ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR) 作:TE勢残党
遅れてすみませんでした。
――ネズハが参戦すると、ボス戦の戦況はいきなり改善した。
「ブレスのモーション入った!」
「任せてください!!」
2層真のボス、アステリオスの弱点は頭部。それをクエストの特殊攻略報酬で学んだネズハ……「
「ブギッ!? モ゛ォオオオオオオオ!!」
高々投擲武器一つ、ダメージ自体は大したものではない。しかし、頭に直撃するたびにボスが怯み、行動がキャンセルされるのだ。
「なるほど、これ前提の難易度だったんすね……」
「自然と縛りプレイになってた訳か!」
疲れを滲ませた声で吐き捨てるように言うジマと、愕然とした顔でそれに答えるキリト。彼らのような筋金入りのゲーマーには、すぐに得心が行った。
条件次第で弱体化するボスは、それを満たさずに戦うと適正レベルでも全滅しかねない強さだと相場が決まっている。
「縛っ……! いきなり何言ってるの!?」
「ああいや、これはゲーム用語でだな……!」
そこから起きた不都合と言えば、未だ慣れない
第二層のフロアボスは、それまでの苦戦が嘘だったかのようにあっけなく倒された。
ボス部屋に入ってから4時間57分。LAは、またしてもキリトだった。
◇◇◇
1層のボスが倒された時、ボス部屋は即席の宴会場と化すほどの熱気に包まれていた。
そして今。攻略組はまさに真逆の空気の中にある。疲れ切ってへたり込む者、仲間の死を悲しむ者。あまりにも静かで、重い。
「何人やられた」
大の字になって息を整えていた――実際には気疲れしかしていない筈だが――キリトが、近くでメッセージを送っているカラードに問いかける。
「……6人だ。A隊2人、C隊3人、後はG隊からも1人。後追い組の奴だ」
「G……エギルのところか」
メッセージ送信を中断してコンソールを弄るカラードだが、数秒で確認を済ませたらしく報告が飛んでくる。
そこに自分の知る「アニキ」の隊が含まれていると知って、キリトは片手で顔を覆い、「クソ」と小声で毒づく。
「ねぇ、キリト君。こんなペースで私たち、本当にクリアできるの……?」
近くで体育座りしているアスナが、淀んだ目でつぶやいた。1層のボス戦以来、心に封じ込めていた弱音だった。
答えられない。今までは大丈夫だと思っていたが、それは根拠のない自信だった。実際に死者が出た後では、あまりにも薄っぺらすぎる。
キリトは、「大丈夫だ」と言ってやれない己の無力さを呪った。
(ネズハが居なかったらどうなってたか……あれ、そう言えば、あいつは――)
人心地がついて順次、周りの心配が出来るようになってきたキリトは、ふとネズハが見当たらないことが気になった。
「お前だろ!! 俺らの武器を盗みやがったのは!?」
どこに、と思うより先に、耳障りな怒号が響き渡る。
キリトが振り返ると、ネズハが数人に取り囲まれているところだった。他の攻略組の面々も、少しざわついたが止めようとする者はいない。半分はどこか期待しているようで、もう半分は、ネズハに哀れむような視線を向けるだけ。
他の攻略組およそ40人は、目を向けながら何もしようとはしない。
「俺達から盗んだ剣で!! レア武器仕入れてボス戦でヒーロー気取りかよ!?」
「お、おい! よせって」
G隊の一人が、尋常ならざる剣幕でネズハに詰め寄る。エギルが何とか止めようとするが、聞く耳持たずといった風だ。
他にも何人かが集まってきている。皆、強化詐欺の被害を受けたか、間接的に何かしらの迷惑を被った者達だ。
「自分が何したか分かってんのか、この屑野郎!!」
「よくも出て来やがったな!! 恥ってモンがねぇのか!?」
一番内側、ネズハのすぐ近くを取り囲んでいる者達は、一様に装備の質が低い。
ネズハ
「……なぁ、俺らはさ、
リーダー格、あるいは最も怒っていると思われるプレイヤーが一人歩み出て、滔々と語り出す。本当は被害者は(アスナを除くと)7人いるのだが、エギルは彼の調査では名乗り出なかったようだ。
平坦な口調に思える。あるいは、限界を超えると逆に平静になる質なのか。
「ここにはその面子が4人しかいねぇんだ。なんでか分かるかよ?」
「い、いえ……まさか」
「わざとらしいリアクションしてんじゃねぇぞ!!」
事ここに至ってピンときていないネズハを見て、男はついに口調を荒げた。
「死んだんだよ!! ボス戦で!! テメェがノコノコと入ってくるずっと前に!!」
よろけながら下がろうとするネズハの胸倉を引っ掴み、男は怒りと悲しみが混じった感情を爆発させる。
「お前自分がやったこと分かってんのかよ!? 俺たちみんなから、お前、お前がどんだけのモンを奪ったのか……!」
踏み出そうとしていたレジェンド・ブレイブスの一団が、明確に
泣きながら怒号を発する男を、止められる者は居なかった。
「――お前は、ヒーローなんかじゃねえ。お前みたいなヤツがヒーロー面するなんざ、俺は許さねえ」
男が、何やらコンソールを弄る動作をする。他人からは何を操作したか見えないようにできているが、キリト達には分かった。
男がパーティーを離脱した、という旨のシステムメッセージが出たからだ。
「……ダメだ!!」
ボス戦の興奮からか頭の冴えが残っていたキリトにも、それだけで彼が何をしようとしているのか推し量ることはできなかった。
それでも、これは止めなければ取り返しがつかなくなる気がする。そんな予感に基づいて、キリトは叫んだ。
しかし、男は止まらない。距離がありすぎる。
「お前は、人殺しだ」
男はネズハの右手、まだチャクラムを装備したままの手を取って、
「な、何を――!」
男が手を放すと、ネズハは慌ててチャクラムを
「犯罪者は、犯罪者らしい
恨みの籠った目を向け、ネズハにそう宣言した瞬間。ちょうど、ネズハのカーソルがオレンジ色に変わった。
生き残ったおよそ40人に、どよめきが広がる。
「へ、へへ、いいザマだ……!」
男は、悪事をやり遂げた時の不思議な達成感と背徳感に高揚している。
「そのまま、犯罪者としてバカにされながら生きて行け!!」
そんな捨て台詞を残して、男は去って行こうとする。少なくとも、彼はある程度満足したようだ。
(よくやってくれた!!)
ディアベル達リーダー格は、この騒ぎの一応の落としどころを作った男に感謝を表明する。
「皆聞いてくれ! 彼に言いたいことがある人は多いと思う!! けれど見ての通り、彼はひとまずの報いを受けたんだ!」
ここぞとばかりに横入りして、得意の演説で彼を庇う。
アスナ・アルゴ両名の事前の根回しにより、この後ブレイブスが共犯として名乗り出て、装備品の競売で損害の補填を行うように
キバオウ・リンド・エギルを始めとする各パーティーリーダーも同意の上だ。
「これが十分とは言わない! けれどボス戦での彼の活躍と合わせて、後の裁定はリーダーのオレに――」
だが、その青写真が成就することはなかった。
「そんなことで許されるわけねぇだろ!?」
被害者たちは、まだ到底納得できる状況にない。リーダーのディアベルが言うなら、いったんこの場は追求を辞めてやってもいいかなと思っている程度だ。
そんな心理を突くかのように、今度はポンチョ姿の男性プレイヤーが群衆の中から叫ぶ。
「許せる」ではなく、「許される」。この場の人間は知らないだろうが、彼は
「謝って、カーソルの色変えてしまいだぁ!? 死んだ人間も! 失くした装備も!! 何一つ帰ってこねぇんだぞ!?」
急に大声を出して疲れたのか、ポンチョの男は肩で息をして呼吸を整える。その間に、群衆の注目はポンチョの男の方へ。
十分に注目を集めてから、ディアベル達に口を挟まれる前に。
今度は静かな、しかしよく通る声で一言だけ。
「……
――空気が変わった。
恨みや怒りの視線が、明確な殺意に変わったのだ。タガが外れた、と言い換えてもいい。
「さっきの奴も言ってたろ、そいつは人殺しなんだぞ?」
「人殺し」の部分を強調して、ポンチョの男が責めるように言う。
「……命で償えよ、詐欺師野郎」
今度は、ポンチョの男の台詞ではなかった。どこからか、攻略組の
「そうだ」
「罪に問われないって、そりゃ正当ってことじゃないのか?」
「なんでもいいよ、死んで当然だあんな奴」
「そうだ、殺すしかない」
瞬く間に、殺意に飲み込まれて行く。
(いけない……! このままじゃ、本当に執行されてしまう!)
(PKの前例なんて作ったら……攻略組が、SAOが殺し合いのゲームになって……!!)
観点は違うが、アスナもキリトも、ネズハが処刑されるべきとは考えていない。
止めに動こうとする二人を手で制したのは、他ならぬカラードだった。
「カラードさん! なんで」
「もう遅い」
短く、吐き捨てるように言うカラード。確かに彼らはちょうどネズハと対角線上、ボス部屋の端にいる。だがここで言う遅いとは、そういう話ではない。
「あの中に無理矢理入ってみろ、無事では済まないぞ」
「それでも!!」
「やめろ」
短く、怒号でもなく、しかしあまりにも気迫のこもった声。
らしくもない、とカラードの方を見た二人は、彼のもう片方の手に震えるほど力が入っているのを見た。
「やめろ。"殺し"が、"殺し合い"になりかねない」
「どういう――」
「いや、カラードのいう通りだ」
食ってかかるアスナを青ざめた顔のキリトが止める。
「キリト君!? どうして止めるの!?」
「今ネズハを庇ったら、俺達はあいつらから見て『敵』になるんだよ!」
敵の敵が味方とは限らないが、
「もう彼らは止まらない。今、これ以上犠牲を増やす訳には行かない。頼む」
能面のような表情で懇願するカラードの見る先で、ついにプレイヤーの一人が剣を振り上げた。
「……俺達は、失敗したんだ。後は、見ていることしかできない」
キリトが絞り出すように言う。
「殺せ!!」
一人が切りかかったことで、リンチに加わる人数が堰を切ったように増え始めた。剣や槍や斧やメイスが、人にぶつかる音がする。
「そんな、こんなのってないよ……!」
「お、おいアスナ!」
目の前に広がるあまりにも惨い光景に、アスナは首を振りながらへたり込む。
「――僕は大丈夫です。あんな事を、したんですから」
そんな声がした、気がする。あるいは、罪の意識から逃れたいがために、唇の動きに合わせて都合のいい言葉を捏造したのか。
ともかくアスナは、攻略組の一人に持ち上げられたネズハと、目が合った。
「――ッ!!」
何かが切れ、反射的に駆けだそうとするアスナだが、一歩目を踏み出す直前に足のバランスを失い、その場に倒れ込む。カラードが咄嗟に足払いをかけたのだ。
「ユウママ」
「ごめんね、アスナちゃん!!」
ハラスメントコード発動を防ぐため、同性のユウママがアスナに覆いかぶさって口を塞ぐ。
「でも、カラードさん……こんなの、あんまりじゃないっすか」
「恨んでくれていい。こうするしか、思い付かなかった」
アスナは、辛うじて自由な右手を精一杯ネズハの方に伸ばす。
泣きながら何かを叫ぼうとする彼女の前で、ついにネズハのHPはゼロになった。
他のMob同様、ネズハもまた、ポリゴン片となって散らばり、その場から跡形もなく消え去る。
「人殺しか。……それは、俺の方だろう」
自嘲ぎみにそうこぼしたカラードの表情は、キリト達からは伺い知れなかった。
あるいは、覚悟して来たのだろう。
ネズハは最期まで、声一つ上げなかった。
ただ、死ぬ直前。流石に恐怖に駆られたのだろう。一度だけ縋るようにオルランドの方を見た。
オルランドは悩んだ。出て行かなければ、ネズハは死ぬ。だが出て行けば、あの暴徒たちに殺されるだろう。
自分が死ぬのはいい。こうなった以上、リーダーとして責任を取らねばならない。
だが、同じパーティーの四人は。彼らまで、自分の我儘で殺されるようなことがあっていいのか。
――図らずも「トロッコ問題」に陥ったオルランドは、
――追記:現在公開可能な情報――
・この場にいるポンチョの男は「彼」本人ではなく、そのシンパ。
・2層のボス戦までにユリエールを戦力に加えたのは、アスナの暴走を力尽くで止める必要に駆られた時、カラードではハラスメントコードを利用して抜け出される恐れがあるためでもある。今回はランダムキャラに女性がいたため、結果的には必要なかったが。
Q.どうしてアルゴじゃなくてアスナが曇ったんですか?(現場猫)
A.アルゴネキはまだこの惨状を知らないからです。6/nのおま○けまで待ってください(土下座)