モブ崎くんに転生したので、謙虚に生きようと思う   作:惣名阿万

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 大変お待たせいたしました。
 本日から更新を再開し、連日投稿を行います。
 よろしくお付き合いください。
 
 
 
 
 


第26話

 

 

 

 ● ● ●

 

 

 

 10月30日、午後3時40分。

 横浜国際会議場の一階東側、共同警備隊の指令部が置かれた一室に論文コンペに参加した魔法科高校九校の代表者が集まった。

 

 長方形に並んだ会議卓へ着いているのは各校の引率教師と代表者の2人に警備隊総隊長の克人を加えた計19人。それぞれの学校で生徒会長や風紀委員長を務める面子が揃っていて、錚々たる顔ぶれに一高代表のあずさは少々気後れしていた。

 

 緊張と不安、なによりも恐怖によって肩肘の張ったまま固まるあずさ。

 そんな彼女の上ずった肩がノックをするように叩かれ、びくりと身体を震わせたあずさが顔を上げる。おずおずと見上げた先では真由美が穏やかな笑みを浮かべていた。引率役の廿楽(つづら)教諭に代わってこの場に並んだ真由美は、「大丈夫よ」と囁いた上で顔を上げる。

 

 尊敬する先輩の、十師族『七草』の長女である真由美の気丈な振る舞いを見て、あずさの身体を縛っていた重圧が少しだけ解れた。

 促されるままに深呼吸すると視界は明るく広がり、そうして初めて、居並ぶメンバーの誰もが不安や緊張を顔に浮かべていることに気付く。真由美ですら瞳の奥には緊張が覗いていて、怖いのは自分だけではないのだと理解した。

 

「共同警備隊隊長の十文字です。緊急時につき、詳細な挨拶は容赦頂きたい」

 

 九校の代表が揃ったところで克人が立ち上がる。

 部屋の中央奥側、まっさらなスクリーンを背に第一声を放った克人は常以上に厳然とした声音で続けた。

 

「アナウンスがあったように、当会議場は武装集団による攻撃を受けました。幸い奇襲の前兆を掴むことができたために負傷者はなく、すでに全てのテロリストの拘束が完了しています。引き続き警戒は継続していますが、現時点で追加の攻撃はありません」

 

 第一高校の発表が終わった直後、緊急事態のアナウンスと共に轟いた爆発音。

 その正体は国際会議場の正面入り口へ向けて発射されたグレネード弾だ。

 

 警備員諸共撃破するための奇襲はしかし、駿たちの警告を受けて待ち構えていた克人により防がれ、ゲリラの先鋒は成果を挙げることなく鎮圧された。

 後続として押し寄せた一団もまた克人の守りを突破することはできず、強固な盾を得た警備員の応戦により沈黙。5分足らずで全ての武装ゲリラは拘束される結果となった。

 

 ひとまずの安全を知って、集まった代表たちが胸を撫で下ろす。

 一方で克人の表情に安堵は見られず、剣呑な雰囲気を認めた一同は再度気を引き締めた。

 

「襲撃してきた敵の規模はおよそ20人。いずれも銃火器で武装しており、一部にはハイパワーライフルのような対魔法師用兵器の携行も確認されています。知っての通り、対魔法師用兵器は高度な先端技術を要する代物。故に、敵は他国の軍人である可能性が高い」

 

 自分たちの居る場所が敵国の軍事攻撃に晒されているかもしれない。

 想像の埒外な状況に強張った顔が並ぶ中、克人は躊躇うことなく更なる凶報を口にした。

 

「また、攻撃を受けたのはこの場所だけではありません。港に停泊していた所属不明艦よりミサイル攻撃が行われ、同時期から市内各所でゲリラによる侵攻が開始された模様です」

 

 『侵攻』という単語を聞いた一同の大半が目を丸くし、あずさを含む女生徒数名が口元を押さえ悲鳴を噛み殺す。

 それでも日頃から非常時への心構えを説かれ、実際に直面する機会も多い『魔法師』たる彼らは驚きこそありながら辛うじて狼狽えはしなかった。

 

 彼らの反応に力強く頷いた克人は一段と表情を引き締め、威風堂々と宣言する。

 

「この事態に際し最優先で行うべきは関係者、観客の安全確保。そのために、十文字家代表代理の名において、当会議場にいる全魔法師へ協力を要請します」

 

 『十師族』の家名を、その代表を自認しての口上に集った全員が惹き付けられた。

 克人が示した覚悟と風格を目の当たりにして、浮足立っていた心胆が落ち着く。恐怖や不安は変わらずとも、それらを抑えて奮い立たせる引力が克人にはあった。

 

 異議のないことを確認して、克人が視線を一高の代表席へ向ける。

 びくりと身体を震わせたあずさの横で真由美が頷き、立ち上がって中央へと進み出た。壁際に控えた克人に代わって一同の前に立った真由美は卓上の端末と自身の端末を同期させ、背後のスクリーンに映像を読み出して顔を上げる。

 

「一高の七草真由美です。現在、七草家の掴んでいる情報をお伝えします」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 スクリーンに表示されたのは横浜市街を中心とした地図で、海岸付近を始めとした市街各所に夥しい数の光点が置かれていた。彼らのいる国際会議場周辺にも多数の光点があり、海岸を背に包囲されているような状況だ。

 

「表示されたポイントはゲリラによる攻撃を受けている箇所です。また山下、瑞穂の両埠頭では停泊中の所属不明艦から多数の戦闘車両が出撃中との報告も入っています」

 

 山下、瑞穂埠頭はそれぞれ市街の南東、北東に位置する大規模埠頭で、特に瑞穂埠頭は国際会議場の目と鼻の先と言えるほど近い場所にある。ゲリラの蜂起したポイントと併せて考えれば、教師陣はもちろん実戦経験のない学生にも狙いが読み取れた。

 

 まさか、と最悪の状況を予感した一同へ、真由美は努めて平静に肯定を返す。

 

「敵戦力の配置から見て、山下埠頭側は魔法協会関東支部のあるベイヒルズタワーを、瑞穂埠頭側はここ――横浜国際会議場をターゲットとしていると思われます」

 

 それが単なる拠点制圧を意味したものではないと、全員が理解していた。

 

 当然、論文コンペが開催されている今日この場所を狙うということは、そこに集まった魔法研究の資料や機材を奪うためという目的もあるだろう。

 しかしいくら魔法に関する資料が貴重だとはいえ、今あるそれらはあくまでも高校生の扱う範疇のものに過ぎない。国内の魔法関連データが集積された魔法協会関東支部に比べれば重要度は数段落ちるものばかりだ。

 

 だからこそ、敵の狙いは『物』ではなく『人』だとわかる。

 世界中のどの国においても貴重な魔法師という人材。特に日本は魔法技術先進国と言われ、魔法師の質と量の双方において世界でもトップクラスにある。対立国にとってみれば次世代の魔法師戦力をまとめて誘拐、或いは殺害できる絶好の機会と考え得るだろう。

 

「侵攻する敵機動戦力に対して現時点では警察や沿岸警備隊が応戦していますが、突破されるのも時間の問題と思われます」

 

「なら、すぐに避難を開始しなければ」

 

「ぐずぐずしていたら敵が来てしまう」

 

 歴史上、何度となく起こった悲劇が目の前に迫っているかもしれない。

 知識でしか知り得なかった恐怖を直に感じた代表の一部は、不安と焦りを抑えきれずに卓上へ手を突いていた。

 

「落ち着いてください。避難すべきなのは間違いないですが、問題はその方法です。言うまでもありませんが、それぞれが無秩序に脱出を図るのは大変な危険を伴います」

 

 真由美が宥めるように言うと、声を荒げた二人はハッとして座り直した。

 ばつの悪い表情で俯く二人に周囲からは同意の眼差しが向けられた。不安も恐れも全員が共有していることで、だからこそ解決を模索する意見が次々と飛び交い始める。

 

「各校が乗ってきた長距離用バスを使うのはどうだろう。定員一杯まで乗せれば他の観客も運びきれるかもしれない」

 

「ゲリラだけならともかく、敵の車両が向かって来ている。大型バスでは的になりかねん。移動するなら敵に見つからないよう徒歩で行くべきだ」

 

「隠れるにしても限度がある。数百人単位が移動すればどうしたって見つかってしまうぞ」

 

「地上が無理なら地下からはどう? この会場には地下通路があったはずよ。そこを通って駅まで出られれば移動手段もきっとあるわ」

 

 二高の女性教諭が地下通路へ言及したところで、壁際に控えていた克人が進み出た。

 真由美の隣へと歩み寄りながら「いえ」と会話を引き継ぎ、表情を変えぬまま地下通路に関わる情報を公開する。

 

「先程、桜木町駅のシェルターへ通じる通路が崩落していると報せを受けました。横浜駅方面への道は通じているようですが、そちらはゲリラの攻撃が激しい。瓦礫を撤去すれば崩落した道を通ることもできますが、作業を行いつつとなれば時間も掛かるでしょう」

 

 それはほんの少し前、襲撃してきたゲリラの撃退を終えた直後に判明したことだ。

 地下通路に侵入した武装ゲリラを制圧した後、駿や沢木たちはそのまま通路の偵察に向かい、間もなくシェルターへの道が閉ざされていると発覚した。後続した服部らが除斥作業に当たっているものの、瓦礫の量が多く開通までの見通しは立っていない。

 

「危険を承知で地上を行くか、地下通路の復旧まで時間を稼ぐか、か」

 

「徒歩で逃げ切るのは不可能だ。しかも街中ではどこから襲撃されるかわからない。バスでの避難も難しいとなれば、やはり地下通路を復旧するしかないだろう。問題はその時間をどうやって稼ぐかだが……」

 

 四高の引率教師が苦々しく呟くと、室内には重苦しい沈黙が降りた。

 誰もが『時間を稼ぐ手段』への答えを理解していて、けれどはっきりと口に出すことができなかった。教師陣にしろ生徒にしろ、自分以外の誰かを危険に晒す決断を下すのは容易ではない。

 

 だからこそ、その一言は九校の内で最も有事への心構えがある陣営から飛び出した。

 

「立て籠もって応戦するしかないでしょう。避難さえ済んでしまえばもう一度通路を塞いで足止めすることもできる」

 

 (はばか)ることなく言ってのけたのは第三高校の風紀委員長。引率教諭が隣でため息を漏らしても表情は微動だにせず、視線はまっすぐに克人へ向けられている。

 

 新ソ連を見据える北陸に位置し、尚武の校風を掲げる三高は実戦能力に秀でた生徒が多く、威勢の良さ故に生徒同士の諍いやトラブルも多い。

 こうした問題に対するため三高では生徒会よりも風紀委員に優秀な学生が配される傾向があり、『一条』の嫡男である将輝も風紀委員に所属している。猛者揃いの三高風紀委員を束ねる彼もまた将来を期待される俊英だ。

 

「国防軍の出動はすでに確認されています。地下通路の復旧を待つ間に救援が来る可能性も決して低くはありません。ここにいる多くの人々のため、出来ることをしましょう」

 

 三高の風紀委員長が発した決断に真由美が後押しを加えると、一同の表情から迷いが遠ざかっていった。教師たちも致し方ないと頷き、一層真剣な顔つきを浮かべた。

 不安は尽きなくとも危機を脱却するために行動する意志を覗かせた彼らを見て、克人は再び中央へと進み出る。

 

「現時点をもって我々は九校の垣根を払い、一丸となってこの難局に臨む」

 

 それまでの丁寧な言葉遣いを止め、『十師族』としての威風を覗かせる克人。

 力強い宣言に同意の声が続き、頷き返した彼は堂々と言葉を続けた。

 

「最前には俺が立つ。十文字の名において、敵の侵攻を食い止める盾となろう。その上で各校には有志を募ってもらいたい。防衛に加わる者はもちろん、瓦礫の除去や避難誘導にも多くの協力が不可欠だ。各校ごと速やかに話を通してもらいたい」

 

 かくして、魔法科高校九校による共同での防衛と避難が決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「地下通路を復旧しての脱出と、脱出完了までの防衛ですか」

 

 十文字先輩との通信を終えた沢木先輩が語ったのは、魔法科高校九校の代表者が集って決定した全体方針と共同警備隊各員の配置だった。警備員を含む会議場職員もこれに協調する方向で話はついているらしい。

 

 僕が受け持つのは会議場南側に位置する機材搬入口の守り。全部で三つある内最も大きな出入り口がここで、突破されれば多数の大亜連合兵が侵入してしまうだろう。正面入り口に次いで激しい戦闘が予想されるここには共同警備隊の大半が防衛にあたるようだ。

 

 一方の沢木先輩は十三束や三七上先輩、服部先輩と共に地下通路へ侵入する敵の排除に当たる。

 狭く見通しの良い通路では少数精鋭の方が都合よく、同じ一高生で連携も取れる上に実戦経験もある彼らはこの役目にうってつけだった。

 

 方針自体に異議はない。敵の包囲が進む現状、原作のように各校ごとバラバラに避難するのが現実的じゃないのは理解できる。配置も人選も考え得る限り最適で、情報共有と対応の速さには驚くばかりだ。

 

 他方、不安も当然ある。横浜へ侵攻している敵の規模は原作以上に大きく、プロの実戦魔法師がいるとはいえ学生主体の僕らが立て籠もって戦うというのはリスクが高い。死傷者が出る可能性も当然あり、最悪の場合建物ごと攻撃されることだって考えられる。

 

「気持ちはわかるとも。だが大亜連合軍と目される敵が市街に侵攻している以上、取れる方針は他にない。我々のように自衛できるだけの力があるならまだしも、大半の生徒は実戦に臨む力も心構えも持ち併せていないからね」

 

 尤もな意見だと思う一方、全面的に賛成することはできなかった。

 そもそも国際会議場に敵の本隊が迫っているという時点で原作と異なるのだ。地下通路への工作といい、ジェネレーターの存在といい、どこか袋小路に追い詰められているような予感があった。

 

「戦えない人を避難させるために必要なことだというのはわかります。ただ……」

 

「何か気掛かりがあるのか?」

 

 眉を寄せた三七上先輩へ頷いて、それらしい理屈を答える。

 

「確証はありません。ですが敵の侵入経路や工作状況からして、罠の可能性が捨てきれないかと」

 

 ジェネレーターを含む侵入者を制圧した後、先輩たち二人と僕は十文字先輩の指示で地下通路の偵察に向かった。幸い道中で敵と遭遇することはなかったが、一方で通路の先には大量の瓦礫が積み重なっていた。

 桜木町駅へ繋がる道は完全に塞がれていて通行不可能。魔法で瓦礫を撤去しようにも慎重な作業が必要で、横浜方面から侵入するゲリラの対処と同時進行でとなると相当な時間を要するだろう。その隙を敵が狙ってこないとは考えにくい。

 

「通路の崩落ぶりからして、敵はかなり周到な準備をしてきているはずです。仮に瓦礫をどけて道を開けたとしても、その先で同じような崩落が起きていない保証がない。最悪の場合、頭上を崩される危険もある」

 

「確かに、崩されているのが一か所だけとは限らないか」

 

 三七上先輩が腕を組む横で沢木先輩も顎に手を当てる。

 侵攻する大亜連合軍がどれだけ周到に仕掛けを整えているか。原作知識という比較対象を共有できない以上、可能性を語って注意喚起することしかできないのはどうにも歯痒い。

 

 もしも洗いざらい語って事態が好転するなら躊躇いはない。

 だが現状、僕の持つ知識とは状況が違い過ぎている。口にしたことが足枷になる可能性もあるし、中途半端に敵の思惑を言い当てようものならスパイと疑われたっておかしくない。それで僕自身がどうなろうと構わないが、守れるかもしれないものを取りこぼすのは我慢ならなかった。

 

「わかった。服部には俺から伝えておこう」

 

「お願いします。私はこのまま搬入口へと向かいますので」

 

 もう一度念を押して頷く。

 地下に残る二人とは別の配置に充てられた以上、僕にできるのはそれしかない。三七上先輩に加えて十三束と服部先輩もいるのだ。賢明な判断をしてくれると信じる他ないだろう。

 

「ああ。武運を祈る」

 

「気を付けろよ」

 

「ありがとうございます」

 

 激励に一礼で応じて、一階へと続く階段へ足を向けた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 一階南側の搬入口へ向かうと、馴染みのある声に迎えられた。

 

「来たわね」

 

 右手を腰に当てた姿勢の現風紀委員長。

 傍らには許嫁の姿もあって、いつも通りの睦まじさを滲ませている。

 

「千代田先輩、五十里先輩も。お二人ともこちらに配置されたのですね」

 

「花音だけ行かせるわけにはいかないからね」

 

「まったくだ。調子に乗って《地雷原》を使って地下が通れなくなったら困るからな。しっかり見張っておいてくれよ」

 

 笑みを浮かべる五十里先輩へ同調するように、前風紀委員長が横合いから現れる。

 ため息を隠そうともしない渡辺先輩を見て、彼女を慕う千代田先輩は恥じらいに頬を膨らませた。

 

「摩利さん! もう、そんなことしませんよ」

 

 じゃれつくように詰め寄る後輩を宥めた渡辺先輩は、呆れ顔のまま目だけを細めてこちらへ向けてきた。

 

「無茶をするなというのはお前もだ、森崎。さっきの件も含めて働き通しだろう」

 

「待っていることしかできなかった身ですから。大したことはしていないですよ」

 

 僕の回答に先輩は口を尖らせるも、それ以上何かを言ってくることはなかった。

 代わりに吐き出されるため息を聞き流し、周囲へと視線を巡らせる。

 

 搬入口に配置されたのは僕を含め共同警備隊のメンバーが大半で、一般生徒の姿はほとんどない。本職の警備員も5,6人しか見当たらないのを見るに、こちらの戦力の中核はやはり僕たち共同警備隊になるのだろう。

 

「森崎さん」

 

 考えている内に声を掛けられ、振り返ると鮮やかな髪色が目に入った。

 

「一色さん。十七夜さんも。君たちはこちらへ来ていたのか」

 

 紅の制服に身を包んだ二人が頷いて応える。

 防衛要員に志願したのだろう。師補十八家の立場を思えば安全な場所にいるべきとも思うが、戦力として考えれば頼もしいことこの上ない。

 

「北山さんから貴方に、伝言を預かっています」

 

 開口一番、一色さんは真剣な表情でそう言った。

 

「『何があっても約束は守らせるから』と。それだけ伝えるよう頼まれました」

 

 昨夕、屋上で交わした会話が蘇る。

 聞き分けよく頷いたようで、その実しっかりと念を押してくるのは何とも彼女らしい。

 

「――そうか。ありがとう。よく分かった」

 

 言伝への感謝を口にすると、一色さんは僅かに眉を寄せた。

 鋭く透き通った眼差しがこちらを射貫き、押し殺したような声が続く。

 

「私からも一つ、言わせてください」

 

 言いながら一色さんは両手を持ち上げ、頭の両側で結われたリボンをとき始めた。

 黒地のリボンが引き抜かれるたびにブロンドの髪がほどけて揺れ、重力に引かれて流れるそれらを彼女は一つの束にまとめて後ろで留める。

 

 ミラージ・バットで見た時と同じ、根本を二つのリボンで飾ったポニーテール。

 これから始まる戦闘に備えてだろう。纏う雰囲気もそれまでの柔らかなものから凛然と引き締まり、がらりと印象が変わったようで思わず見入ってしまった。

 

「貴方の背中は私が守ります。何があろうと、必ず」

 

 真剣な表情と声音でそう告げられて。

 感じたことのない熱が胸に広がるような気がした。

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 
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