この食戟を自分の目で見た者は生涯、忘れる事が出来ない。それほどまでに目の前での食戟は衝撃的だった。食戟と言ってもその食戟は非公式のようなものだったから正式な記録には決して残らないが見た者の記憶に一生刻まれる。
対戦カードは司瑛士VS
だが、誰もが司瑛士が勝つと思っていた。司瑛士は中等部の二年の中でTOPだと思われていたからだ。だけど結果はその場にいた全員の想像を覆すようなものだった。勝者は土生瑞貴。3-0という圧倒的なまでに凄かった。
そしてこの食戟を見たものはこう語り継がれることになる。『土生瑞貴の歴史の始まり』
なんの因果か、その場には後の『十傑』と呼ばれている者たちが集まっていたらしい。
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新入生が入学してから一か月という月日が流れた。僕はいつもと変わらぬように茜ヶ久保と行動を共にしている。そう言えば、最近、妙な事がある。何故か茜ヶ久保が前にも増して一緒にいるようになった。前までもかなり一緒にいる時間が多かったが後輩と会ったあの日以来、前よりも増した。
「茜ヶ久保」
「何?」
「何で最近は前にも増して僕にくっつくようになったの?」
「……なんでもないよ」
隣を歩いている茜ヶ久保は僕に返答をする時に目を逸らした。言いたくない事があるんだろう。茜ヶ久保とはもう長く一緒にいるから癖とかも色々と知っている。だから例えば、茜ヶ久保は言いたくない時には目線を逸らす事や良い事があった時は髪を触る癖とかも分かっている。だてに長い間、一緒にいるわけでもないからね。
「そうか。僕の勘違いかもしれないな。そう言えば、今年の一年生はどう?」
「レベルは決して低くないと『もも』は思うよ。転入生の子はまだ実力が分からないけど今の時点で将来、十傑に入るような人間は多くいると『もも』は思うね」
茜ヶ久保がそのように評価するとは珍しい。あまり人に興味を示さない茜ヶ久保が興味を示すとは。
「茜ヶ久保にしては珍しいね」
「いや、『もも』は別に一年生に興味があったわけではなくて瑞貴くんが話した後輩を見つけ出すために探し出すために調べたの」
「そんなの調べてどうするんだ?」
調べたとして分かったとしてもそれを知ってどうするんだ。
「いや、興味があったの。瑞貴くんが自ら会話をするような相手が一体どのような相手なのか」
「そんなに僕が話したのが意外だったのかい?」
「うん。だって今まで自ら話すような事はほとんどなかったから」
そんなに人と話さないようなイメージが茜ヶ久保の中にはあるのかな。まあ、あんまり僕が話さないのは事実だけど。でも、一体いつからだったかな。僕が自ら人に話しかける事を控える事になったのは………
もう昔過ぎて覚えていないな。『もも』と知り合うよりも前だったか後だったかも。
それからも茜ヶ久保と話しながら校内を歩いていると後ろから誰かに肩を叩かれた。
「先輩」
誰だろうと思い後ろを振り返るとそこには………赤い髪をした後輩がいた。
「何だい?」
この子の目からは決意と熱意が見て取れる。今にも僕を食いたくてうずうずしているような感じだ。もうこの後輩が一体なにを言おうとしているのか分かってしまった。この学園でこの目をしている者が言おうとしている事なんて一つしか考えられない。
「先輩、俺と食戟をしてくれませんか?」