モブ崎くんに転生したので、謙虚に生きようと思う   作:惣名阿万

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 お待たせしました。少し書き溜めもできたので、ぼちぼち更新していこうと思います。
 恐らく週に2話ずつくらいになるかと思いますが、ご了承ください。

 
 


九校戦編
第1話


 

 

 

 7月も一週間が過ぎると、期末試験による浮足立った雰囲気もすっかり落ち着いた。

 試験を乗り越えた第一高校の生徒は誰もが間近に迫った九校戦に心を躍らせている。年に一度の祭典で、全国の魔法科高校生が母校の優勝を目指して競い合う大会だ。自身が、或いは友人やクラスメイトが出場する可能性もあるとなれば尚更だった。

 

 僕の所属する一年A組でもそれは同様で、寧ろ出場に当確の出ている深雪や雫、ほのかなんかがいる分、余計に期待を抱いている感があった。

 実技で3位に入った僕も同じように期待されているのだろう。普段から話すクラスメイトを始め、あまり関わりのない女子や他クラスの人からも声を掛けられることが増えた。噂ではすでに九校戦の代表メンバーは内定されているらしく、僕の名前もその中に含まれているんだとか。

 

 とはいえ、どんな噂が流れているにしても僕のやることは変わらない。

 講義を受け、実習に参加し、放課後は風紀委員として見回りをするか、コンバット・シューティング部で汗を流す。入学直後はバタバタしていたものの、2か月もあれば日常として定着するのは自然なことだ。

 

 変化があったのは週末の土曜日だった。講義の合間に教室の個人端末でニュースサイトを閲覧していたところへ、個人宛のメッセージが届いたのだ。

 

 内容は呼び出しだった。今日の昼休憩時、部活連本部に来てもらいたいとのこと。

 強制ではなく任意でという話だったが、差出人の名前を見て尚、行かないと返答できる者はいないだろう。

 

 メッセージの送信者は十文字克人。

 一高男子の筆頭、十師族『十文字家』の直系にして部活連会頭を務める十文字先輩だ。

 

 どんな用件かは予想がつく。この時期に十文字会頭から呼び出されるとなれば、ほぼ間違いなく九校戦絡みだろう。

 原作では代表者の選出過程が描かれることはなかったが、生徒会と部活連が中心となってメンバーを選んでいることはわかっている。メンバーが決定したのだと仮定して、それを本人に告げるとなれば、女子には七草会長が、男子には十文字会頭がその役目を務めるのはしっくりくる気がした。

 

 昼食は購買でサンドイッチでも買おうか。

 メッセージを見ながらそんなことを考えていると、ふいに端末に影が差した。

 

「よっ、何見てんだ?」

 

 声を掛けてきたのはクラスメイトの渋川春樹だった。

 一時は入院までした彼だったが、魔法を併用した治療により傷はすぐに塞がり、一週間余りで無事退院の運びとなった。そこからさらに一週間は医者から運動を止められていたが、5月も下旬に差し掛かる頃にはすっかり完治している。

 

「大したことじゃない。ちょっとメッセージが届いたから見ていただけだよ」

 

 退院以来、彼は気さくに話しかけてくるようになった。元々明るい性格な彼とは話し易く、実に高校生らしい会話ができてとても楽しく思っている。

 達也を筆頭に一癖も二癖もあるメンバーとばかり関わっているせいか、春樹のような何でもない会話ができる相手はとても貴重な存在だと、ここ2か月弱でしみじみと感じていた。

 

「メッセージ? って、お前これもしかし――っと、危ない危ない」

 

 後ろから端末を覗き込んだ春樹が声を上げかけ、既の所で口を噤んだ。

 声を抑えて息を吐き、視線と仕草で「悪かった」と伝えてくる。肩を竦め、気にしてないことを示した。

 

 友人としてつるみ出してわかったのは、彼が想像以上に気遣いに長けた性格だということだ。陽気でノリのいいお調子者と見られがちだが、その実周囲のことをよく見ており、表情の変化に敏く、口にすべきでないことを察知する勘も備えている。

 今の場面ももし彼が口を閉じていなければ、このメッセージの内容が周囲に知られ、下手をすれば噂が独り歩きする事態になっていたかもしれない。

 

「そういうわけで、今日は購買で買って食べることにするから」

「あいよ。んじゃあ俺は他のやつ誘って食堂にでも行くわ。――頑張れよ

「ああ。ありがとう」

 

 仰々しく手を振って、春樹は他のクラスメイトの下へと歩いていった。昼食を共にするいつものメンバーへ合流し、こちらをチラッと見ながら場を和ませている。十文字会頭からの呼び出しというセンセーショナルな事情から遠ざけてくれているようだ。

 春樹の粋な計らいに、今度何か礼をしなくちゃなと思いつつ、午前最後の予鈴でニュースサイトを閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 課外活動連合会本部には二十人以上の生徒が集まっていた。

 午前最後の講義が終わってすぐに教室を出て、購買で買ったサンドイッチとコーヒーを5分で飲み込んだ僕は、部活連本部へ着くなり会議室へと通された。そこにはすでに十人近い生徒がいて、大半が妙に緊張した様子の一年生だった。

 

 ほとんどが見知った顔で、誰より緊張した五十嵐の姿もある。今から緊張してたらとてもじゃないがもたないだろう。苦笑いが浮かぶのを自覚しつつ五十嵐へ声を掛ける。

 

「五十嵐、君も呼ばれたんだな」

「っ……森崎か。脅かさないでくれよ」

 

 大げさに肩を跳ねさせた五十嵐は音が鳴る勢いで振り返ると、僕の顔を見て大きく息を吐いた。クラスが違うので話した回数はそう多くないが、ここまで緊張している姿を見るのは初めてだ。

 

「そんなつもりはなかったんだが、驚かせたなら悪かった」

 

 素直に謝罪すると、五十嵐は戸惑いの声を漏らした。

 

「え、いや、謝られるほどのことじゃ……」

「同じ一年生同士、親睦を深めようと思って声を掛けたんだが、迷惑だったかな」

 

 視線を斜め下に落とし、少しだけ笑みを浮かべて、半歩後退する。

 そうすると、五十嵐は慌てて引き留めてきた。

 

「いやいやいや、迷惑なんかじゃないから。悪かったよ。緊張しててつい変な態度を」

「――ま、冗談なんだけどな」

 

 焦って言葉を並べる五十嵐の肩に手を置き、告げる。

 五十嵐は呆けたような顔でジッと見てきた後、それは大きなため息を吐いた。

 

「ハァ。まったく、脅かさないでくれよ」

「悪かったよ。けど、緊張は解れただろ?」

「それはそうかもしれないけどさ……」

 

 ジトッとした目で睨んでくる五十嵐へ片合掌で謝ると、五十嵐は口を尖らせて拗ねたように顔を背けた。そこに先程までの行き過ぎた緊張感はなかった。

 

 余計な緊張の解けた五十嵐と暇つぶしの雑談に興じる。内容は試験の結果やクラブ活動の近況などで、相変わらず彼は姉に振り回されてるらしい。

 とはいえ、姉の無理難題をしのぐために練習していたらいつの間にか実技の成績が良くなっていたというのだから、五十嵐先輩も弟の性格をわかっていて試練を吹っかけているのだろう。少なくとも弟の方は素直に認めようとはしないだろうが。

 

 そんなこんなで五十嵐と話している間にもちらほらと人が増えていった。

 二年生や三年生が会議室へ入ってきて、中にはコンバット・シューティング部の佐井木先輩の姿もあった。彼は僕の姿を認めるや否や、ニッと不敵な笑みを浮かべ、隣の辰巳先輩と話をし始めた。

 時折こちらへ視線を送ってくるあたり僕のことを話題にしているのだろう。辰巳先輩は風紀委員で、佐井木先輩は部活で関わりがあるだけに、この二人から揃って視線を向けられると嫌な予感がしてならない。

 

 なんとなく居心地の良くない視線を受けながら、時間が過ぎるのを待つ。

 

 僕たちを集めた十文字会頭は指定された時間の5分前に会議室へ入ってきた。後ろには服部副会長と剣術部の桐原先輩が従っている。原作通りならあの二人も九校戦メンバーのはずなので、事前に内定を伝えてあったのだろうか。

 十文字会頭は会議室の議長席へと腰かけると、そのまま腕を組んで瞑目し始めた。どうやら残りの5分間はあの姿勢で過ごすつもりらしい。

 

 真面目でしっかりした人だなと思いつつ、けれどあれじゃあこちらは5分間緊張しっぱなしになってしまうだろうと内心でため息を吐く。

 三年生や二年生の一部はそんな会頭の姿にも慣れた様子で話を続けているが、一年生に関してはもうガチガチの直立不動になってしまっている。五十嵐なんて直前まで僕と話していたのに、またしても可哀想なくらいに肩肘張って顔を強張らせていた。

 

 威厳があり過ぎるっていうのも考えものだなと思いつつ会頭の方を見ていると、不意に桐原先輩と目が合った。不思議なものを見たという表情でこちらを見て、それからニヤッと笑みを浮かべる。

 何なら会頭を挟んで反対側に立つ服部副会長も似たような表情だった。こちらは若干苛立ちを含んだ眼差しで、笑うというよりは頬を引き攣らせていた。

 

 二人の表情を見て、客観的に自分の様子を分析して、そうしてようやく気付く。

 

 片や十文字会頭が話してもいないのに緊張して固まっている同級生の面々。

 片や緊張とは無縁の心情のまま、呑気に他の先輩方の様子を窺っている僕。

 どう考えても、僕の反応は一年生として不自然だった。

 

 しまった。いくら面識もあって一方的にはよく知っている先輩だからとはいえ、三巨頭の一人で十師族の直系である十文字先輩を前に微塵も緊張の色を見せない一年生なんて肝が据わり過ぎだ。関わりのある先輩ならともかく、初対面の人には疑問に思われて当然。

 

 これは悪目立ちしてしまったかなと思うも、今さら態度を改めたところで後の祭り。ここで取り繕って下手に出る方が怪しく捉えられかねない。

 仕方がないので態度を改めることはせず、あくまで自然体のまま会頭が口を開くのを待った。服部副会長の顔が引き攣った笑みから真剣に見定めるものに変わったが構うものか。

 

 やがて時間になり、十文字会頭が口を開いた。

 

「時間だ。始めよう」

 

 立ち上がり、一同を見渡す会頭。

 視線が会議室に立つ一人一人を捉え、招集を掛けた全員がそこにいることを確認する。

 

「不在者はないな。いいだろう。まずは昼休憩の時間を奪う形になったことを謝罪する。放課後でも構わなかったのだが、早めに告げておく方が都合がいいだろうと思ってな」

 

 低く響くような声で語る会頭。その声音には、この人に付いていけば間違いないと自然に思わされるような魅力があった。これが世に言うカリスマというものなのだろう。

 

「顔ぶれで気付いている者もいるだろうが、敢えて明言しておく。ここにいるお前たちは、九校戦の代表メンバーに内定した。今日はそれに加え、担当競技の通達を行うために集まってもらった」

 

 誰かがごくりと生唾を飲んだ音がした気がした。それは一年生だったのかもしれないし、先輩の誰かだったのかしもれない。或いは僕自身のものだった気もする。

 

「本選に参加する者から呼んでいく。まずはスピード・シューティング、三年C組、佐井木遼吾、同じく二年A組――」

 

 佐井木先輩と二年の先輩が呼ばれ、佐井木先輩は不敵な笑みを浮かべた。二年生の先輩の方は緊張を見せつつ、けれどこちらも気後れはないようだ。

 

 最初に名前を呼ばれた佐井木先輩を皮切りに、十文字会頭は続々と本選の代表選手を発表していく。スピード・シューティング、クラウド・ボール、バトル・ボード、アイス・ピラーズ・ブレイクと発表した後で、最後にモノリス・コードの代表を呼び上げた。

 

「最後に、モノリス・コードは俺と辰巳、服部の三人で行こうと思う。本選の布陣は以上だ。続いて新人戦の割り当てを伝えていく」

 

 十文字会頭がそう言うと、一年生が改めて身体を固くした。誰もが自分が何の競技に当てられるのか、会頭の言葉を一言一句漏らすまいとでもいうような表情だ。

 一方で、僕は彼らほど張りつめた気分ではなかった。原作知識から自分が出場する競技は予想がついているし、適性を考えても変わることはないだろう。

 

 寧ろ考えていたのはその後、実際に九校戦が始まってからのことだ。

 

 果たして、僕の名前は原作と同じくスピード・シューティングで呼ばれた。

 干渉力や規模よりも処理速度と狙いの精確性が求められるこの競技は、僕にとって最も適性が高い競技だと言える。問題はライバルに当たる三高もエース級の選手を充ててくることだが、現時点でそれはわかるはずもないので仕方がない。

 

 担当競技の発表は続き、五十嵐はクラウド・ボールで名前を呼ばれていた。他の競技も続々と発表は続き、やがて最後の一つへと差し掛かる。

 

「最後に、モノリス・コードは森崎、五十嵐、香田の三名だ。特に森崎はチームリーダーとして引っ張って行ってもらいたい」

 

 十文字会頭はそう言うと、視線をまっすぐに向けてきた。

 会頭だけじゃない。会議室中の視線が僕に集まっている。

 二十余りの視線を肌に感じながら、僕は腰を折って答えた。

 

「精一杯、努めさせて頂きます」

「ああ。頼んだぞ」

 

 顔を上げ、視線を合わせてから「はい」と口にした。

 会頭は僕の応えに頷くと、全体に向けて再度呼び掛ける。

 

「各自、自分の参加する競技は把握したな。二、三年は同じ競技に参加する一年の練習を見るようにしろ。作戦スタッフやエンジニアの人選が終わるまでは、お前たちが指導役を兼ねることになる。以上だ。何か質問はあるか」

 

 手は挙がらない。誰もが納得した顔で続きを待っていた。

 三年生や二年生は自信に満ちた、一年生は気概に溢れた表情だ。誰もが間近に迫った九校戦に向けてモチベーションを高めているのがわかる。一高を優勝に導くべく、全力を発揮しようと心に決めている。

 

「よかろう。練習は週明けから行う。各人、体調管理に気を配り、月曜からの練習に臨んでくれ」

 

 会頭が檄を飛ばして締めくくると、室内は俄かに活気づいた。意気込みを語り、挑発的な物言いをして、互いの奮起を促し合っている。

 そうやって、佐井木先輩も辰巳先輩も、桐原先輩も服部副会長も、五十嵐や香田も、そして十文字会頭も、誰もが九校戦に向けて士気を高めていた。

 

 ただ一人――。

 僕だけが、取り繕った顔の下で鬱屈した諦念を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 『魔法科高校の劣等生』。

 その原作第3,4巻にて『九校戦編』は語られる。

 

 原作主人公である達也や、妹の深雪、深雪のクラスメイトであるほのか、雫の二人と彼らを取り巻く先輩たちは、燦然と輝く結果を残し、第一高校は見事優勝を果たす。

 途中、幾度となくトラブルに見舞われながらもこれを退け、或いはやり過ごし、華やかな大会は事情を知らぬ者にとっては何事もなく幕を閉じるのだ。

 

 裏で蠢く陰謀や、数々の工作は達也とその協力者によって阻まれる。

 強力なライバルの登場にも動じず、彼らは栄冠を手にするだろう。

 

 そこに『森崎駿()』の影響はない。

 

 全く活躍しなかったわけじゃない。原作において『森崎駿』はスピード・シューティング準優勝を飾っている。多少の貢献をしたことは間違いないだろう。

 だが結局はポイントが半分の新人戦における準優勝であり、『優勝したライバル校の選手が実力者であると認識させる』程度の影響しか与えていない。

 

 モノリス・コードに至っては原作主人公(達也)の踏み台だ。

 予選途中で犯罪組織による妨害工作を受け、細かな描写のされないままにリタイヤ、入院することとなる。『森崎駿()』だけでなく、チームメイトの五十嵐と香田も一緒にだ。

 

 初めから敗けることがわかっていて、それでも士気を保つのは難しい。

 

 スピード・シューティングに関しては準優勝できるだけの実力は持ってなくちゃならないから、練習にも熱が入るだろう。佐井木先輩が同じ競技に出る手前、手を抜くことはできないし、する気もない。

 

 だがモノリス・コードに関しては違う。

 僕らは二戦目の冒頭で脱落することになるのだ。魔法治療を行っても長期の入院が必要になる程の大怪我を負う。それがわかっていて、『勝つため』の練習をする気など起きるはずもないだろう。

 もちろん、不真面目な態度でいるつもりはない。やる気がないと見做されれば更迭の可能性もあるし、そうなっては五十嵐と香田を守ることもできない。

 

 幸い僕はチームリーダーに選ばれた。ディフェンスを重視するという名目で、対抗魔法の練習や咄嗟に回避行動をとる訓練を行い、可能な限り怪我の軽減に努めるべきだろう。

 

 原作の流れを変えるつもりはない。スピード・シューティングでは準優勝、モノリス・コードは第二戦で負傷交代。これは守られるべき『筋書』だ。

 これは僕だけに関わる問題じゃない。誰かの魔法師としての人生、或いは人命までもが掛かっているのだ。4月のような『予想外』は許すべきじゃない。

 

 

 

 

 

 

 思考を中断し、流しっぱなしにしていたシャワーを止める。

 浴室を出て水気を拭き取り、自室へと戻ってからベッドに腰かけた。ふと横を見れば、端末がメッセージの受信を知らせていた。

 

 差出人は五十嵐だった。

 明日の日曜日、モノリス・コードのチーム三人で懇親会兼決起集会を開かないかと。

 

 少し考えて、了解の返事を送る。

 それきり端末を投げ出して、倒れ込むように横になる。

 

 無駄だというのはわかってる。余計な傷を増やすだけだということも理解している。

 仲良くなろうとすればするほど、後に抱える罪悪感は大きくなるだろう。

 

 それでも、頑張ろうと意気込む彼らに水を差すような真似はしたくなかった。

 僕の都合で傷つくかもしれない彼らを、僕の都合で落胆させたくはなかった。

 真実を知れば落胆どころではなく、言葉の限り詰られるだろう。

 

 だとしても、『筋書』に逆らう気はない。

 

 ベッドに横になって湯上りの身体を冷ました後、立ち上がって机へと近付く。

 無造作に置かれたままのCADを手に取り、ベッドへ戻って腰掛け、サイオンを注入し始めた。無系統魔法の起動式だけがインストールされたCADが訓練のための起動式を寄越してくる。

 

 起動式読み込み完了。魔法式構築開始――。

 体中のサイオンが胸の前に集められ、圧縮したサイオン塊を1メートル前方でゆっくりと解放する。空間にサイオンが溶けていくのと同時に、身体がドッと重くなるのを感じた。

 

 もう一度同じ起動式を読み込む。

 魔法式に記述された通りに体中からサイオンが集められ――。

 

 フッと意識が遠のき、全身から力が抜けた。

 魔法が不発に終わり、集めたサイオンが虚空へ消えていく。

 視界が暗くなっていく慣れた感覚を味わいながら、連日と同じ感想を抱いた。

 

 ああ。また二発目はできなかったな……。

 

 

 




 
 
 次回更新は土曜日予定です。
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