梨:ゼロから二人で異世界生活を始める頃に 作:とある圭梨復権派
圭梨書きたいのに、この作品ではスバ梨なる謎のCPしか書けない……
いつか番外編で短編でも書こうかな
「たとえどんな理由があろうと、それ以上、彼への狼藉は認めない。そこまでだ」
凛とした声が裏路地にもよく通った。
発せられる言葉の節々には気品が感じられ、その存在感にこの場の誰も何も言えなくなった。
(すっげぇイケメン)
そんな事をぼんやりと思うだけのスバルと違って、追い剥ぎ三人組は顔を真っ青にする。
それ程までに今、この場に現れた存在は予想外であった。
「『剣聖』……ラインハルト」
ラインハルト・ヴァン・アストレア――その名を知らぬものはこの国では居ないだろう。
史上最強の騎士であり、その実力は落ちぶれたアウトロー三人組の耳にも入るほどで、あまりの強さに周辺諸国から国外輸出禁止令を出されたとか。
そんな人物が何故こんなところに?
「自己紹介の必要は無さそうだね、もっともその二つ名は僕にはまだ重すぎる」
「逃げるのならこの場は見逃す。だが、もしも強硬手段に出るというのなら僕も騎士として抗わせてもらおう」
そう言って、三人組を鋭い眼光で射抜くラインハルト。
『剣聖』ラインハルトと戦う?
冗談じゃない。
命がいくつあっても足りないだろう。
「クソっ!」
あまりの恐怖に隠し持っていたナイフを隠すことなく、蜘蛛の子を散らすように大通りへと逃げ去っていく三人組。
「お互い無事で良かった、怪我はないかい?」
彼らが去ったのを見て、爽やかな微笑みを携えてラインハルトはスバルへと尋ねかける。
その瞬間、先程まで路地裏に漂っていた異常なまでの緊張感は完全に消え去る。
あのプレッシャーをたった一人で出していたのか、とスバルは戦慄した。
「こ、この度は、命を救っていただき、心からお礼を申し上げるとともに、このナツキ・スバル、その清廉さに心から敬服いたしますれば……」
「そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ」
スバルのあまりにも吃った下手すぎる敬語に苦笑するラインハルト。
やはり元引きこもりコミュ障のスバルにとって、初対面の人に対する敬語というのは難易度が激高過ぎた。
「えーっと、ラインハルトさん……でイイんすか?」
「呼び捨てで構わないよ、スバル」
(サラッと距離詰めてきたな)
一見強引とも取れるこの距離の縮め方も全く不快感を感じさせないのは、その爽やかさ故だろうか。
あまりのイケメンさ、爽やかさに嫉妬心がメラメラと湧きそうになるスバルであったが、助けてくれた恩人であることは間違いなく事実。お礼を言うのは当然の事であった。
「あ〜、改めてありがとう、ラインハルト、マジ助かったよ。助けに来てくれたのはお前だけだよ」
前回奴らに襲われた時も、偶然盗人を追いかけて中に入ってきたサテラ以外、誰も助けてくれはしなかった。
彼ら物盗りがここに入ってきたのは、外の大通りからも見えたはずだ。
それでも誰も助けに来てくなかったという事実に寂しさを感じる。
「多くの人にとって彼らのような連中と反目するのはリスクが大きいのさ、――それにあちらであんな事があった後だしね」
ラインハルトが指す『あんな事』。
スバルはすぐにその正体に気付く。
大通りで血まみれで倒れていた女の子。
そんな事態があったのなら、みんなそちらに注目してしまっていても仕方ないだろう。
いや、そんな物騒な事が起きているのに、裏路地に入るなんて怖くて出来ないのかもしれない。
どちらにしろ、今回誰もスバルを助けてくれなかったのは仕方のないことであったのだ。
「梨花ちゃん……」
彼と三人組の遭遇は最悪であったが、そのおかげで傷を一時でも忘れられていた。
その傷が再び開く。
古手梨花。自分が守れなかった女の子。
無惨に腹を裂かれて殺された可哀想な女の子。
「その反応を見るに、やはり君は彼女の事をなにか知っているらしいね」
「……?」
「実は、君に彼女について聞きたくてここへ来たんだ」
おかげで、危ない場面を助けることが出来たけどね、なんて付け足すラインハルト。
梨花について聞きたいこと?
だが、あいにく梨花とは実は会ってからあまり時間が経っていない。
知っていることと言えば、せいぜい巫女をやっていた事くらいだった。
「彼女には、魔女教徒の疑惑が出ている」
「魔女教……?」
ラインハルトから出た言葉にスバルは全く心当たりが無い。
最後の方の言葉の響きからして何かしらの宗教であることが予測されるが、流石にその内容までは推察できなかった。
「スバルは魔女教を知らないのかい?」
そのなんともピンと来てない様子のスバルを見て、驚いたようにしていたラインハルトだったが、そのまま首を振って懇切丁寧に『魔女教』とやらの解説を始めてくれた。
――いわく、各所で神出鬼没に現れては犯罪行為を働く危険な集団
――いわく、『魔女教徒を見つけたら即座に殺せ』などという物騒な常識が根付くほど忌み嫌われている者達。
――いわく、『嫉妬の魔女』なる存在の復活を目論むカルト宗教
この説明の中に『サテラ』という名前が登場しなかったのは、偶然であったが、幸運であったとも言える。
(梨花ちゃんがそんな奴らの仲間?)
そんなはずはない。
確かに知り合ってから間も無いが、そんな事をするような娘には決して見えなかった。
きっとこれは何かの間違いなんだろう。
「彼女から魔女の匂いを感じたという複数人の通報があったのと、彼女自身の『笑いながら発狂して自殺をする』という異常な行動から見たもので、推測の域を出ないけどね」
かなり戸惑って、自分に『そんなはずはない』と言い聞かせているスバルを見かねて、フォローをする。
だが、そこで齎された新情報に余計に混乱するスバル。
「……自殺? 梨花ちゃんが……? そんなわけ……」
自殺。
いや、そんなはずはない。
確かに自分は見たのだ。謎の女に腹を裂かれて殺される梨花の姿を。
アレが自殺なはずがない。
「梨花ちゃん……というのかい? 彼女の名前は?」
「あ、ああ……」
「スバルとの関係は?」
「同郷で、意気投合してしばらく一緒に行動してた」
「同郷……というと、どこから?」
「ここよりずっと東のところで……」
「ルグニカより東……まさか大瀑布の向こうって冗談かい?」
しまった。
ここより東のところが無いなんてのはサテラとの会話で分かりきっていたところだった。
先程から、まるで尋問をするかのように質問攻めにしてくるラインハルトの疑惑を、余計に強めたかもしれない。
じーっと値踏みをするようにスバルの目を見つめるラインハルト。
引きこもりにとって、人の目を見て話すというのは最大のハードルだが、
まるで縫い付けられたかのように、顔の位置を固定されている、そんな気がした。
「うん……嘘は言っていないみたいだね……わかったよ」
それから、何度かの質疑応答を繰り返すと、ラインハルトは納得したかのように頷き、言葉を発する。
「今のルグニカは平時より落ち着かない状態にある。何か困ったことがあったら、僕を呼んでくれ、僕で良ければ力を貸すよ」
そんな申し出をしてくれるラインハルト。
どうやら疑惑が晴れただけではなく、そこそこの信頼を得れたらしい。
『盗品蔵について来てくれ』
そんなお願いを言おうとして、思い留まる。
それは駄目だ。 それで後悔したばかりじゃないか。
あの女がまだ中にいるかもしれない。
まだ危険な状態かもしれない。
そんなところに会ったばかりの人間を巻き込むわけにはいかない。
盗品蔵には自分一人で入る。それで良い。
――けど、
何の頼み事も無さそうであるのを見届けると、去ろうとするラインハルトの背中にスバルは待ったをかける。
「わりぃな、呼び止めて。一個だけ質問良いか?」
「世情には疎いから答えられるか分からないけど」
と言いつつ、「何でも聞いて」と頷くラインハルト。
どこまでも爽やかで人の好さそうな男だ。
「このあたりで白いローブ着た銀髪の女の子を見てないか?」
「白いローブに、銀髪……」
「心当たりないか?」
「……スバルはその子を見つけてどうするんだい?」
「まずは色々と話したい。 あとは、落とし物? いや、探しものか? それを届けてやりたい」
スバルのその答えを聞いて、ラインハルトは静かに熟考している様子だった。
しばらくして、返答がくる。
「ううん、すまない。ちょっと心当たりはないな、僕で良ければ、探すのを手伝うけれど」
「そこまで、面倒はかけられねぇよ、あとはどうもでも探すさ」
そう言うと、納得してくれたのか、
「非番の日は王都をうろうろしているから困ったことがあったら、声をかけてくれれば助ける」だの「名前を出してくれれば、いつでも会える」といった彼とのコンタクトの手段を提示してくれた。
その手を借りるつもりは今のところないが、とりあえず記憶には留めておく。
そうして、スバルは盗品蔵へ向かうために大通りへと一歩踏み出す。
「気をつけて」
と、最後まで爽やか見送りの言葉をくれるラインハルト。
その言葉はかつて軽んじて痛い目を見た自分にとてもよく刺さった。
ああ、今度こそ気をつけるさ。
油断だって絶対にしない。
後悔は十分した。
二度と同じ過ちは繰り返さない。
――そうだ、今度こそ絶対に大丈夫。
そう何度もあんな目に合うはずがない。
スバルはそう自分に言い聞かせ、一歩一歩進んでいくのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ああ、やっぱり――あなたの腸の色はとてもキレイな色をしていると思ったの」
「う――――――っがああああああああ!?」
鮮血が吹き出し、視界が真っ赤に染まる。
一糸報いた達成感も塵のように吹き飛ばされた。
痛い、痛い、イタイ!
全身を苦痛が駆け巡る。
感じていた怒りも、悲しみも苦しみも勇気も何もかも"恐怖"という感情に塗りつぶされていく。
自分が立ち上がるのが遅かったせいで、二人も死んだ。その事実への罪悪感すらも頭から消え去っていた。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い…………。
感情や思考といった機能は失われ、もはや神経からの緊急事態伝達を受けるだけの器官となった脳みそは
ただスバルの精神を蝕む。
大丈夫。油断なんてしない。
そう思っていた。
だが、蓋を開けてみれば、交渉成立した途端に、上機嫌になってその誓いを破ってしまった。
「これを持ち主に返してやりたいんだ」
その言葉を口を滑らせて言ってしまったのが大きな間違いだった。
今回、スバルは前回ここへ来たときも予定していた異世界の品と徽章の物々交換を実行しようとした。
こちらが出したのはケータイ電話。
それをどうやら『魔法器』なるものと思ってくれたらしく、店主は金貨20枚近くあると保証してくれた。
店主――ロム爺と呼べと本人はそう言っていた。
彼は、前に来たときに転がっていた死体その人にしか見えず、「最近、死んだことないか?」なんて聞いたら笑い飛ばされた。
彼は、見た目通り豪快な人物で、無理やり酒を飲まされたり、持ってきていたスナックを全部食べられたりした。
――そんなロム爺も今は物言わぬ死体だ。
あの気狂い女に腕を斬られ、喉を裂かれて死んだ。
かつて自分と梨花を見捨てた少女。サテラから徽章を盗んだ生意気そうな金髪の彼女――フェルトは思ったより面白い奴で、会話でボケればいくらでもツッコんでくれた。
もう一人の客を説得できれば、交換を認めると言ってくれた。
――そんなフェルトも目の前で殺された。
「……悪かったな、巻き込んで」
そんな謝罪の言葉を遺して、あの女に立ち向かっていて、あっけなく散っていった。
『彼女だけは逃さなくては』。そんな事を頭では考えていた。
自分が囮になって、逃げる時間を稼ぐ。
そんな結論を出していた。
なのに身体は動かった。
恐怖でガタガタと震えるだけだった。
出会って間もない、ほんの小一時間程度の仲だったが、本音で話し合った相手達だった。
それを自分は恐怖で見捨ててしまった。
「お爺さんと女の子は倒れた、なのに貴方は動かないの?」
つまらなそうにそう自分に言った女、これがもう一人の客、エルザと名乗った異常者――ロム爺とフェルトを殺した女だった。
その言葉に、何も感じていなそうなエルザのその態度に、怒りを感じた。
震えていた自分が情けなくて、なんとか立ち上がって向かっていった。
その結果がこれだった。
一撃入れてやった代わりに、自分の腹は裂かれ、今はうずくまり苦痛に顔を歪めている。
「痛い? 苦しい? 辛い? 死んじゃいたい?」
飛び出た腸をウットリとした表情で見つめる彼女はスバルと視線を合わせるように屈んで、そんな事を問うてくる。
だが、そんな言葉はスバルの耳には届かない。
脳内麻薬ですら痛みを誤魔化しきれない。
痛い、痛い、痛い、痛い!
怖い、苦しい、辛い、逃げたい、生きたい、死にたくない、死にたくない、死にたくない!
いつ死ぬ? どう死ぬ?
死んだらどうなる?
どこへ行く?
分からない.
恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い!
死にたくない。
どこまでも続く死への恐怖。
それが本能から来るものなのか、「まだやらなければならない事がある」という理性からくる物なのかスバルにも最早分からなかった。
死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない!
そんな思いに脳が埋め尽くされる。
だが、無慈悲に視界は白くなっていき――
――あ、死んだ
ナツキ・スバルは異世界で二度目の死を迎えた。
宝探し編、お疲れ様でした。
これいちいち〇〇編完って書くの締まり悪いなと思ってやめました。
梨花ちゃんから漂う魔女の香り……いったいどこのゲロカス卿の仕業なんだ……!?
ちなみにこんな事言ってますが、うみねこ勢が関わるところは今んところゼロの予定です。
ただ、今後ひぐらし業本編に出てきたら多分出てくると思います。
まあどっちに転んでも頑張ります。
この宝探し編では死にたがってる梨花と生きたがってるスバルの対比構造になっています。
ただ、まあどっちも辛いと思いますけどね。