ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR)   作:TE勢残党

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 ブッ○オフに頼んでたガールズ・オプスと四コマが届いたので初投稿です。
 曇った女の子の心情描写するの難しい……難しくない?(遅刻の言い訳)


7/n おま○け(後半)

 リンドは焦っていた。

 

 戦闘準備のため、ストレージを整理する手は止めていない。

 

 周りにいる自分を慕ってくれる者たちも、皆一様に重々しい態度でアイテムの準備を進めている。

 

 今朝……いや、ほとんど深夜と呼んでいい位の早い時間。彼らリンド派が溜まり場にしている建物に、血相を変えたディアベルが乗り込んできた。

 

 叩き起こされてイライラしながら他の仲間と共に集められたリンドは、ディアベルの第一声で「すわ戦争か」と身構え、続く一言で事態が()()()()()であると理解した。

 

 ――MTDが人員を募り、自分たちだけでボス攻略をしようとしている。

 

 ――それは、キバオウたちが抜け駆けしようとしている事に対する対抗……率直に言って、報復措置らしい。

 

 ディアベルの憔悴ぶりから見て裏は取れていると即断したリンドは、なまじ聡かったために最悪の未来を見た。

 

 バカをやったのはキバオウだが、M()T()D()()()()()()()()()()()()()()()()()時点で同罪扱いされても反論できない。

 

 攻略組を2……いや、3つに割っての完全衝突。あるいは、MTDによるディアベル隊そのものの解体・再編。

 

 このままでは、そうなりかねない。

 

(ひょっとしてアレが……!?)

 

 何よりリンドはたった一人、キバオウ派の妙な動きとやらの情報を受け取っていた。

 

 5層のフロアボスが攻略されるかされないか、という時だ。追放されて以降行方不明のはずのカラードから、インスタントメッセージが届いた。

 

「キバオウ派に不穏な動きあり。5層ボスドロップ狙いと推測。どうか止めて欲しい」

 

 それをリンドは、黙殺していた。

 

 元より競合ギルドの大幹部。特に友人という訳でもないし、しかもついこの間追放された身。当然、嫌がらせや離間工作という線が濃厚と判断した。とてもではないが、まともに取り合う方がおかしい。リンドはそう判断した。

 

 ――今にして思えば、恐らくカラードは、同じ文面をMTD含む方々に送信していたに違いない。

 

 今頃圏外にいるはずのカラードがどうやってキバオウ派の動きを知ったのか不明だが、元よりグリッチによる不正な強さをやっかまれて叩き出されるような男である。自分の知らない情報源くらいあるのだろう。惜しいものだ、あれであともう少し世渡りが上手かったら。

 

 そんな言葉で回想を締めくくったリンドは、再び最悪な空気に触れてうんざりする。慌ただしいようで淀んでもいて、怒気や恨みのような負の感情を孕んでもいる。

 

 危険だ。

 

(キバオウ……ッ!!)

 

 何てことをしてくれたんだと、リンドは恨み言を吐かずにはいられなかった。

 

 レアアイテム――フラッグの超絶的な効果についての情報は、断片的にだがリンドの元へも届いている。それを加味しても、キバオウの行動はやりすぎだ。

 

 「優れた個人に可能な限りリソースを集中させ、それを束ねて攻略組と呼ぶ」というエリート主義的な思想を持つリンドとその一派にとって、正当性の有無は問題にならない。

 

 例の旗だって、そのままボスを攻略していれば一番優秀だろうディアベルの元に行くはずだったのだ。リンドはそれをよしとしたから、特に何か行動を起こす気はなかった。

 

(そいつは、どうしてもやらなきゃいけないことなのか!?)

 

 「結束と連帯性を重視し、あくまで均等にリソースを分配して『全員』での攻略を目指す」というキバオウのやり方も、否定するつもりまではなかったし、()()()()()()()()もいた。

 

 だから今まで、反目しあってはいても、致命的な衝突は起こっていなかったのだろう。実際にはそんなことはないのだが、少なくともリンドはそう思っていた。

 

 だが元より、相容れない思想ではあった。どこかで分裂することにはなっていただろう。まさか、このような形になるとは思わなかったが。

 

(今、俺がすべきなのは……!)

 

 「自分に今できることを考え続けろ」。確か、碌に休みもしないで2層の戦後処理をしていたディアベルに言われたんだったか。

 

 今朝。ディアベルに「お前はどうする」と問われた時、リンドは食い気味に「けじめを付けます」と答えた。

 

 「俺らが今しなきゃいけないのは、まず()()()の被害でキバオウたちを止めて、そいつらと一緒にMTDに土下座しに行くことです」というリンドの言葉に、嘘はない。

 

 リンドは既に、いざとなれば身内を()()覚悟を決めていた。

 

 それは、なんだかんだ自分たちが優位だという驕りでもある。

 

 彼らは、()()()()覚悟まではしていない。

 

 リンドは、自分がカラードの言に従えばことが大きくならなかったことを自省せず、同格のキバオウ派を無意識に下に見ている。

 

 能力は高いが、人格は良くも悪くも「普通の人」でしかない。ある意味リンドは、キバオウに似ていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「……にへへ」

 

 アルゴの独特な鼻にかかったような声が、今日は特に甘えて聞こえる。

 

 彼女が寄りかかっているのは、ワイシャツのような私服姿のカラードだ。こういう場でもそれなりにしっかりした服を着ているあたりが彼らしさ、ということなのか。

 

 日当たりのいい縁側のような場所に、二人して座っている。

 

 ふとアルゴが、自分の頭をぐりぐりと押し付けてみる。

 

「どうした」

「別ニ~」

 

 アルゴはあくまで幸せそうに、穏やかに座るカラードに寄り添っていた。

 

 カラードはアルゴの方に向けていた視線を前に戻すと、それ以上何も言わず、ただゆったりとした時間が過ぎて――

 

 

 ――強制起床アラームの不快な音と刺激により、アルゴの意識はSAOに引き戻された。

 

「……何で、起きちまったんだロ」

 

 悪態をつきながら、アルゴはのそのそとベッドを出る。本人に自覚はないが、酷い顔だ。これがSAOでなかったら、目の下には隈が出来ていたに違いない。

 

 起き抜けからテンションはどん底だったが、それでもやらなければならないことはある。

 

 アルゴは生気のない様子で準備を整えると、5層最前線……迷宮区へと向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 5層のボス、≪フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス≫は、迷宮区タワー最上階の部屋そのものと一体化した魔法のゴーレムである。

 

 β時代から名前も姿も全く異なり、壁や天井から手足を生やす攻撃を主体として変幻自在に戦う。それでいてゴーレムらしく一撃の威力は高いのだから、初見ではかなり苦戦を強いられることだろう。

 

 だが暫く見ていれば、その攻撃が複雑なパターンに基づいたものだと分かる。少なくとも今のアルゴは、何度かの被弾を経てそれを突き止めていた。

 

 アルゴのHPは、さきほど飲んだポーションの効果によりほぼ全快状態だ。だが、そもそも彼女の本業は情報屋であり、攻略組ではない。最前線に帯同できるだけのレベルは確保しているとは言え、単騎でボスに挑むなど、とても正気の沙汰には見えない。

 

 ところが質の悪いことに、アルゴは()()正気だった。自暴自棄、というのが近いかもしれない。

 

 あの日、一瞬にして拠り所を失ったアルゴは、私情に満ちた記事を発行してひとしきり自己嫌悪に陥ったあと、一晩寝て頭を落ち着かせ(あまり効果がなかったが)、それでもSAOの攻略を諦めることができなかった。

 

 感情ではもうとっくに攻略組を見限っている。今すぐにでも、全ての仕事を放りだしてカラードを探しに行きたい。だが今まで築き上げてきた情報屋のキャリアが、理性となってそれを邪魔する。アルゴはずっと葛藤の中にあった。

 

 ――自分がボスの攻撃パターンを調べて帰れば、それはボス攻略にとって重要な情報となる。

 

 幸いと言うべきか、敏捷特化のアルゴであれば、よほどのことがない限りボスを見てから生きて帰るくらいは無理なく可能である。

 

 もし失敗したら、その時は死ぬだけだ。

 

 ならば、今のアルゴにやらない理由はなかった。

 

 そんな時だ。MTDとキバオウ派が、それぞれ独自にボス攻略部隊を編制しているというタレコミがあった。言い淀むユリエール本人から半ば無理矢理詳しい情報を聞き出したアルゴは、再び驚愕することとなった。

 

 MTDに情報を持ち込んだのは、他ならぬカラードだというのだ。

 

 カラードは今も動いている。それがアルゴの背を押した。

 

 2層でも3層でも、アルゴは失敗したと自己評価している。相変わらず、自分のメッセージには返信どころか、既読すら付いていない。

 

 もはや自分に共闘する価値などないのかもしれないが、それでも、同じ過ちは繰り返したくない。情報屋として、最後に残った意地のようなものだ。

 

 ボスの偵察は自分に任せてほしい。アルゴがそう言った時、ユリエールはひどく悲しそうな顔をしたが、しかし止めはしなかった。

 

 カラードを庇いきれなかった自分に、アルゴを止める資格はない。そんな旨の言葉を背負って、アルゴは今日一人でここに居る。

 

 ――ボス部屋の、アルゴがちょうど着地した地点に、攻撃予測地点を示す円のエフェクトが重なった。

 

「やバ――」

 

 言い終える前に、天井から飛び出した巨腕が床に激突し、アルゴの左腕を叩き潰した。

 

「いぎっ、~~ッ!!」

 

 押しつぶしたような悲鳴が上がる。咄嗟に取った回避行動のお陰で片腕で済んだが、敏捷極振りで耐久性のたの字もないアルゴのHPは、元より同レベル帯で見れば吹けば飛ぶような数値である。

 

 一撃で3割以上HPを削られたアルゴは、出血状態と欠損状態による継続ダメージも無視して逃げの態勢に入った。

 

 痛くはない。が、視覚的・精神的なダメージは別だ。アルゴは恐怖に顔をゆがめて、かなり大げさに距離を取る。肘から先が無くなった左腕を見て、強烈な不安感が襲ってきた。

 

 頭では唯のバッドステータスだと分かっているし、POTを飲んで数分間安静にしていれば元通りに治るのも、カラードからの情報提供で知っている。

 

 舐めていた。「もし死んだら、その時は全部投げ出して向こうでちょっと休もう」くらいに思って突撃してきた己の浅慮を恥じる。痛くはないかもしれないが、恐怖は現実同様だ。

 

 攻略組は、いつも「こんなの」と戦っているのか。目の前で何人も殺されながら、それでも。

 

 彼らが精神的な余裕を失うのも、少し分かる気がした。こんなことを常日頃からやっていたら、おかしくもなるだろう。それはそれとしてカラードのことは許さないが、少し同情してやってもいい気はした。

 

 とにかく、一旦帰ろう、と思った。もう十分に行動パターンは見られたし、ボス部屋そのものにも、これと言ったギミックは見られないからだ。

 

 出口、つまり自分の入ってきた階段を探して視線を外したのが、いけなかった。

 

「――しまっ」

 

 「タ」が出る前に、地面から飛び出したフスクスの足に弾き飛ばされる。これでHPは危険域。

 

 死ぬ。

 

 これまで十分すぎるほどに安全策を講じてきたアルゴにとって、初めての明確な死の恐怖。

 

「う、ぐっ……」

 

 呻きながら立ち上がって、どうやって逃げるか必死で頭を回す。死んでもいいやなどと言う思いは、いつの間にかすっかり吹き飛んでいた。

 

(死にたく……なイ!)

 

 既に、アルゴの真下には攻撃予測の円がある。半泣きで、それでも必死に逃げようとしているうちに、けたたましい金属音が響き渡る。

 

「ひっ!!」

 

 思わず悲鳴が零れるが、特に何も起こらない。何事かと考えていると、真下にあったはずの円が消えているのに気付いた。

 

 アルゴの頭脳はすぐに状況を理解した。

 

 ボスが攻撃を中断するとしたら、考えられるのは何か。

 

 ボスのHPが減り、攻撃パターンが変化した時にリセットされた。これはない。ボスのHPゲージはほぼ満タンのままだ。

 

 だとしたら――ボスのターゲットが、他人に移った。

 

 再び大きな音がした。今度は耳を澄ましていたので、なんとなくその正体が分かる。

 

 岩山が崩れるような轟音と、重たい金属音がぶつかっている。()()()()()()()が、ボスと戦っているのだ。

 

 アルゴは信じられずに顔を上げ、音のした方を見やり――

 

 ――いるはずのない巨躯を見た。




 ちょっと大がかりなリスカを試みるアルゴネキ。どうして(現場猫)。
 21:01追記:一部構成を変更。何度も変更して申し訳ない。
 2/3 19:54追記:また暫く隔日更新になりそうだからちょっと待ってて♡
         すいません許してください何でもしますから!!

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