ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR)   作:TE勢残党

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 クッソ短いので初投稿です。
 小説パートもっと流行れ


1/n おま○け

「実付き」のネペントが攻撃された時、キリトは一瞬何が起きたか分からなかった。

 

 考えてみれば、協力していたはずのコペルがわざと「実」を攻撃した理由は分かる。キリト自身、他人を出し抜くために他プレイヤーを置き去りにして森まで走ってきたのだから。これは、ことの大きさは違えど同じことだ。

 

 だから怒る気にはならなかった。植物系には効かないと知らず、隠蔽効果のついたマントで隠れようとしたコペルが自滅したのは、自分にも同じ未来が待っている気がして少しこたえたが。

 

ともかく目の前には大量のリトルネペント。HPは8割ほど残っているが、武器の耐久値はそれほど多くない。絶望的だ。

 

 それでも、やるしかない。

 

 覚悟を決めてネペントを捌き続けるキリトの、目の前の敵が急に両断された。

 

 その後ろから出て来たのは、両手剣を巧みに振り回す大男。自分たちとは別口のプレイヤーだ。

 

「手を貸すぞ」

 

 言葉少なにこちらを気遣う男は、近づいてきたネペントを最小限の動きで撃破してのける。相当なPSの持ち主だと、β時代から最前線を張ってきたキリトには理解できた。

 

「助かる」

 

 なんで来たとか、逃げろとか、言いたいことは山ほどあったが、キリトはそれを呑み込んだ。ここまで来てしまっては、目の前の敵を何とかしないと二人とも死ぬ。男もそれ以上何も言わず、大群に立ち向かう。

 

 即席コンビだったが、意外なほど息は合っていた。

 

 スイッチも何もない乱戦模様を巧みに駆け回り、一度に戦う数を最小限にしながらソードスキルを連打する。冷静さも何もあったものではない。ただ、スキルの仕様も敵の弱点も行動パターンも体にしみこんでいた。それは大男も同じようだ。恐らく彼もβテスターだろう。

 

 二人でがむしゃらに剣を振っていると、あれだけ大量にいたネペントが段々減っていき、数十分後には最後の一体まで狩り尽くすことに成功していた。ポーションは無くなり、HPゲージは黄色、予備の武器も破損寸前。ギリギリの勝利だった。見ればいつの間にかレベルが上がっている。

 

「乗り切ったな」

 

HP6割ほどを保っていた大男はそれだけ言ってポーションを飲むと、そそくさと去ろうとする。

 

「ちょっと待った。助けてもらったんだから礼くらい言わせてくれ」 

「別にいい。胚珠も手に入ったし、レベリングにもなった」

 

 どうやら、この大男もあまり人付き合いが得意ではないらしい。一瞬親近感を覚えたが、発言の内容が頭に入っていくうちに、キリトの顔は驚きに染まっていく。

 

 レベリング。今の死闘を、目の前の男はこともなげにそう切って捨てた。

 

 死ぬのが怖くないのか、という言葉が口をついて出る前に、男は言葉を続けた。

 

「それに、俺達みたいなのはなるべくつるむべきじゃない」

 

 俺達みたいなの。それは――

 

「元βは、ってことか?」 

「……この状況でのスタートダッシュは大きな意味がある。リソースは有限だ、後から来る奴にとってはたまったもんじゃないだろう」

 

 男は具体的な答えを言わなかったが、続けられた言葉は元βテスターと一般プレイヤーによるリソースの奪い合いを表している。キリトはそう解釈した。

 

「今ここに来られた俺達は、強くなれるがその分恨まれる。お前も気を付けろ」

 

 敵はMobだけじゃないぞ。

 

 男はそれだけ言い残し、今度こそ夜の森の中へ消えていった。走って追いかければ追いつくことは可能だろうが、連戦の疲労と男が残した言葉で、とてもそんな気力は湧かなかった。

 

「敵は、Mobだけじゃない……」

 

 ついさっき「実例」に出会って殺されかけたばかりだ。否定する気にはなれなかった。

 

 今更ながら、キリトは自分が奪い合っているものの「重さ」を少しだけ理解した。一方で、これだけ冷たいことを言うあの男は何故自分を助けて、助言までしてくれたのか。それが気になった。

 

(あいつは一体……何者だったんだ?)

 

 異常なまでの冷静さと割り切りのよさ。理由を語らない人助け。結局彼は何がしたかったのだろうか。

 

(……次会ったら聞き出してやろう)

 

 色々なことがありすぎて疲れてしまった。キリトはひとまず思考を棚上げして、ホルンカの村に向けて歩き出すことにした。


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