ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR)   作:TE勢残党

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 曇らせ三段撃ちの①だけで2000字近く食ったので初投稿です。
 アルゴネキの口調難しスギィ!!


6/n おま○け(前半)

 第二層迷宮区、ボス部屋最寄りの安全地帯。

 

 アルゴは、そわそわと落ち着かない様子で吉報を待っていた。

 

 本当なら当初の根回しの通り、ボスが倒された頃を見計らってボス部屋に忍び込み、なし崩しでブレイブスの装備オークションを主催する予定だったのだが――

 

『問題が発生した。片付き次第こちらから迎えに行くので、それまでは部屋に入ってこないで欲しい』

 

 恐らくボス戦中か、戦後すぐだったろうにわざわざフレンドメッセージを送ってきたカラードの言を、アルゴは特に疑うでもなく彼を待つことにしたのだった。

 

 そのまま、30分はそうしていただろうか。アルゴの体感では数時間も待たされた気がしたが、その卓越した《聞き耳》スキルが足音を検知した瞬間、そんなことはどうでもよくなった。

 

「――カーくん!」

 

 視界に見知った巨躯を認めると、それまでの浮かない顔が一転、笑顔で迎え入れた。パタパタと走り寄る様は、何処か小動物らしさを感じさせる。

 

「その、どうだっタ?」

 

 口をついて出た言葉は、奇しくも第一層の時と同じ。

 

「…………」

 

 だが反応は違う。カラードは何度か口を開いたり閉じたりした後、結局押し黙ってしまう。何と説明したものか、決めあぐねている様子だった。

 

 アルゴの脳内で燻っていた嫌な予感が、急激に強くなっていく。

 

「すまん」

「……ぇ?」

 

 最初に出て来た言葉は、謝罪だった。

 

(なんで謝るんだヨ? それじゃあ、まるで――)

 

 悪いことでも、あったのか。

 

 ボス戦に5時間もかかっているという事実から目を逸らすには、アルゴの頭脳は明晰すぎた。

 

「気を強く持って、聞いてくれ」

 

 それからカラードは、あの部屋であったことを話し出した。

 

 仕様が変更されていて、ボスがもう一体いたこと。

 

 そのボスとの戦いで、6人もの命が失われたこと。

 

 ネズハの乱入によって何とかボスは撃破出来たが、攻略組が疲弊しすぎ、その疲れとストレスがネズハへの非難を加速させ――

 

「処、刑……されたって、だって、そんなことしたラ」

「恐らく仕様の穴を突いたのだろう、ネズハのカーソルを人為的に犯罪者(オレンジ)にした者がいる。そこをやられた」

「違う!! なんで止めなかっ……た、ん……」

 

 思わず声を荒げて――すぐに思考が追い付いた。

 

 このお人好しが、私刑(そんなこと)を止めない訳がない。

 

(じゃあ、つまリ――っ!!)

 

 フルダイブ特有の過剰な感情表現機能により、極端に瞳孔が収縮し、目が見開かれる。顔から血の気が引いていく。

 

「なア。オレっちを、ボス部屋から遠ざけたのハ」

 

 震えて、かすれた声。聞きたくない、と叫び続ける感情に蓋をして、情報屋としての矜持で聞き返した。

 

「……お前なら、止めに入るだろう」

 

 それで十分に伝わった。アルゴの頭脳は反射的に、否応なしに考えを進めてしまう。

 

 カラードは、見殺しにしたんじゃない。()()()()()()()()()んだ。

 

 ネズハに恨みを持ったプレイヤー達が暴徒化したのだろう。

 

 地獄だった筈だ。――自分は、自分だけはその状況から守られた。

 

 アルゴの目が濁り、光が失われていく。

 

「キリトと、アスナもそうした。……それは、阻止しなければならなかった」

 

 申し訳なさそうに言うカラードは、少し震えているようにも見える。

 

 あれほど頼もしかった巨体が、今は随分小さく感じられた。

 

「――ッ!!」

 

 彼は、止めに入って収拾がつかなくなるリスクより、一人の犠牲を取ったのだろう。よりにもよって、彼にそんな判断をさせてしまった。

 

 だというのに、ついさっき自分は何と、声を――

 

「ごめん!! ごめんよ、オレっちのせいで――」

 

 後悔と、悲しみと、罪悪感と、不甲斐なさと、後は自分を理解されている嬉しさが少し。

 

 気づけば、カラードの胸に飛び込んでいた。

 

 そもそも、自分が情報を得るのが遅れていなければ。

 

 体術クエストの特殊攻略報酬として見ることが出来る壁画。そこには、確かに第三のボスの存在と、弱点である頭部のことが描かれていた。

 

 数時間かけてようやくクリア条件を割り出し――慌ててネズハを向かわせた。

 

「もっと早く、調べられてればっ!」

 

 縋りついて泣きじゃくるアルゴを、カラードは何も言わず抱きしめ返し、背中をポンポンと優しく叩く。

 

 カラードは糾弾するでも、慰めを言うでもなく、ただアルゴを受け止め続けた。

 

「なんで……なんでそんなに、平気そうにしてられるんだヨ!!」

 

 一番辛いのは、カラードだろうに。

 

 アルゴの慟哭に、カラードは答えなかった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 第三層が解放されて、数日。

 

 お通夜と化した街開きから続いていた沈んだムードもようやく晴れてきた頃、MTDが新たな政策を発表した。

 

 職人プレイヤー、またはその候補者の保護と、支援。勿論、受けるかどうかは職人側の任意とされる。

 

 聞けば第二層の攻略直後、カラードが掛けた緊急動議の中で提唱され、ネズハの末路を見ていた攻略組プレイヤー達の強力な後押しによって可決されたという。

 

 ――1日12時間以上、ひたすら槌を叩きつける時間に費やしてもいいという覚悟さえあれば、誰でも最優先で強化素材の供給が受けられる。そういう触れ込みであった。

 

 千人規模に膨れ上がった構成員の食費を賄うべく、MTDの戦闘要員がスパルタ式でレベリングさせられることは有名である。何も仕事をしていない最底辺の構成員は、1コルの乾き切った黒パンが毎日5個提供されるだけだということも。

 

 それでも入会者が絶えないのは、彼らが間違いなくSAO内最高効率でプレイヤーを強くしてくれるからだ。もちろん本人のやる気が続けば、ではあるが。

 

 MTDの構成員にとって、戦闘要員の頂点、即ち攻略組に参戦しているメンバー4名はまさしく「希望」である。

 

 MMO自体未経験だったのに、ものの二週間で攻略組に追いついてしまったユウママ。

 

 幹部の一人・カラード直々に才能を見出され、メキメキと実力を付けて行ったジマ98。

 

 書記に会計に戦闘にとマルチに活躍する「出来る女」の代名詞、ユリエール。

 

 そして何より、MTDそのものの発起人の一人であり、最前線のパーティーリーダーも務めるカラード。

 

 雲の上の人。少なくとも、配給された黒パンを齧る暮らしを続けていたリズベット達にはそう認識されていた。

 

「我々MTDは、君を必要としている」

 

 まさにその「雲の上の人」が、わざわざ訪ねてきた上、リズベットのことが必要だと言う。新手の詐欺か何かと言われた方が、まだしっくり来るくらいだった。

 

 だが、目の前にいる長身の男は確かにカラードと名乗ったし、街開きで見たこともある。見たところ190センチくらいあり、この背格好をそうそう見間違えるはずもない。

 

「え、あの、えっ……?」

「すまない。順を追って話そう」

 

 不躾なのは俺の悪い癖だ、と付け加えてから、カラードは訳を話し出す。

 

 依頼内容は、つまり例の職人支援プログラムの第一号になって、広告塔になれということ。

 

 リズベット自身、職人支援プログラムとでも言うべき新制度を受けるかどうかは迷っていた。

 

 もっと言うなら、恐らくもうひとしきり迷ってから受けに行くだろう、と自分でも何となく分かっていた。なのでこの話そのものは旨すぎるくらいだ。

 

「黒パンで食いつなぎながら、鍛冶の修行をしていると聞いている。君なら適任だと判断した」

 

 報酬も弾む、と付け加えるカラード。実際、提示された条件を見るに、真面目に槌を振るってさえいれば見たこともないような額を稼ぎ出せるだろう。

 

 それ故リズベットは、目の前の男が何故こんな話を持ってきたか気になった。

 

 嘘をついている感じはしない。今までの実績的に、騙してどうこうしようというのもないだろう。だとすれば尚更――

 

「……どうして、ここまでするんですか?」

 

 リズベットは、SAOという世界そのものに上手く溶け込めていなかった。

 

 所詮はゲーム、電子データという意識が拭えない。鍛冶修行だって、言ってしまえば何かしていないと恐怖で押しつぶされそうだったから打ち込んだというだけなのだ。

 

 目の前の男は、何か違う答えを持っている。だから頑張れるのだろうと思っていた。

 

「……何もせずにいるには、無駄死にする者が多すぎる」

 

 少し考えてから、照れくさそうに答えるカラード。

 

 きっと本心なのだろう。何となく、そんな気がした。

 

(――同じなんだ。あたしと)

 

 最初に思ったことはきっと同じだったのだろう。そして、やったことが違った。

 

 何もしないことを選び、それすら耐えられなくなって鍛冶に逃げたリズベットと、実際に人助けを始めてここまで来たカラード。

 

 その差が、彼と自分との差なのだと、リズベットはそう解釈した。

 

 漠然と「まあ、偉い人なんだろうな」という雑な尊敬が、今初めて心からのものに変わった。

 

「それで、どうだ。我々に協力してくれるか?」

「我々、我々って……カラードさんはどう思ってるんですか?」

 

 急かしてくるカラードに、ついぶすっとした声で返してしまうリズベット。なぜそこが引っかかったのか、自分でも分からなかったが。

 

「……候補はいくらか居たが、リズベットを選んだのは俺だ」

 

 ――この虚ろな世界に取り込まれて一か月、初めて「誰か」に必要とされた気がする。

 

 まさか、この口下手そうな偉い人が、自分の一番言って欲しいことを的確に抜いてくるとは思わなかった。

 

「ふ、ふぅ~ん? ちなみに、どういう理由で?」

 

 本人的には嬉しさを隠したつもりで、あくまで興味なさげにカラードに問いかける。

 

「基準に容姿が含まれたことを否定はしない。だが一番は……やる気というか、真摯さだ」

 

(それはそれで、言外に顔が好みって言われたみたいで恥ずかしいんだけど……ん?)

 

 ひとしきり恥ずかしさが落ち着いた後、本命だという「真摯さ」なる評価ポイントが気になった。

 

「あたし、そんなにマジメじゃないですよ?」

「真面目さではない。……すまないが、鍛冶をしている所を見せてもらった」

「いつの間に……」

 

 リズベットが気恥ずかしそうにしているのも構わず、カラードは話を続ける。

 

「随分心を込めて叩く、と思った。自然にやっているとすれば、それこそ才能だろう」

 

 真顔のまま、そんなことを言ってのけるカラード。

 

 逃避で始めた鍛冶だったが、まさかそんなに褒めてもらえるとは思わなかった。

 

 リズベットは余計に顔を赤くする。だが、満更でもないようでもあった。

 

「そ、それなら……あと一個だけ、条件付けてもいいですか?」

「ものによる。言ってみてくれ」

 

 変なところで律儀なカラードに苦笑しながら、リズベットは少しだけ勇気を出してみる。

 

「あたしのことは、リズって呼んでください」

 

 距離の近さと遠慮のなさが、自分の武器だろう。

 

「わかった。リズも敬語は不要だ。今からお前も幹部扱いで、同格だからな」

「そ、そう? えへへ、じゃあそうするね。……あ、でも女の子をお前とか言っちゃ嫌われるわよ?」

「そういうものか?」

「そういうもんなの!」

 

 余りにもあっさり受け入れられてしまい少々戸惑ったリズだが、すぐにいつもの元気さを取り戻す。

 

 敬語を外した二人は、意外なほどすぐに打ち解けた。

 

 頑として敬語を辞めようとしないユリエールと比べて、随分と融通の利くタイプのようだ。カラードからすると、その方が好ましかったらしい。

 

「……ああ、それと。これは鍛冶スキル持ち全員に聞いて回っているんだが」

「何?」

「近頃、最前線に高価なフルプレート一式を揃えたソロプレイヤーが出るらしい」

 

 是非勧誘したいんだが、とカラードが言い終えるより早く、リズベットの表情が面白いように変わっていく。どうやら顔に出るタイプのようだ。

 

 カラードはそれを少し滑稽に思いながら、彼女の口をどうやって割らせたものか考えを巡らせるのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

(…………元気そうで、良かったヨ)

 

 やりとりを影から見ていたアルゴが、そう独り言ちる。

 

 元々、カラードが精神的に参っていないか様子を見に来たところだったのだ。何となく顔を合わせづらくて隠蔽しながら付いて行くうちに、カラードが知らない女性プレイヤーと話し出したせいで余計に出て行けなっただけで。

 

 見る限り、カラードは平静を保っているようだ。

 

 なら、それでいい。いいはず、なのだ。

 

 自分の胸を刺すような痛みについては、気にしないことにした。




――おまけのおまけ:現在公開可能な情報――

・アルゴには知る由もないことだが、原作ではネズハと共に体術クエストに参加していたアスナの閃きによりクエストが特殊攻略され、ボスの弱点情報にたどり着いている。

 本作ではカラードがアスナの参加を止めたため、アルゴの情報獲得とネズハのクエストクリアが数時間遅れ、結果あの惨状に繋がった。


・実績「戦争請負人」
 本作の数ある実績のうち、取得が最も大変とされるものの一つ。

①内部データである「秩序-混沌軸」を最大(-100)まで混沌側に振れさせた上で、
②1000人規模(関係者総数ではなく、死者数)のPvPを発生させ、
③自分の殺害人数+殺害補助人数を100人以上にし、
④最終的な生存者数を500人未満にする

 ことで達成できる。

①秩序-混沌軸はその名の通り、プレイヤー達がどの程度秩序だった行動ができているかを示す。+に寄るほど現代に近い治安の良さが守られ、-に寄るほど無法・野生の世界に近いということ。

 一瞬でも-100を達成すれば条件クリアとなるが、これは出会う=殺し合い・奪い合いレベルの治安崩壊が起こっていることを意味する。

②PvPの定義は1対1以上の殺し合いの発生だが、本実績では「プレイヤーに殺されたプレイヤー1000名」を一度に達成しなければ条件クリアとはならないので、連続殺人ではなく大量殺人または戦争が必要になる。

③殺害補助には、原作では死なない筈のネームドプレイヤーが死亡した時に因果関係が認められた場合なども含まれる。そのため運次第ではあるものの、一人も直接手にかけないまま条件クリアすることも不可能ではない。

④500人を切った時点で条件クリアとなるため、この実績を取るだけならゲームクリアは不要。


・実績「誰がための物語」
 ネームドキャラ全員が死亡した状態でクリアすることで獲得できる実績。戦争請負人ほどではないが、主に死なせ忘れが頻発することなどからかなりの難易度を誇る。

 キリトやヒースクリフ等の有名どころに加え、「原作」で名前の出たほぼ全てのキャラクターが「ネームド」に含まれており、故意にネームドキャラを殺害して回らない限りまず達成不可能である。

 非ネームドキャラクターはゲームごとにランダムで作成される。時折キリト・アスナ級の才能の持ち主が生成されることもあり、それをいかにして見つけ出すかが本実績解除の鍵となる。


 因みに、当該ゲーム発売から1年が経過した2■■■年8月17日時点での実績取得率は、それぞれ約0.7%(戦争請負人)、約1.3%(誰が為の物語)であり、開発側の想定よりかなり少ない値となっている。


追記:お気に入り1000件突破、ありがとナス!!

1/29 6:30追々々記:「誰がための物語」取得条件を修正。
           誤解を招いてしまい大変申し訳ございませんでした。

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