ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR)   作:TE勢残党

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 休みになったので初投稿です。
 何故ユリエールのヒロイン力が高まるのか、コレガワカラナイ。


5/n おま○け(中編)

 その日初めて、ボス戦で人が死んだ。

 

 麻痺ブレスが放たれてから、ものの十数秒。あまりにもあっけなく爆散したプレイヤーは、既にエフェクトも消え、跡形もない。

 

「モ゛ォオオオオオオオ!!」

 

 ただ、アステリオスの雄たけびがあるばかりだ。「敵」を討ち果たしたことに対する、勝ち名乗り的モーションなのだろうか。どこか嬉しそうな牛の王とは対照的に、攻略組の空気は凍り付いたまま。

 

 そして、配下の二体。バランとナトも、かなりHPを削られてはいるが未だ健在。

 

 攻略組は、半壊した戦力でボス3体と対峙しなければならない。状況は絶望的としか言いようがなかった。

 

 

「へ? 今、何が――」

「舌を噛むぞ」

 

 カラードに米俵の要領で抱えられたユリエールが何かを言おうとするより先に、アステリオスが再びブレス攻撃の構えに入る。

 

「ブレスまた来るぞ!!」

「畜生、休む暇なしかよ!!」

「いいから麻痺した奴抱えて走れ! パワー型なら二人は行けるだろ!!」

 

 既に攻略組は大混乱だ。それでも何とか、無事な者が負傷者を連れてブレスの範囲から離脱していく。

 

 今回はカラードもギリギリだったようで、ユリエールごと大きく横っ飛びし辛うじて躱す。その勢いで担ぎあげられた状態は解除され二人して転がったが、なんとか麻痺はせずに済んだようだ。

 

「当座は凌いだな」

「――っ!? い、いま、人、し、死んっ……!?」

 

 ギリギリで文字通りの「死地」から助け出されたユリエールは、ポカンとした表情が状況を理解するほどに青ざめて行く。目は焦点が合わず、震える指先でプレイヤーが「居た」場所を指さし、言葉にならない恐怖を懸命に伝えようとする。

 

 怜悧な顔は今や恐怖に歪み切り、目尻には涙を溜めている。カラードが助け出していなければ死んでいた(と思っている)のだから、無理もないだろう。

 

 カラードはその姿を見ると、すぐにかがんで目線を合わせ、静かに、しかしはっきりと断言する。

 

「狼狽えるな。大丈夫だ、俺達はこんな所で死んだりしない」

 

 実際には筋力型のユリエールならラッシュにも耐えられただろうが、そういう問題ではないというのは、流石にカラードも分かっていた。

 

(トラウマにならなければいいが)

 

 せっかく手塩にかけて育てた精鋭が一戦で使い物にならなくなっては、今後の計画(チャート)上かなり困る。そんな打算もあって、カラードは出来る限りユリエールを慰めることにしたのだった。

 

「落ち着いて深呼吸しろ。息を吸って、吐く。それに集中する」

「すー……はー……すー……ふぅー。すみ、ません。取り乱しました」

「構わない、誰でもそうなる」

 

 麻痺が取れるまで休んでいるといい、と言い残し、カラードはそそくさと前線に戻っていく。

 

 カラードの言葉にはやけに実感が籠っているというか、まるで見てきたかのような重みが感じられたが、今はそれが頼もしいので深くは追求しないことにした。

 

「……はは。凄いな、カラードさんは」

 

 それに引き換え、自分は何だ。警告に反応できず麻痺し、カラードを危険に飛び込ませた挙句、自分だけパニックになって慰めてもらった。こんな体たらくを晒していては、役に立つどころか足手まといでしかない。

 

 自然と、右手に握ったアニール・ブレードに力を込める。

 

「強く、ならなければ」

 

 ユリエールは人知れず、憧れの人に貰った剣に誓った。

 

 次は自分が、助けるのだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

(クソッ、防ぎ切れなかった!!)

 

 立て続けに出た死者により、攻略組の士気は崩壊寸前まで悪化している。退路は塞がれ、撤退もままならなくなった。

 

 だが、ディアベルは諦めていない。

 

(腹を括るしかなさそうだ……ッ!)

 

 現時点で死者数は4名。対ボス部隊が麻痺ブレスからのラッシュ攻撃に対応しきれず、さらに1名が死亡したのだ。最早迷っている猶予はない。

 

 いざとなったら、オレが憎悪(ヘイト)を背負う。そう覚悟を決めたディアベルの行動は早かった。

 

 素早く号令をかけ直して撤退命令を破棄すると、生き残りを再編して対ボスの足止め部隊を結成した。

 

(逆に考えろ。これでもう、『犠牲なし』にこだわる必要は無くなった!)

 

 麻痺した負傷者を見捨てて逃げ出すなら、今からでも可能だろう。

 

 だが、それほどの犠牲を出しておめおめと逃げ帰った攻略組が、纏まりを取り戻してここへ戻ってくるのにどれだけ必要になるか。よしんばそうなったとして、この場の面子は何人残っているか。聡明なディアベルには、あまりに悲惨な未来が見えていた。

 

 ()()ディアベルの仕事は、犠牲を出さずにこの場を凌ぐことではなく、犠牲の数を最低限に抑えつつ、出した犠牲に報いられる成果を上げること。

 

 つまり、この場で何としてもボスを倒さねばならなくなった。

 

「一体倒せれば戦況はこっちに傾く!! 踏ん張ってくれ!」

 

 ブレス対策に出来る限り分散して取り囲むような布陣を敷き、残りの部隊で二体の取り巻きを排除する作戦だ。

 

「近接が優先されてる! クロスレンジを保てばブレスは撃ってこないぞ!!」

 

 ――普段はあれこれ考えてあまり口を開かないキリトだが、こういう土壇場では違う。

 

 豊富な知識と経験が、極限状態で加速された思考の瞬発力と合わさり、瞬時に的確な判断を下せるようになるのだ。所謂ところの、覚醒状態である。

 

「聞いていたな。F隊突撃! 一撃貰った者から下がれ!」

 

 それを受け、前線に復帰したカラードが巧みな指揮でパーティーを動かす。盾一枚を欠いてなお、MTDの戦力は失われていなかった。

 

「モ゛ォオオオオオオオ!!」

 

「カラードさん!!」

「問題ない」

 

 アステリオスの剛腕に合わせ、カラードは手にした大剣を振りかぶり、背中の右側を敵の方へ。

 

 ソードスキルの「溜め」がシステムによって認識され、剣が淡い光のエフェクトに包まれる。

 

 刹那、巨腕が振り下ろされた。しかしその手が捉えたのはカラードの身体ではなく、剣だ。身体ごと反時計回りに回転することで勢いの付いた《クレイモア》が、完璧なタイミングで腕と激突したのである。

 

 両手剣ソードスキル、《バックラッシュ》。

 

 思わず耳を覆いたくなるほどの音量と、大量の火花のようなエフェクトをまき散らし、しかし()()()()吹き飛ばされてはいない。

 

 ソードスキルの動きを、自らもトレースすることで威力を増幅するシステム外スキル。一番ダメージが大きいタイミング(クリティカルヒット)をピンポイントでぶつける技量。武器の豊富な耐久値と威力。そして何より、この土壇場でこれらの動作を全て成功させる肝の太さ。

 

 全ての要素が揃っている前提でなら。2層ボス()()の攻撃であれば、HPの1割ほどと引き換えに単騎で弾き返すことも可能である。

 

「次」

 

 横薙ぎを《サイクロン》と合わせて受け流し、はたき落としを《カスケード》と合わせて相殺。

 

 コボルドロードの時とは()()()()()()洗練された動きで、次々繰り出されるラッシュ攻撃を捌いていく。

 

「よし。スイッチ」

「えっ……あ、うん!」

 

 最後の一合を終えた時点で()()()()()()HPを7割程度残していたカラードは、平然と号令をかけその場から下がる。

 

 流石に戸惑いを露わにしたユウママ達だが、それでも目の前の攻撃チャンスをふいにする訳にも行かない。

 

「よし、アスナ!」

「わかってる!」

 

 そこへすかさず、現行最高峰のプレイヤースキルを持つダメージディーラー二人組が切り込んでいく。空中ソードスキルを併用したコンボ技により、ボスのHPゲージが目に見えて減少した。

 

(……遅いな)

 

 カラードは普段の無表情に見える。ここにアルゴが居たなら、ほんの少し眉間にしわが寄っているのに気付いただろう。

 

 まだ、ネズハが到着していない。どうやら予想よりクエスト攻略に手こずっているようだ。攻略組の損耗は増しており、この分ではもう数名の犠牲者増加が見込まれた。

 

 本隊が潰滅(ワイプ)しては今後の攻略への影響が大きすぎる。カラードが無茶をして前を支えたのは、そういう計算によるものだ。

 

(エギル達が取り巻きを一人潰したから、まだ余裕はあるが……)

 

 このままではジリ貧。それが分かっているから、指揮を執るディアベルの表情も依然として険しいままだ。

 

 今や攻略組の損耗の多寡は、この場にいない《伝説の英雄》に委ねられようとしていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あ、ぁ、ああああ!!」

 

 情けない、と断じるにはあまりに悲壮な断末魔が響き、また一人の攻略組がポリゴン片と化した。

 

「クソ、またやられた!!」

「怯むな! ボスのHPは確かに減ってるんだ!!」

 

 戦闘開始から優に4時間が経過している。

 

 ボス部屋外縁には十数人の麻痺者が並べられ、未だ戦い続ける攻略組も疲労困憊。残る敵はアステリオス一体となったが、攻略組の損耗もまた大きい。ボス部屋はもはや、末期戦の様相を呈していた。

 

「ラッシュ来るぞ!!」

「ユリエール、行けるか?」

「は、はい!」

 

 現状、ボスのラッシュ攻撃を受けきれるのはMTDとレジェンド・ブレイブス、それにディアベル隊の優秀なタンク何人かと、あとは1回限定でエギル。

 

「タイミングは俺がとる。1、2、3で盾を構えろ」

「え、ぁ……っ」

「狼狽えるな、3人いれば十分防ぎきれる」

「大丈夫、あたしもいるから!」

 

 レベルが足りない時不足するのは、なにも火力だけではない。防御力的にラッシュを防ぎきれるユリエールを動員しなければ、まともにPOTローテも組めないほどに戦力が不足して来ていた。

 

「よし。1、2――」

 

 3、という掛け声と同時に、最早見慣れたアステリオスの剛腕が、今度は比較的あっさりと跳ね返される。

 

「……防、げた?」

「そうだ。次、三連撃来るぞ」

 

「スイッチ後は我々に任されよ!! 皆の者! フォーメーション『X』!!」

(2-1-2ってところか!?)

 

 彼らの尽力により、なんとか最前線は支えられている。ボスのHPゲージは、既に最後の一本に到達した。

 

(クソ……っ!! ここまでなのか!?)

 

 それでも、このペースだと前線が耐えきれなくなる方が早い。ディアベルに残った冷静な部分が、脳内でそんな警告を叩きつけていた。

 

(こんな所で……ここまで、来たのに!?)

 

 大量のPOT。耐久値が無くなって失われた装備品類。ボス2体と、真のボスの体力バー約9割。そして何より、6人分の人命。逃げるなら、さらに麻痺者数名が加算されるだろう。

 

 ディアベルが撤退の判断を下せば、これらのリソースが無に帰してしまう。

 

「何か……何かないのか!?」

 

 ディアベルが初めて吐いた弱音。誰にも聞こえていなかったはずだが――

 

「ありますよ!!」

 

 ――どこかから、答えが返ってきた気がした。

 

「……あれは」

 

 カラードの真横を、見覚えのある金属の輪が通過した。

 

 後ろを振り返れば、気弱そうな印象がすっかりなくなったハチマキ姿の投剣使いが、ボス部屋の入口で構えている。

 

「遅くなりました!!」

 

 英雄は、遅れてやって来た。

 

 自分と仲間たちが、これから辿る運命も知らずに。

 

 

 

 

 

――おまけのおまけ:現在公開可能な情報――

 

・5/nに書かれていた「手近な負傷者」とは、実はユリエールのこと。走者はアルゴ以外をヒロインと認識していないため、必要に応じて育成・救助している「Mobその1」程度の扱いになっていて一々描写しないのである。同様に、描写されていないだけで画面外で救助されたり庇われたりしたキャラクターも相当数存在する。

 

・第二層攻略時点で、MTD所属の攻略組は全員が軽金属装備で統一しており、装備品の充実度はレジェンド・ブレイブスに次ぐ。




 ついに三分割になったけど、5/n終わった後は解像度落としてサクサク進行にするから許してください何でもしますから!

1/26追記:ボスの名前が攻撃力から防御力を引く感じになってたので修正したゾ(1敗)。
22:05追記:次回、更新済み。

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