モブ崎くんに転生したので、謙虚に生きようと思う   作:惣名阿万

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第9話

 

 

 

 ● ● ●

 

 

 

 西暦2096年1月22日 月曜日

 

 週明けのこの日、達也と深雪は午前の授業を休講して立川市の魔法大学付属病院を訪れた。

 

 きっかけは前夜に届いた一通のテキストメッセージ。

 内容は「レオが何者かに襲われ、病院に搬送された」というものだった。

 

「酷い目に遭ったな」

 

「みっともないとこ、見せちまったな」

 

 二人が病室へ入ると、患者衣を着たレオがベッドの上で軽口を叩いて見せた。

 

 他の友人たちにも知らせは入っていて、病室にはすでにエリカらの姿もあった。

 どうやら直前までレオの姉も居たそうで、今は花瓶の水を換えに出たらしい。

 

 一通り挨拶を終えた達也は改めてベッドの前へ寄り、友人の姿をざっと眺めて呟く。

 

「見たところ、怪我もないようだが」

 

 襲撃の詳細は一切知らされていない。

 命に関わるものではないとのことで朝を待ってからの見舞いとなったが、実際にこの場を訪れるまで兄妹の間の会話は常よりもずっと少なかった。

 

「そう簡単にやられてたまるかよ。オレだって無抵抗だったわけじゃないぜ」

 

 強気に語る姿を見て、達也が口の端に笑みを浮かべる。

 振る舞いほど快調でないのは()()()()()わかったが、なけなしの意気を無下にするつもりはなかった。

 

「じゃあ何処をやられたんだ?」

 

「それがよくわからねぇんだよな」

 

 負け惜しみには聞こえなかった。

 寧ろ心底から判らないとでも言いたげに。納得できないとばかりに首を捻ったレオは滔々と前夜の経緯を語る。

 

「殴り合っている最中に、急に力が抜けちまってさ。どうにか根性で対抗してるうちに逃げてったけど、こっちも立ってられなくってな。道路に寝っ転がってる所を達也の師匠のとこのお弟子さんに見つけてもらったんだよ」

 

「師匠の?」

 

 予想外な関りを耳にして達也は思わず訊き返してしまった。

 『忍び』を自認する八雲の手が方々に伸びているのは理解できるものの、進んで表舞台に関わってくるとは思ってもみなかった。

 

「運んでもらった時は気ぃ失っちまってたからな。退院したら礼を言いに行かせてくれよ」

 

「わかった。師匠には俺から伝えておこう」

 

 「頼んだぜ」と言って、レオは腕をベッドに置いたままサムズアップして見せる。

 気丈に振る舞う友人の姿に少しの呆れと大きな感心の混ざった息を吐いてから、達也は本題に入るべく話題を切り換えた。

 

「それで、急に力が抜けたと言ったな。原因に心当たりはないのか? たとえば毒を喰らったとか」

 

「身体中どこ調べても傷は無かったし、血液検査もシロだったぜ」

 

 レオの回答に、達也は腕を組んで首を捻る。

 外傷も毒物もないとなればいよいよ原因の見当がつかなかった。

 

 魔法を使われた線もあるが、たとえ精神干渉系魔法による攻撃だったとしてもエイドスに痕跡一つ残っていないというのは考えにくい。

 ましてやここは魔法大学の附属病院。『精霊の眼』で走査する以上に精密な検査が行われたはずだ。

 

「相手の姿は見たのかい?」

 

 あれこれと考えを巡らせる間に、今度は幹比古が疑問を投げかける。

 問われた方へ首を向けたレオは肩を竦める仕草の代わりに眉を持ち上げてみせた。

 

「ちらっとだけな。ロングコートの下にハードタイプのボディアーマーを着てたんで身体つきは分からんかったけど、覆面の下の顔は女だった」

 

「女性の腕力でレオと対等に殴り合ったのかい?」

 

「あり得ないことじゃないでしょ」

 

 驚きの声を上げた幹比古へ、エリカがいつになく神妙な口調で説く。

 

「薬を使えば小学生の女の子だって大の男を絞め殺せるんだから」

 

 何でもないことのように告げたそれはしかし、美月やほのかの表情を翳らせた。

 二人の変化に気付いたエリカは一瞬苦々しく口元を歪めたものの、撤回や誤魔化しを口にしようとはしなかった。

 

「どんな経緯があったのか聞かせてもらえるか?」

 

 一方、達也はまるで気にした素振りもなく話の続きを求める。

 それはある意味で空気を読まない一言ではあったものの、重くなりかけた雰囲気を払拭する効果もまたあった。

 

「渋谷をぶらついてたら妙な胸騒ぎがあってよ。気になって近付いてみたら白覆面の女に鉢合わせて、いきなり殴りかかってくるもんだから反撃した結果がこの様だ」

 

 流れに乗ったレオがあっけらかんと答え、幹比古も軽い調子で後に続いた。

 

「襲われた理由に心当たりはないのかい?」

 

「これっぽっちもな。顔見知りでもなけりゃあ、出会い頭にいきなりだぜ」

 

「でしたら、理由があったのは相手の方かもしれませんね」

 

 相槌を打った深雪がエリカへ視線を向ける。

 ここに至っては彼女も友人たちの計らいに気付いていて、頬に滲んだ恥じらいを憎まれ口で誤魔化しに掛かった。

 

「誰かに追われてたんじゃない? で、逃げた先にいたアンタを仲間と勘違いしたとか」

 

「あるいは人質に取ろうとしたのかもしれない。大人しく捕まるような相手じゃなかったのは、向こうにとっても計算外だったかもな」

 

「へっ、そう簡単に捕まってたまるかよ」

 

 すっかり穏やかな雰囲気に戻った室内。

 くすくすと笑いを零した美月はそれからふと、思い出したように呟く。

 

「それにしても、いきなり身体から力が抜けるだなんて。一体どんな魔法なんでしょうか」

 

「それについてなんだけど、実は一つ心当たりがあるんだ」

 

 幹比古は表情を真剣なものに変えると、一歩レオの方へと踏み出した。

 

「レオ。君の幽体を調べさせてもらっていいかな?」

 

 瞬間、病室内の空気がほんの僅か張り詰めたように達也は感じた。

 

 直前の気まずさから生じたものとは違う、どこか鋭さのある緊張感。

 加えてそれは部屋の中から生じたのではなく外から注がれている節があった。

 

「ゆうたい?」

 

「幽体というのは精神と肉体を繋ぐ霊質で作られた、肉体と同じ形状の情報体のことだよ」

 

 達也の他に気付いた者はいない。

 気配に敏感なエリカも古式魔法に精通した幹比古も気付いた素振りはなく、言葉の意味を語る幹比古に全員の意識が集中していた。

 

「幽体は精気――つまり生命力の塊。これを失ってしまうと、たとえ肉体が健康でも意識を保てなくなってしまうんだ」

 

 病室の中はもちろん、扉の傍にも彼らの他に気配はない。

 念のため『精霊の眼』で探ってみても不自然なものは何もない。

 微かな緊張感もすぐに解けてなくなって、ひとまず達也は違和感を脇へ置くことにした。

 

「幹比古は例の白覆面がレオからその幽体、生命力を奪ったと考えているんだな?」

 

 注意が逸れた分の確認も兼ねて問いかけると、幹比古は神妙な面持ちで首を振る。

 

「わからない。けど、幽体を調べさせてもらえればハッキリすると思う」

 

「良いぜ、幹比古。ってか、こっちからお願いするくらいだ」

 

 頷くレオの顔に恐れや迷いはなかった。自身すらも知らない『内側』を覗かれる不安よりも、戦場で背中を預けた経験から結んだ信頼が上回っていた。

 

 レオの承諾を受けた幹比古は礼を口にした後、持参したバッグからいくつかの呪具を取り出した。

 びっしりと墨文字の並んだ呪符と見たことのない形状の呪法具。それらを駆使してレオの状態(ステータス)を診た幹比古は、顔を上げるなり大きく息を吐いた。

 

「思った通り、精気が半分も残ってない。この状態で起きて話ができるなんて、君は本当にタフだね」

 

「まあな。体力にはちっとばかし自信あるぜ」

 

 幹比古の賛辞に口角を持ち上げたレオは「それで」と続きを促す。

 

「結局オレの力が抜けたのは、その精気ってヤツを覆面女に喰われたからって理解すりゃいいのか?」

 

「そう思う。ただ、そうだとすると問題なのは相手の目的だ」

 

「目的って、精気だか生命力だかわからないけど、それを奪ってコイツを倒すのが目的だったんでしょ?」

 

 何を当たり前のことをとばかりのエリカへ、幹比古は眉を寄せて首を振った。

 

「殴り合っている最中に精気を奪うなんて高度なことができるなら、レオを無力化するもっと簡単な方法もあったはずだ。なのにそれをせず、レオは精気を奪われた後も抵抗して確保に失敗してる。始末や捕縛が目的なら尚更、わざわざこんな回りくどい方法を選ぶ理由がない」

 

 幹比古の説明により、ようやく全員がその異常性を理解するに至った。

 

 何らかの身体的な強化措置を受けた女性が、

 たまたま出くわしただけの男子を相手に、

 古式魔法の専門家が調べてようやく判る手段で、

 一時昏睡状態に陥るほどの重症を負わせ逃走したのだ。

 

 いずれの要素も異常性、凶悪性が明らかであり、単なる喧嘩の延長ではない。

 襲われた相手がレオだったからこそ抵抗し、命を繋ぐことができたのだ。並の魔法師なら助からなかった可能性が高く、殺人も辞さない襲撃者のスタンスはおよそ平時の日本人が持つ発想ではない。

 

 だからこそ幹比古はこの襲撃者の目的が最大の焦点だと考えていた。

 

「精気を奪うこと自体が目的だったんじゃないか?」

 

 唯一同じ懸念へ先に辿り着いていた達也が所感を述べると、幹比古は真剣な表情のまま悩ましげに腕を組んだ。

 

「多分、達也の言う通りだ。でも、だとしたらもっと深刻な話になってくる」

 

「どういうこと?」

 

 最初に問いかけたのはエリカだが、説明を求めているのは全員が同じだ。

 一同の眼差しを受けた幹比古は腕組を解くと、視線でレオを促して続ける。

 

「幽体は肉体と同じ形状をしている。つまり、個人の保持できる精気の量には限りがあるんだ。余剰分は捨てるしかないし、そもそも余分に持つ必要がない。――相手が本当に人間なら、ね」

 

「その言い方だと、レオを襲ったのは人間じゃないということになるな」

 

「まさにその通りだと、僕は思ってる」

 

 冗談のように言った達也へ幹比古が大真面目に返すと、女性陣の困惑は一層深まった。

 当の達也も表情はどうあれ疑問を抱いているのは確かで、沈黙で説明を促された幹比古は快く友人たちの要求に応じた。

 

「みんなにはあまり馴染みがないと思うけど、古式魔法の概念では非物質的生物の存在が伝えられているんだ」

 

 突拍子もない話だと、達也と深雪を除く全員が同じことを考えた。

 幹比古自身も友人たちの困惑は想定済みだったようで、面倒を厭うことなく説明を続ける。

 

「妖魔、悪霊、ジン、デーモン。それぞれの国で、それぞれの概念で呼ばれるモノたちは物質的な生物ではないからこそ、物質的な栄養ではなく精気を糧にすると考えられている」

 

 21世紀末の現在、伝説や御伽話に語られる存在が実在すると信じられる者は少ない。

 その点、魔法という『伝説や御伽話の産物』を扱う彼ら魔法師にとってそれは、すぐにとなると難しいものの受け容れられないほどではないものだ。

 

 ましてや現実の脅威として目の前に現れれば尚更のこと。

 幹比古の話に耳を傾ける一同の間に、懐疑的な表情を浮かべる者はいなかった。

 

「そうした存在の内の一つに、人に寄生して人間以外の存在に作り変える魔性がいるんだ。僕たち古式魔法を伝える者はこうした存在のことをパラノーマル・パラサイト(超常的な寄生物)――『パラサイト』と呼んでいる」

 

 

 

 人に寄生し、人間以外の存在に作り変える魔性。

 

 人の姿形をした、人ならざるモノ。

 

 人の世界に入り込んだ化生の存在を達也が認識した、これが初めての瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 ● ● ●

 

 

 

 

 

 

 その日の昼休み、達也は深雪とほのかだけを伴って応接室を訪れた。

 

 学外からの訪問者と面会するのに使われるこの部屋は生徒会への申請がなければ利用できず、人目を避けて話をするのに絶好の場所だ。副会長である深雪の権限があれば入るのに手間はなく、応接室という部屋の目的上盗み聞きをされる心配もない。

 

「雫、いきなりごめんね」

 

『大丈夫だよ。メッセージは貰ってたから』

 

 内緒話ができる状況を整えた理由はUSNAに滞在する雫へ電話を掛けてもらうため。

 加えて雫にはもう一人の留学生を同席させるよう依頼してもいた。

 

「森崎も、夜遅くに呼び出して悪いな」

 

 東京とバークレーの時差は16時間。日本が正午に差し掛かろうとしている現在、通話を繋げた先は日の入りをとうに過ぎているはずだ。

 

『夜といってもまだ8時だ。それほど遅い時間じゃないさ』

 

 応接室のモニターに表示された駿は小さく首を振った。

 

 現代の通信システムは小さな携帯端末であっても鮮明な映像のやり取りが可能で、端末を備え付けのモニターに連携した今、遠く海を隔てたアメリカにいる二人とも直接顔を合わせるのと遜色ないほどに些細な表情の変化も認識することができる。

 

 そうしてクリアに映し出された駿の表情は細やかだが確かに柔らかくなっていて、深雪とほのかは「おや?」と関心を引かれた。

 隣の雫はそんな駿を横目に含みのある微笑を浮かべており、まだ一カ月も経っていないのにグッと大人びたように見える。

 

 合図もなく、達也を挟んで深雪とほのかの視線が交わった。

 少々箱入りとはいえ、多感な年頃の女子高生。それも留学するまで長い時間を共に過ごしてきた二人だ。日本に居た時から親密な二人の変化に否応なく期待が高まっていた。

 

 だからこそ、続く達也の一言は二人の好奇心を大いにくすぐることとなった。

 

「だとしても、そんな時間にわざわざ雫の所へ来てもらったわけだしな」

 

 瞬間、画面内の駿と雫が揃って言葉に詰まる。

 まるで自分たちの行動が常識外のものだったと今さら気付いたかのように。

 

「……もしかして、お邪魔だったかしら?」

 

 二人の沈黙をどう解釈したのか、深雪がわざとらしい言い回しで訊ねる。

 達也を挟んだ反対側のほのかは画面越しにも判るほど瞳を輝かせていて、親友たちの興味を買っていると気付いた雫は努めて穏やかに応じた。

 

『そんなことないよ。ただ、このくらいの時間ならよく一緒にいるから』

 

『ああ。雫たちの厚意で夕食をお世話になっているんだ』

 

 一拍遅れて立ち直った駿が無難な言い分を続けても二人を鎮めることはできず。

 止めとばかりに達也がさも愉快げな笑みを浮かべた。

 

「では、そういうことにしておこう」

 

 たちまち抗議の視線が()()刺さるものの達也に応えた様子はなく。

 挨拶に続くやり取りは和やかな雰囲気のまま駿のため息で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「勿体ぶってもしょうがないし単刀直入に言おう。

 昨晩、レオが正体不明の相手に襲われた」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()、達也は手っ取り早く本題を口にする。

 

「幸い命に別状はないものの、ダメージを負ってな。しばらく入院することになった」

 

 画面の向こうの二人が驚きを滲ませる間も止まることなく一息に話しきると、不安げに眉を寄せた雫が先に口を開いた。

 

『重傷なの? 後遺症とかは……』

 

 言いながら、雫はちらと駿へ目を向ける。

 腕を組んだ駿は黙ったまま何かを考え込んでいて、隣から窺い見る視線にも気付いていない。気遣いに長けた駿にしては珍しい姿だ。

 

 様子の違いに引っ掛かりを抱きつつも、達也はひとまず雫の不安を払拭しに掛かる。

 

「怪我はないし、身体的な後遺症も残っていない。だが、どうやら精神的なダメージを受けたようでな。幹比古の見立てでは、生命力の一部を奪われたらしい」

 

 怪我も後遺症もないと聞いて多少は安心できたようだ。

 胸に溜まっていた息を吐き出した雫が目を閉じて「よかった」と呟く。

 

 一方で駿の方は表情を変えることなく、顔を上げるなり真剣な眼差しで説明を求めた。

 

『詳しく聞かせてくれ』

 

「もちろんだ。そのために連絡したんだからな」

 

 頷いて、達也は幹比古の語った襲撃犯の推論を共有していく。

 

 相手の人相や特徴。レオと渡り合う格闘戦の実力。

 技ではなく力で対抗してみせたことから何らかの強化措置を受けていると予想し、レオの状態を調べた幹比古が消耗の原因を突き止めるに至ったこと。

 

 幽体や精気といった聞き慣れない単語にもできる限りの解説を挟みながら、人間に寄生する非物質生命体の存在を語って聞かせた。

 

『『パラサイト』。人の生命力を奪う妖魔、か……』

 

 組んだ腕の上で顎先を摘まむ、何度か見た熟考の姿勢で駿が呟く。

 短い黙考の後、顔を上げた駿は「それで」と口にして達也を見据えた。

 

『わざわざ面と向かって聞かせたということは、こちらに手掛かりがあると思っているんだな?』

 

 達也の口元に小さな笑みが浮かぶ。

 意図したわけではなく自然とそうなったことを可笑しく思いながら達也は頷いた。

 

「あくまで可能性の一つだが、そうだ」

 

『候補をUSNAに絞ったのは――ああ、なるほど。交換留学か』

 

 同じ推論に辿り着いたところで「さすがに話が早いな」と感嘆が零れ落ちる。

 一癖も二癖もある大人と渡り合うことが多い達也にとって四葉の関係者以外の、それも同年代でこれほど話しやすいと感じる相手はほとんどいなかった。

 

「どういう、ことですか?」

 

 事実、ほのかはどうにもピンと来ていないようだった。

 深雪や雫も似たようなもので、モニターを挟んだ両側で小さく首を傾げている。

 

「森崎も推察した通り、『パラサイト』は交換留学をきっかけにUSNAからもたらされた可能性がある。と、俺は考えている」

 

 達也の説明に女性陣は揃って驚きを露わにした。

 他方、男子二人は一層真剣さを深めて意見交換を続ける。

 

『時期が合致するのは確かだ。だが偶然ということも考えられるんじゃないか?』

 

「もちろんだ。だからその場合はまた別の原因を探る必要があるな」

 

『別の原因、か。自然発生するケースはほとんどないんだったな』

 

 達也が頷くのを見届けて、再び駿が考える姿勢を取る。

 

『人為的に引き起こされたものだと仮定して、国内の古式魔法師の仕業という線は?』

 

 この疑念もすでに通った道だ。

 達也は幹比古から受け取った回答をそのまま口にした。

 

「詳しくは語れないそうだが、基本的にはあり得ないらしい。いわゆる禁忌なんだとか」

 

『全員が同じ考えならいいが。どうあれ吉田がそう言ったんだとすれば、国外の人間が元凶と見るのが妥当か』

 

 完全にとはいかないまでも納得はできたようで、駿は短く息を吐く。

 

 認識の共有はスムーズに運んだ。次は具体的な要望を伝える段だ。

 そうして口を開きかけた達也はしかし、モニターに映る二人を見て言葉を呑み込んだ。

 

『駿くん、これってもしかして――』

 

『そうだな。直接の関係があるかはわからないが、ここで話しておこう』

 

 ブレザーの二の腕辺りを摘まんで注意を引く雫と、目を見ただけで意図を察する駿。

 以心伝心とでも言うべき光景に若干二名が胸を躍らせる一方で、達也の方はやれやれとため息を漏らした。

 

 それがこれまで兄妹で散々振り撒いてきた空気感だという自覚はないまま。

 胸焼けに似た呆れを抱きながら、達也は自ら画面の向こうへ問いかける。

 

「そちらでも何かあったのか?」

 

 からかい代わりの相槌のつもりで投げかけた達也は、けれど二人の真剣な表情を目にして眉をひそめた。

 

『実はUSNA(こっち)でも不可解な事態が起きているんだ』

 

 緊張感の戻った中で駿が主体となって語られたのは、現在アメリカで起きている事件についてだった。

 

 ロサンゼルスを皮切りに発生したそれは結果だけで見れば単なる暴動のようでありながら、実体は魔法と密接に関係した組織的なテロ行為なのだとか。

 同様の事件に二人が巻き込まれたと聞いた深雪とほのかは大いに心配を覗かせたものの、当の本人たちは事件の特異性を知らせる方が大事だと考えている節があった。

 

「動く死人。それも生前使えなかった魔法を使う存在か」

 

 死者を操る方法と潜在的な魔法力を引き出す技術。

 どちらも達也の持ち得る知識の中にないものの、伝え聞くだけで異常性は明らかだった。

 

「『屍食鬼(グール)』……。こっちの『パラサイト』といい、なんだか気味が悪いよ」

 

『同感。単なる魔法絡みじゃなくて、変なオカルトっぽさがあるのが余計に』

 

「多分、どちらも古式魔法が関わっているんじゃないかしら。『パラサイト』にしても『屍食鬼』にしても現代魔法の範疇では説明がつかないもの」

 

 ほのかと雫の感想へ深雪が推測を重ねると、達也と駿は画面を挟んで同時に頷いた。

 

「こちらでも心当たりを当たってみよう。幹比古に話しても構わないか?」

 

『もちろんだ。こちらも『パラサイト』の手掛かりがないか探っておく』

 

「よろしく頼む。ではな」

 

 達也に続いて深雪とほのかが別れの挨拶を告げ、海を隔てた通信を終える。

 備え付けのモニターが暗転し、卓上のコンソールに接続していた端末を回収するためにほのかが兄妹の傍を離れた瞬間、深雪は兄だけに聞こえるよう極小さな声で囁く。

 

「先生にお話を聞きに行かれるのですね」

 

「ああ。教えてもらえるといいんだが」

 

 密かなやり取りは幸い聞き咎められることはなく。

 親友との会話でどことなく上機嫌なほのかを素知らぬふりで迎えた兄妹はそのまま午後の授業へ向けて応接室を後にした。

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 
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