梨:ゼロから二人で異世界生活を始める頃に   作:とある圭梨復権派

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第一章 王都の一日
死戻し編 其の壱 「邂逅」


  

 

 

 

     一人は誰にも負けない意志を。 

     もう一人には踏み出す勇気を。

     二人は出会ってはいけない。

     足を取られて前に進めなくなるから。

 

     一人は誰からも愛される。

     もう一人は誰からも嫌われる。

     二人は出会ってはいけない。

     きっとお互い愛し合ってしまうから。

   

     一人は繰り返す力を。

     もう一人も繰り返す力を。

     二人は出会ってはいけない。

     罪を忘れてしまうから。

 

               Frederica Bernkastel

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「…か!…か!………りか……!きこ…て……………!?りか……」

 

(ここはどこ?)

 

「あ……はそ…をえ…………ま……………ね」

 

 頭に響く聞き慣れた優しい声。

 そうだ。自分はこの声の主を知っている。

 けれど眠い。何も考えられそうにもない。

 

(……羽……入……………?)

 

「そ………なん………い……。あ…たはま…う……い……にと………ら……し…う………ね」 

 

 声に霞がかったようにうまく聞き取れない。

 単語を単語として認識できていない。

 

 

(何て……言っているの……?)

 

「りか」

 

「な……に…………羽入……」

 

 ようやくちゃんと聞き取れた自身の呼びなれた名前。絞り出すようにかろうじて出た返事は滑稽なくらいに弱々しく感じるに違いない。

 

「も…ってきて」

 

『も…ってきて』?『持ってきて?』

 イヤ、間に何か聞き取れなかった一音が入っていた。

 もしかして『もどってきて』?『戻ってきて』?

 

 どこに?

 決まってる。あの地獄だ。

 彼女はきっとこう言いたいのだ。『まだ戦え』と。

 

(分かってる……わよ)

 

 本当は分かっている。こんなところで止まっていてはいけないのだと。

 本当は気づいている。仲間を見捨てて諦めることを自分自身も望んでいないことに。

 

(でも、もう疲れちゃったの……起きたらまた戦うから……少しくらい、休憩させて……)

 

 そう。これはつかの間の休息。起きたらきっとまた痛い目にあう。悲しいことが起きる。辛いことを思い出す。

 いつかは完全に折れて空っぽになってしまう。

 そうなる前に少しだけ休憩。起き上がるための前向きな停止。

 

「か…は……ナ…キスバル」

 

『か…は……』?『鍵は』?

『ナ…キスバル』?人名?

 

 鍵?一体何の鍵だというのだ。何を開けろというのだ。その人に会えば雛見沢に戻れるのか?

 何も分からない。

 何も考えられない。

 

「りか……。あなたならきっとだいじ……ぶなの…す。ここでま…てますから」

 

『ここでま…てます』?『ここで待ってます』か。

 

(また貴女に会えるのね……)

 

 その言葉に安心感を抱きながら、再び古手梨花は意識を手放した。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「……がっ………はぁ…」 

 

 一瞬、首に凄まじい痛みを感じた。そう思い、慌てて自分の首を抑える。けれど、出ているはずの血も、深くついているだろう傷もどこにもなく、あるのはただ自分の手に触られている感触だけだった。

 

(ここは、どこ?)

 

 自らの命を絶った。意識も何もかも全て手放すはずだった。

 

 なのにどうしてか自分の頭は働いている。

 

 物を考えている。

 

 手で触る感触を感じている。

 

 言葉を発することが出来ている。

 

 

 どうして私は生きている?分からない。

 自分は羽入に騙されたのか?またあのドジ神はやらかしてしまったのか?

 でも不思議と怒りは湧いてこない。自殺に失敗した事への悲しみや失望もない。

 

 本当は怖かったのかもしれない。永遠に目を覚まさないように眠り続けることが。

 どこか安心している自分に気付いて苦笑する。

 あんなに死に慣れた魔女のように振る舞っておきながら、結局このザマか……。

 

 こんなふうに余裕があるのには理由がある。ここは雛見沢ではないと確信する材料がそこら中にあった。

 

 目に飛び込んでくる景色が違う

 香ってくる匂いが違う

 聞こえてくる喧騒が違う。

 立っている地面が違う。空が違う。人が違う。空気が違う。何もかも違う。違う。違う。  

 

 自分は抜け出した。逃げ切ったのだ。あの死の運命に閉じ込められた雛見沢という名の地獄から。

 そう思うと、少しだけ後悔が過ぎった。

 

 自分は雛見沢の事が嫌いだったのか?そう聞かれたら間違いなく答えは「NO」だった。

 村の人々は温かいし、自分にとても優しかった。

 溢れる自然は、きっと他所から見たらただの田舎にしか見えなかっただろうが、美しく、心が折れそうな時はいつも景色に励ましてもらっていた。

 

 そして何よりも惜しいのは仲間たちの事だった。

 

 誰よりも熱く、この無限の運命の地獄から一度救ってくれた私の王子様…というには三枚目だけれど、私の大好きな男の子。前原圭一。

 

 誰よりも気高く、純粋で。きっとその心根は誰よりも強い女の子。竜宮レナ。

 

 誰よりも信じる気持ちを持ち、その気まぐれさからいつも私を退屈から救い出してくれていた双子の片割れ。園崎魅音。

 

 誰よりも行動力に長けて、その意志の強さは絶対に目的へと向かう事のできるもの。最後の世界では私を助けるために銃を持った大人に立ち向かってくれた双子のもう一方。園崎詩音。

 

 誰よりも強く、村中からイジメられようと、叔父に虐待されようと耐え続け、私が落ち込んだ時は必死に隣で励まし続けてくれた心の癒やし。私の親友。北条沙都子。

 

 誇らしく、自信を持ってステキだと言い貼れる最高の仲間たち。その誰にももう会えないのだと思うと、どうしようもなく寂しく感じてしまう。

 

 けど、これは自分の選んだことだ。

 最期の瞬間。自分を見つけてくれた仲間たちを振り切ってきたのは間違いなく自分だ。

 落ち込む資格なんてあるはずもない。

 

 そう、自分に言い聞かせ、周りをじっくりと見渡す。

 

 街を歩く人々の中には一人として黒髪の者は居なかった。頭髪は金、白、茶、緑、青と様々で、さらに格好は鎧やら踊子風の衣装やら黒一色のローブやらであった。

 

 更に目を疑うのは頭から耳が生えていたり、体が鱗で覆われていたり、どう見ても『モンスター』と形容せざるを得ないような者たちが平然と道を歩いていた。

 

 茫然としていると、巨大なトカゲ風の生き物に引かれた馬車的な乗り物が横切っていく。

 

 ここは雛見沢では決してない。イヤ日本や地球ですらないかもしれない。

 

 街並みはどう見ても現代とは思えない。建造物はどこを見ても木造か石造だし、機械類も見当たらない。

 自分が元いた場所も中世ぐらいの街並みはこんな感じなんだろう。

 

 歩く人々の姿も相まって、まるでおとぎ話の世界の中にいるようだな、とぼんやりと思った。

 

(ここが……天国……なのかしらね?) 

 

 すぐにその考えを改める。

 いや、そんなはずはないか。

 仲間を故郷を捨てて自ら命を放棄するような愚か者に天国に行く資格なんてあるはずがない。

 

 ならば地獄だろうか?だが飛び込んでくる景色は随分とイメージと違うように感じる。もっとおどろおどろしい場所だと思っていたが……。

 

「もしかしたら、異世界……かもね」

 

 そう、小さく呟くと、視線を感じた。

 まるで珍獣でも見つけたかのような奇異な視線で注目を集めている。

 もしかしたら黒髪だから珍しいのかもしれない。

 それともこの格好が珍しいのだろうか?

 

 とにかくあまり感じの良い視線ではなかった。

 

 周りの目を気にし始めると、自分の肉体の違和感に気付く。体が小学生のまま。昭和58年の古手梨花のままなのだ。

 

 自分は高校生になって、もちろん背も伸びたし、体も成長した。今の今まで違和感を感じなかったのは繰り返しが長すぎて慣れてしまったのか、はたまた再び惨劇に飲み込まれるという助走を経たからなのか、それともこの景色に衝撃を受けすぎて鈍感になっていたのか。

 

 答えは出ないが、小学生の肉体でいる事はやはり辛かった。

 

(あの姿で人生を終えたから、なのかしらね?)

 

 そう推測し、歩き出す。いつまでもこうして突っ立っているワケにはいかない。

 もし天国だというのなら、やりたかった事をたくさんやろう。そして仲間たちがここに来るのを待とう。

 もし地獄だというのなら、甘んじて罰を受け入れよう。

 もし異世界だというのなら、とにかく情報が欲しい。もしかしたら雛見沢で過ごすより余程辛いことが待ってるかもしれない。それならば帰ってしまおう。

 

 夢の中で羽入に出会った。

 彼女は『戻ってきて』と確かに言っていた。

 そう言うということは、戻る手段があるという事だ。

 今のところ少なくともすぐ帰るつもりは無いが、もし辛いのなら帰って運命と戦うこともやぶさかではない。

 

 とにかく一瞬でも良いから違うところへ行きたかっただけなのだから。

 

「おいおい……嬢ちゃん…大丈夫かい?」

 

 行くあても無いので、適当に一歩目を踏み出したら、転んでしまった。  

 そんな自分を心配してか、厳つい顔をした男が話しかけてきた。

 見ると、彼の立つ屋台?には林檎らしきものが積まれていた。彼はこの八百屋か果物屋の店主なのだろう。

 

「みぃ……大丈夫なのですよ」

 

 つい、小学生の梨花の返答の仕方をしてしまう。

 この姿だとこういう喋り方になってしまうのは、もはや癖と言ってしまっても良かった。

 どうせ初対面ばかりなのだ。猫を被る必要もないのでは?

 イヤ、自分ほどの少女が本来の自分の喋り方をしてみろ。周りから見ればさぞかし不気味に見えるだろう。

 そうして、梨花はこの世界でもかつて封印した『み〜』や『にぱー☆』を再び使うことを決意した。

 

「みぃ? さっきの小僧といい、さっきから変な奴ばかりだな」

 

「さっきの小僧?」

 

「ん?もしかして嬢ちゃんの連れかい、アイツ?髪の色も変な格好してるのも共通してるしな」

 

 『髪の色が同じ』『変な格好をしている』

 その二つの情報からもしかしたら自分と同じ境遇かもしれないと思った。

 何もすることが無いし、その彼を探すのも良いかもしれない。

 そう決めた梨花はウソをつくことにした。

 

「そうなのですよ……はぐれてしまって困っていたのです」

 

「そうかい。こんな小さい女の子置いてくとはなぁ……あの小僧ならアッチの方へ行ったよ」

 

「ありがとうなのです」

 

 お礼を言って、さっさと歩き出す梨花。

 もしかしたら何かヒントを得られるかもしれない。

 この場所がどんな場所か、どうやって帰るのか、そういった諸々の期待を胸に秘めながら屋台の男の指差した方へ向かう。

 歩くスピードは自然と速くなっていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 歩いていくと、少し薄暗い路地裏に腰を下ろしている少年を見つけた。 

 なるほど。確かにこの少年はこの世界では浮くに違いない格好をしていた。

 自分と同じく日本人らしい黒髪にジャージ姿。

 ひと目見ただけで自分と同郷なのだと分かる。

 

「事態は絶望的。そしてやっぱり原因は不明。鏡くぐった覚えも池に落ちた記憶もないし、何より召喚ものなら俺を召喚した美少女どこだよ」

 

 その少年と言えば、先程から膝を抱えて一人ブツブツと何かを言っている。

 正直怖い。話しかけるのも気が引けるほどに。

 だが、話しかけなければ前に進めない。

 『前に進めない』。これより恐ろしい事はきっと今の自分にとっては存在しないだろう。

 勇気を振り絞れ。詩音の行動力を見習うんだ。

 

「み〜、少し良いですか?」

 

「……ん?」

 

 少年は自分を見ると、呟くのをやめて急停止する。

 そして、みるみる内にその表情が歓喜のものへと変わっていく。

 

「美少女キターーーーーーーーー!!!!!」   

 

 そう叫ぶと、梨花の手を取り、ぶんぶんと上下に振る。

 急に叫び出し、いきなり手を掴まれる。あまりにも予想外な事に、ビックリ…を通り越してドン引きしていると少年は勝手に自己紹介を始めた。

 

「オレの名前は菜月(ナツキ) (スバル)! 無知蒙昧にして天下不滅の無一文!!」

 

『ナツキ・スバル』。確かに少年はそう言った。

 その響きに梨花は聞き覚えがあった。

 

『か…は……ナ…キスバル』。羽入の最後のメッセージ。自分へのヒント。今ならこの文章の意味もわかる気がする。

『カギはナツキスバル』。そう言いたかったのだ。

 つまり、この少年はこれからの自分の運命を決定することになるであろう重要人物だったのだ。

 いきなりそんな人と遭遇するとは運命を感じずには居られなかった。

 

 興奮気味に未だに、何かをまくし立て続けるこれから長い付き合いになるかもしれない少年にとりあえず梨花は呟いた。

 

「み〜。そろそろ手を離して欲しいのですよ」

 

 これが二人の出会い。

 輪廻の輪に囚われ続ける挑戦者二人の運命的な出会い。

 そして、出会ってはいけない二人の絶望的な出会いでもあった。

 




なんかリゼロ系のSSの第一発見村人って果物屋のおっさんになりがちな気がします。
この作品も例に漏れず行きましょう
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