梨:ゼロから二人で異世界生活を始める頃に 作:とある圭梨復権派
衝撃の展開なんてもんじゃなかった(白目)
僕はもう途中から辛すぎて涙をちょっと流しながら見てました。
圭梨というのは惨劇を乗り越えた梨花ちゃんが恋という人並みの欲求を思い出す過程が良いから好きなので、この展開は正直辛い!辛すぎる!
この作品も梨花ちゃんを曇らせるつもりで書き始めたのですが、まさか原作に超えられるとは思いませんでしたよ。
竜騎士07先生はヤバい。
鬼すぎる。
一言で感想言うなら神回でした!
あなたの宝物はなんですか?
それはきっと簡単に手に入らないもの
あなたの宝物はなんですか?
それはきっととても価値の高いもの
私の宝物は誰もが当たり前に持っている物
それでもきっと見つからない
私の宝物はどこにありますか?
Frederica Bernkastel
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どこかへと行ってしまった魂が強烈な力に引っ張られて体へと引きずり込まれる。イヤ、
意識が覚醒し、新陳代謝が加速され、どっと汗が流れる。
まるで、ぐっすりと眠っていたのを冷水をぶっかられて無理やり起こされたようなそんな気分だった。
「がっ……!はあ…!?」
強烈な違和感と気持ち悪さを覚え、うめき声をあげる。
咄嗟に自分の腹に手をやり、ペタペタと触る。
―――何ともない。
血も臓物も飛び出していない、いつもの感触。
(……ここは?)
辺りを見渡す。
目の前には林檎のつまれた果物屋台に立つ厳つい顔をした男。
周りを歩く人々の中には黒髪の人間は一人も居らず、カラフルな髪をした人々や動物型の亜人ばかりであった。
視界に映る建造物はどれも木製や石製にしか見えず、機械類は見当たらない。
呆然としている梨花の横を巨大なトカゲ風の生き物に引かれた馬車的なものが横切る。
(ああ……)
梨花はこの景色に見覚えがあった。
そして、いま自分を襲っている違和感や気持ち悪さの正体にもとっくに気づいていた。
―――殺された。
古手梨花はあの盗品蔵で、姿の見えない女に殺された。
『ねちゃっ、ねちゃ』という粘り気のある物を踏んでいる音を聴いて、それから、足元を見た。
踏んでいた物の正体……それは血だった。
それに気付いたとき、声にならない声が出た。
そこからは芋づる式だった。
自然と視線は血をたどって、上へといった。
そこにあったのは『死体』だった。
咄嗟に、側にいたスバルの裾を掴み、そちらへ指をさした。
逃げよう、そう提案するところだった。
しかし、その瞬間女の声が響き、スバルは突き飛ばされていた。
自分も捕まり、そして――
死んだ。命を落とした。
では、なぜ意識が続いている?
なぜ今自分はこんなところに立っている?
そんな事分かりきっていた。もう人生で何度も経験し、その度に絶望していた現象。自分に逃げ出す事を絶対に許さなかった忌まわしき枷。
「フフッ……フフフフ……! アハハハハ!」
目から涙がひっきりなしにとめどなく流れる。
全く止まる気配がない。
同時にどうしようもないほど笑いが出る。
繰り返す者を殺す事が出来る剣。
羽入の遺してくれた置土産。
それが意味するもの、それはいつでも自分の意識を闇に葬れるということ。
雛見沢でのゴールの見えない惨劇の迷宮によって、疲弊した梨花の精神。
だが、それは投げ出す事すら許されない悪夢のような構造をしていた。
どんな拷問をされようと、頭をかち割られようと、すぐに元通りに生き返る。
もうやめたくても、諦めていても、お構いなしにやり直しを強制される。
それがどれほどの苦痛かは筆舌に尽くし難い。
だからこそ、その存在を聞いたとき、どこか安心を覚えていた。
「これでもう終われる」。本気でそう思った。
だが、蓋を開けてみればどうだ。全く見た事も聞いたこともない珍妙な世界に連れてこられ、それだけならまだしも、そこでも自分は生き返りを強制された。
あの盗品蔵で死ねたらどれほど良かったろうか、こんな現状に比べたら追い剥ぎ三人に殺された方がまだマシだ。
(羽入の嘘つき。私を殺すことなんて出来ないじゃない……。終われせてくれなんかしないじゃない……!)
百年共に過ごしたもう一人の母親のような存在、彼女に裏切られた事が何よりも悲しかった。
彼女が最期に遺してくれた物がこんなにも仕様もない物であることが腹立たしくして仕方なかった。
また運命に囚われるのが悔しくて悔しくて涙が止まらなかった。
「それもよりによって腹を裂かれて死ぬなんてね!」
笑う、嘲う、嗤う。
ああ…、なんておかしな運命だろう!
古手梨花は雛見沢において、綿流しの後にいつも古手神社の境内で腹を裂かれて死んでいた。
黒幕、鷹野三四の絶対の意思で。
そんな因縁の死に方を、逃げ込んだ異世界でもするなんて
どんな確率なんだろう!
これも縁の一種なのかもしれない!
「全く、余計な機能をつけてくれたわね! おかげで最高の気分よ!」
羽入が最期に施したもう一つの置土産。
自分の繰り返す者としての能力の修繕。
それのおかけで今、梨花は自分が腹を裂かれて殺されのされたのだと言うことをしっかりと覚えていた。
その痛みもその思いも、その恐怖も。
「アハッ、アハハハハハハハハ! アハハハハハハハハ!」
涙を流しながら大笑いをする少女。
その異様さに加えて、ここでは珍しい黒髪とその服装も相まって、周囲から異常な程の視線を集める。
「アハハハハハハハハ! アハハ……ハハ……。ハ……ハ……」
ピタリと笑いが止まり、少女はまるで倒れるかのように地面に手を付いた。
「あんまり……よ……、こんなのあんまりよ……。 私がいったい何をしたというの……」
それは少女の心の底からの本音であった。
絶望に身を焦がされ、とっくに燃え尽きて灰になっていると言うのに、まだ「戦え」と言うのか。
いったいなんの罰なんだろう。
こんな仕打ちを受けるような事を自分はした覚えはない。
ダムが決壊したかのように流れ続ける涙は地面に水たまりを作りそうなほどだった。
「もう、疲れたの! もう……うんざりなの! 同じ景色に退屈するのも! 今がいつのどこなのか確認するのも……!」
「ねぇ……! なんで……!? どうしてなの……!? また繰り返せっていうの……!? それもこんなわけのわからない世界で……! みんなも居ないのに……ここで何をしろというの!?」
雛見沢での繰り返し。それは苦痛にまみれた日々であった。
それでも今までなんとかやってこれたのは愛しい仲間たちの存在であった。
気まぐれな魅音の部活は内容もランダムであり、それが退屈を紛らわしてくれた。
ときおり見せる圭一の奇跡としか形容しようがないような行動は、ゴールの無い迷路に囚われる梨花に希望を見出してくれた。
何より戦う理由があった。
この仲間たちと未来に生きたい。
そんなささやかな物が。
だが、ここにそんな仲間は居ない。
退屈を紛らす手段も希望も戦う理由もない。
逃げ込んだというのに、雛見沢より悪化しているではないか
「それとも、これが罰だとでも言うの!? みんなを見捨てて逃げたから!?」
戦う事をやめて雛見沢から逃げた。
それは仲間を見捨てたことにほかならない。
彼らだって自分と同じく惨劇の迷路に閉じ込められているのだ。
にも関わらず、自分一人が逃げた。
すべてを諦めて。
だからといって、この仕打ちはあまりにもあんまりではないか。
繰り返す力以外は何も特別な力を持たない当時小学生の自分にいったいどれだけの事ができようか。
それでも出来ることをした。力を尽くした。
けれども失敗した。だから諦めた。
それだけなのに。
「ねぇ……! 答えてよ! 羽入!」
溢れ出る疑問にも愚痴にも誰も答えてくれない。慰めてくれない。
この場にいない神に問おうとも返ってこないのは明白だった。
それでも聞かずにはいられない。
自分を裏切ったわけではないと信じたくて。
まだ希望はあるのだと信じたくて。
逃げ出したくて。逃げ出したくて。逃げ出したくて。
死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。死にたくて。
―――だから、誰か
願わずにはいられない。
こんな不幸な自分のあまりにもささやかな願い。
これぐらい叶えてくれてもバチは当たらないだろう。
だから、どうかお願い。
―――私を殺して。
だが、そんな小さな呟きは彼女に注目する誰の耳にも入ることなく、霧散していった。
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「おいおい、大丈夫か、嬢ちゃん」
現在、果物屋台の店主は困惑していた。
店の前で小さな女の子が嗚咽を漏らしながら、地面に水たまりを作りそうな勢いで大泣きしてる。
これは困った。
この状態では商売なんてマトモに出来そうにもない。
それに人として放っておくワケにも行かない。
大笑いしてから、この泣き方ははっきり言って尋常ではない。
余程のことがあったとしか思えない。
「今、リンガ剥いてやるからな、な? だからこれ食って元気出せって!」
と、大量に積まれていたリンガ――この世界の林檎を一つ手に取り、目の前で持参の果物ナイフでクルクルと剥いていく。
流石に果物屋台の店主だ。手慣れた動きでみるみると剥かれていく。
これくらいの齢の子供にはこういう甘いものを食べさせて慰めてやるのが一番だ、という安直な考え。
もちろん代金なんて取るつもりはない。
顔に似合わず、自然な気遣いをする彼は誰が見ても『人が好い』と評価するだろうが、本人は「子供が美味しそうに食べれば、それを見たやつが買うかもしれないしな」なんて悪ぶる。
「ねぇ……! 答えてよ! 羽入!」
「おっと!? ……あぶね!?」
カラン、カランと大きな音を立てて、果物ナイフが転がる。
先程までブツブツと何かを呟きながら泣いていた少女が突然大きな声を出しながら頭を抱えて泣き叫ぶ。
あまりにも突然だったので、勢い余ってナイフを落としてしまったのだ。
幸い落としたのは自身の足元だった。
危なかった。もし周りの人間に当たったりしたらとんでもない事になっていた。
滑らせて自分の指に当たったりしなくて良かった。
「……!」
叫んでから頭を抱えて苦悶の表情を浮かべていた彼女の視線がナイフへと釘付けになる。
そう認知した次の瞬間、ナイフに向かって猛スピードで走り出す。
「ビックリさせてすまなかったな、嬢ちゃん……っておいおいおい!?」
ナイフに向かって手を伸ばしながら走る発狂寸前に泣き叫ぶ少女。
もしかしたら自暴自棄になってナイフを振り回すかもしれない。
そんな恐ろしい可能性を感じて少しだけ身を引く。
それが大きな間違いだった。
すぐに落とした果物ナイフを拾うべきだったのに。
少女はナイフを手にしてしまった。
「……フフフフ」
ナイフを片手に持って笑う少女、その姿はとても不気味に映った。
「……ここにあったのね」
そんな意味不明なことを口走りながら、少女は、そのナイフを自分の喉元へと持っていく。
「おい、何する気だ! やめろ! 嬢ちゃん!」
その意味に気付いた店主は、取り抑えようと駆け出す。
周りもこの状況にザワつき始める。
だが、一足遅かった。
「……おねがい、これでもう……」
最期の言葉を出すことなく、周りからの静止の声も全く彼女には届くことなく、
少女はナイフを思い切り首に突き刺した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カラン、カランと大きな音を二回ほど立てて、自分の目の前へと転がり落ちるナイフ。
それを見た瞬間、神からのお告げだと感じた。
『これで命を絶ちなさい』。そんな事を言われた気がした。
今すぐ死にたかった。この厳しく、あまりにも残酷な現実から逃げ出したかった。
そう思ってた時に、この出来事だ。
これはきっと、もう喋ることの出来なくなってしまった、あのアホアホシュークリーム駄女神ことオヤシロ様の羽入が起こしてくれた奇跡に違いない。
そうだ!羽入は裏切ってなんかいなかったのだ!
自分に嘘なんてつくはずがない!
きっと、このナイフで命を絶てば、もう二度と目覚めなくて良い眠りにつけるに違いない!
そんな馬鹿げた発想を彼女は持ってしまった。
普段の冷静で死に慣れた彼女は、こんな行動は取らないだろう。
いや、この世界最初の死のような泣き叫びながら殺される、というのも実は不自然なぐらいなのだ。
実はこの世界に来てからというもの梨花のメンタルは完全に壊れてしまっていた。
それも仕方ないだろう。
最期の希望であるはずの死を迎える事すら出来なかったのだ。
雛見沢とは違う環境を求めてはいたが、流石にここは異界過ぎる。
ここまでの変化は求めていなかった。
というより、別の場所での平穏な日常を求めていた彼女にとってこれは望みとは遠くかけ離れてると言っても良い。
ナツキ・スバルとのウザったい会話も(もう少し平常な精神状態だったら楽しめたかもしれないが)ストレスを貯めた。
本当にこんな男に付いていけば、雛見沢に戻れるのだろうか、何か分かるのだろうか、そんな不安を感じ、
追い剥ぎ三人組に襲われ、そんな男ともはぐれ、探し回ることになり、徽章探しなるものに成り行きと情報収集のために付き合わされるという『日常』とはかけ離れたトラブルの連続。
そして、極めつけは苦痛にまみれた殺され方をしたあとに、忌まわしき死に戻り。
簡単に言えば、彼女は疲れていたのだ。
どうしようもないほどに。
だから、こんな妄想の馬鹿げた希望に縋ってしまった。
「……ここにあったのね」
そうだ、これは羽入が落としてくれたナイフなのだ、きっとあの剣と同じ効果があるに違いない。
あの宝具、鬼狩柳桜はこの世界へ来るときに無くしてしまっていた。
だから最終手段を彼女は失っていた。
だが、大丈夫だ!同じものが目の前にある!
そんなはずはない、というのは梨花も分かっていた。
それでも、そんな作り物の馬鹿げた希望に縋らないと心が壊されてしまいそうだった。
だから、その事実から目を背けた。
ナイフを掴み、自分の首へとやる。
「おい、何する気だ! やめろ! 嬢ちゃん!」
周囲からの静止の声が聞こえる。
それでも彼女は止まらない。
そうだ、きっと目が覚めたら私は聖ルチーア学園の寮に居るに違いない。
そしてまだ知らない日常が始まるのだ。
もしかしたら雛見沢で目を覚ますかもしれない。
そしてまた死の運命に嘆くことになるかもしれない。
それでもこんなワケの分からない世界で一人ぼっちで戦うよりは何倍もマシだ。
そうだ、目が覚めたら沙都子が寝ぼけてる自分をたしなめながら起こしてくれるんだ。
それで布団を片付けて、一緒に朝ごはんを作って、食べて。
学校に行けば、圭一とレナと魅音と詩音が居て。
みんなで部活をやるんだ。
そしていつかは惨劇を終わらせてみんなで大人になるんだ。
いや、もしかしたら永遠の闇かもしれない。
ようやく死ねるのかもしれない。
高望みはしない。そんな都合よく勝ち取れた世界や雛見沢には帰れないだろう。
だから、せめてこんな小さな絶望的な希望だけは叶えてくれないだろうか。
死にたい。そんな小さな願いだけは。
「――おねがい、これでもう……」
『終わって』。
そんな最期の言葉はついぞ出ることは無かった。
ちょっと、梨花ちゃんの心理描写しつこすぎたかな?
ちなみにタイトルの『宝探し』は鬼狩柳桜を探す梨花ちゃんと徽章を探すスバルにかけてつけられています。
はたしてこの2つの宝物は見つかるのでしょうか