モブ崎くんに転生したので、謙虚に生きようと思う   作:惣名阿万

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 大変お待たせしました。
 
 
 
 
 


第9話

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ジャスミン・ウィリアムズとジェームズ・ジェフリー・ジョンソン。

 共にオーストラリア軍所属の現役軍人で、イギリスが誇る《十三使徒》の一人、ウィリアム・マクロードに鍛え上げられた熟練の魔法師だ。特に少女姿のジャスミンはマクロード本人が手掛けた調整体《ウィリアムズ・ファミリー》の一員でもある。

 

 傍目には似ていない親子に見られる二人だが、実際の年齢差はそれほどない。

 見た目通りのジョンソンはもちろん、ジャスミンの方も魔法技能開発の影響で成長が止まったために少女姿なだけで実年齢は20代後半だ。

 

 警戒を抱かれにくいジャスミンの容姿は潜入工作にうってつけな反面制約も多く、ジョンソンが父親役を担うことでそれを補っている。

 能力的にも補完し合う関係にあり、前衛型のジョンソンと遠隔広域型のジャスミンはバランスの取れた組み合わせだと原作でも語られていた。

 

 そんな二人が今、目の前にいる。

 周囲にはちらほらと一般人の姿もあり、或いはそれで内情の追跡から逃れようと考えたのかもしれない。先日の人間主義団体との一件以来、警察の巡回が強化されているのも要因の一つだろう。

 

 これで出遭ったのがリン=リチャードソンなら見逃していた。

 内情のエージェントに追われるようなら逃走を助けもしただろう。

 

 だが相手がオーストラリア軍魔法師となれば話は別だ。

 目的はわからないが、原作で破壊工作を企図していたことを考えれば見過ごすわけにはいかない。

 

 内情の増援が来るまで足止めをする。

 それが今この場で取れる最善手だ。

 

 方針を決めたその時、ふと二人の内のジャスミンがこちらに気付いた。

 驚いたように少女の目が広がり、すぐに細められる。視線は後ろの路地に伸びているようで、麦わら帽を被り直した彼女がゆっくりと近付いてきた。ジョンソンをその場に残し一人で歩いてきた彼女は、一歩踏み込むだけでは決して届かない位置で止まる。

 

「こんにちは、お兄さん。今そこの道から出てきたみたいだけど、誰かに会わなかった?」

 

 流暢な日本語で話しかけられ、自ずと緊張が走った。

 疑われているのは明らかで、答え次第では即座の実力行使も考えられる。

 

「何のことだい? 特に誰も見ていないけど」

 

 時間稼ぎを念頭に、ひとまず当たり障りのない回答を返した。

 視界にジャスミンとジョンソンの二人を収めつつ、表情は友好を繕って固める。

 

 少女の目が真意を窺うように覗き込んできた。

 相手も表情は装いながら、けれど眼差しは幼い見た目に似合わぬほど鋭い。疑っていることを隠すつもりもないらしい。

 

 お互いに無言のまま、睨み合うだけの時間が過ぎる。

 男子高校生と外国人の少女が睨み合う光景は客観的に見れば異様なはずで、けれど周囲の一般人がこちらに気付く様子はなかった。

 

 認識阻害の結界が働いている――。

 

 それに気付いたのはほとんど同時で、直後彼女の向こうから声が張られた。

 

「ジャズ、来たぞ!」

 

 母国語で叫ぶジョンソンの声が響いた瞬間、ジャスミンの右手が伸びる。

 瞬時に取り出したCADは既に起動を完了していて、咄嗟に《圧縮サイオン弾》を放った時にはもう魔法式を投射する段階に到達していた。

 

 ジャスミン・ウィリアムズの操る魔法は後の達也と同じ《戦略級魔法師》のマクロードから受け継いだ強力なもの。

 規模こそマクロード本人には及ばぬものの、速度において勝ると言われるそれこそ内情のエージェントを無力化した彼女の切り札。

 

 指定した空間を高濃度のオゾンガスで満たす魔法――《オゾンサークル》だ。

 

 起動式の破壊に失敗した時点でそれ以上の迎撃を中断。右手の特化型はジャスミンに向けたまま息を止め、左手で鼻と口を押える。

 左目を閉じ、右目も半分ほど閉じてオゾンガスに対処し、続く《スパーク》の起動式を今度こそ撃ち抜いて無効化した。

 

「術を読まれた? どうして……」

 

 驚きを漏らす相手から目を離すことなく駆け出す。

 高濃度のオゾンガスに中てられたせいで右目が痛むものの動けないほどではなく、間もなく魔法式の効果範囲から脱出することに成功。極僅かに息を吸って刺激臭の無いことを確認し、閉じていた左目を開く。しかし――。

 

 気付いたときにはジョンソンが目の前にいた。

 

「――っ!」

 

 目を離したわけでもないのに接近してくる相手の姿を捉えることができなかった。野良の魔法師やジェネレーターの使う《自己加速》とは出力が段違いだ。

 咄嗟に芝を蹴っても遅く、反応して動き出したこちらを嘲笑うかのようにジョンソンの足が間近に迫る。

 

「じゃあな、坊や!」

 

 避けることはおろか、防ぐことも狙いを逸らすこともできなかった。

 鳩尾にジョンソンの踵が刺さり、為す術なく突き飛ばされる。

 

 衝撃と痛みに息が詰まって、吐き出す余裕もないまま地面に叩きつけられた。

 転がる身体が無意識の内に受け身を取ろうと動くも、ようやく止まった時には全身に痛みが走っていた。

 

 重い首を持ち上げ、二人の方へと目を向ける。

 ぼやけた視界には走り去る二人の背中が映っていた。

 

「っ……待て……」

 

 追いかけようと腕に力を込めるものの身体は言うことを聞かず、一向に立ち上がれない自分へ苛立ちが滲む。

 奥歯を噛み締めてみても状況は変わらず、気力を奪おうと襲いくる鈍痛に耐えるので精一杯だった。

 

 

 

 飄々とした声が聞こえたのは、まさにその時だ。

 

 

 

「止めておいた方がいい。彼らはああ見えて手練れの魔法師だ。君一人じゃまず敵わないよ」

 

 不意の忠告は間近から聞こえた。

 降って湧いた足音に振り返ると、すぐ傍らに立った人物が目に入る。

 

 作務衣に草鞋を履いた禿頭の男。

 観光地の雰囲気に似合わぬ恰好でありながら誰の目も引かず、声を掛けられるまで終ぞ気付かなかった男のことを、僕はずっと前から知っている。

 

 古式魔法の一種《忍術》の大家にして、達也の師に当たる人物。

 『九重八雲(ここのえやくも)』――『達也(主人公)』をすら凌ぎ得る彼は柔和な笑みを浮かべ、世間話でもするかのように続けた。

 

「――まあ、その辺りはわかった上で挑んだのかもしれないけど。ねえ、森崎駿くん」

 

 心臓を掴まれたような気がした。

 

 一切の音が消えて、全身に強烈な悪寒が走る。

 あれだけ苛んでいた痛みも感じられなくなって、肺は呼吸の仕方を忘れたように動かなくなった。

 

 声を出せぬままに喘ぐ僕を彼はじっと見下ろしていた。

 視線が誘うように横へと逸れ、抗うこともできず同じ方向を見る。

 

 促された先ではジャスミンとジョンソンが桟橋へと辿り着いていて、横付けしたプレジャーボートへ跳び乗った二人は運河を沖方面へと消えていった。

 

 二人の姿が見えなくなった途端、周囲の喧騒が戻ってくる。認識阻害の結界を張っていたのは内情の人間ではなく八雲法師だったらしい。

 身体に掛かっていた重圧も薄れていき、代わりに鈍い痛みが湧き上がった。歯が立たなかったことへの悔しさと歯がゆさが滲んで、痛みとは別の震えが走る。

 

 思わず息を漏らすと、不意に目の前へ手が差し出される。

 意図の読めない笑みに一瞬だけ迷ったものの、逆らう力も気力もない。

 無言のまま伸ばされた手を取って立ち上がり、頭半分上にある眼差しを見返した。

 

「初めまして。ぼくは九重八雲。九重寺という寺のしがない坊主さ」

 

 先程までの重圧はどこへやら。飄々とした態度で八雲法師がそう名乗った。

 釣られて気が抜けそうになるのを堪えて応じる。

 

「ご謙遜を。九重先生のご高名は実戦魔法師の間で広く知られたものです。僕自身、護衛の手解きの際、叔父に教えられましたから」

 

「出家の身としては、俗世で名が売れるのは複雑な気分なんだけどね」

 

 実情はともかく、口元に浮かんだ苦笑いは心からのものに見えた。原作でも八雲法師は基本的に不干渉の姿勢を貫いていたので、案外この言葉は本音なのかもしれない。

 

 一方で、そんな八雲法師が直接姿を現したからこそ、今が異常事態の只中なのだと判った。

 

「それで、九重先生は何故このようなところに? 先程逃走した二人組が何者かご存知なのですか?」

 

 事情をどこまで掴まれているかわからない以上、ここは惚けておくしかない。

 藪をつついて蛇を出すわけにはいかないのだ。洗いざらい明かしてしまうには、八雲法師の影響力は大き過ぎる。

 

「その口振りだと、彼らのことは知らなかったという認識でいいのかな?」

 

「ええ。先程の少女が賊に追われているように見えたので様子を窺っていたところ、意識を奪われた人を発見し、後を追ってここまで辿り着きました。その際、魔法による攻撃を受け対処を試みたのですが、結果はご覧の通りです」

 

 いつから見られていたのかはわからないが、これで一通りの筋は通るはずだ。

 ジャスミン・ウィリアムズを追っていた理由を誤魔化す必要はないし、内情の男たちが倒れていたのも事実。なぜ通報しなかったのかと問われたときは、居場所の確認を優先したからだと食い下がることもできるだろう。

 

「うんうん。じゃあ、そういうことにしておこうか」

 

 八雲法師は楽しげに頷き、鳩尾の前で腕を組んだ。

 柔らかな表情を浮かべながら、けれど眼差しだけは一向に緩む気配がない。自ずと緊張が増して、知らず知らずのうちに汗がこめかみを伝う。

 

 思わず唾を飲みこむ。と、それを待っていたかのように眼差しが緩んだ。

 

「そんなに警戒しなくても、ここで君をどうこうしようとは思っていないよ」

 

 『隙あらば切る』とでも言わんばかりの雰囲気を放っておきながらよく言う。

 釈然としない気分を呑み込み、改めて八雲法師を見返す。

 

「何を仰っているのかよく分かりません。それと出来ればこちらの質問にも答えて頂きたいのですが」

 

 初対面の今時点で迂闊なことは言えないし、口にできるとすればこの程度だろう。どこまで知られているのかわからない以上、下手に追及してボロを出すわけにはいかない。

 

 そうして警戒する心境を見抜いてか、八雲法師は僅かに笑みを深めて頷いた。

 

「ある人に頼まれて、ちょっとね。あとは一つ、君に忠告をするためだ」

 

「……忠告? なんでしょう」

 

 『ある人』というのが誰なのか気にはなったものの、後に続く言葉にはそれ以上に意識を引かれた。勿体ぶる相手に相槌を打ち、続きを待つ。

 

 身体を横へと向け、半身になった八雲法師は首だけで振り返り告げた。

 

「3年前の沖縄侵攻以来、大亜連合軍ではある噂が流れていてね。『日本には常識を超えた力を持つ魔法師がいる』というものなんだけど、上層部ではこれが随分と信じられているようなんだ」

 

 知らされた内容には言葉を失う他なかった。

 表情を装うのが精一杯で、相槌の一つも打てぬまま八雲法師は続きを口にする。

 

「このことはもう他の国にも伝わっているようでね。何が視えているのかはわからないけど(・・・・・・・・・・・・・・・・・)、関わるなら用心した方がいいと思うよ。二度も拷問を受ける羽目になるのは嫌だろう」

 

 穏やかな声音で囁かれた一言は、賑やかな中にあって尚ハッキリと聞こえた。

 真夏の屋外にもかかわらず全身を冷たいモノが伝う。背中を流れる悪寒に身体が震え、握り込んだ掌に爪が食い込んだ。

 

 間違いない。知られている(・・・・・・)

 僕の秘密――原作知識のことを、八雲法師は一端とはいえ掴んでいるのだ。

 

 暗に「狙われているのは君だ」と告げられたこと以上に、それは衝撃的な一言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 9月1日。新学期が始まった。

 

 1限に割り当てられた全校集会の後は早速授業が始まり、通常通りに午後まで続く。

 授業の合間には各々が過ごしてきた夏休暇の話が飛び交う。九校戦も当然のように話題へと上がり、観戦していた面々に囲まれて落ち着かせるのに苦労した。雫や深雪、ほのかも状況は同じだったのか、昼の休み時間になると三人は早々に教室から退散していた。

 

 称賛の言葉を貰えるのは素直に嬉しい。あまり持ち上げられると困るが、それが彼らの発奮材料になるのなら喜んで応えようと思える。

 一方で、そうしてクラスメイトからの祝福と好奇心に対応している間も、脳裏には不安と懸念が付き纏っていた。

 

 結局、夏休みの間にリン=リチャードソンと遭うことはなかった。

 寧ろ予想外な出来事ばかりに遭遇したと言えるかもしれない。

 

 反魔法師団体の活動やジェネレーターを擁するテロリストの襲撃。国防軍情報部の暗躍に加え、内情に追われていたオーストラリア軍魔法師の存在もある。

 極めつけは八雲法師だ。身辺を洗われる予想はしていたが、まさか直接対面することになるとは思わなかった。沖縄の一件も当然のように知っていたし、原作知識のことまで掴まれていた以上、どれだけ核心に迫られているかわかったもんじゃない。

 

 今のところは泳がされているようだが、釘を刺してくるくらいだ。バックにいる人間の判断次第では舞台から退場させられることもあり得るだろう。それで大団円が得られるのなら抗う理由もないが、現状では不安要素が多すぎる。

 なにせ既知の筋書とは最早大きく変わった。久沙凪煉の存在や三高の女子三人組、無頭竜の変化に加え、これだけのことが起きたとなれば、今後原作と同じ展開になることを期待するのは難しいと判断せざるを得ない。

 

 そんな中で今月末には生徒会長選挙が、そして来月末には論文コンペが開催される。

 ただでさえ危険な侵攻だというのに、八雲法師の言葉によれば他国の介入もあり得るのだ。オーストラリア軍魔法師の存在を考えればその可能性は小さくない。

 

 悶々としながら過ごす時間はあっという間で、気付けば放課後を迎えていた。

 クラスメイトに挨拶を済ませ、風紀委員会本部へと移動する。

 

 朝の時点で渡辺委員長からの呼び出しがあり、委員会メンバー総員が本部へと集まることになっていた。

 定期的な集まりのない風紀委員では年に数度の機会を除けば全員に招集が掛かること自体が珍しい。新学期初日だからといって特段何かがあるわけでもない。

 

 委員会本部へ着くと、既に半数以上のメンバーが室内に揃っていた。

 談笑する姿を見るに、何の目的で集まったのか予想が付いている人も多いようだ。渡辺委員長の根回しもあったし、何より本人の周辺から噂が広がっていたこともあるだろう。

 

 今日招集されたのは次期風紀委員長へ推される千代田先輩の顔合わせのため。

 自身の後を継がせるにあたり渡辺委員長は千代田先輩を委員会メンバーに引き合わせ、その後の教育係を達也に命じる。書類仕事を(なし崩し的に)請け負っていた達也をあてがうことで、委員会の長を務めるために必要なスキルを磨かせるつもりなのだ。

 

 適性の高さはともかく、一年生に指導を任せざるを得ないというのは委員長も頭の痛いことだろう。実力が必要だからといって実践能力だけで選任するのも考え物だ。

 挙句達也は実力も事務能力も検挙実績もピカイチというのだから始末に負えない。当の本人にはその自覚がなく、こうして部屋の隅で粛々としているわけだが。

 

「3週間ぶりだな、司波。九校戦では世話になった。改めて礼を言わせてくれ」

 

 近付いて声を掛けると、達也は困ったように笑んで応じた。

 

「何度も言ったが、礼には及ばない。森崎こそ、夏休み中は随分と忙しかったらしいな」

 

 表情は変わらぬまま、声音に呆れの色が混じる。同情でも慰めでもなく、かといって窘めているわけでもないその台詞で、情報の出処はすぐに察せられた。

 

「雫や西城から聞いたのか。確かにゆっくりと過ごす時間はあまりなかったが、そっちだって似たようなものだろう。最後の週末しか予定に空きがなかったと聞いたぞ」

 

「まあ、色々とな。暇を持て余すよりマシとはいえ、詰め込み過ぎかとは自分でも思う」

 

 せめてもの反撃にそう言うと、達也は降参とばかりに首を振った。

 

 探られて痛いのは断然達也の方だから、これ以上問い詰めてくることはない。

 そう考えていたのも束の間、すまし顔に変わった達也はさらりと口撃を返してきた。

 

「とはいえ、最後には羽を休めることもできたからな。雫が随分と寂しがっていたぞ」

 

「……皆まで言われずともわかっているさ。次があればなるべく予定を合わせるよ」

 

 一瞬言葉に詰まったのを見逃してくれることはなく、当たり障りのない答えを返す僕に達也は少しだけ眉を持ち上げていた。

 

 

 

 

 

 

 15分ほどが経過して委員長以外の全員が集まると、やがて本部の扉が開かれた。

 雑談に興じていた面々も即座に口を閉じ、全員が身体ごとそちらへと向く。

 

「全員揃っているな」

 

 開口一番にそう言った委員長は開いたままの扉を背に立ち、室内を見渡して続けた。

 

「知っての通り、前学期末付けで引退者が出たため欠員が生じた。後継の選任は夏休みの間に行われ、既に届け出までが済んでいる。今日集まってもらったのは選ばれた新メンバーを紹介するためだ。――入れ」

 

 言って委員長が横にズレると、陰になって見えずにいた人物が明らかになった。

 

 委員長よりも少し小柄なショートカットの女子生徒。

 千代田先輩は室内へと踏み込んで止まり、僅かに緊張を滲ませる。

 

 快活な先輩の見慣れぬ様子に初々しさを感じていると、直後、彼女の陰から現れた姿に思わず目が丸くなった。

 

「紹介しよう。二年の千代田花音と、一年の北山雫だ」

 

 心なしか愉しげな委員長の声が響いて、二人がそっと腰を折った。

 歓迎の拍手が始まり、一拍遅れてそれに続く。と、そこで顔を上げた雫と目が合った。

 

「花音の指導は司波に、北山は森崎に一任する。お前たち、後は任せたぞ」

 

 素知らぬ顔で微笑む瞳には、委員長の声音と同じ『してやったり』の色が浮かんでいた。

 

 予想もしていなかった状況に頭の中は酷く混ざり合っていて。

 それでも、口は知らず知らずのうちに笑みを形作っていた。

 

 既知の流れを離れ、暗中を手探りで進むことへの不安が、少しだけ遠のいた気がした。

 

 

 

 

 

 

 夏休み編 + 動乱の序章編 完

 

 

 

 

 

 




 
 
  
 次章――《横浜動乱編》



 今後ともよろしくお付き合いください。
 
 
 

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