ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR)   作:TE勢残党

12 / 82
 まーたクッソ長くなったので前倒しで初投稿です。


5/n おま○け(前編)

 アインクラッド第1層の攻略から、はや1週間。

 

 攻略組の尽力により、早くも第2層のボス戦が行われようとしている。

 

 3週間かかった1層と比べると、そのペースは各段に向上したと言える。これまでのレベリングでの貯金もあるが、初のボス戦である1層を死者なく攻略したことによる士気の高さも大きい。

 

 ――だというのに、ボス部屋前の空気は控えめに言って最悪だった。

 

 「何だかんだ今回もいけるだろう」と楽観するグループ。ボス攻略そっちのけで元βテスターへの敵意をむき出しにするグループ。明らかに2~3ランク格落ちの武器を装備し、殺気立っている、あるいは落ち込んでいるプレイヤーたち。

 

 それらどれにも属していないMTDの面々は、この有り様に危機感を覚えていた。

 

「その、ボス直前の攻略組と言うのは、いつもこのような雰囲気なのですか?」

 

 ユリエールがおずおずとカラードに問いかける。それまでMTD内部で必死にレベル上げしていたために、攻略組の空気を感じるのは今日が初めてだ。

 

「……ああ、最初のボス戦だったな」

「いや、ここまでじゃなかったっすけど……ねぇ」

「今は色々あるからねぇ。ま、私らは自分たちの仕事をこなせばいいのよ」

 

 MTDの面々はほぼ全てのリソースを自前で賄っている関係上、上位層のレベルアップは遅めだが攻略組全体の空気感に影響されづらいという特色がある。

 

 それ故やや閉鎖的でもあり、他の攻略組への関心は段々と薄れつつあった。

 

「気負う必要はない。いつも通りやるだけでいい」

 

 不安そうにするユリエールを見かねてか、カラードがらしくもなく鼓舞するような台詞を送る。

 

「っ……はい、ありがとうございます」

 

 ユリエールからすれば、尊敬する大先輩からのエールである。励ましの言葉を受けて、手の震えが収まっていくのを感じた。

 

(……本当に、よく見てくださっている)

 

 思えば、1層に居た時から何かと目をかけてもらっていた。デスゲームで参っていた自分に安全な稼ぎ方を教え、圏内戦闘で徹底的にソードスキルを仕込まれたのは記憶に新しい。

 

 見出してくれたのがシンカーなら、育ててくれたのはカラードだ。この恩は、パーティーでの貢献で返すと決めている。

 

 装備している片手剣《アニール・ブレード+6》の柄頭を撫でると、強張っていた表情が少し緩む。

 

 この剣は「最前線到達祝いに」とカラードから譲り受けたものだ。

 

 本人は『売却し損なった』と言っていたが、優に3層後半まで通用する強力な品だと聞いている。建前だろう。

 

 これを触ると、最前線に立つ恐怖が期待される嬉しさに上書きされていくように感じる。本人はまだ自覚していないが、不安になるとこれを触る癖が付き始めていた。

 

「……良い顔になったわね」

「っ!?」

 

 ユウママの茶々で現実に引き戻されたユリエールは、カラードがこちらを見ていないことを大急ぎで確認してから、ホッとした風に向き直る。

 

「あらあら……頑張んなさいよ」

 

 揶揄うユウママに反論しようと口を開くが、直前に攻略組リーダーたるディアベルの号令が被せられた。ユウママはすぐにそちらを向き、ウェーブの掛かったオレンジ色の長髪が揺れる。

 

 十分にリラックスは出来た。浮ついた気持ちを一度しまって、目の前のボス戦に集中し直す。

 

「皆! まずは集まってくれてありがとう! 今回は前よりさらに増えて47人いる!! これだけの人数がボス攻略に参加してくれていること、オレは誇りに思う!!」

 

 ディアベルが慣れた口調で音頭を取り、攻略組の面々が一斉に注目する。

 

 ディアベル指揮下のA~E隊、総勢30名。

 MTD精鋭4名とキリト・アスナのF隊6名。

 エギルとその仲間で構成されるG隊6名。

 そしてレジェンド・ブレイブスのH隊5名。

 

 合わせて47人が、二層攻略に参加するレイドの全容だ。ちなみに1層ボス戦に独自で追いついていた後発組はエギル組に吸収されている。

 

 こうしてみるとディアベル指揮下の部隊が圧倒的な巨大組織に見えるが、その内実はリンド派18人とキバオウ派12人で二分されてしまっていた。

 

 キバオウ派劣勢に見えるが、ボス攻略に参加していない、いわゆる2軍や後方支援担当者にはキバオウ派が多いので勢力の上では互角である。

 

 1層攻略時点での慢心や反β感情をコントロールするため、ディアベルが無理矢理まとめ上げた弊害であった。

 

 派閥争いに腐心するディアベル傘下、勢力拡大がほぼ完了し閉鎖的になりつつあるMTD、そしてレジェンド・ブレイブス。表向きは協調の姿勢を示す攻略組だが、その実中身はバラバラと言ってよかった。

 

「よし、皆用意はいいな!!」

 

 そんな状況をまとめる必要に迫られてのことだろうが、ディアベルの指揮は昔よりほんの少しだけ強引になった。

 

 ディアベルとアルゴの根回しにより、「攻略本にない行動等が確認されること」も撤退条件に含まれる旨は周知されている。

 

 それでも、ディアベルは不安と焦燥感を拭えずにいたのだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「POTが切れた! 誰か回してくれ!!」

「E隊に余裕があったはずだ!」

「B隊はもう無理だ、麻痺が多すぎる!」

「D隊を合流させて再編する! いったん下がれ!!」

 

 案の定と言うべきか。二層ボス《バラン・ザ・ジェネラルトーラス》の猛攻に、攻略組は苦戦を強いられていた。

 

 バランにはスタン効果のある強攻撃が設定されており、これを2度受けてしまうと状態異常の累積によって麻痺し、かなり長い時間動けなくなる。勿論、放置されれば攻撃を受けて死ぬだろう。

 

 足を狙うスナイパーよろしく、運ぶ人員と負傷した人員で二倍以上の戦力減少が起こる効果的な戦法であった。ただでさえ、中ボスクラスの取り巻き《ナト・ザ・カーネルトーラス》によって戦力は分散されている。少しずつ、だが確実に、戦闘不能者が増えて行った。

 

 事前に分かっていた情報ではあったが、攻略スピードを速めすぎたせいで攻略組のレベル、ひいては火力が不足している。秒間ダメージ量(DPS)が下がればそれだけボスは「長生き」する。つまり攻撃を受ける回数も増えるということだ。

 

(予想より体力の減りが遅い……!!)

 

 その上、誤算の原因がもう一つ。

 

 エギルを筆頭に7名のプレイヤーが、主武装を強化詐欺によって失っているのだ。長期戦にもつれ込むのは必然であった。

 

「三連撃、来るぞ!」

「F隊が出る。ユリエール、ユウママ。合わせてくれ」

「はい!」

「よーし来た!」

 

 それでも彼らは攻略組。SAO最強のトッププレイヤー集団である。数々の不利な条件をもってして、ボスの体力を着実に削っていた。

 

「よし。スイッチ」

「行くよ、キリト君!」

「おう!!」

 

「彼らに遅れるな!! フォーメーション『W』!!」

(初耳だけど)

(多分前3:後2って事だな!)

 

 中でもMTDとレジェンド・ブレイブスの活躍は目覚ましい。

 

 MTDは武器防御使いのカラード、盾持ちのユリエール、斧タンクのユウママが防御。軽装片手剣のキリト、細剣のアスナ、両手槍のジマが攻撃を担当。カラードの指揮能力の高さもあり、危なげなくボスのHPを奪っていく。

 

 一方オルランド達も、レベルこそ低いがそれを補って余りある装備をしているため、一人一人がタンクもかくやの耐久性を誇る。抜群の連携も合わせ、取り巻きを釘付けにしていた。

 

「赤ゲージだ! 暴走モード来るぞ!!」

 

 想定よりかなり手間取りはしたものの、ボスの残HPは最終ゲージの半分を切った。タンク役がかなり麻痺したが、結局ここまでに死者はいない。

 

(何や、行けそうやないか……!)

(暴走モードもβの情報通り、これなら!)

 

 ディアベルの補佐をしているキバオウとリンドが気を緩めた、次の瞬間。

 

 ボス部屋の床が、轟音と共にせりあがる。

 

「……第一層で君主(ロード)だったのが、何故第二層で将軍(ジェネラル)に格下げされたのか疑問だったが」

 

 ()()を見たエギルが、誰にでもなく毒づいた。

 

 現れたのは、巨体を誇るナトとバランよりさらに巨大な牛の王。

 

「答えがお出ましだ」

 

 《アステリオス・ザ・トーラスキング》。第二層()()()()である。

 

「あんなの攻略本になかったぞ!?」

「言うとる場合か! すぐに撤退や撤退!!」

「でもキバオウさん! アイツ退路を!!」

 

 バランと戦う攻略組本隊は、ボス部屋のほぼ最奥部で戦闘している。アステリオスが入り口前を通せんぼしたため、挟み撃ちの形になっているのだ。

 

「つってもこんな……っ、もう回せるタンクいねぇぞ!?」

「情報食い違ってたら撤退するって話だったじゃねぇか!」

「じゃあどうやって逃げるんだよ!?」

 

「狼狽えるな!!」

 

 ディアベルの一喝で、攻略組は一応の平静を取り戻す。ひとまずパニックは避けられた。

 

(この状況からでも、ボスの撃破自体は可能だろう。だが『犠牲なし』は……無理だ。オレが下すべきは……!)

 

「A、C、F隊はオレと一緒に『キング』を引き付けろ! 他5隊は負傷者を回収して撤退だ!!」

 

 ディアベル隊とキバオウ隊とMTD。この時点でタンクの損耗が少ない3隊でボスを引きつけてどかし、他隊は隙を見て撤退。未知のボスが登場するという異常事態である。士気的にも戦力的にも、もはや継戦は不可能だった。

 

 今逃げれば、まだ誰も死なずにもう一度来られる。ディアベルはそう判断したし、実際それで間違いなかったはずだ。

 

「お、おい! 何のモーションや、ありゃあ!?」

「――退避!!」

 

 ――アステリオスが、離れた敵に対して麻痺ブレスを放つ仕様でなかったなら。

 

 カラードの叫びで何人かは回避に成功したが、逃げ遅れたA、C隊の計8人(ディアベル・キバオウ除く)とユリエールは回避が間に合わず、ブレスをもろに受ける。

 

「まずい……!」

「ちょっ、カラードさん!?」

 

 状況を見るや、ジマの静止も聞かずにノータイムで飛び出したカラードは、その高い敏捷値で素早くユリエールを抱えると即座に離脱。

 

 一瞬遅れて、到着したアステリオスによるラッシュ攻撃が麻痺した者たちを捉えた。巨大な掌を叩きつける轟音が、何度も何度もボス部屋全体に響き渡る。

 

「ぐあっ、ひぃっ、た、助けて!! うわあああ!!」

 

 一撃ごとに彼らの体力が減少していく。タンクはともかく、DPS担当者のHPは見る間に減少していき――やがて完全に削り切られた。

 

「ぇ……嘘だろ? 嫌だ、死にたくない! やめ――」

 

 断末魔を最後まで言い切ることなく、ボス戦最初の犠牲者となった男は、他二人のダメージディーラーと共にその体をポリゴン片に変え、キラキラとしたエフェクトを伴って爆散した。 一撃遅れて、もう一人。

 

 

 地獄が、始まった。

 

 

 

 

 

――おまけのおまけ:現在公開可能な情報――

 

・ユリエールの武器

 原作だと詳細不明だが、本作では盾持ちの片手剣士になった。1/nで手に入れたはいいが諸事情で転売し損ねたアニール・ブレードを押し付けるべく、カラードが使い方を教えたためである。なお、そのせいで所持金はガバった。




 将来のアルゴ姉貴の動向が中々、難しいねんな。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。