モブ崎くんに転生したので、謙虚に生きようと思う 作:惣名阿万
『全国魔法科高校親善魔法競技大会』――通称『九校戦』。
国内に九校ある魔法大学付属高校間で繰り広げられる最大にして唯一の魔法競技会であり、自校以外の生徒と接する数少ない祭典だ。10日間に及ぶ日程の後、少なくない遠距離恋愛カップルが誕生するとまことしやかに囁かれている。
そんな九校戦において、第一高校は一昨年から連覇を果たしている。3連覇の掛かった今年も『最強世代』と称される現3年生を筆頭に優勝候補の大本命だ。
前年の圧勝ぶりを目にした中には、「この分だと来年は賭けが成り立たない」などと囁く者すらいたとかいないとか。高校生の参加する競技会でトトカルチョを行うのは紛れもない違法行為なので一種の比喩表現だろう。
しかしこの春、一高一強体制に待ったを掛ける勢力の台頭が噂され始めた。
第三高校――。
北陸の金沢に校舎を持ち、尚武の校風を掲げる実力至上主義の学校。一高と同じく二科制を敷く魔法科高校で、より実戦的な魔法師の育成に力を入れている。九校戦では一高に次ぐ優勝回数を誇る、正に武闘派揃いの学校と言えるだろう。
だからだろう。九校戦の初日、大会前の懇親会の場で、第三高校の一団が一高集団へ近付いてきた際には、瞬時に張りつめた雰囲気が辺りを覆いつくした。
先頭に立っていたのは三高の生徒会長と部活連会頭。こちらは真由美と克人、鈴音らが対応したために動じた様子はない。挨拶も談笑もあっさりとしていて、鞘当てというには穏やか過ぎるほどだった。
しかし三高集団の中程、細身の少年が進み出てから雲行きが変わった。
真由美や克人へ挨拶をし、少々言葉を交わした後で少年は振り返った。後ろに何人かの三高生を引き連れ、少年はこちら――雫たち一年生の集団へと近付いてくる。
先頭の少年が立ち止まる。
目の前にいるのは一高一年男子代表の中心人物で、彼は物々しい雰囲気に若干たじろいでいた。少年はそんな彼に構わず、優雅に腰を折って見せる。
「初めまして。第三高校一年の一条将輝です。突然で不躾ながら、挨拶に来ました」
一礼した少年は十師族『一条家』の長男、一条将輝だった。『プリンス』の名に恥じない爽やかな笑みに黄色い声が漏れる。
見事なカリスマを魅せた一条将輝に対して、一高男子のリーダーは焦りも露に応えた。
「は、初めまして。第一高校一年、五十嵐鷹輔です。こちらこそ、よろしくお願いします」
よく言えば初々しく可愛らしい、悪く言えば頼りない返答。少なくとも雫には後者に感じられた。
とはいえ、相手が十師族の直系ともなれば委縮してしまうのも仕方がない。雫自身、直接話すときには緊張は免れないだろう。矢面に立つこととなった鷹輔には気の毒だが、ある意味でお手本になってくれたと言えなくもない。
内心で若干失礼なことを考えていた雫。
隣のほのかも苦笑いを浮かべていたあたり似たようなもの。
そんなとき、今度は彼女たち女子陣営の前に三高集団が進み出てきた。
「貴女が司波深雪さんですね。私は第三高校一年、一色愛梨と申します。以後、お見知りおきください」
輝く金糸を揺らして一礼した少女は、一条と同じ『一』の数字を姓に戴く少女だった。
噂に違わぬ存在感に、雫は小さく息を呑んだ。
「司波深雪です。こちらこそ、よろしくお願い致します」
深雪は動じることなく挨拶を返す。洗練された所作は『師補十八家』の令嬢に負けず劣らずで、だからこそ雫もほのかも噛まずに挨拶を返すことができた。
「十七夜栞です。よろしくお願いします」
「四十九院沓子じゃ」
続く二人も『
「一条将輝です。十師族だからと遠慮することなく接してください」
「吉祥寺真紅郎です。どうぞよろしく」
そこへ一条の御曹司と『カーディナル・ジョージ』が並ぶと、玉の集団と呼ぶに相応しい顔ぶれとなった。学年が違えば彼らの内の誰もがトップに立てるだろう。
それから一高側も次々に自己紹介を済ませ、ひと段落したところで達也が呟く。
「噂には聞いていたが、凄い世代だな。反則じゃないかとすら思えてくる」
達也は若干苦笑いを浮かべていた。そう思うのも当然で、何人もが同意するように大きく頷いていた。
対して、三高側の反応は予想外だった。
「実はもう一人いるんだが……」
「先に七草さんへご挨拶に伺うからと遅れていまして」
将輝と愛梨が浮かべたのは、達也が浮かべたもの以上に深い苦笑い。
その表情と言葉に、一高の面々はいよいよ言葉を失う。
直後、横合いから声が掛けられた。
「失礼。遅くなりました」
振り向いて、すぐに三高側のメンバーが口を開く。
「遅いぞ。もう俺たちの挨拶は済んでしまった」
「すまない。生徒会の方が長引いてしまって」
将輝が苦言を呈すれば、本気で申し訳なさそうな表情を浮かべ、
「なら仕方ないわ。優先順位を考えれば妥当だもの」
「そうだね。なにせ彼に副会長の席を押し付けたのは将輝だ」
「うむ。つまり、一条が悪いということじゃな」
「ぐっ……。言われてみればそうなるか」
栞と真紅郎、沓子から袋叩きにされた将輝を見てクスっと笑みを浮かべる。
幼さの残る顔立ちでありながら、どこか大人びた雰囲気を纏った少年。
「ほら、皆さんが呆れているわ。貴方もご挨拶して」
「ああ」
同級生と言うには気安い口調の愛梨に促され、堂々とした立ち姿で一高面々の前に立ち、こう言った。
「初めまして。私は第三高校一年、森崎駿といいます。こうして皆さんにお会いする時を心待ちにしていました」
後に第三高校の『黄金世代』と呼ばれる学年の中心人物たち。
彼らを纏める盟主となったのは、最も魔法の才能に乏しい少年だったという。
『モブ崎くんに転生したので、野心的に生きようと思う』
プロローグ 完
続かない。
本編の執筆が不調なため、生存報告がてら思い付きでお茶を濁そうとした結果です。期待してお待ち頂いている皆様、本当にごめんなさい。
頑張って続きを書いていきますので、気長にお待ちください。