ソードアート・オンライン ラフコフ完全勝利チャートRTA 2年8ヶ月10日11時間45分14秒(WR) 作:TE勢残党
わざわざ書き残す訳だ(納得)。
MTDの設置した仮設対策本部。その会議室では、ユリエールを筆頭とする幹部たちが現在も議論を続けていた。
議題は、このまま5層ボスに挑むべきか、一度期を改めるべきか。
「……アルゴさんは、未だ戻りませんか」
「えっと、はい。メッセージも通じてないって、さっき連絡が」
難しい顔で考え込むユリエールに慣れない敬語で連絡しているのは、新人幹部のリズベットだ。こういう場では役に立たないからと、自ら連絡係に各種雑用にと働いているのである。
アルゴが5層迷宮区へと赴いて、半日以上が経過している。
キバオウ派の不穏な動きに対しいち早く対策部隊を編制したMTDだったが、アルゴを極秘裏に偵察へ送って約12時間、今も議論が紛糾していた。
集めた戦力は28人。4層では51人でボス戦に臨んだので、随分心もとない数字と言えた。この短時間でボス攻略が視野に入るだけの人数を集めただけでも驚異的ではあるが、文字通り命懸けである以上、挑むべきか否かは慎重な判断が求められた。
そして、彼らの足を鈍らせる原因がもう二つ。今になっても戻らないアルゴと、ディアベルおよびリンドからの直接の連絡。
この日、アルゴが極秘偵察に向かった2時間ほど後。つまり今から10時間ほど前に、遅まきながらキバオウ達の動きを察知したらしいディアベルとリンドが、大慌てなのを隠そうともせずMTD本部を訪れた。
たまたま居合わせたので応対したリズベットは、幽霊か何かかと思うほど憔悴しきったディアベルに大層驚いた。カラード追放の一件以来攻略組、特にディアベル達には悪印象を持っていたのに、それを忘れて思わず心配になったほどだ。
ともかくシンカーとユリエールに引き合わされたディアベルとリンドは、現状と分かっている限りの情報を開示したのち、なんとその場で土下座してのけた。
ディアベル曰く、こうなったのは自分の監督不行き届きである。リンド曰く、キバオウを連れてもう一度謝りに来るから、身内の不始末は自前で片を付けさせてほしい。
生来のお人好しが災いしてそれ以上の追求が出来なくなったシンカーはともかく、ユリエールは汚物でも見るかのような凍えた視線を突き刺し、ただ一言「勝手にしてください」。
居合わせただけのリズベットからすれば、思い出すだけでも胃痛と吐き気を錯覚するほどの、静かでありながら凄まじい負荷を伴う光景であった。実際には「気がする」だけで、SAOにストレス性の不快感を再現する機能はないが。
(……ひえっ、思い出しちゃった)
うっかり当時の会議室を思い出してしまったリズベットがぶるり、と体を震わせ、それ以上の精神ダメージから逃れるべく強引に回想を打ち切る。それとなく周りの様子を確認するが、話が進展した様子はない。3度の休憩を挟んでなお、議論は平行線だ。
それとなく議場を抜け出し、お茶の準備を始める。既に装備のメンテナンスは完了済み。ボス戦に参加しない以上、他にやれることはそれくらいだ。
(ユリエールさんをあんなに怒らせて、ディアベルさん……自分とこのリーダーにあんな顔させて)
思うのは、騒動の元凶となったキバオウ一派のこと。SAOでは目の隈もやつれた様子も表現されないのに、人はあんなにも死にそうな顔ができるのか。
(ほんっと、何やってんのよあいつら)
リズベットがMTDの幹部になって数週間。丁度その時期から攻略組は頻繁に内紛を繰り返し、その評判を下げ続けている。リズベットをはじめとする一般プレイヤーは、攻略ほっぽり出して権力争いを続けるしょうもない連中と認識していた。
しかしカラードを失って荒れているユリエールの怒気を受けて小さくなるばかりの彼らは、とてもそんな邪悪な存在には見えなかった。
(けど、だったらどうして……)
カラードを追放したのか。
彼は、あんなにも人助けのために奔走していたじゃないか。リズベット自身、カラードに見いだされてこの地位にいる。
(……必要だって、言ってくれたのに。自分がいなくなってどうすんのよ)
彼らがどれだけ誠意を見せようと、リズベットには許せそうになかった。
(あんたがいなきゃ、始まらないじゃない。カラード)
ため口と愛称呼びというアドバンテージに、胡坐をかいたつもりはない。だが、できたことはそれだけだ。アルゴやユリエールが
思考の海に沈む。ちょうどその頃、会議室がにわかに騒がしくなったことに、リズベットは気づかなかった。
それから1分もしないうちに、リズベットのいる控室のドアが蹴破る勢いで開かれた。
「あぁ、
「うわぁ! ごめんなさい、すぐ準備を」
部屋に入ったユリエールは息を切らしているが、そんなことはどうでもいいと言わんばかりに、声色に嬉しさが滲んでいる。
興奮のあまり敬語が外れているユリエールを初めて見たリズベットは、一瞬ものすごく怒っているのかと肝を潰した。しかし顔を見てみると喜色満面なので、咄嗟に出た謝罪がフェードアウトし、ひとまず続く言葉を待ってみることにした。
「アルゴさんが、カラードさんを連れて帰ってきました!!」
すぐ会議室に来てください。ユリエールがそう言い終えるより先に、体が動いていた。
(ほんっと、罪なやつ!)
散々人の心をかき乱しておいて、いきなり消えて、ひょっこり帰ってきた。
腹いせになにか、大胆なことをねだってやろう。リズベットは物騒なことを考えながら、しかし弾む足取りで会議室に向かった。
◇◇◇
キバオウとリンドの話し合いは、1時間とかからずに怒鳴り合いになり、2時間後には殴り合いになった。
(なぜ……どうして、こんなことになるんだ)
ディアベルは、泣きそうな表情でことの次第を見ていた。トップの自分が纏め切れなかった以上、同格の幹部であるリンドとキバオウ間で決着をつけなければならないと考えたためだ。
その判断は、裏目に出た。
上から目線をやめないリンド。頑として譲らないキバオウ。部下たちは見る間にヒートアップし、既に乱闘模様となっている。
(オレたちは……攻略のために、協力するんじゃなかったのか)
そのために、強力なリーダーのもとに結束する必要があると思ったから、ディアベルがリーダーとして引っ張ってきた。
その結果が、これか。
ディアベルが絶望感を覚えている最中、乱闘の中に、悲鳴が生まれた。
直後、ポリゴン片と爆発音。
死人が出た。それを確認した両勢力は、本格的に殺し合いになだれ込もうと――
「いい加減にしろ!!」
しかしディアベルの絶叫は、両勢力を止めるだけの声量と威圧感を有していた。
「お前ら何しに来たんだ! 殺し合いか!?」
怒気を爆発させるディアベルを、周りは黙って聞くばかり。
「オレたちの仕事は!! ボスの撃破だろうが!! 人よりレベルが高いのは、派閥争いするためじゃないだろうが!?」
ひとしきり怒鳴り散らしたディアベルは、荒れた呼吸を整えて、俯いて呟く。
「……もういい。帰るぞ」
感情の抜け落ちたような声色だった。
「で、でもディアベルさ……ん……」
ディアベルの顔を見たリンドは、みるみる青ざめて言葉を詰まらせ、遂には絶句してしまう。
「お前らに話し合いを期待したオレがバカだった」
震えたような、失望したような声で語り、その場を後にするディアベルを、リンドは止められなかった。
交渉は決裂。この数時間後には、キバオウはディアベル隊からの分離独立を宣言した。
第6層の街開きが行われ、すなわち5層の攻略が完了したと周知されたのは、さらに翌日のことであった。
カラードによる攻略完了の報を受けたディアベルは壮絶な顔で、しかし一言「良かった」とだけ答えたそうである。
◇◇◇
攻略組の尽力により、「区切りの5層」と呼ばれた高難度ボスも犠牲者なしで討伐されたと言う。
唯一のドロップアイテムである両手剣、≪エッジ・オブ・コロッサス≫は、今回のMVPにして、ボス戦での活躍を手土産にMTDへと復帰したカラードへと渡った。
また同時に、アインクラッド解放隊(ALS)とドラゴンナイツ・ブリゲード(DKB)という2つのギルドが発足する。共に最初期にディアベルが集めた攻略レイドを前身とし、5層攻略を機にグループとして成立。
これにより、攻略組はMTD、ALS、DKBの3ギルドによって構成されることとなり、初期の攻略体制が完成した。
……以上が、一般向けに開示された、5層攻略の顛末である。しかしこの情報統制は、アルゴの協力があったにも関わらず失敗した。単純に、誰も信用しなかったからだ。
しかも同時期、出所不明の複数の噂が飛び交い、そちらのほうが信じられる始末であった。
曰く、ボスはカラードが単騎で撃破し、その功績を見せつけられた攻略組が不承不承ながら復帰を認めたのだ。
曰く、攻略組は自分達の保身のためにその事実を隠蔽し、カラードの功績を全体の功績にすり替えたのだ。
情報の出所は定かではない。だが、全く嘘でもないために火消しができず、攻略組の権威はさらに失墜することになる。
犯人の手がかりがあるとすれば、時期を同じくして再び現れた「黒ポンチョの男」の目撃情報くらいだ。
日刊最高4位になっててウレシイ…ウレシイ(歓喜)
アルゴが曇るたびにランキング急浮上するの、曇らせの可能性感じるんでしたよね?
(追記)UA10万、ありがとナス!!
(22:10追記)国語力ガバの修正(2敗)
(22:15追々記)アンケート締め切りました。投票ありがとナス!!
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