七人の花騎士(フラワーナイトガール短編妄想集 番外編) 作:イッチー団長
元ネタみたいに泥臭い戦闘が書きたいのですが……。
「……今日が生贄を捧げる日だね」
そうだ。そして決戦の始まりでもある。
「それじゃあ、打ち合わせ通りにお願いするです?」
ワレモコウの言葉に、コクリと頷いたのはサヤの母。しかし、その夫はまだ納得していないようだった。
「花騎士様……どうしてもうちのじゃなきゃ駄目ですか?」
「しつこいよ、あんた。私が囮にならなきゃ花騎士様が存分に戦えないだろう?」
サヤの母は中々気の強い女性らしく、囮になるのを真っ先に志願してくれた。おかげで我々は非常に助かった。
「私達もできるだけのことはするから。害虫の巣の場所と勢力を確かめるのに、囮が必要なんだよ」
「わ、分かりましたよ……」
うな垂れる彼の背中をポンと叩く。花騎士たちを信じて欲しいと。
「それじゃ、行ってくる」
「あ、ああ……気を付けてな」
ゆっくり歩く彼女の後ろを、気配を潜めながら二人の花騎士が尾行していた。リシアンサスとコマチソウだ。
「あっ、向こうから害虫が来る。お迎えかな?」
やって来たカマキリ型の害虫は、彼女を舐めるように見廻す。女性の額にはびっしりと汗が滴っていた。やがて害虫が背を向ける。着いて来いということだろう。
たどり着いたのは洞窟のようになっている場所。この洞穴の中に害虫が生息しているということか。
「ここが害虫の巣……あたしが今まで見てきたどの巣より大きいかも」
「コマチソウさんがそう言うんなら、相当なんでしょうね……」
喉をごくりと鳴らしながら、二人は洞窟の入り口へ駆け寄っていく。
害虫に案内されて巣の奥へ入っていく女性。最深部には、一際大きく禍々しい害虫がいた。姿はトライサンボンに似ているが、大きさや色が全く異なる。それに威圧感が段違いだ。
(これがこの森の『ヌシ』……)
あまりの恐怖感から手汗をびっしりとかいている。それでも……。
「これでも……くらえ!」
服の中に忍ばせていた毒薬をヌシにぶちまける。さすがに普通の人間に抵抗されるとは思っていなかったのか、ヌシは一歩引いてしまった。その瞬間、女性の背後からリシアンサスとコマチソウが現れた。
「くらえっ、正義の嵐!」
リシアンサスの必殺技『ジャスティーストーム』がヌシと大型害虫に炸裂する。その砂嵐は攻撃と共に目くらましの役割も果たしているのだった。
「さぁ、早く逃げよう!」
コマチソウが女性の手を引き、来た道を全速力で戻っていく。
「グガ……」
砂嵐が晴れると、ボロボロになった大型害虫とは対照的に、ほとんどダメージを受けていないヌシの姿があった。
「さすがに今ので倒せてたり……しませんよね?」
「まぁ、無理だろうね~。だから火薬も撒いておいたんだ」
可愛らしい笑顔で恐ろしいことを言うコマチソウ。巣を出ると、すぐに火薬に火を付けた。
大きな爆発音と共に、岩や地面が粉々に壊れ吹き飛んでいく。
「アチチチ……ちょっと火薬の量多かったかも」
「でもこれで大分倒したんじゃないですか」
「甘いよ、リシアンサス。雑魚は粗方倒したかも知れないけど、ヌシとか極限級はダメージもほとんどないと思う」
砂埃が晴れると、キラリと光る害虫たちの目があった。極限級の蝶型害虫が一直線に花騎士に向かってくる。
「ほら、追ってきた!」
全速力で逃げる三人だが、
「痛っ!」
「コマチソウさん!?」
害虫のレーザー攻撃がコマチソウの肩に当たり、血が噴き出した。
「ぐぅっ……滅茶苦茶痛いけど……もうちょっとの我慢……」
「もうちょっと……そこだ!」
待ち構えていた村人たちの投石が害虫に命中する。
「ギュルルル!?」
驚く害虫に、さらに現れたクマツヅラが追い打ちをかけていく。
「たぁっ!」
クマツヅラの魔法攻撃により、害虫はあえなく沈んでいった。
「いたたたぁ……」
「コマチソウさん、今手当てしますね」
クマツヅラの治癒魔法がコマチソウの肩を癒していく。
「……このくらいで。ごめんなさい、魔力が暴走すると怖いからこれ以上は」
「うん、大丈夫。これくらいなら充分戦える。後は戦いが終わったら病院行くから」
肩をぐいんぐいん回しながら微笑むコマチソウだった。
その日の夕方、ワレモコウが村人と花騎士を村長宅に集めた。
「今日、害虫たちは巣を失った?」
喜ぶ村人たちをワレモコウは静止する。
「喜ぶのは早いです? 巣を失った害虫は、また巣を作ろうとする? そのためにも資材やエネルギーが必要? つまり……」
「つまりはこの村を襲いに来るってことだね?」
イキシアの言葉にワレモコウはこくりと頷いた。
「害虫たちは一番近いこの村を必ず襲う? しかも、死に物狂いで?」
ごくりと喉を鳴らす村人たち。我々の緊張はピークに達していた。
「皆、大丈夫。これを見て」
ポーチュラカが微笑みながら見せてきたのは、丸と三角と「た」が描かれた旗。ポーチュラカが自作したものだ。
「この『た』が村の皆だよ。私達丸と三角が必ず『た』を守るから」
こんな時でも明るいポーチュラカの声に、村人たちの緊張も多少ほぐれたようだった。
「うぅ……」
どこか不機嫌そうなコンボルブルス。どうしたのか聞いてみる。
「だって、私だけ夜の見張りが出来ない……私が言い出したことなのに、足手まといになっちゃう……」
夜になったら眠ってしまうのだし、仕方ないだろう。そう言ってもコンボルブルスの表情は変わらなかった。
「コンボルブルスさんは足手まといなんかじゃないんだよ」
背後から現れたポーチュラカがコンボルブルスの肩を叩く。
「ポーチュラカさん……」
「ワレモコウさんも、コンボルブルスさんが一番の戦力だって言ってたよ。だから夜はゆっくり休んで、戦いに備えて欲しいんだよ」
「……うん。分かった」
ポーチュラカの言うことは素直に聞くのは、彼女たちが同じ部隊で戦って長いからだろう。リシアンサスやワレモコウもそうだが、姉妹のような信頼関係が出来上がっている。
「というわけで、見張りに行くよ、団長」
布団にコンボルブルスを寝かせてから、暗闇の中へ出て行った。
「ふあぁぁ……夜、大丈夫だったかな?」
コンボルブルスが外へ出ていくと、眠そうな目の村人たちが歩いていた。
「コンボルブルス、おはようです? 昨日は何ともなかった? つまり今日が本番です?」
「うん……」
村の北部、崖になっている所にはクマツヅラが配置された。
「クマツヅラには根源の加護で味方の強化をお願いするです? それと、崖の上から攻めてくる害虫を魔法で打ち落として欲しい?」
「はい、分かりました」
村の西部は川と田んぼが広がっている。田んぼは村人たちの手で刈り取られ、そこに水が引かれている。
「橋も落としておいたし、飛ばない害虫の足止めには充分だと思う。あとはここを越えてくる害虫をお願いね、リシアンサスさん、コマチソウさん」
「了解!」
「了解しました!」
村の東部、ここは特に何もない平野だが、コマチソウによるトラップと高い柵が設置されている。ここを守るのはポーチュラカと村の投石部隊だ。
「任せて欲しいんだよ。サクっと倒すよ、柵だけにね」
その言葉に、村の男衆はわははと大笑いする。緊張はしていないようで良かった。
「問題はここ? 南部です?」
南部は害虫の巣があった森に直線で繋がっている。罠も特に置かず、コンボルブルスとイキシア、そして村の槍部隊がいるだけだ。
「害虫は必ずここに主力を集めてくる?」
「それが分かってるのに、どうして罠を仕掛けないの?」
「良い砦には必ず一か所弱点がある。そこに敵をおびき寄せて、一網打尽にする?」
「さすがワレモコウさんだね」
「後は、私達が害虫を倒せばいいってことだね……」
コンボルブルスの表情が引き締まる。いよいよ決戦という雰囲気になってきた。
「来ましたね、えいっ!」
クマツヅラの魔法攻撃が崖の上の害虫に当たり、次々と撃破していく。
「えいっ! あれ? もう来なくなっちゃった」
5匹程倒されたところで、害虫は諦めて別の場所を探りに行った。
「クマツヅラ、加護をお願いするです?」
「分かりました!」
「力が溢れてくる。これが根源の加護……」
花騎士たちの力が増強される。根源の世界花から流れる未知の力。物量的に不利なこの状況では非常にありがたい力だ。
「こっちも来ました。そりゃっ!」
川を渡ろうとする害虫に、リシアンサスのナイフが次々と命中していく。
「グガガ」
「柵登りお疲れ様だよ。それじゃあサクッと倒させてもらうよ!」
柵をよじ登ってきた害虫を、ポーチュラカが圏で切りつけた。柵の向こうの害虫にも、投石が命中していく。
「東西北の害虫は這う這うの体で退散していった? 次は南部に来るです?」
「うん。いよいよだね」
「来たっ!」
見ると、数多くの害虫がこちらに突っ込んでくる。全員大型以上、極限級も混ざっている。
「皆、槍衾を敷いて害虫を中に入られないようにして!」
「お、おう……」
村の男衆は震えながらも槍を構えていく。私も負けじと槍を持ち、コンボルブルス、イキシアと一緒に害虫へ突っ込んでいった。
「風穴を開ける!」
『ラストディスペアー』が十体以上の大型害虫を一気に串刺しにした。
「たぁっ!」
イキシアも『ユニオンウィング』で数体の害虫を葬り去った。
「ま、まずいっ! 一匹こっちに来たぞ!」
打ち漏らした害虫が村人たちへと迫る。
「俺たちの村のためだ! 足止めくらいやってやる!」
「大丈夫です? モコウも手を貸す?」
ワレモコウの魔法攻撃により、害虫は砕け散っていった。
三人の花騎士による熾烈な攻撃に、害虫たちは背を向けて逃げていった。
「逃げていく……のか?」
「まだ第一陣が去っただけ? 時間を置いて次の攻撃が来る?」
「でもそれまでは休憩しよう。皆よくやったよ!」
明るい声で村人たちを鼓舞するイキシア。村人たちも一先ずほっと胸を撫で下ろした。
結局、その夜まで第二の攻撃は来なかった。
「どうしたんだろう? あっちだって余裕はないはずなのに」
「持久戦なら、人数が少ないこちらも不利なのは変わらない? あるいは夜に奇襲を仕掛けてくる?」
「どっちにしろ怖いね。特に夜はコンボルブルスさんも眠っちゃうし」
「……それが一番の懸念材料?」
「なあ嬢ちゃん、昨日から一睡もしてないんじゃないか? 見張りなら俺たちがやっておくから、仮眠取っておきなよ」
「う、うん……それじゃあお願いするんだよ」
その場に座ってフッと眠りにつくポーチュラカ。可愛らしい寝顔だが、寝ても武器を手放さないのはさすが歴戦の花騎士といったところか。
「……っ!」
うとうとしていたポーチュラカが突然起き上がり柵によじ登る。
「……いた! ここの守りは任せるんだよ!」
そう言い残して柵の向こう側へ降りた。
「とぁっ!」
害虫たちを次々切りつけていくポーチュラカ。10体程倒したところで手が止まった。
「ヌシ……」
明らかに他と違う威圧感を感じる。禍々しい模様に、漂う邪悪なオーラ。森の害虫たちを統べる者がそこにいた。
ポーチュラカを見定めたヌシは、目にも止まらぬスピードで彼女に突進してきた。
「ぐっ!?」
(速い……あと少し避けるのが遅かったら串刺しだったよ……)
流石の彼女でも冷や汗をかいてしまう程、ヌシの戦闘能力は高かった。これまで彼女が相対したどの害虫よりも。
「ぐっ……うっ!」
何とか攻撃を避けるてはいるが、攻撃が当たり串刺しにされるのも時間の問題だろう。それ程ヌシとポーチュラカには戦闘能力の差があった。
(一対一じゃ絶対勝てないよ……このままじゃ……)
彼女の脳裏に「死」の二文字がよぎった時、ヌシは攻撃の手を休め、彼女をじっと凝視した。数秒間の沈黙の後、ヌシは凄まじいスピードで彼女の横を通り過ぎていった。
「しまった! このままじゃ村に!」
ヌシ相手では投石も役には立たず、ついには柵を突破されてしまった。
「東が突破された!? 害虫が村に入る!?」
騒ぎを聞きつけ加勢に来たワレモコウとリシアンサスだったが、そこにいた害虫の姿を見て一歩引いてしまった。
「ヌシ……ですね。改めて見ると凄い威圧感です……」
「でも……やるしかない?」
その時、二人に根源の加護の力が宿る。
「クマツヅラ……ありがたいです?」
しかし、根源の加護を受けた花騎士二人がかりでも、ヌシには防戦一方であった。
「ぐぅっ!」
「ワレモコウさん!」
吹き飛ばされたワレモコウ。その先には村長の家があった。
「花騎士様……」
「ごめんです、村長? 家、壊してしまった?」
「このくらい何とも。それよりも大丈夫ですか?」
「……何とかするしかない?」
ふらふらと起き上がり、再び害虫へ向かうワレモコウの背中を、村長はじっと見つめていた。
「はぁ……はぁ……くっ!」
(何て速くて重い攻撃……こんな強い害虫初めてです……)
強力な攻撃を何とか凌いでいるリシアンサスの元に、再びワレモコウが戻ってきた。
「ワレモコウさん、何か策は……」
「断じて何も思いつかない? 小細工は一切通用しない相手です?」
(それでも、どうにか村の外へは追い出したい? 刺し違えてでも……?)
二人が構えた瞬間、ヌシは二人ではなく別の方向へと向かって行った。二人がそちらを向くと、
「村長っ!?」
ワレモコウもリシアンサスも彼を助けようと動き始めたが、ヌシの方が圧倒的に速く、村長に襲い掛かった。その瞬間、村の地面が揺れるような爆発が起こった。
「なっ……村長が……?」
「爆発……っ!? まさか、コマチソウさんの火薬で!?」
二人が駆け寄ると、村長は肉片も残らず消え去っていた。そしてヌシは、立派な三本の角の内一本が折れ、羽や脚も所々欠損してしまっている。流石に爆発には驚愕したのか、そのまま逃げるように飛び去って行った。
逃げるヌシの姿を見ながら、二人はがっくりと膝を落としたのだった。
「確かに、持ってきた火薬が減ってる。あのおじいちゃん、最初からそのつもりでいたんだよ、きっと」
「爺さん……どうして……」
がっくりとうな垂れる彼の孫の背中を、ワレモコウはポンと叩いた。
「ごめんなさいです? モコウたちの力が足りなかったから?」
「いえ、悪いのは害虫ですよ」
「ん……おはよう」
コンボルブルスが目を擦りながら居間へやってきた。私は彼女に昨晩のことを聞かせた。
「村長さんが……自爆……?」
目を見開き、息を荒く吐き始めるコンボルブルス。彼女の背中をさすってあげた。
村長のおかげでヌシを一時撤退させられたが、これは決して軽い犠牲ではない。そのことを肝に免じておくよう、花騎士にも村人たちにも伝えた。
村の中央の広場。そこに村長の墓標が作られ、その上にポーチュラカの旗が立てられた。
「昨晩はそれぞれの持ち場で戦闘があったです? それを考えると、もう害虫側の戦力はほとんど残っていない? ということは今日にも最後の決戦になるです?」
「皆、準備を整えておいてね」
「害虫も死に物狂いで来るはずです?」
「コンボルブルスお姉ちゃん!」
「サヤちゃん……」
曽祖父を死なせてしまったという罪悪感から、コンボルブルスは思わずサヤから目を反らしてしまった。
「じぃじ、どこ行ったのかな? おっ母とお父は『遠い所へ行ったからもう会えない』って言ってるけど、どういうことなの?」
「お爺さんはね、あなた達を守るためにお空に行ったんだよ。夜になると星が光るでしょ? その内のどれかはあなたのお爺さんなんだよ」
「そっか、お星様に……」
サヤがそう言うと、コンボルブルスは彼女を思いっきり抱き締めて、少しだけ泣いた。
「お姉ちゃん? どうしたの?」
「あなたのお爺さんはとっても強い人だった。私達よりもずっと……」
コンボルブルスの心を表すように、村にはポツリポツリと雨が降りだした。
「残る害虫は数体のみ? これは全部村に入れる? 村の中で挟み撃ちにするです?」
雨に打たれながら、ワレモコウが村人と花騎士に向けて決戦の説明を行う。
「勝負はこの一撃で決まる!?」
「……来た」
雨の向こうから現れる害虫たち。大型10体、極限級3体、そしてヌシ。
コンボルブルスとイキシアはそれらを一旦やり過ごし、背後から襲いかかった。
「ガァァァ!」
二人の攻撃で大型害虫は葬り去られ、他の害虫たちも村の中へ押し込まれていった。
「よし来た! 行くよ皆!」
「はい!」
花騎士たちを根源の加護が包む。
ポーチュラカ、クマツヅラ、コマチソウがヌシと相対する。
リシアンサスとワレモコウ、そして駆けつけてきたイキシアとコンボルブルスが各々極限級と相対した。
「キュルル!」
リシアンサスが蝶型の害虫と交戦し始める。
(流石にこの雨だと飛びにくいみたいですね……)
だからといってリシアンサスが有利というわけではない。飛んでくるレーザー攻撃を避けるのに精一杯で、ナイフを投げる隙がない。
「それでも、負けるわけにはいかないんですよっ!」
「ぐぅっ!」
「はぁ……はぁ……流石ヌシ、二体一じゃ勝てないか。でも……」
ヌシを押さえ込んでいたポーチュラカとコマチソウがフッと引き、その後ろからクマツヅラが火炎魔法を放った。
「ガァァ!?」
「やっぱり、ヌシは火を怖がってる。昨日のアレが効いてるみたい」
「でもこの雨の中では火炎魔法の威力は半減してしまいます」
実際、ヌシにほとんどダメージはないようだった。
「大丈夫、ひるんだ隙にあたしたちが!」
クマツヅラが火炎魔法を連発した後、煙を切り裂いてポーチュラカの『ツー回転斬り』がヌシに直撃する。
「グワァァ!」
斬撃による火花が散っていく。しかし……。
「あれが直撃したのに立っていられるの!?」
「タフ過ぎるよ……」
それでも花騎士たちは諦めずに攻撃を続けていった。
「ワレモコウさん、危ないっ!」
「っ!?」
蜂型害虫の攻撃をすんでのところでかわしたワレモコウ。その攻撃の反動の隙をつき、イキシアの槍が害虫を襲う。しかし、
「くっ! 反応が早いっ!」
すぐさま方向転換して彼女の攻撃を防いだ。
「甘いです!?」
「グギャッ!?」
倒れながら詠唱していたワレモコウの魔法攻撃が、害虫の背中を捉えた。
「ナイスだよ、ワレモコウさん」
「とはいえ、モコウの攻撃じゃあまり効いていない?」
害虫はひるむことなく攻撃を再開する。
「それなら、何度も攻撃するしかない!」
「ぐぅぅ……!」
クワガタ害虫の突進がコンボルブルスを襲うが、咄嗟に槍で防いだ。
「負けない……やぁぁぁ!!」
コンボルブルスのパワーが害虫を上回り、そのまま害虫の巨体をぶん投げた。
「はぁ……はぁ……」
雨は止むどころかどんどん激しさを増していき、花騎士たちの体力も奪っていく。
ぬかるみの中を走り回り、綺麗な髪も顔も身体も泥だらけになってしまっている。
村人を守る、その思いだけが彼女たちを突き動かしていた。
「とぁっ!」
リシアンサスのナイフが遂に害虫を捉える。
「まだですっ! たぁぁぁ!」
「ギュルルル!!」
次々に刺さっていくナイフに恐れおののき、蝶型の害虫は背を向けて逃げようとした。
「逃がさない……これで、とどめです!」
逃げる蝶害虫に『ジャスティーストーム』が直撃し、害虫はあえなく沈んでいった。
「やあっ!!」
イキシアの槍が蜂害虫の針を破壊する。ひるんだ害虫にワレモコウの『ソウルウェーブ』が襲い掛かり、無残にも粉々に砕け散った。
「やったぁ!」
「まだこれから? ここからが本番?」
「回して貫く!」
『ラストディスペアー』を放ち、クワガタ害虫を葬り去ったコンボルブルスは、すぐにヌシの方へ駆けて行った。
「ヌシ!」
極限級害虫を倒した花騎士たちが、全員でヌシに飛び掛かり攻撃を浴びせる。
「グゥゥ……ガァァッ!」
追い詰められたヌシが咆哮をあげると、彼の身体に赤いオーラが宿っていく。
「な、何です?」
次の瞬間、衝撃派が花騎士たちを吹き飛ばした。
「ぐぅっ! 皆、大丈夫!?」
「は、はい……何とか……えっ?」
よろめきながら立ち上がったクマツヅラの目の前に、ヌシの姿があった。
「きゃぁっ!」
ヌシの頭突きをもろに受け、クマツヅラは遥か後方まで吹き飛ばされる。
「クマツヅラさん!」
「がはっ……うぐぅ……」
口から血を吐き出すクマツヅラ。追い打ちをかけようと、ヌシは彼女へ再び突進してくる。彼女は逃げようとするが、全身の骨が折れているのか、立ち上がることすら出来なかった。
(まずい……でも……)
ヌシの攻撃が到達する直前、クマツヅラは何とか魔法を発動させた。死に物狂いで放った一撃は威力こそ低いものの、ヌシの目玉を抉るには充分だった。
(今のが最後の一撃です……皆さん、後は頼みました……)
花騎士たちから根源の加護の力が失われる。
降りしきる雨とぬかるんだ泥の中、クマツヅラの意識は遠のいていった。
「ギャァァァ!」
「ヌシがひるんだ!」
「今です!?」
コマチソウ、イキシア、ポーチュラカ、リシアンサス、ワレモコウが全力の攻撃をヌシに浴びせていく。しかし、かなりダメージを負っているはずのヌシでも、五人の花騎士の力と拮抗……いや、押し勝っていた。
「ぐうぅっ!」
ヌシが巨大なツノを振り回し、五人を吹き飛ばす。しかし彼女らに意識が行っていたヌシは、近づいてくるもう一人の花騎士に気付いていなかった。
「コンボルブルスさん!」
全身を地面に打ち付けられ、立ち上がれない程のダメージを受けながらも、皆は懸命に彼女の名前を呼んだ。
「これで決めるっ!」
ヌシの頭上に飛び、ヌシの身体に直接『ラストディスペアー』を打ち込む。その破壊力に、さすがのヌシも全身を悶えさせ苦しみ始めた。
「ぐぅっ! まだ! もう一発!」
傷だらけの身体を奮い立たせ、再度必殺技を叩き付ける。ヌシの脚や羽根、肉片が飛び散っていく。
「はぁ……はぁ……お、終わった」
コンボルブルスはそう言って槍に身体を預けた。血と汗と雨と泥で塗りたくられた身体は、もはや立っていることさえままならなくなっていた。
しかし……。
「っ!? がぁっ!」
コンボルブルスの身体が宙に浮く。ヌシはまだ生きていた。ツノも羽根も全て失いながらも、コンボルブルスを跳ね除け、森へ向かって進んでいく。
「ぬ、ヌシが逃げる!?」
その光景を見ながらも、花騎士の中には誰一人動くことの出来るものはいなかった。
(もう少しなのに……)
「!?」
ヌシが立ち止まる。その前に立ちふさがったのは槍を構えた団長と村人たちだった。
「い、行かせねぇ……ここは何としても食い止める」
「ガァァ!」
「っ! く、来るなら来い!」
槍を持つ手を震わせながらも、村人たちは決して引こうとはしなかった。
彼らにヌシの攻撃が当たる直前で、ヌシの動きは止まった。
「はぁ……はぁ……」
ボロボロの身体を引きずりながらも、コンボルブルスがヌシの脚の一本を切り飛ばす。
「グワァ!? グワァァ」
「逃がさない……絶対に」
泥だらけのぬかるみの中を、コンボルブルスが這いつくばっていく。逃げるヌシを追って。
「はぁ……はぁ……だぁぁっ!」
「ガァァ……」
コンボルブルスの槍がヌシの身体に突き刺さる。ヌシの身体が崩壊すると同時に、コンボルブルスは泥だらけの地面に倒れこんだ。
「お、終わった……のか……?」
死闘の末力尽きた花騎士たちの上に、どしゃぶりの雨が降り続けていた。
「えいやっさっさ~」
青く澄み渡る空、ギラギラと輝く太陽の下、村人たちの元気な掛け声がこだましていた。
「コンボルブルスお姉ちゃん!」
村人たちの田植えの様子を眺めていたコンボルブルスが、その声に気付き振り返った。
「サヤちゃん」
満面の笑みを見せる少女に、コンボルブルスも優しく微笑みかけた。
「あれからね、害虫も全然来ないの」
「そっか」
「サヤちゃん、お爺さんが居なくなって、寂しくない?」
「ううん。だってじぃじは村のこと見守ってくれてるんだし、いつまでも寂しがってちゃいけないと思って」
「そうか、強いんだねサヤちゃんは」
サヤをそっと抱きしめるコンボルブルス。その頬には涙が伝っていた。
「もう帰るのですか? まだゆっくりしていっても……」
「もう充分ゆっくりしたです? 騎士団での任務も待ってる?」
そう言って、優しい7人の花騎士たちは村人たちに背を向けた。
「ありがとう、お姉ちゃん達!」
少女の声に7人が振り返る。その目に映ったのは村人たちの姿と、一枚の旗だった。丸と三角、「た」が描かれた旗が村長の墓標の上でひらひらと揺れていた。
「ありがとう、皆」
頬を赤らめながら、コンボルブルスが他の花騎士たちにお礼を言った。
「皆が協力してくれなかったら、村の人たちを救えなかった。本当にありがとう」
「そんなことはないと思うです?」
「? どういうこと?」
ワレモコウの遠い眼差しが村の方向を見つめている。
「モコウたちは少し手を貸しただけ? あの村を今まで守り、これからも守っていくのは村人たちです? だから……」
「勝ったのはあの村人たちです?」
―完―
今作は書いていて楽しかったですが、同時に凄く疲れましたね。
他にも色々書きたいエピソードはありましたが、結構省略していたりします。
あと、ボツ案ですが、花騎士側にも何人か犠牲者が出るというものがありました。しかし書いていてあまりにも苦痛だったため、今回のような形に差し替えました。
こんな駄文に付き合ってくださった皆様、本当にありがとうございました。