梨:ゼロから二人で異世界生活を始める頃に 作:とある圭梨復権派
今日は怒涛の4連投稿!
出来たら良いなぁ……(白目)
「え? え? ――どゆこと?」
現在、ナツキ・スバルは絶賛混乱中であった。
周りを歩く人々の中には黒髪の人間は一人も居らず、カラフルな髪をした人々や動物型の亜人ばかり。
視界に映る建造物はどれも木製や石製にしか見えず、機械類は見当たらない。
天気は晴れで、明るい時間帯。
物珍しいのか、やたら周囲から視線を集める自分。
今朝体験した事をまるで追体験しているかのような出来事。
先程(自分の意識の中での話だが)、確かに日は落ちていたし、自分は貧民街にいた。
だが、自分の現在地はどう考えても初期スポーン地点である中世風の街であり、現在の時刻はどう見ても昼であった。
(腹の傷が……ねぇ)
何よりもスバルを困惑させていたのが、これであった。
確かに、先程謎の女に腹を裂かれて内臓や血をぶちまけたはずだったのに、腹部には傷一つない。
服にだって血どころか土汚れや埃すらついていない。
――おかしい。
確かに自分はぶっ倒れて死を覚悟する程の傷を負ったはずだ。
(もしかして、この世界には蘇生魔法みたいなものがあるのか?)
サテラにかけてもらった治癒魔法でも流石にアレ程の傷を治せるとは考えにくい。
だが、もしそんな物があるとするならば、あまりにも命の価値が軽すぎる世界になると思われた。
それにこんなところに居る説明がつかない。
時刻が変わっているのは蘇生魔法には時間がかかるという事で納得できなくも無いが、場所まで移動するのはいったいどういう事なのか。
それに気になるのはコンビニの袋だ。
長い移動によって、手汗や握り続けた負担によって袋の取っ手はヨレヨレになってしまっていた。
にも関わらず、現在自分が持っているコンビニ袋の取っ手はまさに、『今貰ってきたばかりですよ』と言わんばかりキレイだった。
それに蘇生魔法があったとして、いったい誰がかけてくれたというのだ。
あの状況下で、そんな物を使える人間が居たとは思えない。
もしかして、梨花ちゃんがチート能力にでも目覚めたんだろうか?
同郷のヒロインにもチートが付いてくるのは異世界転生物のお約束である。
「……って、そうだ! 梨花ちゃんとサテラ!」
ここまで思考してようやく二人の事を思い出す。
すると、心に後悔が立ち込めてくる。
そうだ、俺はあの二人を守れなかった。
約束したのに。
二人ともとても良い娘だった。
サテラは口調は厳しめに見えたが、ところどころに人の好さが滲み出ていた。
自分に治癒魔法をかけて責任を感じないようにケアまでしてくれた優しい女の子だった。
梨花ちゃんはとても素直で可愛らしい子だった。
こんなところに突然来て不安だろうに、掴みどころなくからかってきたりして、強い子だなと思った。
たまに垣間見せた腹黒さを含めて、全てが愛らしい女の子だった。
「うっ……!」
そんな梨花の死に様を思い出して、嘔吐く。
内臓が飛び出していた。
蔵の中は真っ暗だったのにハッキリとキレイな赤色で鮮明に瞳に映った。
あんな小さな女の子がそんな殺され方をしたという事実に不快感を覚えた。
そして、何よりも守れなかった自分に腹が立って仕方なかった。
パックに不安げに注意された。サテラに蔵に入るときに「何かあったらすぐ助けを呼べ」と念を押されていた。
パックとサテラは十分に危険性があることを理解しており、示してくれいた。
にも関わらず、自分はそれを怠って、結果的に彼女もあの地獄に招き入れた。
甘く見ていた。軽く見ていた。
誰よりも役に立たないくせに、交渉のことをサテラに頼られて、パックに任せられて調子に乗っていた自分がいた事を否定できなかった。
蔵の中に梨花と一緒に入るべきじゃなかった。
外でサテラと待機させておくべきだった。
そうすれば、ああなったのは自分だけで済んだかもしれないのに。
きっと、自分は一人で暗い蔵の中に入るのが不安だったんだ。
だから、梨花も巻き込んでしまった。
『外に梨花を一人で待機させるワケにはいかないから』『梨花がいれば、小さな女の子という条件で突然襲われたりする可能性を軽減できるから』といったそれっぽい理由を付けて、自分をそうやって納得させたんだ。
後悔が次から次へと溢れ出る。
「いや、馬鹿か俺は! こんなふうに項垂れてる暇なんかねぇだろ!? あの二人を探さないと」
そうだ。先程から『殺された』とずっと言っているが、誰よりも弱いはずのスバルが生きているのだ。
ならば、あの二人だって生きているはずだ。
――いや生きていてほしい。
ならば、早急に探さなければならない。
この不安な気持ちを抑えるためにも早く二人を見つけてしまいたかった。
ならば、向かうべきはやはり盗品蔵だ。
今のところ、そこにヒントがあるような気がしてならなかった。
もしかしたらあの二人もそこで今自分が生きている事に困惑しているかもしれない。
ナツキ・スバルが死んだと思って焦っているかもしれない。
ならば、会って安心させてやろう!
「俺は生きてるぞ!」と。
「きゃああ――!」
そんな思考を断ち切るように、つんざくような女性の叫び声が辺り一面に突然響いた。
耳を済ませると、女性だけではなく、様々な人がざわついてるのが分かった。
どうやら後ろで何かあったらしい。
スバルの現在地は、果物屋台からしばらく歩いたところ。
声の距離的にちょうど、そこらへんで何かが起こったように思えた。
(どうする? 行ってみるか?)
今、自分には盗品蔵に行くという使命がある。
一分一秒も惜しいので、本当なら真っ直ぐ向かうべきだ。
だが、何か、胸騒ぎがする。
見に行く必要がある、そんな気がしてならない。
気づけば、スバルは歩き始めていた。
無意識だった。
ただ、この胸のざわめきを抑えたくて、一歩一歩確実に進んでいく。
やがて、騒がしく何かを話している大きな人だかりを見つける。
そこはやはり、予想通り果物屋台の真ん前であった。
人々の視線はただ一点に集中していた。
しかし、人が多すぎて肝心の
「ちょっと、すみませんね。 え?足踏んだ? いや、マジすんません!」
そんな事を言いながら、人の群れをかき分けて前へと進んでいく。
おどけているが、中心に近づくに連れて、胸の鼓動が早まっていく。
ドクン、ドクン!
少しうるさいくらいに心臓が動いて体中に血を送るのを感じる。
――もしかして、見たらまずいものではないのか?
そう思いながらも、もう歩みは自分でも止められないほどになっていた。
やがて、最前列と思われるところにたどり着く。
ここにいる人を退ければ、何があったのか見れる。
そう思うと、急に恐怖が湧いてきた。
先程から心臓は、このまま壊れてしまうのではないかというほどに最高速で震えていた。
周りの人間から聞こえる『ナイフ』『衛兵を呼ぶ』といったワードが不安を煽る。
だが、ここまで来たのだ。今更引き返すワケにもいかない。
そう決心して、目をぎゅっと瞑って、前へと進む。
あとは、この目を開くだけだ。
それだけで真相が分かる。
なのにどうして瞼が上がらない?
なぜこんなにも肉体は見ることを拒否する?
こんなことをしている場合ではないのだ。
さっさと、これを見て安心して、盗品蔵に行かなくてはならないのだ。
梨花ちゃんとサテラを探さなければならないのだ。
眉間に力を入れて、瞼を力づくでこじ開ける。
少しずつ、視界が開けてくる。
真ん中に何か倒れている。
なんだ?アレは?
よく見えない。
もっと目を開かなくては。
体中の力を、顔面の筋肉に集めるイメージで目をさらに開く。
そうしてついにナツキ・スバルは真実を知る。
「え?…………あ?」
そこにあったのは倒れている人だった。
しかも、ただの人ではない。小さな女の子だった。
目は大きく見開かれ、虚空を見つめいる。
血が地面に広がっており、それがもう彼女が命を落としていることを明白に示していた。
――その顔はよく見知った顔だった。
守りたいと、今度こそ守ると誓った女の子だった。
同郷で自分と同じ境遇を分かち合う同士の女の子だった。
「梨花……ちゃ……ん……?」
そう、そこに倒れていたのは古手梨花、その変わり果てた姿だった。
かくして、『梨花とサテラを探す』というスバルの目的は不本意に半分達成された。
「畜生……! オレが、ナイフを落としたりなんかしなければ……!」
見れば、先程スバルとリンガを買う買わないの問答をしていた、果物屋の店主が顔を手で覆いながら嗚咽を漏らしていた。
涙が、手の隙間を通って、溢れ出ている。
彼は、スバルにとっての第一発見村人。異世界で最初に会った人物だった。
かなり厳つい顔をしていて、第一印象は『怖い』に尽きた。
そんな人物が涙を流しているという異常事態も今のスバルには些細なことに思えた。
「うそ……だろ……」
そう呟きながら、梨花の死体へと近づいていくスバル。
「おい兄ちゃん! 何してる!」
周囲から静止の声がかかる。
だが、止まらない。止まれるわけがない。
「なあ……冗談なんだろ? また俺をからかってるんだろ? なあ、そうだろ。そうだって言ってくれよ……」
梨花の肩を掴んで、揺さぶりながら呪文のように問いかけるスバル。
だが、返事はない。
腕も足もグッタリとしていて、揺らしてもただダランと地面へと垂れ下がるだけだった。
首も振動をさせるたびに、カクカクと動き、もうこの身体に魂が入っていない事は明白だった。
「俺だけ生きてるなんて、そんな事ないんだよな? サテラだって生きてるんだよな?」
まるで自分に言い聞かせるように、呟く。
未だに梨花の死を認められなかった。諦めきれなかった。
なぜ、あの中で一番生きる価値のない自分だけが蘇生させるような事がある。
そんな事あって良いはずがない。
「頼むよ……。返事をしてくれよ、梨花ちゃん!」
だが、当然返事なんて返ってきやしない。
何故ならもうとっくに彼女は死んでいるから。
誰もがその事実に気づいていて、認められていないのはスバルだけだった。
「あ……」
何度も彼女の体を揺さぶっているうちに、首の傷口から血が吹き出し、スバルの顔へとかかる。
それを吹き取ろうと、ようやく梨花の死体から手を離し、顔へとやろうとする。
そこで、見てしまった。
気づいてしまった。彼女が死んでいることに。
――その証拠に、
自分の手にはベッタリと彼女の血がついていた。
「うわあああ――!」
叫び声をあげながら、ここから逃げるように駆け出すスバル。
もうこんな所にいたくない。
これ以上見たくない。
俺のせいで彼女が死んだなんて認めたくない。
人混みをかき分けて、ガムシャラに走った。
どこか誰もいないところに行きたかった。
一人になりたかった。
「……………」
気づけば、あの路地裏に居た。
当然、 危険な場所なのは周知の事実なので誰もいない。
膝を抱えて、体育座りの形で腰掛ける。
(ウソだ……。あんなの嘘だ……。俺のせいで…)
ただひたすらに自分を責めた。
あの蔵に梨花と一緒に入った過去の自分を呪った。
そうしなければ罪悪感に押し潰されてしまいそうだった。
静かなところに来て、少し冷静さを取り戻して、疑問もわき始めた。
何故、彼女の死体はあそこにあったんだろうか
もし自分同様の蘇生魔法による移動があったとして、何故彼女は復活出来ていなんだろうか。
そもそもなぜ自分は復活できた?
サテラは生きているんだろうか?
――もし、彼女も死んでいたら?
そんな不安を振り払うように、自分に言い聞かせる。
とにかく、盗品蔵だ。
彼女だってそこにまだ居るかもしれない。
蘇生魔法の秘密が分かって、梨花を復活させることも出来るかもしれない。
そうと決めると早い。
すかさずスバルは立ち上がり、準備を始める。
まあ、準備と言っても気合を入れるぐらいなのだが。
この行動力と決断力が数少ないスバルの強みだった。
(そういえば――)
そういえば、ここは初めて梨花と会った場所だったなと気付く。
あまりにも必死に走っていたものだから、無意識でここに来たが、そんな因縁の場所でもあった。
まあ、あの時はすぐに追い剥ぎ三人組に襲われてバラバラになってしまったのだが。
「よお、兄ちゃん。少し俺らと遊んでいこうや」
そうそう、こんな感じに、え?
「おいおい、呆けた面してどうしたよ?」
「状況が分かってないんだろ、教えてやろうぜ」
「とりあえず、兄ちゃん。金目のもん置いてきな、そうしたら何もしねーでやるからよ」
「え? お前らひょっとして俺のいないところで頭でも打った?」
無反応だったスバルは、ようやくの思いで反応する。
全く同じ奴らによる同じパターンの追い剥ぎ。
サテラとパックにあんだけ脅されたのに全く懲りてないのか?コイツラは。
それとも、復讐のつもりなんだろうか?
他の仲間を引き連れていなそうに見える事を考えると、かなり良心的に思えるが。
「何言ってんだこいつ? 頭おかしいんじゃねえの」
「いいさ、兄ちゃんとりあえず持ち物置いてきな、それで許してやるよ」
「はいはい持ち物全部ね。お前らなんかにかまってる暇はねーからそれでいいよ」
「あと犬の鳴き真似な、『助けてくださいぃ!ワンワン!』ってな」
「調子乗んなや、コラァ―――!」
そう言ってスバルがメンチを切ると、あわや一触即発の危険な空気へと突入する路地裏。
「――そこまでだ」
しかし、それは燃え上がるような赤い炎の髪をした青年――ラインハルトによって打ち消されるのだった。
作者からしたらラインハルトは凄く書きにくく扱いにくい地獄のキャラだったりします
心を読む能力とか持ってたらどうしよう