モブ崎くんに転生したので、謙虚に生きようと思う 作:惣名阿万
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新人戦女子アイス・ピラーズ・ブレイク決勝リーグは、14時から第二試合が行われることとなった。本来の第一試合は三高側の棄権で深雪の不戦勝。間に男子の試合を一つ挟んだ後、第三試合が一高の要望通り16時開始と決定された。
総当たりが原則のリーグ戦において一戦のみを棄権するという三高側の戦略には、当然のように各所から不満の声が上がった。しかし大会委員はこれらに対し『選手の体調の回復を待つため』との一点張りで取り合おうとはしなかった。
こうした大会委員の独断専行とも取れる決定に対する不満は、しかし試合スケジュールの発表直後、あらぬ方向から押し流されることになった。
『十七夜栞、リベンジなるか?』
『死闘を超え、再びの挑戦へ』
『世代を代表する二人。次に勝つのはどちらだ!』
各種ニュースサイトや情報サイト、果ては会場の電光掲示板にまで。
当該試合への注目度はこの日一番となり、中には栞を擁護するような持論を展開する者もいた。
曰く、十七夜栞は三回戦において一高の明智英美と競った末に消耗してしまった。二人の試合は新人戦とは思えない見事なもので、試合後は二人とも座り込んでしまう程の激しい競り合いだった。
それだけの熱戦を演じた後である。男子スピード・シューティングの時と同じように消耗した選手をそのまま試合に立たせれば、また選手が意識を失うような結果にもなりかねない。選手の安全のためにも、多少の配慮はされて然るべきだと。
国際的にも名高い医師が発したコメントは瞬く間に拡がり、大会委員の決定を支持する雰囲気となって会場を覆い尽くした。引き合いに出されたのが駿だったということもあり、一高の面々としてもこの論説には身につまされる部分があった。
とはいえ、だからといって簡単に割り切れることでもなかった。
「それで雫だけ2試合やらなくちゃいけなくなったんだ」
試合に備えて早めの昼食を摂りながら、ほのかが不満を隠すこともなく呟く。手元の端末には件の医師のコメントを取り上げた情報サイトが表示されていて、九校戦をエンターテイメントとしか捉えていないような文章には憤りを示していた。
深雪も態度には出さずとも同じような不満を抱いているようで、ほのかの苦言を遮ることもなく黙々と食事を進めている。気にした様子がないのは当事者の雫だけで、紅茶のボトルを脇に置いた彼女は穏やかな声で応じた。
「大丈夫だよ、ほのか。深雪とは本気で競ってみたいと思ってたし。十七夜さんとも、もう一度対戦できるのは楽しみだから」
「……雫はそれでいいかもしれないけど、でもやっぱりズルいよ」
親友の言葉に嘘がないことを知って、けれどそれだけでは納得できなくて。妙に達観したところのある親友に代わって、ほのかは唇を尖らせた。
同じようにほのかの内心を察した雫が笑みを浮かべる。見透かされたと赤くなった彼女へ「ありがとう」と口にして、雫はふと表情を改めた。
「三高の事情も周りの期待も、私には関係ない。十七夜さんには負けないし、深雪にだって、負けるつもりはない」
そう言って、雫は深雪へ視線を送った。
「どういう結果になっても悔いはない。だから、深雪も全力で来て」
雫の宣言を受けた深雪は一瞬だけ目を見張った。それから静かに口内のものを飲み下し、楚々とした仕草で口元を拭ってから顔を上げた。
「ええ。もちろんよ。正々堂々、勝負しましょう」
笑みを交わす二人に挟まれて、ほのかはどこか困ったように安堵の息を吐いていた。
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昼食を済ませた三人はお喋りもそこそこに試合の準備へ向かった。
一度ホテルの部屋へと戻って着替えを手に取り、エントランスで合流して一高の天幕へと向かう。三人が並んで天幕へ入ると、タイミングよく達也が出迎えた。
「早かったな。昼食はもう済ませたのか」
「はい、お兄様。お待たせいたしまして申し訳ありません」
「構わないよ。丁度、大会委員によるデバイスチェックを終えてきたところだ」
すかさず駆け寄った深雪へ応えて、達也がテーブル上に並んだアタッシュケースを示す。
ケースは合金製の強固なもので、電子カード式のロックが施されている。万が一の場合にも中身が壊れにくく、また盗難に遭っても容易には開けられない。サイズもそれなりに大きいため、一般的な女子高生が持つには少々重く嵩張る代物だった。
ふと、そこまで考えたところで雫は思い至る。
これまでの試合では控え室まで同行する達也が運んでいたのだが、今回は深雪と雫が対戦する試合だ。当然控え室も別々に用意されていて、距離もそれなりに離れている。達也が両方を運ぶのは現実的ではないだろう。
さすがに自力で運ぶのは無理だと判断して、雫は台車を借りようかと思案した。と、そんな雫の思考を読んだように、達也が手振りで待ったを掛ける。
「心配しなくても、雫の分はあいつが運ぶそうだ」
そう言って達也は掲げた手を返し、雫の後ろを示した。
促されるままに振り向くと、雫の斜め後ろにはいつの間にか駿が立っていた。付かず離れずの絶妙な位置に立って休めの姿勢を取る駿は、まるでボディガードのようにも見える。
「いつの間に……」
呆然と呟くほのか。同じく驚いて言葉の出ない雫。そんな二人を見てきまり悪く視線を逸らした駿は、そのままツカツカと進み出てアタッシュケースの一方を手に取った。
珍しい光景に達也も思わず表情を緩める。
と、目敏く気付いた駿が目を細めた。
「驚かす必要はなかっただろうに。今のはわざとか?」
「まさか。偶然だよ。――これがキーだ。開け方の説明は必要か?」
「……いや、問題ない。確かに預かった」
達也は何食わぬ顔で取り出したカードキーを差し出し、
駿はもの言いたげな眼差しを向けた末にそれを受け取った。
深雪は二人の脇でクスクスと笑みを零し、離れた位置で一同を見ていた真由美はニマニマとひとの悪い笑みを浮かべていた。
ケースを手にした駿が振り返る。決して軽くない荷物を持ちながら体の軸は一切ブレず、足取りも軽く雫の前に立った。
「それじゃあ、行こうか。――と、それも預かろう」
言うなり、駿は雫の持っていた衣装鞄を取り上げる。折り曲げないよう丁寧に肩へ掛け、
それでようやく我に返った雫は、長い息と共に緊張を吐き出して頷いた。
「……うん。よろしくお願いします」
天幕を出ていく駿と雫。
二人の後ろ姿を一同(男女計16名)はため息と一緒に見送った。
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試合開始を目前に控え、観客席はキャパシティの限界以上の人で溢れていた。
同校対決とはいえ、優勝候補同士による試合である。注目度は高く、スタンドには魔法の研究に携わる者や軍の関係者までもが駆け付けていた。
一高の応援団が詰めかけた一角には、真由美と摩利による下級生いびりを受ける達也と、英美やスバルといった一年女子から質問攻めに遭う駿の姿があった。
どちらも表情に多少の差異こそあったものの、試合には何らの影響も及ぼさない幕間の些末事という意味では同じ。或いは精神的な疲労を感じたという点も共通していたかもしれない。
ともあれ、そうした一幕は本番が始まれば独りでに収まるもの。
主役が登場した時点で、一同の視線は一斉に二人の少女へと注がれた。
昇降式の櫓がせり上がり、計24本の氷柱を挟んで深雪と雫が対峙する。
観る者を魅了する二人の姿に、スタンドは水を打ったように静まり返った。
純白の単衣に緋袴の巫女装束を纏った深雪。
水色の振袖に花の髪飾りをあしらった雫。
どちらも息を呑む程に華やかで、同時に凛々しい姿だった。
どこからか吹いた風が二人の髪と袂を揺らし、神秘的な光景に多くのため息が漏れた。
アイス・ピラーズ・ブレイクは櫓の上から選手が動くことなく進行する競技である。CADの操作や魔法発動に伴う動作以外の動きがなく、そのためこの競技には服装に関する規定が存在していない。つまり、選手は自由な服装で競技に臨むことができるのだ。
服装が自由となれば、選手は当然自身が最も気合の入る衣装を選ぶようになる。
そうした傾向は女子の側に顕著で、いつからか女子アイス・ピラーズ・ブレイクの試合はファッションショーに似た側面を併せ持つようになった。
例年様々な衣装が披露されるこの競技。
深雪と雫の二人は、見た目の麗しさと類稀な実力の両面で観客の注目を集めていた。
スタンドの熱気が徐々に高まっていく。何度見ても息を呑む華やかさに加え、間もなく始まる試合への期待は大きい。
一方、睨み合う二人は静かに闘志をぶつけ合っていた。
静謐な佇まいで雫を見据える深雪と、沈着な眼差しで深雪を窺う雫。
見えない火花を散らす両者の闘志は最初の灯火と共にサイオンとなって溢れ出し、最後の灯火と共に魔法となって撃ち出された。
中央で別たれたフィールドが二極化された環境へ改変される。
雫の側を覆うのは灼熱の熱波。対して深雪の側は極寒の冷気に包まれた。
指定エリア内に存在する物質の振動エネルギーを偏らせる振動系範囲魔法――『
摂氏200℃を超える高温に襲われる12本の氷柱。
対して雫は氷柱の温度改変を阻む《情報強化》でこれを凌いでいた。
傑出した干渉力を持つ深雪とはいえ、領域に作用させる魔法で雫の《情報強化》を突破することは難しい。微かに眉を顰めて出力を上げるも、やはり《氷炎地獄》で氷柱そのものの構造情報を守る《情報強化》は破れなかった。
深雪の攻め手が不発に終わり、今度は雫が攻めの一手を打つ。
同じくこれまでの3戦で猛威を揮った《共振破壊》が深雪の氷柱を揺さぶりにかかった。
地面を媒介とし、物体の持つ固有振動数と同じ振動数の波を起こすことで対象を倒壊させる魔法だ。氷柱そのものへ振動を起こすのではなく、地面を揺らし副次的に振動を作用させることで《情報強化》によるブロックをもすり抜けることができる。
防御の難しい《共振破壊》はしかし、振動エネルギーが極限まで抑え込まれた深雪の陣地を揺さぶることはできなかった。《氷炎地獄》による振動エネルギーの偏在化は、振動系統の魔法を武器とする雫にとって強力な要塞として立ちはだかった。
攻撃が届かないと知って、雫は唇を噛んだ。
雫の攻め手が変わらないことを知って、深雪は地面の下にまで干渉力を伸ばし始めた。《共振破壊》のみならず、振動波を利用した攻撃の一切が封じられたことになる。
あの結界に踏み込む術はほとんどない。
知っていたはずの差を改めて痛感して、雫は舌を巻いた。
一見互角に思える攻防も、実際は雫が常に押されている側だ。
こうしている間にも熱波は氷柱の周囲の空気を加熱し続けていて、物理的な温度上昇は雫の陣地の氷を徐々に溶かしていっている。
《情報強化》では魔法による温度変化は防げても、物理的な周辺温度の上昇は防げないのだ。時間を掛ければそれだけダメージは蓄積していくことになる。
攻撃の手は封じられ、守りの面でもジリ貧になるのは明らか。
――やるしかない。
早めに決断を下した雫は、迷うことなく空いた右手を左の袖口へ伸ばした。
駿からのアドバイス通り、試合開始直後からサイオンを充填しておいた特化型CADを取り出し、深雪の陣地へ向けると同時に引き金を引く。
左手の汎用型は《情報強化》の維持に専念させ、右手の特化型で新たな魔法を発動。
予想外の攻撃に、深雪の目が大きく見開かれた。口が小さく開かれ、聞こえないはずの悲鳴が聞こえる。
そうして出来た意識の間隙を突いて、雫は達也から与えられた切り札――《フォノンメーザー》を撃ち込んだ。
このとき、深雪は二重の驚愕に見舞われ、雫の攻撃への対応が遅れてしまった。
《フォノンメーザー》という魔法の選択に驚いたのではない。深雪にはこの魔法が《フォノンメーザー》であると断定できるほどの知識はなかったし、仮に知っていたとしても振動系統を得意とする雫であれば問題なく使いこなせると判断した。
深雪の驚愕の原因は、雫の見せたCADテクニックにある。
二つのCADの同時操作。そしてCADの起動処理を省略した起動式の展開だ。
前者は達也も得意とする技術で、特化型CADを用意した達也本人であれば雫に教えることも可能だろう。自分には使いこなせないと敬遠していたテクニックを習得した雫には敬意と共に嫉妬も覚えるが、出処に関してだけは予想がつく。
一方、後者に関しては出所すらもわからなかった。方法についても予想がつかず、『コンマ数秒早く魔法が発動した』という事実だけが理解できた。
二重の動揺は、明確な隙となって現れた。深雪が動揺から立ち直った時には既に魔法は発動していて、量子化された熱線が深雪の氷柱の一つを捉えていた。
雫から見て最も手前にある氷柱から白い蒸気が上がる。不可視の熱線によって氷が瞬時に昇華され、立ち昇った水蒸気がエリアを覆う冷気によって細かな水滴に凝結されたことによる現象だ。
魔法的な工程の知覚できない者にとって、それは神秘的な光景だった。
大型モニターには可視化された魔法が映し出されていて、まるで雫が光り輝く槍を突き刺したような光景が広がっていた。
果たして、中程から溶断された氷柱の上半分が滑るように倒れた。
これまでの試合で無傷を誇った深雪の初めての失点。それも《氷炎地獄》による攻撃に耐えながらの先制点だった。
割れんばかりの歓声が会場に響き渡る。両者一歩も引かずの我慢比べから一転。高等魔法と高等テクニックの二段構えによる鮮やかな攻撃だった。
決勝リーグらしいハイレベルな展開に、観客の興奮も大いに高まる。
しかし、雫の攻勢はここまでだった。
突如、フィールドを覆っていた《氷炎地獄》が解除される。
灼熱と極寒が突如として消え、身構える雫の前で深雪は別の魔法を繰り出した。
氷柱を昇華させた時と同じような白煙が深雪の足下から広がる。
極寒の冷気を伴った白煙は、深雪の陣地から雫の櫓まで一気に押し寄せてきた。
それは深雪の最も得意とする魔法の一つ――《ニブルヘイム》。
概要だけは聞いていた雫が、霧の正体を探ろうと視線を巡らせる。直後、雫は足元から冷気が立ち昇ってくるのを感じた。濃霧のように広がった白煙が発生源で、そうだとすればあれはただの水ではない。
雫は這い上ってくる寒さに耐えながら、深雪の思惑を予測しようと必死に考えた。
依然として氷柱の温度変化を妨げる《情報強化》は作用している。温度を上げる方向から下げる方向へシフトしたとしても、氷柱自体の温度を変えることはできないはずだ。それは深雪も承知のはず。
だとすれば、深雪は何のためにフィールドを冷気で覆ったのか。
《情報強化》の盾を構えながら、試しに《フォノンメーザー》を撃ってみる。が、確実に命中したはずの氷は僅かに泡立つ程度で、水蒸気の白煙を上げることはなかった。
《ニブルヘイム》による冷却速度が段違いなのだ。熱線による溶解を上回る冷却が作用しているために、深雪の氷柱へダメージを与えることができない。《共振破壊》も相変わらず封殺されていて、いよいよ防御以外に打つ手がなくなってしまった。
せめて何が来てもいいようにと、雫は出来る限りの干渉力を《情報強化》へと注ぎ込んだ。
単純な力比べでは深雪に敵わなくても、領域に干渉する魔法には対抗できるはず。
防御を固める雫の前で、深雪が再度魔法を切り替えた。
再びエリアが二極化され、雫の陣地を灼熱の熱波が覆う。
先程と焼き直しかと思われる攻勢に、雫が何故と目を細めた――その時だった。
《情報強化》によって温度改変を阻止された氷柱。
その表面には《ニブルヘイム》がもたらした白煙が基の水滴が多数付着していた。
《ニブルヘイム》によって深雪が生成した白煙の正体は、液体窒素の霧だ。
当然、雫の氷柱に付着している水滴も液体窒素で、最初から立っていた氷柱には効果のある《情報強化》も、後から付いた水滴には適用されていない。
結果、低温下でのみ液体として存在する窒素が、《氷炎地獄》の熱によって瞬時に気体へと変化した。
その膨張率は実に700倍。雫の陣地に並ぶ氷柱は、その全てが一様に砕け散った。
幾多の轟音と共に、砕けた氷が地面へと落ちる。
《氷炎地獄》が解かれ、すっかり晴れたフィールドには夥しい数の氷片が転がっていた。徹底的なまでの破壊の余波は深雪の最前列の柱に多数の傷をつけており、その衝撃の激しさを物語っていた。
幸い、選手の立つ櫓の前には数種の障壁魔法が展開されていたため、雫に怪我はなかった。
試合終了を告げるブザーが鳴る。
言葉を失った観客は、我に返って拍手を打つまでに数秒を要した。それほどまでに、目の前で繰り広げられた試合は見事なものだったのだ。
遅れて湧き上がった歓声に、深雪は一礼して応える。
対して雫は俯いたまま動かず、CADを握る手と肩が細かく揺れていた。
今回は短めでしたが、キリがよかったのでここまでで。
途中ぶつ切りになっているのは仕様です。次話以降で語る予定なので、どんな一幕があったかご想像頂きながらお待ちください。
以下、宣伝的なモノ
作者Twitter → https://twitter.com/mobusaki_shun
更新報告をメインに、創作関連や趣味について、本作の裏話、設定等呟くことも。
過去作
・やはりSAOでも俺の青春ラブコメはまちがっている。
→https://syosetu.org/novel/141671/
『俺ガイル』×『SAO』のクロスオーバー。エタって久しいですが、いつかは完結まで持っていきたい二次創作処女作です。更新の合間等、お手隙の時にでも。
・名もなき英傑の詩
→https://syosetu.org/novel/190090/
『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』の独自解釈モノ。思い付きと勢いで書いた短編。