モブ崎くんに転生したので、謙虚に生きようと思う   作:惣名阿万

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 大変お待たせ致しました。
 
 
 


第28話

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 八高との試合後、続く二高にも勝利を収めた僕たち一高チームは、三高に次ぐ2位で決勝トーナメント進出を決めた。

 これで準決勝の相手は3位の九高となり、決勝前に三高とぶつかることはない。新人戦優勝という目標に向け、最大の懸念材料を払拭する結果だ。

 

 準決勝が始まるのは正午から。先に三高と八高の試合が行われ、一高と九高との試合はその後。1試合当たり30分掛かることはほとんどない競技なので、恐らく13時から開始となるだろう。

 

 二高との試合を終え、会場を後にしたのは11時になる少し前。次の準決勝に向けてゆっくりと休んでもよかったが、勝ち上がった時に相対するだろう優勝候補の試合を観ておかない手もない。

 制服へ着替えながら手短に相談した僕たちは、早めに昼食を済ませて会場で落ち合う約束をして一度解散した。

 

 会場内に点在するキッチンカーの中から適当な昼食を見繕い、一人でホテルの部屋へと戻る。同席したいと視線で訴えてくる者はいたものの、部屋で休みたいからと仄めかせば誰も付いてはこなかった。

 備え付きのテーブルに買ってきたバーガーセットを広げ、無理矢理胃に落とし込んでいく。食欲はまるで湧かないが、食べなければパフォーマンスが落ちるのは自明だ。残る試合の相手を考えればその程度のことにかかずらっている余裕はない。

 

 機械的に口を動かしながら、室内へ視線を巡らせる。

 喧噪の届かない静かな部屋にあるのは収納式のテーブルとイスの他に、壁掛けのモニターとツインベッドだけ。外気との温度差のせいか、或いは冷房が効きすぎているのか、少しだけ肌寒く感じられた。

 

 二つ並んだベッドの一方は五十嵐のものだ。手術後一週間の入院が決まり、残り短くなった大会期間中に戻ってくることはもうない。私物は病室へ送られており、ベッドメイクの済んだ部屋に五十嵐が生活していた痕跡はなかった。

 

 込み上げる吐き気を炭酸で飲み下し、二度深呼吸を繰り返す。

 

 昨日からこうして一人になる度、頭に浮かぶのはあの瞬間のことだ。

 これで終わりと高を括ったばかりに《電子金蚕》の脅威を忘れ、淡い期待は抱いた傍から滑り落ちて壊れた。挙句、救いたい相手に僕の方が救われる始末。滑稽なことこの上ない。

 

 五十嵐と香田の機転には驚嘆の念を抱かずにいられない。本来なら『森崎駿()』も同じ状況になっていたはずで、一人だけ軽傷で済んだのは他ならぬ二人のお陰だ。

 結局二人を守れなかった僕とは違い、彼らは易々と『筋書』を突破して見せた。僕があれだけ恐れていたことを、彼らは当たり前のように成し遂げたのだ。

 

 『筋書』を変えれば、必ず報いを受ける。

 過去にそれを思い知らされた僕は原作に縋りつくことで未知への不安から目を逸らしていた。既知の未来を辿ることしか考えてこなかった。染みついた強迫観念に首を絞められ、手を引かれるままに躊躇って、抗う気概すら失っていた。

 

『必要なのは最善を尽くす意志だ。勝つための道を探して、出来る限りのことをする。結果として敗れることになったとしても、そうして挑み続けることが大事なんだと僕は思う』

 

 偉そうに講釈を垂れておきながら、僕自身が立ち向かうことを恐れていたのだ。二人に庇われたことでそれを痛感した。

 

 諦念と逃避では一歩たりとも前へは進めない。(こいねが)う未来への礎足り得ない。

 『筋書』の変わりつつある中にあって、震えて縋るだけでは足りないのだ。それでは何も好転させられず、誰かを守ることもできない。

 

 掛け違ったボタンを正し、軌道修正を図るためにも、僕は僕にできるだけのことをしなくてはならない。これまでのような受け身ではなく、自ら進んで望む道を切り拓く。

 

 そうでもなくては――。

 

『お前が無事なら、優勝は貰ったも同然だな』

 

 事故の後、手術室へ運ばれる香田はそう言って笑っていた。

 五十嵐も額に脂汗を浮かべながら、確かに頷き笑みを浮かべていた。

 二人の信頼と期待に報いるためにも、必ずやり遂げなくてはならない。

 

 原作が迎えた大団円に向け、決勝の舞台で達也が活躍する瞬間を演出する。

 本来あの場に立つはずだったレオに代わり、一高の勝利を支える柱となるのだ。たとえ弱く脆い柱だったとしても、決勝で勝つ瞬間まで折れるわけにはいかない。

 

 適温に保たれた室内で、どうしようもなく震えだす身体を抱きながら目を閉じる。

 奥歯を噛んで全身に力を込め、鳩尾の辺りを握って約束の時間までを過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ● ● ●

 

 

 

 歓声と共に始まった準決勝第1試合。

 第三高校と第八高校の試合は、開始早々に三高側へと流れが傾いた。

 

「予想はしていたが、やはり圧倒的だな」

 

 呟く達也の視線は眼下の岩場ステージに立つ少年へ注がれていた。

 

 大小様々な岩石の転がる丘の上に立ち、CADを嵌めた右腕で魔法を放つ。腕輪形態の汎用型でありながら発動速度は十分に早く、座標計算に苦慮している様子もない。200メートル以上離れた相手陣地へ的確な砲撃を加える技量は見事と評するほかなかった。

 

「一条将輝――《クリムゾン・プリンス》か。さすがは十師族の直系だ」

 

 達也の隣で幹比古は腕を組み、片手を顎に当てて唸る。

 上級生の試合はともかく、新人戦が始まってからは友人たち以外の試合まで観ていたわけではない。将輝の試合を直接見るのはこれが初めてで、だからこそ幹比古の抱いた驚きは三人の内で一番大きいものだった。

 

「威力、射程、精度と三拍子揃った魔法をこうも連射できるとは。羨ましい限りだ」

 

 口調に反して表情を変えない駿に、幹比古は苦笑いを浮かべた。

 

 将輝が使用しているのは収束系統の《偏倚解放(へんいかいほう)》。筒状の閉鎖空間に周囲の空気を取り込み圧縮し、対象方向の蓋を開くことで圧縮空気をぶつける魔法だ。工程は複雑ながら射線の調整が容易で、遠距離から多角的な攻撃ができる利点がある。

 

 一方で《偏倚解放》は比較的高度な魔法ではあるものの、同程度の処理能力を費やした《圧縮空気弾》に威力で劣る。実戦色の強いモノリスではあまり使用されない魔法だ。

 

 だがそれも将輝の処理能力があれば話は変わる。

 一般的な魔法師では威力不足となる魔法も、将輝ほどの英才であれば相手を戦闘不能にするだけの威力を維持しつつ、連続発動可能な狙撃魔法となるのだ。駿のスタイルを考えれば、言葉以上の羨望を抱いていることは幹比古にも容易に想像できた。

 

「遠距離からの飽和攻撃、それも迫撃砲による制圧射撃のようなものだ。狙いは粗いが、直撃を避けても無傷とはいかない。あれを止めない限り、攻勢に出るのは難しいだろう」

 

 眉を顰めて達也が呟く。いつになく悩ましげに腕を組む姿に、隣の深雪が不安げな声を漏らした。

 

「お兄様でも対処は難しいですか?」

「迎撃するだけならどうにか。だが前進は難しいだろう。俺だけならともかく、二人への砲撃を止められなくなる」

 

 苦笑いを伴って零れた言葉に深雪は目を丸くし、次いで笑みを綻ばせた。

 花のような微笑みを浮かべた妹の頭を撫でてから、達也は何事もなかったかのように続ける。

 

「何より厄介なのは、一条選手がディフェンスということだ」

 

 達也に促されて一同がフィールドに目を落とした。

 

 眼下では将輝の魔法に晒され防戦一方の八高陣地へ向け、左右から真紅郎ともう一人の選手が迫っていた。

 気付いたディフェンスが対応しようとするも、至近に着弾する《偏倚解放》によって思うように動けない。

 

「後方の本陣に居ながら前線への砲撃を行う。単身で砲兵陣地を築いているようなものだ。あれだけの支援射撃があれば、オフェンスは容易に接近できるだろう」

 

 もたつく八高のディフェンスへ向け、真紅郎の《不可視の弾丸》が放たれた。一点への強烈な加重は相手に激痛をもたらし、八高のディフェンスが膝を折る。

 反対側ではオフェンスの一人が倒され、最後の一人となった八高の選手は一矢報いるべく将輝へ向けて駆け出した。圧縮空気の弾幕を駆け抜け、ステージの中間地点で将輝へCADを向ける。

 

 将輝の足下で火花が散り始めた。放出系魔法によって鉱物から電子を取り出し、改変された電位差に従って放電を起こす魔法だ。

 しかし将輝は表情一つ変えることなくCADを操作。自身の周囲に干渉力だけを張り巡らせ、事象改変による放電は未完のまま沈静化された。

 

 八高選手の表情が歪み、悔しげに唇を噛む。

 その背中に圧縮空気が叩きつけられ、間もなく試合終了のサイレンが鳴り響いた。

 

 歓声に応える三高チームの三人を見ていた達也がため息を吐く。

 

「参ったね、これは……」

「正直、付け入る隙があるようには見えなかった。一条選手一人でも厄介なのに、あの攻撃の中を挟撃されたら対処のしようがない」

 

 幹比古が呻くように漏らした言葉に、一同の多くが頷く。

 

「にしても、すげー防御力だな。相手の魔法を抑え込んでたぞ」

 

 一方で、レオは異なる観点から感心を口にした。派手な攻撃魔法に目を奪われがちな中にあって『守り』に目を向けたのは、彼自身が《硬化魔法》を得意としているからか。

 

「あれは《干渉装甲》といって、自身の周囲に強力な《領域干渉》を展開する魔法だ。範囲は狭いが効果は高く、また普通に《領域干渉》を使うよりも効率が良い魔法でもある」

 

 通常、魔法師は無意識の内に自身の周囲へ微弱な《領域干渉》を展開している。規模の大小、干渉力の強度など個人差はあれど、魔法師ならば例外なく起こる現象だ。

 《干渉装甲》ではこの《領域干渉》を補完、強化したもので、自身に直接作用する魔法にのみ効果を得られる魔法である。

 

「《干渉装甲》は使用者本人を守る魔法だ。加えて間接的な攻撃を防ぐことはできない。とはいえ、他にも対抗魔法は用意しているだろう」

 

 そう言って、達也は半ば呆れたように解説を結んだ。

 遠距離に対する一方的な攻撃手段を持っている上に守りも強力とあって、達也自身どう攻めるべきか途方に暮れている面もあった。

 

「何か策は見つかりそうかい?」

 

 だからこそ、幹比古に問われた達也は珍しく長考の構えを見せた。腕を組んで顎に手を当て、脳内でシミュレートを繰り返した達也は、結果の中でもマシな予想を口にする。

 

「コードを読むにしろ倒すにしろ、一条選手が壁になるのは同じだ。そのためには何とか近付きたいところだが……」

 

 近付くためには将輝を止めねばならず、将輝を止めるには近付く他ない。

 明確な打開策を見出せずにいる達也へ、横合いから駿が切り込む。

 

「どうあれ、先にオフェンスの二人を倒さないことには始まらないだろう。司波が狙われれば最後、こちらには打つ手がなくなる。一条選手の砲撃を止められるのは司波だけだからな」

「達也が一条選手の攻撃を抑えている間に、僕たちで残る二人を倒すってことかい?」

 

 そうして幹比古が身を乗り出すと、一同の間に少しずつ活気が戻り始めた。

 

「けどよ、向こうだって単純には攻めてこないんじゃねえか? あの砲撃が効いてる間ならともかく、達也が撃ち落とすなら幹比古と森崎は自由に動けるわけだろ?」

「確かに、達也さんが一条さんの魔法を無効化できるなら、相手もすぐには攻めてきませんよね」

「そんなの、誘い込んじゃえばいいのよ。ミキなら幻術で誘い込めるでしょ」

「僕の名前は幹比古だ。というか、そんなに簡単に誘いに乗ってくるかな……。相手にはあの《カーディナル・ジョージ》だっているわけだし」

 

 E組の4人が口々に言った後、首を傾げた幹比古へ駿は笑みを向ける。

 

「相手が来るのを待つ必要はない。やり方は他にもある」

 

 言って駿は笑みを不敵なものに変え、視線を達也へと向けた。

 

 駿から眼差しを向けられ、意図するところを察した達也は小さくため息を吐く。

 組んでいた腕を解き、極短い逡巡を経た後で、至極真剣な表情で頷いた。

 

「わかった。その線で考えてみよう。とはいえ、まずは準決勝に勝たないとな。そろそろ会場も決まる頃だし、本部へ戻ろう」

 

 そう言って席を立った達也に続いて、一同はスタンドを後にする。

 幹比古と並んで階段へ向かう駿の背を、じっと一人の視線が追っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ● ● ●

 

 

 

 一高と九高の準決勝は渓谷ステージで行われた。

 くの字型に湾曲した人工の池を中心に両岸には高い崖と背の低い草地が広がり、他と比べて複雑な地形を活かした戦術が重要とされるステージだ。

 

 会場が決まったことを受け、一高有利と見られていた空気は揺らいだ。

 複雑な渓谷ステージでは単純な魔法力以上に戦術的な技能が要求され、その点において九高は三高に次ぐと見られていたからだ。

 

 九州に開設されている第九高校は大亜連合に近いという地政学上の理由もあり、北陸の三高同様、戦闘に関連する魔法や技能の錬成に力を入れている。国際的な魔法の評価基準以上に、実践的な知識や能力に重きを置く校風を誇っていた。

 

 そうした理由もあり、試合前には一高が若干不利と見られていた。

 だが実際は両校に一人の脱落者も出ないまま、一高が完勝を収める結果となった。

 

 会場全体が狐につままれたような試合になったのは、(ひとえ)に幹比古の功績だ。

 

 試合開始直後、幹比古は水を司る精霊――水精を喚び出し、ステージ全体を濃霧に包んだ。

 視界を奪い、続く仕掛けから注意を逸らした上で会場全体を薄い結界で覆った幹比古は、霧が外へ流れ出ないよう細工を施した。これにより霧は風を起こしても滞留するだけで晴れず、九高側は手探りで歩を進めなければならなくなった。

 

 妨害はそれだけではない。

 ただでさえ先の見えない中、渦を巻くように霧を纏った《空気弾(エア・ブリッド)》が飛来する。普段は見えづらい空気の弾丸も濃霧の中であれば螺旋を描く様がはっきりと見え、時折《空気弾》が撃ち込まれる度に九高のオフェンスは遮蔽物へと身を隠した。

 射線が丸見えなことにほくそ笑みながら、その実しっかりと足止めされていることに、オフェンスの二人は終ぞ気付くことはなかった。

 

 そうして九高側が攻めあぐねている間に、達也は音もなく対岸を駆けていた。

 一高側三人の周囲は霧も薄く調整されており、遅々として前に進めない九高を尻目に達也は九高陣地へ潜入。モノリスを開錠し、気付かれぬままにその場を脱出した。

 あとは霧の中に潜ませた精霊越しに幹比古がコードを読み取って入力。終わってみれば試合時間は10分と掛からずの完勝となったのである。

 

 

 

 

 

 

 決勝は3位決定戦の後、午後3時半から開始されることに決まった。

 一高チームの三人は試合の1時間前に集合することだけを決め、各々休憩や準備へと別れた。達也は深雪を伴って本部天幕へ、幹比古はホテルの部屋で休むと言って早々に会場を後にした。

 

 そして最後の一人である駿はというと――。

 

「やっぱりここにいたんだ」

 

 声を掛けられ、駿は心底驚いたように目を丸くした。普段なかなか見られない表情に思わず口元が緩む。

 

「北山さん……。どうしてここが?」

「渡辺先輩の事故の後もここだったから、もしかしてって思って」

 

 競技が終わり、最早誰も利用者のいないスピード・シューティングの訓練施設。

 射場の前に設置されたベンチに腰かけた駿へ、雫は淡々と答えながら隣に腰を下ろした。

 

 一人分よりも僅かに狭い間隔を挟んで、雫は駿がしていた作業を覗き込む。

 

「テーピングを直してたの?」

 

 駿は片足を前に伸ばして座り、スラックスの裾を膝上まで持ち上げていた。

 膝元には四高戦での事故によって負った怪我の痕。青紫色に染まった肌は痛々しく、目にする度に引き留めたい気持ちが湧き上がった。

 

 無理はしない。怪我を悪化させるような真似はしない。

 そう言っていたからこそ引き止めずに済んだのだ。少なくとも、ここへ来るまでは。

 

「ああ。決勝の前に、一応ね」

 

 作業を続ける駿の手つきを見て、雫はそれが言葉通りの意味ではないと思った。

 事実、駿は今朝巻いたはずのテーピングを解いていた。症状の悪化を抑えるために膝関節を固定していたはずのものを、だ。念のためというだけなら、わざわざ外す必要はない。

 

「約束、忘れてないよね?」

 

 問い詰めるような雫の声に、駿は手を止めることなく応えた。

 

「もちろん。ちゃんと覚えているさ」

 

 視線は手元に落ちていて、患部を押さえる手に迷いはない。

 声音に嘘や誤魔化しもなく、だからこそ雫は駿の抱く想いの強さを悟った。

 

 真剣な横顔をじっと見つめていた雫は、やがて小さく息を吐くと立ち上がった。

 作業をする足下にしゃがみ込み、困ったような表情の駿を覗き込む。

 

「私にも手伝わせて」

「――わかった。それじゃあ、手を貸してもらうよ」

 

 反射的に口を開いた駿は上目遣いに見上げる雫の目を見て遠慮を呑み込み、ふっと笑みを浮かべた。

 左手で押さえていたテープを示し、外れないよう押さえさせた上で作業を続ける。

 

 それからしばらくは静かな時間が続いた。

 雫の手を借りた駿は淡々と処置を進め、やがて打撲の痕はテーピングの下に隠れた。

 

「ありがとう。お陰でしっかりと補強できた」

 

 スラックスの裾を下ろした駿は、再び隣へ腰掛けた雫へ礼を口にした。

 雫は小さく首を振り、僅かに眉を落として問いかける。

 

「決勝戦、勝てそう?」

 

 三高の強さが別格なのは誰もが知っている。予選2試合、準決勝と勝利し、評価の高まった駿たちですら、一条将輝率いる三高にはまず勝てないだろうと言われていた。

 駿や達也の実力をよく知る雫でも勝算が高いとは思えず、自ずと不安と心配が零れ出た。

 

 しかし、返ってきた答えは力強いものだった。

 

「勝つさ。なんとしてもね」

 

 ハッとして振り向けば、そこには真剣な横顔があった。

 じっと前を見据える駿の目に、以前まであった迷いは見られない。

 

「――うん。わかった」

 

 頷き、立ち上がる。

 振り返って駿へと手を伸ばし、握った手を引いて駿と向きあった。

 

「決勝戦、頑張って。何があっても応援してる。それと――」

 

 少し高い位置にある目を見て、雫は心からの笑みを浮かべ、

 

「終わったら、ちゃんとお願いを聞いてもらうから」

 

 最後に心ばかりの感情を視線に乗せると、駿は一瞬目を丸くし、はにかんだ。

 

「ああ。ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 決戦の幕が上がるまで残り1時間と17分。

 

 後に九校戦史上屈指の名勝負と謳われる試合が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 
 
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