバランス大佐から紹介されて以降、互いが動きやすくなるよう何度となく相談を重ねてきた。

 潜入ミッションに向けた専門的な訓練を受けるべきと勧めたのもレイモンドで、結果、リーナは今日のようなクリティカルな質問にも辛うじて平静を装うことができていた。

 

『僕の仕事はリーナとは少し違うけど、身分をカムフラージュしなくちゃいけないのは一緒だ。出来る限り協力するから、困った時はいつでも言ってきて欲しい』

 

「ありがとう。そうさせてもらうわね」

 

『うん。じゃあ、また明日学校で。お休み、リーナ』

 

「お休みなさい、レイ」

 

 定例となった打ち合わせを終え、暗転したディスプレイの前で小さく息を吐く。

 充実した表情を浮かべるリーナに、黙って様子を見ていたシルヴィアがからかい混じりの感想を投げ込んだ。

 

「本当に仲が良いですね。ボーイフレンドですか?」

 

「ち、違います! 訓練生の時に知り合って、それから何度か会う機会があっただけですよ!」

 

 テーブルに手を突いて弁明するリーナの焦りようはとても言葉通りには思えず。

 まるで思春期そのものの反応を見せた『妹』に、シルヴィアは温かに笑んで頷いた。

 

「では、そういうことにしておきます」

 

「シルヴィー!」

 

 本来なら雲の上の存在である『シリウス』がまるで本当の姉妹のように甘えてくる。

 そんな得難い経験をしたシルヴィアは内心に彼女への敬愛と忠誠を抱きながら、緩み切ったまま話を終えることのないよう、一応の念押しを最後に繰り出した。

 

「ですが、あちらの所属は中央情報局(C I A)なのですよね? 我々と協力関係にあるとはいえ、信用し過ぎない方がいいのでは?」

 

 頬を膨らませたリーナは反射的に旧友を庇いかけて、言葉に出すことなく飲み込む。

 そんなはずがないと理性が首を振る反面、どこかシルヴィアの忠告を否定しきれない感覚があるのは確かだった。

 

 

 




 
 
 
 
 
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