モブ崎くんに転生したので、謙虚に生きようと思う   作:惣名阿万

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幕間2

 

 

 ● ● ●

 

 

 

 慌ただしかった4月とは対照的に5、6月は平穏で静かな日々(本来はこれが普通なのだが)が続き、第一高校ではすっかり日常の風景が定着化した。

 講義や魔法実技、魔法実験等の実習に臨み、時には体育競技などで汗を流す。心身の健全な育成という高校生としてあるべき姿がそこにはあった。

 この頃になれば一年生も高校生活には慣れ、勉強に訓練に部活にと、上級生に混ざって精力的に活動する姿が見られるようになった。

 

 だが6月も下旬に差し掛かると、そんな一年生にとって最初の難関が間近に迫ってきた。

 

 学期末試験。

 学生にとっては避けて通れない鬼門であり、魔法科高校の生徒にとっては特にこの一学期の期末試験は重要なイベントとなっている。

 何しろこの試験の成績によっては夏の九校戦――『全国魔法科高校親善魔法競技大会』の選手に選ばれるか否かが変わるのだ。

 

 九校戦の選手に選ばれることは、魔法科高校に通う生徒にとって大きな誇りとなる。

 また学校側としても自校の成果を示す場として大きく力を入れており、選手となった生徒は学校施設の優先利用権に加え、夏季休暇中に課せられる課題を免除されるなど、手厚いサポートを受けることができる。

 加えて大会は全国に放映され、魔法関係の企業や研究機関を始め、警察や国防軍なども人材発掘の場として熱い視線を送っているとなれば、魔法技能を活かした仕事を希望する若者にとっては是が非でも立ちたい場所と考えるのも当然だろう。

 

 そういう理由もあって、この学期末試験に意欲を発揮する生徒は多い。

 特に一科生の在籍するA組からD組にかけては九校戦出場を期す生徒が多いこともあり、試験の準備期間が始まる前から勉強に励む生徒が散見された。

 本格的に試験週間が始まり、各クラブが活動を休止し始めると、第一高校を包む雰囲気はいよいよ試験一色となった。

 

 それは何も学内だけに留まるものではない。

 

 

 

 

 

 

「――たとえば私が『共振』を使う場合、弦楽器の弦が共鳴して震えていると考えるとすごくイメージしやすい」

 

「そっか。それなら『レーザー』を使うときはプリズムを思い浮かべたらいいのかな。同一波長の光を束ねるイメージがより具体的になるし」

 

「だとすると『ランチャー』は移動系のみの単純な術だから、ムカつく奴をぶっ飛ばすのをイメージすればいいわね!」

 

 雫、ほのか、英美が各々の得意魔法についてのイメージを語る。

 必修科目である『魔法学』では各種魔法に対する理論的なアプローチを求められるため、発動される魔法の理屈や手順を理解する必要がある。三人は各々のイメージを語ることで、各魔法に対する論理的な思考法を身に付けようとしているのだった。

 

 現在彼女たちが勉強に励んでいるのは雫の実家――北山家の邸宅だ。

 だがこの会を企画したのはほのかで、『大の九校戦ファンである雫が間近に迫った九校戦に心を奪われ過ぎて試験勉強が疎かになっている』のを案じた結果だったりする。

 その際、ほのかは4月の勧誘期間以来仲良くなった英美を誘い、英美がこれを快諾した結果、三人での『勉強会』が実現した。

 

 とはいえ、勉強会と言っても休みなしに集中できるわけもない。

 魔法言語や魔法幾何学、魔法工学に続き魔法学までを一通りさらったところで、三人は休憩がてら雑談に興じ始めた。

 

「――実技といえば、このテストの点数が九校戦のメンバー選抜に考慮されるんだよね」

 

 話の流れでそう口にしたのは英美だ。

 直前の期末試験の結果が九校戦の選手選考に影響を与えるということは有名な話で、入学して3か月ほどの一年生にも広く知れ渡っていることだった。

 

 英美としては話のタネの一つとして口にしたに過ぎない。

 だがここには、九校戦の話となると俄然熱くなる少女がいた。

 

「そう! だから特に今回の試験結果は大事なんだよっ!」

 

 気合の入った声で応えたのは雫だった。

 常のクールな印象からかけ離れた様子に、話を持ち出した英美が思わず肩を跳ねさせる。一方でほのかは雫がこの手の話題に熱いのは知っていたので、遠い目で親友を眺めていた。

 

「あんなに燃えてる雫初めて見たよ……」

「雫は九校戦のことになると目の色が変わるからね」

 

 一人静かに闘志を滾らせる雫の横で、ほのかと英美はひそひそと顔を寄せる。そして今にもシャドーボクシングでも始めそうな雫の気迫に、二人はクスっと笑いを漏らした。

 

「今年は雫自身が九校戦に出るんだよね」

「うん。そうなりたい」

 

 笑いを収めたほのかが言うと、雫は幾分か落ち着いた声音で頷いた。

 そしてそのままほのかと英美へ順に目を向ける。

 

「ほのかとエイミィも絶対一緒に出よう」

「雫……」

 

 思わず親友の名前を呟くほのか。

 その横でニッと八重歯を覗かせた英美は、二人の前に勢いよく手を差し出した。

 

「そうだね。一緒に頑張ろう!」

 

 ほのかと雫はすぐに英美の意図を察して、彼女の手に自分のものを重ねた。

 室内に三人の少女の声が響く。活気に満ちた声は空調の効いた部屋に溶けていった。

 

 

 

 仮に、ここで話を終えて勉強を再開していれば、後に彼女たちは必要以上の焦りを覚えることはなかったかもしれない。だがその焦りがあったからこそ、後の追い込みに繋がったのだとも考えられ、だとすれば一概に悪手だとは言えないだろう。

 

 とはいえ、勉強会という企画の趣旨に立ってみた場合、この後に続いた会話は蛇足であり、試験に対しては何の役にも立たないものだった。

 一部は全く別の方向で大きな意味を持つことになるのだが、このときの彼女たちがそれを知る由もなかった。

 

 

 

 きっかけは熱の冷めきらない雫が語った一言だった。

 

「実は今年の一年は客観的に見ても、最強の世代と謳われた七草先輩たちに匹敵するんじゃないかと思ってる」

 

 雫の念頭に深雪の姿があったことは間違いないだろう。

 だが深雪を除いて見たとしても、彼女たちの世代は粒揃いだと雫は思っていた。それは長年九校戦を観戦し続けてきた雫だからこそ抱ける予想だ。

 

「D組のスバルもすごいし、多分かなりのハイレベルだと思うよ」

「今年は新人戦と総合のダブル優勝できちゃうかもね」

 

 英美とほのかも雫の予想に賛同する。

 だが雫はほのかの口にした『優勝』という言葉に難しい顔をした。

 

「でも『クリムゾン・プリンス』こと一条将輝を擁する三高がいるから油断はできない」

「……十師族、『一条』の御曹司、か」

 

 想像以上の大物の名前が挙がり、ほのかは唇を引き結んだ。

 

 『一条家』は十師族の一角にして、代々の得意魔法『爆裂』でその名を轟かせる家系だ。

 一条将輝はそんな一条家の御曹司にして、三年前の時点で実戦を経験した身であり、その時の活躍ぶりから『敵味方の血に塗れて戦い抜いた(クリムゾン)』の名で知られた魔法師である。

 

 英美も将輝の名前を聞いて頬に指を当てた。

 

「んー、一条くんが出場する競技って何だろう。モノリス・コードは多分確定だよね」

「十師族の直系が出てくるんだったら、やっぱり優勝は厳しいかな」

 

 ほのかも悩ましげに息を吐く。

 十師族や百家出身の魔法師は、それ以外の魔法師とは一線を画す魔法力を持っていることが多い。ましてや将輝は一条の直系で実績もある。実力が一段や二段高くてもおかしくない。

 

 早くも諦観を滲ませるほのかと英美。

 だがそんな二人に、雫は待ったを掛けた。

 

「私はモノリス・コードでも優勝を狙うことは可能だと思う」

 

 常の泰然とした口調で、けれどやや頬を紅潮させて雫が言った。

 十師族を相手に勝機があると、大きく出た雫に英美が追及する。

 

「ふーん、その心は?」

 

 問われて、雫は小さく鼻を鳴らした。

 

「モノリス・コードはあくまで魔法競技。実戦じゃない。一条くんの得意魔法『爆裂』は使えないし、殺傷性ランクの高い魔法も使えない」

「手加減しなきゃいけないってことだよね。だとしても力の差は大きいと思うけど」

 

 ほのかの疑問に頷く雫。将輝の才能を認めた上で、それでもと語り続けた。

 

「純粋な魔法力だと誰も敵わないと思う。でもモノリス・コードは単純な力勝負だけで決まるものじゃない。戦い方次第で十分逆転できるし、チーム力で勝るかもしれない。それに一高(うち)にも優秀な人はいる」

 

 そこまで捲し立てたところで、雫は再度鼻を鳴らした。どうやら相当にエキサイトしているらしく、ほのかはそんな親友の姿に驚きを隠せなかった。

 

「雫がそこまで言うなんて珍しいね。……あ、もしかして森崎くん?」

 

 しかし、ほのかが駿の名前を零すと、雫は途端に固まってしまった。

 その隙を見逃す英美ではない。

 

「なになに、森崎くん? どうして彼の名前が出てくるの?」

 

 口元をニヤリと歪めた英美が、ほのかへ迫る。

 ほのかはにじり寄ってくる英美にタジタジになり、つい口を割ってしまった。

 

「えっと、雫って彼のことけっこう気に入ってるみたいでね、この前も……」

「ほのか、ダメ。それ以上言わないで」

 

 遮るように雫がほのかの口を塞いだ。後ろから頭ごと抱えられるように口を塞がれ、ほのかはくぐもった悲鳴を漏らす。

 

「えー、いいじゃん。教えてよー」

「ダメ。言えない」

 

 ジタバタともがくほのかを他所に、英美が雫へ迫り、雫はジッと見返して口を噤む。

 抱きかかえられたままのほのかは懸命に逃れようと暴れるが、雫は見た目の割に力が強く、逃れることは叶わない。

 

 最終的には雫の辛抱強さが勝り、英美の小悪魔的な眼差しは収められた。

 「ざーんねん」と呟いて離れた英美を見て、ようやくほのかが解放される。雫とほのかは同時に、けれど意味の異なるため息を吐いた。

 

「でもまあ、確かに森崎くんなら一条君に食い下がれるかもね」

 

 一方、英美はあっけらかんとした表情でそう言った。

 あっさりと雫の予想を支持した英美に、ほのかと雫は疑問を顔に浮かべる。

 

「エイミィ、何か知ってるの?」

 

 息を整えたほのかが訊ねた。隣では雫も興味深そうに視線を送っていて、英美は苦笑いが浮かぶのを堪えなくてはならなかった。

 

「えっとね、これはあくまで聞いた話なんだけど――」

 

 英美がおとがいに指を添えて続ける。

 

「4月に学校が襲撃を受けた時、彼もテロリストと戦ってたらしいんだ。それで警備の人たちが苦戦してた相手をあっという間にやっつけちゃったんだって。銃を持った人が何人もいたらしいよ」

 

 その話に二人は心当たりがあった。

 ブランシュによる襲撃が起きた折、準備棟に駆け付けた森崎によって語られたことだ。

 

「確かにあのとき、銃を持ってる人もいるって……」

「うん。でもあのときは先生たちが捕まえたって言ってた」

 

 英美が頷く。雫の言ったことを肯定した上で、彼女は続けた。

 

「捕まえたのは先生と警備の人なんだけど、持ってた銃を壊したり、気絶させたりしたのは彼なんだって。先生たちも感心してたよ」

 

 今さら聞かされる過日の真実。ほのかと雫は顔を見合わせ、揃って笑みを浮かべた。

 黙っていた駿へ憤りを覚えるのではなく、あえて語るまでもないと自然体を崩さなかった駿の姿を思い出しての笑みだった。

 

 肩を寄せて笑い合うほのかと雫。

 そんな二人を見て、英美は頬を膨らましそうな勢いで声を上げた。

 

「あ、また二人だけで通じ合ってる。ズルいよー、私にも教えてー」

 

 そう言って、笑い合う二人へ飛び込んでいく。雫はこれをひらりと躱し、ほのかだけが英美に押し倒される形となった。悲鳴を上げるほのかを英美が弄り、雫がこれを笑って見ている。

 

 こんな光景が日常になっていくのだろうと、雫はとりとめもなく思った。

 

 

 

 

 

 

 結局、その後も勉強半分お喋り半分といったペースで勉強会は進み、夕方になってほのかと英美が帰路に着いた後、三人はそれぞれ独りになってからはたと気付いた。

 

(お喋りに夢中で勉強あんまり進んでない……?)

 

 以来、試験当日に向け、三人は猛烈な追い込みを掛けることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ● ● ●

 

 

 

 

 

 

 7月上旬、定期試験の結果が公表された。

 

 試験の結果は生徒ごとに割り当てられた端末を通して知ることができる。発表時間を迎えると、普段は校内のあちこちで過ごしている生徒の大半が自身の端末で結果を確認していた。

 一年A組でも他のクラスと同様、ほとんどの生徒が試験結果を閲覧しており、そこかしこで呻き声や歓声が上がった。

 

 端末で見ることができるのは自分の成績と、総合、実技、理論の各成績上位者20名の名前と順位だ。九校戦を控える今、この上位20名の中に名を連ねることは事実上の選手候補に名を連ねることと同義だ。

 

 

 

 果たして、一学年の結果は次のようになっていた。

 

 

 

 総合順位

 

 1位  司波深雪(1―A)

 2位  光井ほのか(1―A)

 3位  北山雫(1―A)

 4位  森崎駿(1―A)

 5位  十三束鋼(1―B)

 9位  五十嵐鷹輔(1―C)

 13位  里美スバル(1―D)

 15位  明智英美(1―B)

 

 

 

 実技順位

 

 1位  司波深雪(1―A)

 2位  北山雫(1―A)

 3位  森崎駿(1―A)

 4位  光井ほのか(1―A)

 5位  十三束鋼(1―B)

 8位  明智英美(1―B)

 10位  里美スバル(1―D)

 12位  五十嵐鷹輔(1―C)

 

 

 

 理論順位

 

 1位  司波達也(1―E)

 2位  司波深雪(1―A)

 3位  吉田幹比古(1―E)

 4位  光井ほのか(1―A)

 5位  十三束鋼(1―B)

 7位  五十嵐鷹輔(1―C)

 9位  森崎駿(1―A)

 11位  北山雫(1―A)

 18位  柴田美月(1―E)

 19位  里美スバル(1―D)

 

 

 

 総合成績で上位4位までをA組の生徒が独占するという事態には教職員も頭を悩ませることとなったが、総合と実技の結果に関しては軒並み予想通りと言えた。

 問題なのは理論で、1位と3位に二科生がランクインした点だ。特に達也に至っては2位以下を平均で(・・・)10点以上の差をつけるという断トツでの首位だった。

 

 この結果を目の当たりにしたA組の教室は、様々な声で溢れた。

 

 まず一つが深雪を始め、ほのか、雫、駿といったベスト4を独占した4人に対する賛辞の声。

 

 次に多いのが自分たちの成績に対する反応。

 これが最大勢力を占めないあたり、A組内には自分の成績よりも深雪の成績を気にする狂信者染みた生徒が少なからず残っているということであり、教室内では駿だけが他人事のように戦慄していた。

 

 そして人数は少ないながらも散見されるのが、理論順位に対する不平不満を零す者だ。

 魔法の理論は理屈だけで理解するのは難しく、感覚的に分からなければ、理論が付いて来ないのが通常。にもかかわらず理論において二科生が1位と3位にランクインしているというのは、普通の一科生にとって認めがたい事態なのである。

 

 だからこそ、認めがたい事実を前にした彼らはたとえそれが学校側の公式な発表だとしても信じようとはしない。

 

「ありえないだろ」

「採点間違いじゃないのか?」

 

 決して大きくはないが、耳に入らないわけでもない。

 そんな声量で呟かれた言葉は、健闘を讃えあっていたほのかと雫の下にも届いていた。

 

 兄である達也を愚弄するような発言を耳にして黙っていられる深雪ではない。

 

 思わず深雪へ視線を送った二人は、端末を前に悶える深雪の姿を目にした。

 そっと後ろから覗いてみれば、そこには理論順位の結果が表示されている。深雪はそこに並んだ自分の名前と兄の名前を見て頬を染めているのだった。

 

 思わず脱力するほのかと雫。あわや季節外れの吹雪かと身構えていたのが杞憂に終わり、ほのかが安堵のため息を吐く。

 

「ハァ。深雪のこういうところが残念というか、可愛いというか……」

 

 呟くほのかの横で、雫は迂闊な発言をしたクラスメイトへ目を向けた。

 そこにはすでに駿の姿があり、彼は不満を漏らした二人の男子を窘めていた。いつもの温和な表情を少しだけ陰らせ、親身になって道理を説いている。

 

「苦々しく思う気持ちもわかるが、ありもしない不正を疑うよりも先に省みることがあるんじゃないか」

「な、なんだよ森崎」

「ウィ……二科生の肩を持つって言うのかよ」

 

 二人は初めこそ二科生に味方するのかと噛みついていたものの、駿が厳しい眼差しで対するとすっかり大人しくなった。

 

「不甲斐ない結果を他人の所為にするのは楽かもしれない。けど、その先に成長はないぞ。君たちはこの学校で成長するために学んでいるんじゃないのか」

 

 煽るように、焚きつけるようにそう言って、駿は自席へと戻った。

 

 二人は苦々しい表情を隠そうともせずに席に着き、周囲の視線に追い立てられるように端末を操作し始めた。

 開いたのは試験問題と自身の解答で、二人はそのまま間違えた箇所の復習に取り掛かった。

 

 それきり幼稚な文句を口にする者はなくなった。二人に釣られるように復習へ勤しむ生徒が増え、深雪が我に返る頃には雑音はなくなっていた。

 

 雫は当たり前のように復習を始めた駿の下へ歩いていく。

 駿は雫の接近に気が付くと、操作していた端末を一度落として顔を上げた。

 

「総合3位おめでとう、北山さん」

「ありがとう。森崎くんも4位、おめでとう」

 

 先んじて称賛した駿に、雫も礼と賞賛を返す。

 駿もそれを微笑んで受け取った。

 

「ありがとう。実技の成績も上がって、実習で頑張ってきた甲斐があったな」

 

 入学してから3か月間、雫は実技の訓練に特に力を入れていた。

 実習中は可能な限り教官の指導を仰ぎ、深雪やほのか、駿のアドバイスにも耳を傾け、自身の持つ魔法資質を磨き上げてきた。その成果はしっかりと形になり、こうして目の前に示されている。

 

 とはいえ、雫としては駿よりも上位になれるとは思ってもみなかったのだ。

 成績を確認した今でも、嬉しさよりも困惑が勝っているのはそれが理由だった。

 

「うん。……でも、君よりも良い成績になるとは思わなかった」

「それだけ努力したという証だろう」

 

 だが駿はそんな雫へはっきりと頷いて見せた。

 それから真剣な眼差しを雫へ向け、穏やかでありながら力強く宣言する。

 

「僕もまだまだ負けていられない。次は挽回してみせるよ」

 

 雫はこれをエールとして受け取った。

 実技を得意とする者同士、切磋琢磨していこうと、そうした意味に捉えた。

 

「私も、簡単に負けるつもりはない」

「その意気だ」

 

 雫の強気な言葉に、駿は満足げに頷いた。

 それから何か考えるように腕を組んで顎に触れ、視線を斜め下に落とした後、改めて向き直り、言った。

 

「気が早いかもしれないけど、九校戦、お互い頑張ろう」

「……うん!」

 

 心からの笑みを浮かべる雫を、深雪とほのかは温かく見守っていた。

 

 

 

 




 
 
 
 
 試験結果については、原作及びスピンオフでも明らかになっていない生徒は作者の独断と偏見による順位です。
 
 

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