梨:ゼロから二人で異世界生活を始める頃に   作:とある圭梨復権派

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黒幕まさかあの人だったなんて……
そして、羽入の『繰り返す者を殺す剣』がそういう意味だったなんて        


まあどっちも書き始めた時点でなんとなく察してたので、この小説には全く問題ないように書いてます。安心してください。

にしても次回が「郷壊し編」って……

ついに雛見沢をぶっ壊す!するんですかね……?
沙都子が雛見沢を壊していく話なのか、雛見沢が沙都子を壊していく話なのか気になりますね

そろそろ2章書きたい欲が凄いので、マジでさっさと1章終わらせて屋敷に行きたいところです


心落し編 其の参 「交渉」

 

 

「……悪いが、それは出来ん」

 

「……みー」

 

 交渉決裂。清々しいくらいの惨敗。それが若干調子に乗っていた梨花にもたらされた厳しい現実だった。今まで萌え落としで大抵のものを手に入れていた彼女からすればまさに青天の霹靂。

 その表現が大袈裟にならないくらいには戸惑っていた。

 

(そんな……これが効かないなんて……いったい私に何ができるというの……)

 

「すまんが、これが貧民街のルールなんじゃ。『盗られた奴がマヌケで悪い』。これだけは譲れん」

 

 なんともモラルもへったくれも無いルールがあったものだが、それをスラム街に求めるのも間違っているだろう。

 いくら可愛い女の子が「ボクの友達の大切なものが盗まれてしまったのです。返してもらえませんか?」なんて涙目に訴えてきても、それが無償で提供しろという要求なら答えるわけにはいかない。

 ロム爺(そう呼んでくれと本人に言われた)とて、別に梨花をイジメたいわけではないのだ。それなりに心も傷んでいる。

 だが、それとこれは別だ。限られたコミュニティのローカルルールだが、そのコミュニティの中心格である盗品蔵の主人がそれを破るわけにはいかないのだ。

 

「金銭の類いは持っていないんじゃな?」

 

「一文無しのからっけつのえーんえーん、なのですよ。みー」

 

「……何もお金じゃなくても良いんじゃ。交換できそうなそれ相応の品物とかは無いのかの?」

 

「持っているものなんて今着ている服ぐらいなのです……」

 

「う〜む、それならもう諦めてもらうしか無いように感じるんじゃがの……」

 

 流石に、小さな女の子に「じゃあその服を脱げ」なんてとてもじゃないが言えない。相手が大の男なら冗談混じりにそんな無慈悲な言葉も言えたが、残念ながら相手は自分の娘同然の存在であるフェルトより年下のように見える。

 これはいよいよ諦めてもらうしか無いと、その女の子を説得する言葉を探している様子のロム爺だったが、何か思いついたかのように手を叩き、発言する。

 

「そもそも嬢ちゃんは何が欲しいんじゃ? お主の友達は何を盗まれた?」

 

「徽章と、あの娘は言っていたのです。真ん中に宝石が入ってる感じの」

 

「……宝石か。それはやっぱりちょっと厳しいかもしれんのぉ」

 

 宝石は誰もが価値を知っており、その値段も安くない。

 求めるもの次第で――例えば小さな女の子が持ってそうな安価な人形とかであれば、『お手伝い』という体で何かしらの仕事をしてもらい、譲ってやろうと考えていたロム爺であったが、流石に宝石は難しい。

 これもまたダメとなると、完全に手詰まりだ。どうしようもない。

 

「嬢ちゃん、今日はもう諦めて帰るんじゃ。家に帰って何かしら交換できそうな物を――そう例えば親御さんが棚の中に隠しているへそくりとか、大事にしまっているけどいつ使うか分からない装飾品とかそういったものを盗ってくるんじゃ。そうすれば、まだ可能性がある」

 

 親からの盗みを教唆するという全く洒落にならないアドバイスだが、そこは流石に盗品蔵クオリティ。ロム爺からすれば、けっこう本気で梨花を案じての言葉である。

 ――だが、そんな心遣いも

 

「ボクには帰るようなお家も、そういうのを持ってる親も居ないのですよ……」

 

「……何? 嬢ちゃん、それは……」

 

 続く梨花の言葉で無駄になってしまった。一見、まるで親に捨てられたり、若くして亡くしたような(これは間違ってはいないが)、そんな風な梨花の発言だが、実際は異世界に来たばかりで宿無し生活をしているだけである。事実ではあるが。

 というか、まだ宿が必要なタイミングまで辿り着いていないから本人は気にしていないが、これはこれで重大な問題である。まさか野宿をするわけにはいかない。

 と、話が若干逸れたが、そんな事はロム爺には知る由もないので、この娘もまた自分たちと同じ境遇の娘なのかもしれない、とそんな感じで本気で同情を始めていた。

 

 貧民街では、そういった宿無しでここまで辿り着いた哀れな子供も少なくない。梨花から徽章を盗んだフェルトもあまり例外とは言えないだろう。彼ら彼女らはそうやって追い剥ぎのような事をしないと生きていけないところまで追い詰められてしまっている。

 そんな子供達をある程度自立するまで世話を焼いてきたロム爺からすれば、それと同等の立場である梨花もまたそうするべき対象に感じていた。

 

「……嬢ちゃん、普段はどうやって生活してるんじゃ?」

 

「…………」 

 

 そんな質問が出てくるのもまあ自然な流れではあったが、いい感じの回答を用意していなかったので、しばし黙りこんでしまう。

 こういう時はどうすれば良いのだろう。嘘をつくのも良いが、全くのデタラメを言えば不自然になって破綻するような気がしなくもない。

 かといって、異世界から来ました、なんてバカ正直に言うことも出来ない。そんな事を言ったところで信じてもらえないだろう。

 

「普段は、沙都子という女の子と二人で暮らしているのですよ。僕たちの生活を支援してくれる人が居たからある程度は大丈夫だったのです」

 

 とりあえず、本当の事を、信じてもらえるだろう範囲で教える梨花。

 まあこの世界では沙都子も居ないし、支援してくれる入江も居ないので、半分嘘であると言えなくもない。

 こういう会話で困ったら、嘘と事実を混ぜて話すというテクニックを図らずも実践する事となった。

 

「……女の子二人で生活とは、大変じゃろうて。その沙都子という娘が徽章を盗られた子かの?」

 

 支援なんてないぶん、この貧民街で暮らす子供達の方がよほど大変であるが、それはそれとして梨花に感心するロム爺。

 やはり出来る事ならその盗まれた徽章を返してやりたい。より強くそう思うようになっていた。

 

「いえ、盗られたのはその子じゃなくて、他の友達なのですよ」

 

「そうか……その支援というのはどれくらいなんじゃ?」

 

「せいぜい女の子二人がギリギリ生活できるぐらいしかないのですよ。――それに」

 

「それに?」

 

 不自然に言葉を区切った梨花に続きを促すロム爺。けっこう親身になって聞いてしまうあたり人の良さが若干垣間見える。  

 

「――それに、今はもう沙都子も支援してくれる人も居ないのですよ」

 

「……!?」

 

 その言葉にロム爺は絶句してしまう。先程の『居た』『大丈夫だった』といった意味深な過去形、『今はもういない』というその表現。それが暗喩する意味を察したからだ。 

 ……まあ、そうして梨花の婉曲された言葉に見事に騙されいるロム爺。この言い方だと、普通はその二人が死んでしまったかのように捉えるだろう。実際は、多分雛見沢で二人ともピンピンしているだろうに。

 嘘は言ってない。かなり意地悪な言い方だけれども。

 

 こういった言い回しをした理由は、半分はいつもの梨花の悪いクセである悪ふざけともう半分の打算にあった。

 

(……萌え落としがダメなら、泣き落としはどうよ?)

 

 そう、これが梨花の計画。名付けて『かわいそかわいそ大作戦』である。

 ロム爺がそこそこひとが良く、面倒見が良いことをここまでのやりとりで感じていた梨花。『盗まれた奴が悪い』なんて悪ぶってはいたが、なんとか返してやろうと色んな方法を提案していたので、流石にバレバレであった。

 そこで考えたのがこの作戦だ。多分この老人は可哀想な女の子というポジションに弱い。このままそういう存在である自分を演出しまくれば、いつかは落ちるだろう。

 ……人の善意につけ込んだなかなかアレな作戦ということに目を瞑れば。

 

「だから、僕は実は明日のご飯にすら困っている身なのです。徽章と価値の釣り合う物なんて持ってないのです」

 

「……それでもすまんが、無償で譲るというワケにはいかんのじゃ……。代わりといってはなんじゃが今日の晩飯ぐらい奢ってやる。どうじゃ?」  

 

「……チッ!」

 

「今舌打ちせんかったか!?」 

 

「気のせいなのですよ、にぱー☆ 夕ご飯はありがたくいただくのです。」

 

 残念、計画失敗。社会はそんなに甘くなかった。ただ夕飯にありつけるというのは素直にありがたかった。

 この世界に来てから一度も何も口にしていないので、腹はペコペコだ。スバルのスナック菓子をあの時貰っておけば良かったと、割と真面目に後悔するぐらいには腹がすいている。

 

「まあ、大したもんじゃないが無いよりはマシじゃろう。ほら食べい」

 

「……豆?」

 

 ロム爺が運んできたのは粗末な皿に盛られたペースト状の豆。まさかこれが夕食だとでも言うのか。正直かなり不満だ。あそこまで可哀想な境遇を語ったのに運ばれてきたのがこれなのが残念でならない。と、なかなか図々しい事を思いながら、試しに口に運ぶ。  

 

「いただきますなのです……」

 

 一応礼儀なので、その挨拶を言って件の豆を口にする。

 ――まずい。いや下品な言い回しになるが、あえて更に言おう。クソまずい。

 味は大豆をひたすら薄めたような風味で、口に入れた瞬間にネチョネチョとした物体になって食感は最悪。しかも口の中の水分が奪われ、水が欲しくてたまらなくなる。味付けも酸っぱいんだかしょっぱいんだがよく分からなくなる中途半端なものだ。

 こんなものを夕飯と呼びたくない、そんな事を本気で思うぐらいには酷い。また元の世界に帰りたくなる理由が一つできた。そうこぼすくらいには最悪だった。

 

「……表情が味の感想を物語ってるのぉ」

 

 そんな梨花の様子を見て苦笑するロム爺。まあ、本人も美味いとは思っていないので、当たり前といえば当たり前なのだが。

 

「でも、ワシにはこれがあるからの」

 

「……お酒なのですか!?」

 

「目を輝かしてるところ悪いが、流石に嬢ちゃんには早い」

 

 そう、どんなマズイ飯だろうと、ある程度は中和してくれる魔法の飲み物。苦くてしょっぱくて酸っぱいものでもツマミにはなる。それがお酒の力だ。

 

「大丈夫なのです! 僕はもう何回も呑んでいるのです!」

 

「余計マズイじゃろうが!? そんな物欲しそうな顔してもやらんもんはやらん」

 

「もう徽章なんて良いから、とにかく酒よこせ、なのです」

 

「それはどうかと思うぞ!? ワシ!?」

 

 酒の魔力に取り憑かれた梨花。二度目のループに入ってからというもの、その力にお世話になりっぱなしであった梨花であるが、流石に異世界では手元にお酒がない。

 一升瓶片手に召喚される少女なんてシュールな光景は実現されなかったのだ。本当は今すぐにでもヤケ酒したい気分だというのに。

 

 そんなこんなで酒を奪い取ろうと襲いかかる少女とそれを守る老人という、何とも言えない光景を繰り広げながら時間は経っていった。

 そんな中の状況などお構いなしに、盗品蔵の戸が叩かれたのは日差しも大分傾いてからであった。

 

「大ネズミに」

 

「毒」

 

「スケルトンに」

 

「落とし穴」

 

「我らが貴きドラゴン様に」

 

「クソったれ」

 

 なるほど、これが先程、出会い頭にロム爺が言っていた合言葉とやらなのだろう。なかなか品のないものではあるが、そこは盗品蔵ということでご愛嬌である。

 

「――待たせちまったな、ロム爺。意外としつこい相手でさ、完全にまくのに時間かかっちまった。」

 

 入ってきたのは金髪で八重歯の動きやすそうなボロい服に身を包んだ生意気そうな女の子。

 そう、サテラの徽章を盗んだ犯人であり、追い剥ぎ三人組に絡まれる梨花達を見捨てた存在。確か前の世界で聞き出した名前ではフェルトとか言ったか。

 かなり因縁の人物であるが、残念ながら一周目の記憶は無いので、相手に自分の見覚えはないらしい。

 現に、

 

「――んで、お前誰だよ?」

 

 と尋ねられてしまった。お前に迷惑を被らされた被害者だよと悪態をつきたくなるが、そんな事をしても何も前に進まないので我慢する。流石に梨花もそこまで短気ではない。たまに癇癪を起こす程度だ。

 

「さっさと徽章を返しやがれ、なのですよ。にぱー☆」

 

「はぁ!?」

 

 ――前言撤回。そんな事はなかった。だが、彼女を擁護させてほしい。今の彼女は普段の冷静さを持ってる状態ではないのだ。

 

「だから飲むなと、アレほど言ったんじゃ……」

 

 ロム爺の言葉で察した人も多いだろう。端的に言えば彼女は酔っていた。先程フェルトが来るまでの時間の争奪戦に見事勝利していたのだ。

 といっても巨人族である彼に貧弱な少女そのものである梨花が本来勝てるワケがない。なら何故こうなったかといえば、ロム爺の根負けだ。あんまりにも鬼気迫る表情で酒を求めるものだから一杯だけ与えてしまったのだ。

 

「バカ言いなさい……私がたかが一杯で酔うわけ無いじゃない」

 

「その姿で説得力ゼロじゃろうて……。これ、かなり度数高いからのぉ」

 

 彼女が飲んだのは巨人族御用達のお酒。しかも貧民街の粗悪品だ。そのアルコール度数は洒落にならないレベルで盗品蔵内を火気厳禁にしなければならない程。

 現代社会でのウォッカにも匹敵する度数を誇るそれは、いくらアルコール耐性に自信ありで、普段は泡麦茶を飲んでもケロッとしており、ワインを片手に月を見るなんて洒落乙なことをしている梨花でも一撃で酔わせる威力があった。

 

「おい、ロム爺、こいつ大丈夫か? 大分フラフラしてるぞ」

 

「本当に飲ませるんじゃなかったのぉ……」

 

「らいじょーぶよ、わらし、おしゃけにつよいんだから」

 

「呂律回ってないけど!?」

 

 そもそも、気を引き締めるべき三回目のループなのに何をやっているんだ、とか。アレほどやる気を出していた決意はどこ行ったんだ、とか言いたいことは色々あるだろうがどうか堪えてほしい。

 これは彼女の強みなのだ。適度に気を抜く事で、度重なるループに精神が完全にやられてしまうのを防ぐ。お酒だってその一環だ。 

 ここからが梨花の活躍だ。流石の梨花でもそこまでマヌケではない。この言動だって適度に気を抜くためとフェルトとのこれからの交渉を円滑に勧めるために油断を誘えるように、あえておどけているのだ。

 

「……それで? 徽章をよこせ、とか言ってたんだが?」

 

「ああ、嬢ちゃんはそれ目当てでここに来たんじゃがの……」

 

「ああ……羽入! あんたその角ムッカつくのよ……! 私にボキボキに折らせなさい! あっ……駄目よ……圭一……こんなところで……。沙都子……雛見沢……最高……!」

 

「とても話せる雰囲気じゃねーな」

 

「この娘、どうするべきかの?」

 

「どうするって……なあ?」

 

 ……これも油断を誘うための作戦だろう、多分。酔っ払って滅茶苦茶なことを口走ってるように見えるかもしれないが、意識はしっかりしている……はずだ。

 大丈夫!きっと次回は頭のキレるカッコいい梨花が見れる事だろう。

 

「ああ、おしゃけえ……もっとお」

 

「これどうしよう」

 

「全くわからん」

 

 うん、きっと見れるはず!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






前回スバル死んでるのに唐突なネタ回。
まあこれくらいガバるんじゃないかなってのが作者の中の梨花ちゃま像です(失礼)
と思ったけど、沙都子を欺くあたりガチでやるときはやる子なので、ちゃんとカッコいいパートも後で書くのであしからず。




流石に梨花ちゃまには手持ちゼロから価値あるものを取れるぐらいの交渉力はないと思う……多分。

僕的に梨花ちゃまの強みは頭の良さとかループの経験とかじゃなくて、どんな罪を犯した人でも許すことのできる寛容な心持ちにあると思います。
詩音とか鷹野を許せるのはすげーよガチで
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